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『桜の庭』の暮らし方
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しおりを挟む小さい子組がお昼寝している間にノートンさんに文字を教えてもらい、まだカンペは必要だけど子供達の絵本ぐらいは読めるようになってきた。
おかげでこの世界の事が少しずつわかってきた。
まずは1年。月が約30日で満ち欠けを繰り返す。桜や楓や檜など同じ植物があるのでもしかしたらとは思っていたら同じ様に四季があった。
月の周期に合わせて3ヶ月ずつ季節を区切り元の世界に当てはめれは3月の『春の1月』が新年でマリーやレイン、それにビートも学校に入学する。
俺が迷子になったのは秋晴れの9月半ば。迷い込んだ時に気づかなかったのは気候が変わらなかったからかも知れない。そして今は10月。こちらの世界の暦で『秋の二月』と言うらしい。
文字が読めるようになってようやく壁にあったものがカレンダーであることもわかった。1年間の季節の流れや気候が今まで生きてきた環境にとても良く似ているとゆうのは俺自身が違和感なく馴染めている理由の1つだろう。
例えば『気づいたら一年中氷点下の街』とか『気づいたら一年中高温の街』だったらたとえそこが地球でもとっくにその状況を生い立ちに上乗せして生きる気力を無くしていたかも知れない。
車や電気はないけれどそれの代わりの魔法とカラフルな目と髪の色と俺が小さいことぐらいの違和感は許容範囲だ。
でも俺の小さい原因は1日の長さにあるんじゃないだろうか。
1日は20時間、教会の鐘が知らせてくれるけど俺の体感からすると26時間くらいある。たとえ2時間でも…‥と思って喜々として計算してみたけど1年で30日くらいにしかならなかった。
7歳のビート達にそれを足した所で身長が140センチになる理由にはならない。レインなんてあっという間に追い越されそうだ。立っていると勿論俺のほうが身長はあるけれど座っている背中は俺より逞しい感じがするのだ。
「あんまり早く大きくならないでね。」
子供達とシャワーを終えた俺は子供達のベッドの端に腰掛けてマリーに髪を乾かしてもらいながらうっかり声に出てしまう。
「なにそれ、普通『早く大きくなりなさい』じゃないの?」
マリーとレインは文字と一緒にノートンさんから魔法の使い方も教わっていて基礎的な魔法を使いこなす。俺のドライヤーだ。
「だって大きくなったら俺のしてあげられる事が減っちゃうじゃんか。今だってマリーやレインにはこうやってしてもらうことのほうが多いし、そのうちハグだって『やめろよ』とか言い出すかも……」
ビートにだって『ちゅうはだめ』って言われたもんな。
「い、言わないわよ。」
乾いた髪を手櫛で整えてくれながらマリーの声が帰ってきた。
「本当?」
「本当よ。」
座ったまま振り向いて両手を広げればマリーが膝の上に乗って腕に収まってくれた。可愛い!
「じゃあ遠慮なく!」
とおでことほっぺにちゅうをしてぎゅっと腕に閉じ込める。見た目は中学生でもやっぱり小学1年生なんだな。
「だってトウヤお姉ちゃんみたいなんだもん。」
「え~そこはせめて『おにいちゃん』にしてよ。」
マリーは昨年流行病で両親とお姉さんを失った。一緒に暮らそうと言う地方に住む遠い親戚もいたそうだけどもともと生まれも育ちも王都出身で自ら『桜の庭』での生活を選んだ。
『桜の庭』が設立された頃はクラウスに少し聞いたとおり戦争や魔獣被害による孤児がここに集められたため大勢の孤児がここで暮らしていたらしい。
だけど当時の王様の改革により迷宮の管理や人と魔獣の棲み分けがされた近年では人々の生活も安定し、孤児になる状況が随分と減った。
更には『王妃様の愛し子』と呼ばれ子供のいない家庭に引取られる事も多い。
なので今では王都から離れた領地で孤児になった場合に将来を鑑みて王都で育てられる方が良いとされたり、マリーの様に自分で選んで来る子供が生活するのみとなり、孤児が大勢いた過去は屋敷や敷地の広さがその頃の面影をわずかに残しているくらいだ。
マリー以外の子供達はそうして各地の領主様から『桜の庭』に丁寧に送り出されてきた。そして全員が『王妃様の愛し子』だ。
そんな俺とマリーの様子に小さい子組が僕も私もと寄ってきて二人して背後のベッドに押し倒されてもみくちゃになった所にシャワーから戻ったレインがあきれ顔で入ってきた。
「毎日何やってんだよ。」
そう、理由はいろいろだけど大体こんな感じでみんなとじゃれ合って俺は癒やされる毎日だ。
マリーがシャワーを終えると最近始めた絵本の読み聞かせを始める。俺がつまりながらたどたどしく読む話も嫌がりはしないけれどそれよりも文字が読めないうちに始めた『あかずきん』や『浦島太郎』や『人魚姫』と言った童話をねだられる。
読み聞かせやお話をして子供達を寝かしつけると俺の1日の『仕事』も終了だ。
部屋に戻ると灯りを落として俺も早々に寝てしまう。
始めの頃はその日に復習をしていたけれど身体から子供の温もりが消えてしまうとどうしようもなく寂しくなってしまい寝付けなかった。
『桜の庭』に来た夜に大きなかばんの荷解きを始めたら一番上にソフィアからもらったスーツが入っていてぎょっとした。
それをクローゼットに掛けて荷解きを進めれば中からは次々と新品の『要らないもの』が出てきた。肌触りのいいパジャマの他にも最近朝晩羽織るようになった俺にピッタリサイズのカーディガンや日中身に着けているエプロン、他にも歯ブラシや小さな裁縫セットなど俺の為に用意してくれた物が沢山出てきた。
その晩は新しいパジャマを着たけれどクラウスの優しさに涙が止まらなくて寂しさを埋めるために最初にもらったパジャマ代わりのシャツを抱きしめて眠ったのは誰にも内緒だ。
今は寝る時に左手の『お守り』を触りながら眠るようになってしまった。今夜もそうして眠りについた『いつもの夜』のはずだった。
カチャリ
ギィ
パタン
僅かな物音で少しだけ覚醒する。
時々訪れる夜の来訪者。今夜はサーシャかな?ディノかな?もう少ししたらベッドに入ってくるであろう訪問者を暗闇の中夢うつつで待っていたけれどそのどちらでもないものが「ドサリ」と俺の上に乗った。
「「うわーーーーーっっ!!」」
叫び声は俺だけじゃなかった。
だけど暗闇で何がなんだかわからない。何?おばけ?泥棒?シーツを手繰り寄せ壁に逃げるけれどその『何か』も動く気配がない。
バタバタと足音が響いてマリーとレインが部屋に飛び込んで来た。
「何があった!」
「どうしたのトウヤ」
2人が入って来て灯りをつけるとそこには黒い騎士服を来た人が床に座り込んで驚いた顔でこちらを見ていた。
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