迷子の僕の異世界生活

クローナ

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『桜の庭』の暮らし方

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ビートが10年経ったらセオみたいだろうか。

子供達と遊ぶ姿を見てふとそう思った。お兄ちゃん気質のビートは大きくなってもあんな感じでいるに違いない。
そう思うとなんだかセオが身近に感じた。
朝の後片付けもセオがいるおかげで子供達をおまかせしてノートンさんとサクサク済ます。

「俺も手伝います。」

とセオは言ってくれたけどノートンさんが皿洗いを望んだ。

「セオは自分が休むためと言いながらこうやって私の負担を減らしによく来てくれるんだよ。それに私もすっかり甘えてしまってね。驚かせてすまなかったねトウヤ君には心から申し訳なく思ってる。だけどセオも本当にいい子なんだ怖らないであげてくれないか?」

お皿を洗いながらノートンさんが改めて昨日の事を謝ってきた。そんなに様子がおかしかったのだろうか。自覚はまるでない。

「その事なんですが彼の事は全然怖いなんて思ってません。むしろ僕も本当にいいお兄さんだと思います。昨日の事は確かに驚きましたけど……その、自分でも自分の反応に驚いたと云うか……。」

思わず『お守り』を撫でた仕草をノートンさんは見逃さなかった。

「もし思い当たる理由があるなら聞いてもいいかい?無理にとは言わないが。」

そう言われて少し迷ったけど話してみる事にした。自分でもよくわからなかったから。

「関係があるかわかりませんが……ここに来る前にいた所で近くに住んでいた男の人に攫われたんです。ギルドの人達に助けて貰ったので無事だったんですけど……後それとは別に男性の冒険者に襲われそうになって…あ、それも助けて貰って無事だったんですよ?だから全然気にしてないんですけど。」

本当に気にしてなかった。怖い思いはしたけどクラウスが助けてくれた。悔しさも気持ち悪さも恐怖もクラウスが全部吐き出させてくれた。

「ノートンさんが手を握ってくれるまで自分が震えてる事にも気づいていませんでした。だから本当にセオさんの事は少しも怖いなんて思ってません。子供達の様子を見ても人柄がよくわかります。なのであんなふうに怖がってしまったせいでセオさんを傷付けてしまってたらどうしようって思ってるくらいで……。」

話してしまったものの男が男に襲われたなんて話をどう思うだろうか。胸に押さえつけるように左手の『お守り』に縋った。

「触れてもいいかい?」

「え?は、はい。」

不意に聞かれそう答えるとノートンさんが優しく抱きしめてくれた。

「つらい話を聞き出して悪かった大変だったね。きっとトウヤくんが今思ってる以上に怖かったんだね。」

ノートンさんの腕の中は暖かくて小さい頃に抱き締めてくれた施設のお姉さんを思い出した。

「ここの扉には悪意を持った人が侵入出来ない様になっているし、万が一中にいる人間がここの子供達に悪意を向けたら拘束されるようになってる。その中にはトウヤくんも入ってるから、ここでは安心して過ごしなさい。それからそのブレスレット、本当に素晴らしいものだよ。『桜の庭』の外で何かあっても必ず君を護ってくれるものだ。だから君は大丈夫だよ。」

「……はい。ありがとうございます。」

思いがけない話に心が熱くなった。ノートンさんが『桜の庭』の守るべき者に俺をいれてくれてる事に。それからクラウスがくれた『お守り』の凄さに。

「あの、もう一つ聞いてほしいことがあるんですけど。」

腕の中から顔をあげると眼鏡の奥から優しい金色の瞳が覗いていた。

「僕は18歳まで孤児院で育ちました。そこで一緒に暮らした子供達が大好きでした。初めて『桜の庭』に来た時にみんなが受け入れてくれたのがまるで自分の育った所に帰って来たみたいで凄く嬉しかったんです。だからここで働けて幸せです。『桜の庭』の子供達がセオさんみたいにここが大好きで帰って来たくなるように精いっぱい頑張ります。」

