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『桜の庭』の暮らし方
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しおりを挟むエレノア様がノートンさんに紹介したのがクラウスに頼まれた『女性』って言ってたけどそれは単なる間違いで『俺』って事で、それを押しのけたのも『俺』って事だよね?
『俺』が『俺』の邪魔をした……違うな。俺が『クラウス』の邪魔をしたんだ。
何もかも1人でやった気になってクラウスに自慢げに話した自分が恥ずかしい。
あの時、ギルドの前で会った時クラウスはもう知ってた?それとも知らなかった?
どちらにせよ『俺のせい』でクラウスのした事がすべて無駄になってしまったのを知っているよね。
エレノア様がノートンさんに手紙をくれたことも、それをノートンさんが断りに行ったことも全部しなくて良かった『無駄な事』だ。
しかも……自分で作ったその隙間で『桜の庭』に入り込んだんだ……。
リネン室で1人取り込んだ洗濯物をたたみながら自分がしてしまったことにようやく気づいた。
そんな権利有りはしないのに涙がこぼれる。自分が情けなくて、クラウスに申し訳なくて、ノートンさんを裏切ったようで、子供達に恥ずかしくて。
俺はどうしたらいい?どうすべき?ここにいてはいけないよね?
「どうしよう……。」
「手伝いますよ。」
子供達とプレイルームで遊んでたはずのセオが突然入ってきた。
「セオさん……。すいません、ちょっと目にゴミが入って……」
慌てて言い訳をした。
「ノートンさんとマリーとレインは勉強中です。チビ達はお昼寝しました。まずはベッドメイクからしましょうか。」
セオはシーツを抱えると俺を二階へ促した。
2人で手分けしてシーツを掛けて始めると不意にセオが話し出す。
「トウヤさんがいなくて寂しかったんでしょうね。ロイとライがリネン室で泣いてるあなたを見つけて戻ってきました。俺にだけこっそり教えてくれましたよ。」
「……え…?」
「『ぎゅうってしてよしよししてあげて』って言われました。いつもトウヤさんがしてくれるから涙がどっかいちゃうんだよって。」
ロイとライの言葉が胸に痛い。
「ああ、そんなにしたら血が出ます。」
「イッた!」
突然セオが俺のほっぺを両側からぎゅうっと掴んで引っ張った。
人差し指でチョンチョンと自身の下唇を指して俺が噛んでいたのを咎めた。それから俺を椅子に座らせると1人でシーツを掛け始めた。
「まさかノートンさんが断ったのがトウヤさんだったなんてそんな偶然あるんですね。俺もびっくりしました。」
シーツを掛けながら俺に枕と枕カバーを寄越す。
「……セオさんも気がついたんですね。」
渡された仕事をしながら言ってみた。
「この前クラウスさんに会った時そう言ってたでしょう?『ここで働くのを勧めてくれた人だ』って。今日のエレノア様とノートンさんのやり取りが俺途中から可笑しくって。」
「……俺は全然笑えません。」
クスクス笑うセオがわからない。
「なんでですか?2人とも誤解してて結局どっちもトウヤさんなんですよ?」
「だからそれは俺が!……俺がおかしくしたんです。クラウスがエレノア様に頼んでくれているのに勝手に動いてここに入り込んで……みんなを振り回してしまって……。」
セオは話しながらも手は休めず、俺の手の中の枕を次の枕とカバーとを交換してはベッドにテキパキとシーツを掛けていく。手を伸ばして枕を催促されて慌ててカバーを掛けて渡す。
「それね、トウヤさん全然悪くないですよ、悪いとしたらノートンさんです。」
「それは絶対違います!ノートンさんは俺をここに、『桜の庭』に置いてくれた恩人です!」
「だからそれが間違ってるんですよ、トウヤさんノートンさんが体調悪くなったのをここまで運んでくれたんですよね?あれ、嘘ですよ。」
「え?」
最後の1つになった枕を俺から取り上げてセオがカバーを掛けながら意味のわからないことを言う。
「ノートンさんが人手不足を補う時によくやるんです。教会の広場にいる暇そうで子供好きで頼みを断れなさそうな人を体調が悪くなったフリして『桜の庭』に連れ込むんですよ。」
……………………はい?
