迷子の僕の異世界生活

クローナ

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王都で就活?

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今日は珈琲の香りで目が覚めた。

『とまりぎ』よりうんとふかふかのベッドから降りて寝室を出ると隣のダイニングテーブルで優雅にカップを傾けて新聞を読んでいるクラウスがいた。大きな窓から射し込む朝日に金髪が煌めいてなんかもう。

「ずるい。」

としか言葉が出なかった。だってモデルみたいだ。

「ずるいってなんだ。ちゃんとトウヤの紅茶もすぐ煎れるようになってるぞ。」

珈琲のことじゃないんだけどな。

「着替えてきます。」

にっと笑うクラウスはもう着替えまで済んでいると云うのに隣で寝ていた俺は昨日なかなか寝付けなかったせいでクラウスが起きたのにさっきまで気付けなかった。
しかも珈琲のいい香りにつられて起きた挙げ句それをずるいとクラウスに思われたなんて恥ずかしくてしょうがない。

これじゃあ子供に見られても仕方ないよね。

顔を洗って昨日と同じような格好にジレだけ羽織ってクラウスの所に戻ると宿屋の人が朝食をセットしてくれていた。
陶器のお皿に金属のカトラリーが並べられキラキラしてる。

「すごい。部屋で食べれるんですね。」

「まあ領主が紹介するほどの所だからな。さ、食べるか。」

クラウスって俺が起きるの待っててくれたんだ。

食べ終わって宿を出たらまた馬車に乗って隣町で1泊するとクラウスが説明してくれる。それしかないんだからどうしようもない。夜に安眠できるように今日は頑張って起きていよう……そんな事を思っていた時期もありましたと。

「お馬のパカパカが強敵なんです。」

今は宿から馬車乗り場までの間に何件かあった屋台で手に入れた軽食が俺とクラウスの座ったベンチの間に並ぶ昼時だ。起きていようと思ったのにする事もなく、見る景色もすぐ飽きて規則的な馬の蹄の音と車輪のガラガラする音が子守唄になり眠ってしまった。

「クラウスさんだって寝てるのになんで夜ちゃんと眠れるんですか?」

「なんだ昨日寝れなかったのか?朝よく寝ていたから大丈夫かと思ったのに。……まぁそりゃ昼間あれだけ寝たら眠れなくなるか。」

今なんとなくディスった?

「だからなんでクラウスさんは平気なんですか?」

「なんでって……馬車では寝てないからな。」

「へ?」

「護衛付きって言ったろ?目を瞑ってるだけだ。寝てたら意味ないじゃないか。」

そう言ってコートを少しめくって剣を見せてくれた。
帯剣していたなんて全然気付いてなかった。しかもかなり長い。

「護衛なんてそんな物を使うような事があるんですか?」

「ああ、だが俺達の乗ってる馬車は平民が移動に使うものだからよっぽどないけどな。街道も整備されてるから昼間は危険はないけど夜だったり商団の馬車や貴族の馬車なんかは護衛をつけてないと盗賊に襲われる事もある。まあ中には王都に向かう懐を狙って関係なく襲ってくる連中もいるけどな、あと野犬とかもたまに。」

いるんだ強盗団。よし、ここから先は緊張感を持って隣町へ行こう!……なんて思ってた時期もありました。(二度目)

はい!テトリ到着ですよ~しかも昨日のナイデルと違って気付けば既に町の中の馬車乗り場です!

思いもよらぬ景色にぽかんとした俺をみてクラウスがずっと笑ってる。

「君たちが優しく歩いてくれちゃうからだぞ。」

初日は大きくてちょっと怖かった馬が水を飲むのをながめて責任転嫁してみた。馬を間近で見るのなんて初めてだけど俺の世界の馬よりきっとでかい。でもこの優しい瞳は変わらないんだろうな。

「まつ毛なが~。」

「坊っちゃん気になるなら触ってみるかい」

俺がずっと見ているからか馬のお世話をしてたお兄さんが声を掛けてくれた。お言葉に甘えて恐る恐る近づいてみるとやっぱりすごく大きくて俺の頭が胴体の真ん中辺りだ。手を伸ばしてやっと背中が触れる。離れて見てたツヤツヤの栗毛は思ったより硬くて、温かい馬の体を撫でながら「ありがとう、ゆっくり休んでね」とお礼を言ってみた。

