迷子の僕の異世界生活

クローナ

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『桜の庭』の暮らし方

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エレノア様が側に控えていた白い制服の人に話しかけた。

「さあ、私も知りませんよ。お互い忙しくしてますからね。」

ユリウスと呼ばれたその人は真っ直ぐに伸ばした金髪の髪を耳にかけながら少し屈んで返事をした。

「忙しいのならなぜ今日無理矢理ついてきたのかしら。」

「私もクラウスの推薦した人物を跳ね除けた者を見たかったからですよ。」

そう言って姿勢を元に戻すと「ふふっ」と笑いながら紫水晶の瞳で俺を見た。

「そうね、クラウスには申し訳なかったけど素敵な方でノートンの選択に感謝しているわ。」

俺を見て優しく微笑んだエレノア様の瞳は空の蒼色をしていた。

「なんですかお二人ともトウヤくんを見にいらしたんですか?それなら彼ほど働き者で子供達を愛おしく包んでくれる者などなかなかおりませんよ。毎日子供達の食事から生活のすべての介助をしながら洗濯も掃除も行い少しでも手が空けば別の仕事を探す程です。私も長く『桜の庭』を預からせて頂いておりますが本当に良い子に来てもらったと思います。」

なぜかみんなの視線が俺に集まる中で俺の頭の中は大混乱だ。空耳?偶然?待て待て、クラウスとゆう名前はよくある名前なのかも……

その時昼ごはんの搬入を告げる小鳥の鳴き声がした。

「すいません、あの、僕お昼ごはんの支度に行ってまいります。失礼します。」

助け舟とばかりに台所に向かった。

「こんにちはトーヤさん、お昼お持ちしました。」

「ありがとうございます、カイさん、リトナさん。」

馴染みの2人の姿にほっと気が緩んだ。

「今日は準備が出来てなくて。すみませんが少し待っててください。」

朝ごはんを持ってきてもらったときの入れ物はいつも洗って水を切るために立て掛けてある。お昼の前に拭きあげて、返却準備をしておくのだけど今日は思わぬ来客と台所を追い出された事もありやれてなかった。

「急がなくて大丈夫ですよ。トーヤさんが来る前はそのままでしたから。『仕事が減って助かる』と厨房の者も言ってましたよ。」

俺が来る前はノートンさんがほぼ1人でやってたんだからそれ以上の事が出来て当たり前だ。あんまり褒めないで欲しい。

2人が帰った後、お昼の用意を進めて良いものかと台所から顔を出すとそのすぐ横にさっきエレノア様に『ユリウス』と呼ばれた白い制服の人が立っていてびっくりした。

「どうかしましたか?」

男の人ながらクラウスにも引けを取らないイケメンでそんな顔で優しく微笑まれたらドキリとしてしまう。

「あの…お昼の支度を初めて良いのかと思いまして。」

「それならこの者達に任せて君も子供達と一緒にあちらにいれば良いよ?お祖母様は食事の様子も見たいと言っていたから。」

言われたメイドさん2人がきれいなお辞儀で頭を下げる。

「そうなんですか?でしたら今から支度に入ります。あの、僕1人でできますのでお二人はゆっくりしてらしてください。」

ぺこりと頭を下げて台所に戻った。とにかく今は昼ごはんの支度に集中しよう。
スープに火を入れておきセオの分と合わせて9枚のお皿を並べる。今日のお昼のメインはコロッケだった。
ディノのは半分に。年中組のは3分の2にしてお皿にのせる。切った部分は俺のお皿に。あ、1個分になったかも。じゃあ俺の分のコロッケはまるごとセオにあげちゃえ。
教会からの食事はちゃんと年齢別に量や大きさを考えてくれているのだけど俺の分までこの世界の大人量なので、いつもレインにこっそり?追加している。たまにノートンさんにも。セオがいると俺の胃がちょっと助かるかも。
野菜や副菜を小さい子の分を小さく刻み直し盛り付けた後他のお皿にも載せていけば後はスープだけ。

あ、テーブルの準備がしてないや。

カトラリーとランチョンマットを持って台所から出ると

「このくらいはさせてくださいませ。」

とメイドさんが受け取ってくれた。スープやお皿も給仕していただいて助かってしまった。

でも、見られてる中の食事って結構緊張します。俺の手の届く位置に小さ子達を置くとエレノア様が向かい側になってしまった。

子供達に世話をやきながら合間に食事をしていたらエレノア様が残念そうな顔になった。俺何かしました?

「あの……何かありましたか?」

「何かじゃありませんわ。ノートン、教会は何をしているの?これじゃあこの子が大きくなれませんわ!」

ご飯の量かな?