「この前来た時にそりゃあもう得意気に話してくれましたよ『最高の逸材を引っ掛けた私の演技力を褒めてくれ!』ってね。大人しく待っててもトウヤさんはここに来たのにあの時の顔を思い出すと本当に何やってんだか。」
小さい子組のベッドに全てカバーを掛け終わったセオは俺の正面のベッドに腰掛けた。
「ノートンさんに聞きました、トウヤさんも孤児だって。だったらここにいて当たり前の人なんです。エレノア様もクラウスさんもノートンさんも関係なく『桜の庭』に来るのがトウヤさんの運命なんです。だから子供達から逃げるのは諦めてください。」
「セオさんは俺がこのままここにいても良いって思ってくれるんですか?」
「さっきから言ってます。それがトウヤさんの『運命』です。だからこれからも俺の弟たちをお願いします。」
「…………はい。ありがとうございます。」
セオの優しい笑顔は俺を拾ってくれたビートに本当によく似ていた。兄のようなセオの優しい言葉が胸に響いた。
ここに来るのが、『俺の運命』
「あ、でも面白いからこの話は俺とトウヤさんの秘密にしておきましょう。ノートンさんに演技の事バラしたって言ったら怒られそうだし。」
「はい…おかげで気持ちが楽になりました。セオさんて俺が育った所で仲良くしてくれたお兄さんみたいでなんだか凄く安心します。これからもよろしくお願いします。」
「うん、俺もトウヤさんはここのチビ達みたいです。」
「チビって……!」
「弟たちみたいって事ですよ。トウヤさんはその….クラウスさんとお付き合いしてるんでよね?」
『チビ』と括られた上に直前の俺の悩みが吹き飛ぶような話をぶつけられた。
「…………付き合ってません。」
「え?あれで付き合ってないとかなくないですか?」
事実です。大体あれってどれだよ。
「まあ、そうゆうことにしておきますけど間違いなくトウヤさんはクラウスさんが好きなんですよね?好きな人がいるのにノートンさんの言ったことを否定もせずにニコニコ聞いてちゃダメですよ。」
俺がクラウスのことが好きだと自覚したばかりなのにセオにはっきり言われてしまい顔が火照る。誤魔化しようがなくて身の置きどころがない。
「俺と一緒に末永く『桜の庭』を支えてほしいってあれ俺と結婚して、とかそう云う意味ですよ?トウヤさん全然わかってないんだから俺焦りましたよ。あんなのバレたら俺クラウスさんに殺されます。前回マリーが誤解してトウヤさんを俺に押して寄越した時、マジでビビりました。俺視線だけで死ぬかと思いました。」
「そ…それは全然気づいてませんでした。」
セオはお兄さんだ。今だって最初の印象通り大きくなったビートみたい。今日は泥の中に落ちてしまった様な俺の心を拾い上げてくれたんだ。
その後改めて『桜の庭』で働き続ける意思を固めた俺は残りの部屋のシーツを1人で掛け終え、その間にセオがたたんでくれた洗濯物を片付け終えた頃、起きてきたロイとライに『ありがとう』とハグちゅうした。
夕飯を前にセオは騎士団の宿舎へ帰って行った。
セオは宿舎へ帰ったらクラウスに会ったりするのかな?何故かとても怯えた顔を見せたけど……ねぇセオ。クラウスはそんな怖い人じゃないんだけどな。
だけど俺の知らないクラウスもいっぱいいる。例えば『貴族のクラウス様』とか。
クラウスに会いたい。今日知った事も話したい。話して、謝って、それからクラウスの事をもっと知りたいな。
『早くクラウスに会えますように。』
その日から左手の『お守り』に願を掛けてから眠るようになった。
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