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王都で就活?
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しおりを挟むクラウスの話 王都編②
「まあクラウス、よく来てくれたわ。久しぶりね。わたくしに顔をよく見せて頂戴な。」
「お久しぶりですお祖母様。お元気そうでなによりです。」
通された応接室で俺を待っていた祖母は歳を重ねて金色の髪も白くはなってしまったがそれを美しく結い上げ落ち着いた色のアフタヌーンドレスに身を包んでいた。
俺と同じ色の瞳に薄っすらと涙を滲ませながら歓迎してくれたお祖母様に3年間何1つ成果の無かったことを報告しなくてはならない。
ソファーに案内されお祖母様手ずから淹れてくれた紅茶を飲みながら『皇子の欠片探し』の3年間の全てを話した。
「ありがとうクラウス。私こそ不用意に貴方に話したせいで騎士団を離れて冒険者をしていると聞かされた時にはどれ程後悔したか知れないわ。」
自分と同じ髪色と瞳を受け継いだ末っ子の俺にお祖母様は特に愛情を注いでくれ、優しいお祖母様に俺もよく懐いていた。だからこそ憂いを払う手助けをしてあげたかった。
「貴方がわたくしの代わりに国の端々まで訪ね探してくれたんですもの。皇子もその子、その孫もきっと幸せでいるに違いないわ。王妃様の墓石にしかとお伝えするわね。所で……貴方は騎士団に戻るのよね?わたくしのせいで辞する事になったのだから心配で仕方ないの。」
「大丈夫ですよお祖母様。騎士団は休職扱いにして頂いていますから。ただ兄には簡単には戻せないと言われました。前の所属に戻りたければ皆の前で力を示せと。」
母からランチのご褒美にようやく受け取った兄の手紙には明日朝から騎士団に来て手合せするようにと書いてあった。
「まあ、ユリウスったら!……大丈夫なのですよね?」
「勿論です。3年間の冒険者生活は伊達じゃありませんからね。騎士団では得られない経験を積んできました。実力も3年前より確実にありますよ。」
決して騎士団の鍛錬が優しいわけではないが全てが実践の冒険者ではまるで違うのだ。この3年間俺には本当にいい経験が積めた。それを聞いてようやくお祖母様も安心したようだった。
「それでは手紙の話をしましょうか。貴方のお話いいお話だと思うけど私も王妃様から孤児院を預かった身。確かにまた最近勤めていた方が辞めてしまったと院長から報告を受けているから働いてくれると云うならありがたいわ。でもね。」
お祖母様が紅茶を一口飲み、意味有りげに言葉を区切る。
「腰掛けでは困るの。最近の若い方は本当にすぐ辞めてしまうわ。貴方の推薦するお嬢さんはその辺りはどうなのかしら。」
それはそうだろう。面倒を見るものがコロコロ変わるようでは子供達にも良い影響は無い。だがそれもトウヤなら問題ないだろう。
「住込みを希望しているくらいだからご心配はないかと。真面目で誠実で、思いやりがあり良く働く子供好きな人間ですよ。」
「そんな方、どこで見つけてきたの?」
「俺が3年間お世話になっていた騎士団の先輩の宿屋です。先輩の奥さんが体調を崩した時に雇い入れたのですが宿屋の仕事と子供二人の世話をしていたのを見て声を掛けました。次の仕事を探していたので丁度良いかと思ったのです。」
正直お祖母様に手こずるとは思ってなかった。俺が紹介した相手なら二つ返事で依頼を出してくれると思っていたのは俺が甘すぎた。
「わかりました。貴方がそこまで推す方なら院長に会って頂くようにしましょう。でも明日、という訳にはいかないわ。日にちが決まったら連絡をします。貴方の屋敷でいいのかしら。」
暫くお互いを見据えたままだったがようやくお祖母様がわかってくれたようだ。