「トウヤくんも孤児だったのならなぜウチに来なかったんだい?」

ノートンさんが俺の頭を撫でながら不思議そうに言った。

「あの、僕この国で生まれてないので……。」

「そうか、ではトウヤくんは来るべくしてここに来たんだね。おかえり『王妃様の愛し子』トウヤくん。」

ノートンさんがおじいちゃんとは思えない優しい力強さで俺をもう一度ぎゅうっと抱き締めてくれた。

「ノートンさん……。」

嬉しくて涙が出たのは3度目だ。

「それにしても、私は自分の勘の良さに今回ほど感心した事はないよ。あの日トウヤくんを選んで本当に良かった。」

ノートンさんは後片付けを続けながらうんうんと満足そうだ。

「そう言えばどなたかの紹介を断ったって仰ってましたね。良かったんですか?」

「いいんだ、昔から結婚相手をここで暫く働かせて箔を付けて輿入れさせようという貴族が後を絶たないんだよ。『桜の庭』は王国立の由緒正しき『王妃様の愛し子』を育む所だからね。世の人は良妻賢母のスキルでも付くとでも思ってるのか知らないが大概ろくに子供の世話の出来ない者ばかりで子供達にとっては大迷惑だ。」

話しているうちにノートンさんの雰囲気が怖くなる。……いろいろあったんでしょうね。でもそんな人なら俺が奪っても罪悪感は抱かなくていいよね。




騎士のお休みは3回目の王都の見回りの次の日がお休みだそうで8日後またセオがやってきた。
そうなるとノートンさんは助かるのだろうけど俺はとっても暇になる。今だって二回目の洗濯物を干しているんだけどいつも蹴飛ばしそうなほど周りにじゃれて来る子供達が1人もいないのだ。おかげでスイスイ歩けて仕事がはかどっちゃう。

「トウヤくんには中々お休みをあげられないからセオに任せて空いた時間にゆっくりしなさい。」

そうノートンさんは言うけれど 1人で洗濯物を干すのって案外寂しい。
さっき賑やかな庭を覗いてみたらみんな大はしゃぎでセオにぶら下がったり振り回して貰ったり肩車してもらったりしていた。
俺には出来ない遊びだからちょっと羨ましい。

あんな事をしてくれるお兄さんが来てくれてる日に俺の相手なんかしてられないよね。
敗北を認めすごすごと1人、二回目の洗濯物を干し終わる。

8日ごとにお休みなんだ。……やっぱりもう忘れられちゃったのかな。

見上げた青空はクラウスの瞳の色によく似ていて胸の辺りが切なくなる。

「あ、あんな所に!」

ぼんやりしてたからだろうか、ライのお気に入りのタオルが風で飛ばされて2階のベランダの下に引っかかっている。

……下からジャンプして……じゃ無理か。ベランダからなら届くかな?

俺は2階に上がると小さい子組の部屋のベランダに出た。ここからもセオに投げて遊んで貰ってる子供達の姿がよく見えた。

俺はベランダの手摺から身を乗り出してライのタオルに手を伸ばす。
届きそうで届かない。

もう少しでイケるかな?と更に身を乗り出した時だった。

「トウヤ~。何してんの?危ないわよ~!」

マリーが気づいて声を掛けてくれる。ずっとほっとかれてたからちょっと嬉しい。

「洗濯物が引っかかちゃって~!」

「そんな事しなくても風魔法で取れるわよ~!」

あそっか。自分に出来ないから思いつかなかった。

「わかった~!ありがと~!」

と手を振り返事をした時だった。身体を支えていた手がズルリと滑った。

「「「わ~~~~!!!」」」

聞こえたのは子供達の叫び声だった。しまった、俺の不注意でなんてことを。大怪我したら怖がって泣いてしまうだろうか。
そんな事を考えながら痛みを覚悟して目を瞑った俺はふわりとセオに抱きとめられた。

「何やってんですか!危なっかしい!」

「セオさんすげ~!」

「「せおしゅご~い!」」

「なにしてんのよトウヤのばか!」

後から駆けつけてきた子供達の俺への叱責とセオへの称賛をセオの腕の中で受ける。

「助けて頂いてありがとうございます。ごめんなさい重いでしょう?」

俺は大怪我を免れて嬉しいけれど軽々と姫抱っこされて結構ショックだ。

「いえ全く。レインの方が重いんじゃないですか?」

俺を芝生の上に降ろしながらとんでもないことを言う。

「いやいやいや、それはないでしょう?」

セオは俺とレインを見比べるとレインの脇の下を持って持ち上げ、それから俺にも同じことをした。

「わぁ!」

レインより高く上げられ思わず声が出た。

「ほらやっぱり軽い、ちゃんと食べてますか?」

「食べてるし!レインのほうが小さいのになんで俺の方が軽いんだよもう!セオさん早く降ろしてください!」

セオに真顔でそんな不名誉事を言われた上に18にもなって『高い高い』されて恥ずかしい。子供達はそんな俺をみてゲラゲラ笑ってた。

2階から俺が落ちた時の騒ぎで外に出てきたノートンさんも

「今日も賑やかでいいね。」

なんて穏やかに笑っていた。









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