「あの、今日はさっきのお菓子の分を減らしてあるからですよ?」

「そうでなくて……まあ、ではセオのせいね?貴方の分をセオにあげてしまったのね!」

ああ、俺の事か。

「そうなんですかトウヤさん!俺持ってきてるって言いましたよね?」

慌ててセオが立ち上がったのをレインがなだめてくれた。

「セオさん大丈夫だよ、いつもだから。」

「おばあ様、トウヤはいつもそのぐらいしか食べないんです。」

マリーも援護してくれた。だからね、普通だってば。俺の握りこぶしの大きさのパンにスープはいつも具沢山。コロッケだって形はあれだけどちゃんと1個分ある。それにサラダと副菜に洋風の筑前煮みたいなのがついているんだから。

「はい。これで充分足ります、心配掛けてすみません。」

にっこり笑って大丈夫アピールをした。

「ダメですよちゃんと食べてください、だからレインよりも軽いんですよ!」

「そうよ、ちゃんと食べないと大きくなれないし丈夫な赤ちゃんは産めないわよ?」

わぁ!セオこんなに人がいる所でそれ言わないでよね!それにエレノア様も酷い!

「ですから、僕ははもう18なのでこれ以上大きくなれないし、男だから赤ちゃんだって産めませんよ?」

なんでこんな悲しいこと力説しなくちゃいけないんだ!本当はあと5センチくらいは伸びる計画だけどな!

「エレノア様、トウヤくんが困ってますよ。食事の量は人それぞれ。無理強いしてはいけないものです。セオも、トウヤくんはいつもこっそり私とレインの量を増やしてそれでも子供達の手前残さないようにいつも頑張って食べているんだ。男なら出されたものは黙って食べなさい。」

…………ノートンさん、気づいてたんですね。2人とも席離れてるから気が付かないと思ってたのに……

こっそり隠したテストが見つかった気分だ。公開処刑だ。

「とおや、おかおまっかよ?またおねつあるの?」

サーシャお願い、もうほっといて。

「くっくっくっ……」

エレノア様の後ろに控えていたユリウスさんにも笑われてしまった。

「いや、失礼した。君は見た目だけじゃなく中身も可愛らしいんだね。はは、予想以上に良いものが見られたよお祖母様についてきて良かった。」

「まあ、ユリウス貴方のそんな姿も珍しいわね。」

俺以外の人達の楽しそうな笑い声の中そりゃあもう一生懸命食べました。……パン、半分に切っておけば良かった。

おかげで俺の疑問に向き合えたのはエレノア様が帰られてお昼の後片付けをしている時だった。

「気がついたかも知れないけれどエレノア様が紹介して下さろうとしたのを断ったんだ。どうやら君の値踏みに来たみたいだから私も負けじとトウヤくんを自慢してしまったよ。少し居心地の悪い思いをしてしまったかな?」

ノートンさんが申し訳なさそうにする。

「いいえ。沢山褒めてくださって嬉しかったです。」

そんな事より確かめなくてはいけない事があった。

「あの、エレノア様はどういった方なんですか?」

「エレノア様はこの『桜の庭』を設立した王妃様のお産みになった第二皇子様のもとに嫁がれた方でね、王妃様から直接ここを託された方なんだよ。王国側としてもエレノア様個人的にも支援してくださるんだ。」

俺にはよくわからないけど簡単に言えば皇子様のお嫁さんってことで『王様の親戚』って事?王妃様から託されたってやっぱりエレノア様がクラウスのおばあさんだよね。

「トウヤくんがお昼の準備をしてくれた時に少しお話したんだけどね、お孫さんのクラウス様が暫く王都を離れてたらしくて帰って来るなりどこの誰ともわからない女性を紹介するよう頼み込んで来たからユリウス様と画策して由緒ある家柄のご令嬢達とお見合いをさせたみたいだよ。」

「ユリウス様とですか?あの白い服の……」

エレノア様とかなり親しく話していた白い制服の人。

「トウヤくんはわからないか。あの白い服は騎士団の中でも王族の近衛騎士だけが着るものだよ。中でもユリウス様は第一皇子専属の近衛騎士様だ。あの方もエレノア様のお孫さんでクラウス様の兄上なんだよ。ユリウス様までトウヤくんが見たかったなんてなんでだろうね。お見合いさせたんだからもうその女性の事は良さそうなものなのに。やっぱりどこか身内贔屓なのかな。うちの孫の選んだ人間の方が…みたいな。でもトウヤくんが絶対勝ちだよ。これは私の『身内贔屓』ではなく紛れもない事実だ。」

ノートンさんがべた褒めしてくれても愛想笑いで返すのが精一杯だった。




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