「いいえ、仕事が決まるまでは宿屋にいますので今までと同じくギルドにお願いします。」
「その方と一緒に?」
「?ええ、まあそうですよ?俺も復帰までは騎士団の宿舎には入れませんし、お互い宿無しですから。」
「ルーデンベルク侯爵とユリウスとには早急に手続きするようにわたくしからも助言しておくわ。」
なぜか長いため息をつかれてしまった。家に戻らないのがお祖母様的に駄目なのだろうか。しかし騎士団に入った時から既に8年も前に出た家に戻る理由もない。トウヤがいなくても同じだった。
「それじゃあこの話はこれでお終いね。貴方がいなかった3年間寂しい思いをしたわたくしを慰めてくれた方がいるのだけど貴方の訪問と重なってしまってお待たせしてあるの。せっかくだから紹介したいわ。一緒にお茶を頂きましょう、ね。」
お祖母様はそう言うと俺の返事も聞かずさっと立ち上がり移動を始めてしまった。
着替えさせられたのはこのためだったのかと今更気づいても遅かった。お祖母様の向かった先は公爵家自慢のサロンでそこには色とりどりのドレスに身を包んだ女性が5人待ち構えていた。
まさかこんな形で見合いじみた事をさせられるとは思っていなかった。これは絶対兄の入れ知恵だ。
俺は侯爵家の三男だから、このままでは爵位を失う。俺にとっては至極どうでもいいことだけどお祖母様や母や家督を継ぐ兄からしたら気になるのかも知れない。小さい頃から何処か入婿にと言われるがそんなものなくても幸せに暮らしている人を沢山知っている。そもそも俺は今まで色恋に興味がなかったから遊べない相手には興味すら湧かない。
違う意味で遊べない相手、だよな。トウヤは。
この年で6つも下の男にまさか本気の片想いをするとは思わなかった。この気持ちを自覚してしまえばまるで思春期に戻ったみたいに気がつけばトウヤのことばかり考えている。
結局華やかなお嬢様方のアレコレをトウヤと比べ二度目のお茶会を乗り切った。
馬車を返しついでに侯爵家に戻り着替えをし、今度は父と母と夕飯を共にさせられ遅くなり、急いで帰った宿屋で重い部屋の扉を開けたのだった。
******
「奥様、クラウス様は昔の通例などご存知ないのでは。」
ルーデンベルク侯爵家筆頭執事が食後の紅茶を入れながら主に問いかけた。
「考え過ぎかしら?」
「そうですとも。先々代の王妃様の頃ならともかく今時のご令嬢方は孤児院で研鑽せずとも学校に通われる間にお互い惹かれ合った方と御成婚されますよ。奥様もそうだったのですよね。」
執事の言葉に頬を紅く染める。
「だからこそなかなか働き手の見つからないのではありませんか。」
先々代王妃様の設立した当時の孤児院は子供達の様子を見に王妃様のお姿が常にあったことから、良家の子女が競うように訪問し、花嫁修業の場所としてもとても好まれていたのだ。
しかしそのおかげで働き手にコトを欠かないのも事実だった。
その風習も昨今の自由恋愛が進んだ今ではすっかり必要なくなってしまい、かわりに孤児院の働き手不足という残念な状態になっている。
「でも家柄の低い恋人を孤児院で働かせて親を説得するために利用したりする事もあるわよ。それにお母様は『クラウスがその方をべた褒めだった』って仰るの。」
「それも精々奥様のお若い頃ぐらいまでですよ。それに家督もユリウス様がお継ぎになりますし旦那様や奥様もクラウス様のお相手はお好きになさる様にと日頃から仰っているのですから孤児院に連れて来たからと言ってもその方が恋人とはなりませんでしょう。」
公爵家からクラウスが届けた母親宛の手紙にまさか自分の事が書かれているなどと思ってもいないだろうとクラウスを不憫に思う執事であった。
「なーんだ。つまらないわ。てっきりクラウスがお嫁さん連れて帰ってきたのかと思ったのに。」
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