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王都で就活?
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しおりを挟む今の俺はクラウスのベッドに正しく寝る向きとは頭を逆さにし、自分のベッドの方を向いて身体をくの字に折り曲げて横になっていた。
クラウスは俺の頭の横に座って大きな手でその頭を撫でてくれていた。
「くろきし」……何か言われたっけ?
ベッドの上に座り直して昼間の記憶を漁ってみた。
『くろきし』って黒い服の騎士団の人?クラウスの事すごく褒めててそれで……それから俺に……
『あの、俺黒騎士隊のジョセフっていいます!城門で一目惚れしました!ずっと会いたいと思ってました!好きです!付き合ってください!』
「……クラウスも『黒騎士』なの?色で何か違うとしても俺わかんないけど‥…」
「そうじゃなくて。……いや、俺も意気地がないな。」
少し困ったような顔してから自嘲気味に小さく笑ってそれから俺に身体ごとまっすぐ向き直すとそっと両手を握られた。
「トウヤが好きだ。」
「…………へ?」
思いもよらない言葉がクラウスの口から出たせいで変な声が出た。
『好き』?
今クラウスが俺の事『好き』って言った?『黒騎士と同じ』ってそっち!?こんな時に真面目な顔して冗談が言いたかった…………わけじゃないよね?
「あの、俺の事好きって俺がビートとかジェリーとか好き、みたいな?」
俺が泣くたびに何度も慰めて貰った。今だって頭を撫でてくれてそれで……
「違う。キスして抱きしめてその先もしたい『好き』だ。」
そう言って握った両手にキスを落とされ、言われた言葉が理解できた途端、顔が一気に火照るのがわかった。このきれいな瞳で真っ直ぐ俺を見ている男が俺を好きって言ったの?
キスされた手を振りほどこうとしたけれど抜けない。
「クラウス、何度も云うけど俺男だよ?」
「知ってる。何度か見てるし。」
ますます顔が赤らむのがわかった。
「トウヤ、好きだ。」
クラウスはもう一度そう云うと俺の顎を掴んで顔を近付けて来た。
キスされちゃう。
クラウスが顎を掴んだせいで自由になった手でクラウスの胸を押した。
触れた指先に伝わる程にクラウスの心臓が大きく拍動しているのがわかった。
「俺が怖いか?」
返事をしない俺をクラウスがそっと抱きしめてきた。
「トウヤの心臓の音がすごい。……なぁ、これはお前も俺を好きだからじゃないのか?」
言われなくても知ってる。クラウスの拍動を指先で知る前から俺の心臓はクラウスに聞こえてしまうんじゃないかと思うくらいドキドキしていたんだから。
抱き締められて耳がピタリとクラウスの胸にくっついたせいで二人分の早鐘に答えを急き立てられているみたいだ。でも……
「俺わかんない。俺もクラウスの事好き。離れるのも寂しいと思うしこうして抱き締められると甘えていいんだって思えて安心するよ。俺は今まで誰かに甘えたことなんてなかったから……」
今までの自分では考えられないくらいクラウスには醜態を何度も晒して甘えてきた。
「だけど同じ様な好きかと言われたらわかんないよ。今まで人を好きになった事がなかったし、ましてや男の人を好きになるなんて考えた事もなかったから……」
自分でもあやふやなのに同じ様に好きだなんて言えない。だからこう云うしかなかった。
「ごめんなさい。」
それでも腕の中からは抜け出したくなくてクラウスの背中に手を回してぎゅうっと力を込めた。
「お前はズルいな。俺を振ったくせにこんな風に抱きついてくるなんて。」
「わっ!」
何かを抑え込むような声でつぶやくとクラウスが俺を抱き締めたままベッドに仰向けに倒れた。
クラウスの上に俺がまるごと乗っかってしまって重くて申し訳ないと思ってクラウスの顔の横に両手をついて上半身を起こしたらまたその手を掴まれた。
「わかった。トウヤが俺とキスしたいって思ってくれるまで待つ。絶対俺の事『好き』って言わせてやるからな。覚悟しろよ。」
金髪で俺の大好きな空の蒼色の瞳を持ったイケメンがまるで俺が組敷いてるかのようなシチュエーションで満面の笑みを浮かべられ顔から火が出るかと思った。
「お、俺シャワー浴びてくる!」
狭い部屋の中で逃げ出す先はやっぱりそこしかなくて今回は捕まえられずに無事浴室に逃げ込むことが出来た。
ドアを閉め、その場にへたりこむ。
今のクラウスの笑顔はやばかった。素敵すぎて思わず『好き』と言いそうになった。ズルいのはどっちだ。散々俺の事子供扱いしておいて俺ばっかりドキドキさせて……。
「違う、クラウスも凄くドキドキしてた……。」
クラウスの拍動を思い出した指先にこそばゆさを感じそれを思わず唇で噛んで鎮めようとして、そうした自分自身に1人大混乱を起こしていた。
なんとか冷静さを取り戻してシャワーを浴び終わった俺が浴室から出てくるとクラウスに手招きされた。
濡れた頭に被ったタオルで顔を隠して近寄ればそれをあっさり奪われて魔法で髪を乾かしてくれた。
こういうのが子供扱いされてる感じがするんだけどなぁ。
「ほら、乾いたぞ。」
いつもみたいに頭をポンポンって叩いた後、むうっとしていた俺のおでこにわざと大きな音を立てて「チュッ」ってキスした。
「な、な、な!」
びっくりしておでこをおさえたまま言葉が出ない俺を見てニヤリと笑う。
「唇以外には遠慮しないことにした。」
誰ですか?この人!俺の知ってるクラウスと違う気がする!
更には俺のお気に入りのパジャマの折り返した袖口から手を入れてきて、俺は二の腕をするりと撫でられ背中がぞくりとした。
「トウヤは本当に自分のことに関しては無頓着だよなぁ。今夜までは我慢するけど、次に俺の前でこの格好してたら返事を待たずに襲うから。」
あまりの事に声にならず、はくはくと鯉みたいになった俺を残して笑いながらシャワーを浴びに行くクラウスにタオルを掴んで思い切り投げつけたけど届かなかった。
「少しは遠慮しやがれクラウスのばか!」
叫んだ後はベッドに潜り込んで再び上がった頬の温度を下げるのに躍起になった。
「なんだよクラウスのばか何度も俺のパジャマにイチャモンつけやがって!だいたいこのパジャマの何が……あっ?」
それでようやく俺も気付いたんだよ。これが男子の憧れシチュで大人気の『彼シャツ』だって事に。
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