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王都で就活?
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しおりを挟むようやく落ち着いてクラウスから身体を離すといつの間にか人並みを避けた建物の陰にいた。
「落ち着いたか?何があったのかもう一度教えてくれ。」
親指でそっと俺の涙の痕を拭って俺の顔を覗き込む。
どうしよう、いっぱいあってどれから話したらいいのかわかんない。
「さっき、……じゃなくて。今日ね、あ、ちがくて……きの、う……?」
上手く話出せなくて困る俺の意思に反して『ぐうぅぅ』ってお腹が鳴った。
「よし、なんか適当に買って宿に戻って食べながらゆっくり話をしような。」
頭をポンポンされて俺はお腹を抑えて頷いた。
人波の中をクラウスに手を引かれ宿まで歩く。注意してなくても誰にもぶつからない上に時々口に美味しいものを放り込まれた。
宿に着いた頃には両手にドリンクカップを持っていて可笑しかった。
部屋に入るとお行儀が悪いけどベッドの上に上がってタオルを敷いたそこに夕食を並べて2人で食べた。
「それで昨日教会まで歩いたところで足が痛くなって靴を脱いだんだけど……」
そう、これが始まり。
「ベンチの下から小さな手がにょきって出てきて靴を持って行っちゃったんだ。それでね。あぐ。」
喋りだしたら止まらなくって手が止まるからご飯が全然進まない。クラウスが自分の食べる合間に一口サイズの物を俺の口に入れたりして結局最初に手に持っていたサンドイッチはお腹いっぱいになってしまいクラウスの口に入っていった。
「それでね、ノートンさんが帰って来たらここで働かせてくださいって言おうと思ってたのに『仕事を探してるならここにしないか』って言ってくれたんだ。住込みでいいって!すごいね、クラウスが言ったとおりの三食宿付き子供付きだよ!」
「俺がもたもたしてるうちに自分の力で孤児院と契約してくるなんてトウヤは本当にすごいな。」
マートがするみたいに俺の頭をガシガシと撫でてくれた。『よくやったぞ!』って褒められてる感じがして嬉しい。首はちょっと痛いけど。
「何言ってるの?クラウスのおかげだよ。俺にむいてる、って孤児院の事を教えてくれたのもクラウスだし、俺を王都まで連れた来てくれたのだってクラウスでしょ。それにおばあさんにもお話してくれたでしょ。あ、おばあさんにもお礼しなくちゃ。」
「トウヤの人柄が孤児院の院長に伝わったんだ。俺も祖母も何もしてないさ。」
クラウスが申し訳ないと云うような顔で云う。
「だってそれは『待ってて』って言われたのに俺が勝手をしたからだよ。2人の時間を俺に使ってくれたんだから。せっかく俺のためにしてくれたのに台無しにしてごめんなさい。」
そう云う俺に「いいから気にするな」と緩く首を横に振った。
「いつから孤児院の仕事をするんだ?」
「クラウスに話をしてからと思って明後日からにしたんだ。今朝『遅くなるかも』って言われたから……、でもギルドの前に来た時にクラウスだってすぐわかっちゃった。あんなに人がいっぱいいたのにすごいよね、会いたいって思ってたからかなぁ?」
「トウヤが俺に会いたいと思ってくれるなんて光栄だな。明日は俺も漸く一日空いたから約束してた王都の案内が出来るんだがトウヤは?何かしたいことあるか?」
そう言われても……
「あ、一緒にラテが飲みたい……かな?」
それ以外はクラウスにお任せになった。
先にシャワーを使わせて貰って頭を拭きながらベッドの上で王都の地図を広げて見ている所へクラウスもシャワーを終えて戻ってきた。
「そう言えば俺の話ばっかりしちゃったけどクラウスの騎士団復帰はどうなったの?今日行ってきたんだよね。」
「ああ、俺もきまった。トウヤと同じ明後日から復帰するよ。」
「良かった。じゃあこれで安心して寝れる。」
「ふふっ」と自然に声が出て笑って、ベッドに入ってシーツを肩まで掛けた。
「それは良かった。じゃあ明日沢山回れるようにもう寝るか、おやすみトウヤ。」
クラウスも疲れたのか灯りを小さくするとすぐにベッドに入って俺に背を向けてしまった。
「……おやすみなさい。」
……だけどなんか変だ。
いつもはシャワーの後緩く羽織ってるシャツのボタンが一番上まで留まってたし、今だってベッドの中に入ったのに着たままなんて可笑しい。
「ねえクラウス、なんでシャツ着たままなの?何か隠してるよね?」
俺はそおっと近付いてクラウスの肩をぐいっとひっぱった。
「い、っ……」
クラウスがとっさに肩をかばった。
「え?なんで怪我してるの?」
クラウスは部屋を明るくして俺の方を見ると「バレたか。」って苦笑いしている。
「何笑ってるんだよ、ちゃんと見せて!」
クラウスのシャツのボタンを外していくと右肘から肩に掛けて包帯が巻かれていた。腕には血も滲んでいる。
「どうしてこんな怪我…...」
「騎士団で模擬戦やった時にちょっとな。かっこ悪いから知られたくなかったんだ。」
バツが悪そうにしているけど俺はクラウスに申し訳なくなってしまった。
「俺、孤児院の事で浮かれてて自分のことばっかりだった。こんな時間まで気が付けなかったなんてごめんなさいクラウス。俺飛びついちゃったし……痛かったよね、ごめんなさい。」
こんな怪我してるのにクラウスはずっと俺の相手をしてくれてたんだ。そもそもクラウスが王都に戻って騎士団に復帰するのについでに連れてきて貰っただけなのに俺の仕事のことで余計な用事増やしてるのに俺は自分のことばっかりでなんて恩知らずなんだろう。
「なにもトウヤが泣くことは無いだろう。」
「泣いたりしてごめんなさい、痛いのはクラウスなのに。」
自然と涙が出てしまった。自分勝手で情けなくてみっともない。
「そうじゃなくて、こんなの大袈裟にしてあるだけだ、すぐ治るから心配しなくていい。痛みだってもうほとんど無いから大丈夫だ。だから泣かないでくれ。な?」
クラウスの手が涙を止めようと顔をゴシゴシ擦っていた俺の手を握ってやめさせると、おでこを合わせて俺の目を覗き込んだ。
「……はい。」
俺は目を閉じて『クラウスの怪我が早く治りますように』って願うことしかできなかった。
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