迷子の僕の異世界生活

クローナ

文字の大きさ
上 下
53 / 333
王都で就活?

53

しおりを挟む




今の俺はクラウスのベッドに正しく寝る向きとは頭を逆さにし、自分のベッドの方を向いて身体をくの字に折り曲げて横になっていた。
クラウスは俺の頭の横に座って大きな手でその頭を撫でてくれていた。

「くろきし」……何か言われたっけ?

ベッドの上に座り直して昼間の記憶を漁ってみた。
『くろきし』って黒い服の騎士団の人?クラウスの事すごく褒めててそれで……それから俺に……

『あの、俺黒騎士隊のジョセフっていいます!城門で一目惚れしました!ずっと会いたいと思ってました!好きです!付き合ってください!』

「……クラウスも『黒騎士』なの?色で何か違うとしても俺わかんないけど‥…」

「そうじゃなくて。……いや、俺も意気地がないな。」

少し困ったような顔してから自嘲気味に小さく笑ってそれから俺に身体ごとまっすぐ向き直すとそっと両手を握られた。

「トウヤが好きだ。」

「…………へ?」

思いもよらない言葉がクラウスの口から出たせいで変な声が出た。

『好き』?

今クラウスが俺の事『好き』って言った?『黒騎士と同じ』ってそっち!?こんな時に真面目な顔して冗談が言いたかった…………わけじゃないよね?

「あの、俺の事好きって俺がビートとかジェリーとか好き、みたいな?」

俺が泣くたびに何度も慰めて貰った。今だって頭を撫でてくれてそれで……

「違う。キスして抱きしめてその先もしたい『好き』だ。」

そう言って握った両手にキスを落とされ、言われた言葉が理解できた途端、顔が一気に火照るのがわかった。このきれいな瞳で真っ直ぐ俺を見ている男が俺を好きって言ったの?

キスされた手を振りほどこうとしたけれど抜けない。

「クラウス、何度も云うけど俺男だよ?」

「知ってる。何度か見てるし。」

ますます顔が赤らむのがわかった。

「トウヤ、好きだ。」

クラウスはもう一度そう云うと俺の顎を掴んで顔を近付けて来た。

キスされちゃう。

クラウスが顎を掴んだせいで自由になった手でクラウスの胸を押した。
触れた指先に伝わる程にクラウスの心臓が大きく拍動しているのがわかった。

「俺が怖いか?」

返事をしない俺をクラウスがそっと抱きしめてきた。

「トウヤの心臓の音がすごい。……なぁ、これはお前も俺を好きだからじゃないのか?」

言われなくても知ってる。クラウスの拍動を指先で知る前から俺の心臓はクラウスに聞こえてしまうんじゃないかと思うくらいドキドキしていたんだから。

抱き締められて耳がピタリとクラウスの胸にくっついたせいで二人分の早鐘に答えを急き立てられているみたいだ。でも……

「俺わかんない。俺もクラウスの事好き。離れるのも寂しいと思うしこうして抱き締められると甘えていいんだって思えて安心するよ。俺は今まで誰かに甘えたことなんてなかったから……」

今までの自分では考えられないくらいクラウスには醜態を何度も晒して甘えてきた。

「だけど同じ様な好きかと言われたらわかんないよ。今まで人を好きになった事がなかったし、ましてや男の人を好きになるなんて考えた事もなかったから……」

自分でもあやふやなのに同じ様に好きだなんて言えない。だからこう云うしかなかった。

「ごめんなさい。」

それでも腕の中からは抜け出したくなくてクラウスの背中に手を回してぎゅうっと力を込めた。

「お前はズルいな。俺を振ったくせにこんな風に抱きついてくるなんて。」


「わっ!」

何かを抑え込むような声でつぶやくとクラウスが俺を抱き締めたままベッドに仰向けに倒れた。
クラウスの上に俺がまるごと乗っかってしまって重くて申し訳ないと思ってクラウスの顔の横に両手をついて上半身を起こしたらまたその手を掴まれた。

「わかった。トウヤが俺とキスしたいって思ってくれるまで待つ。絶対俺の事『好き』って言わせてやるからな。覚悟しろよ。」

金髪で俺の大好きな空の蒼色の瞳を持ったイケメンがまるで俺が組敷いてるかのようなシチュエーションで満面の笑みを浮かべられ顔から火が出るかと思った。

「お、俺シャワー浴びてくる!」

狭い部屋の中で逃げ出す先はやっぱりそこしかなくて今回は捕まえられずに無事浴室に逃げ込むことが出来た。

ドアを閉め、その場にへたりこむ。

今のクラウスの笑顔はやばかった。素敵すぎて思わず『好き』と言いそうになった。ズルいのはどっちだ。散々俺の事子供扱いしておいて俺ばっかりドキドキさせて……。

「違う、クラウスも凄くドキドキしてた……。」

クラウスの拍動を思い出した指先にこそばゆさを感じそれを思わず唇で噛んで鎮めようとして、そうした自分自身に1人大混乱を起こしていた。


なんとか冷静さを取り戻してシャワーを浴び終わった俺が浴室から出てくるとクラウスに手招きされた。
濡れた頭に被ったタオルで顔を隠して近寄ればそれをあっさり奪われて魔法で髪を乾かしてくれた。

こういうのが子供扱いされてる感じがするんだけどなぁ。

「ほら、乾いたぞ。」

いつもみたいに頭をポンポンって叩いた後、むうっとしていた俺のおでこにわざと大きな音を立てて「チュッ」ってキスした。

「な、な、な!」

びっくりしておでこをおさえたまま言葉が出ない俺を見てニヤリと笑う。

「唇以外には遠慮しないことにした。」

誰ですか?この人!俺の知ってるクラウスと違う気がする!

更には俺のお気に入りのパジャマの折り返した袖口から手を入れてきて、俺は二の腕をするりと撫でられ背中がぞくりとした。

「トウヤは本当に自分のことに関しては無頓着だよなぁ。今夜までは我慢するけど、次に俺の前でこの格好してたら返事を待たずに襲うから。」

あまりの事に声にならず、はくはくと鯉みたいになった俺を残して笑いながらシャワーを浴びに行くクラウスにタオルを掴んで思い切り投げつけたけど届かなかった。

「少しは遠慮しやがれクラウスのばか!」

叫んだ後はベッドに潜り込んで再び上がった頬の温度を下げるのに躍起になった。

「なんだよクラウスのばか何度も俺のパジャマにイチャモンつけやがって!だいたいこのパジャマの何が……あっ?」

それでようやく俺も気付いたんだよ。これが男子の憧れシチュで大人気の『彼シャツ』だって事に。







しおりを挟む
感想 229

あなたにおすすめの小説

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

兄弟がイケメンな件について。

どらやき
BL
平凡な俺とは違い、周りからの視線を集めまくる兄弟達。 「関わりたくないな」なんて、俺が一方的に思っても"一緒に居る"という選択肢しかない。 イケメン兄弟達に俺は今日も翻弄されます。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

キスから始まる主従契約

毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。 ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。 しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。 ◯ それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。 (全48話・毎日12時に更新)

処理中です...