それから昨日みたいに腕を引かれながら宿屋へ向かった。

「流石に部屋に風呂はないからな。」

クラウスが一言俺に言ってカウンターで「シングルを二部屋」と告げた。

「待って!い、一緒の部屋がいいです。」

コートをぎゅうっと引っ張って訴えた。

「昨日は仕方なかったけど今日は無理に同じ部屋にしなくていいんだぞ。」

コートを掴んだ俺に不思議そうに言った。そっか、クラウスは一人部屋が良いんだった。でも明日王都に着いてしまったら一緒じゃないかも知れない。

「……クラウスさんが昼間怖いこと言うから1人は嫌です。……僕の護衛をしてくれるんでしょう?」

もっともらしい理由をなんとか捻り出す。情けなくてクラウスの顔なんて見れない。

「じゃあ2人部屋でシャワー付きがあれば……じゃあそれで。朝食も二人分」

何も言わずカウンターに向き直ると部屋を変えてくれた。

「シャワー付きの部屋なんて高いんじゃないですか?」

「一人部屋2つとさほど変わらないから気にするな。マートのとこと違って客は選んでないから共同のシャワーで時間気にしながら入ったりドアの外で見張らなくていいから俺も楽できるしな。じゃあ宿も確保したし少し散策するか。ここはナイデル程じゃないけど王都に1番近いからまた町の雰囲気が違ってるぞ。」

背中をポンポンと叩いて俺の歩くのを促す。我儘を言っても変わらない優しい空の蒼色の瞳が嬉しかった。



昨日みたいに町を見ながら食べ歩いて宿に戻れば今夜の宿は大きなベッドが2つあるだけの部屋にシャワーとトイレが付いていて広さは断然こっちのほうが大きいけれどビジネスホテルみたいだった。

「先か後か」と聞かれてやっぱり後にした。

「じゃあ先にシャワー使うな。」

さっさとシャワーに行くクラウスに、今夜は飲みに行かないんだなぁなんて思いながら俺もシャワーの準備をする。
何気なくクラウスのベッドに目をやったらコートと昼間みた長剣が出したままになっていた。剣なんて見たことがなくて興味本位で近付いてみた。俺の足元から腰の位置まである。
世界一平和な国で育ったお陰で包丁以外の刃物は目にした事がないからこの鞘の中に同じ大きさの刃物が入ってるのが想像出来ない。正直ダンボールにアルミホイルを巻いたやつしかイメージ出来ない。

「……本物……。」

人の物なのに興味が自制心を上回りそっと撫でてしまった。

ーバチンッー

指先から全身に何かわからない強い衝撃が走り一瞬目の前が真っ暗になって体が床に崩れ落ちた。

「……か、はっ、……」

なんだこれ、体が痺れて息が苦しい

「トウヤ!」

シャワーを出たばかりのクラウスが慌てて床から俺を抱きあげてくれた。
そのままクラウスが聞き取れない何かを唱えると少し楽になった。心配そうに覗き込むクラウスの髪から雫が落ちて冷たい。

「大丈夫か?すまない、出したままにした俺が悪かった。しばらく辛いが我慢してくれ。」

俺を膝に抱き上げたままベッドに座り大きな溜息をついた。頭の横で聞き覚えのある早鐘が鳴っていた。

これ……あの時に聞いた音だ。俺を恐怖から引き上げてくれた音に呑気に耳を寄せているとクラウスのつらそうな声がした。

「護衛なんて言っといて俺がお前を傷付けるなんて……」

だめだよ、キレイな唇に傷が付いちゃう。なんとか動く手でクラウスが噛みしめた口に触れた。

「ごめんなさい、俺が悪いのにそんな顔しないで。」

それでようやくクラウスはホッとした顔になった。俺は改めてベッドに寝かされてほんの少ししたら身体はもとに戻った。

ベッドから立ち上がりストレッチをする俺に再び安堵の溜息をつくと、盗難防止にクラウスから離れた時に触った相手に状態異常の魔法が仕掛けてあるのを忘れていたのと、以前俺がギルドでナイフを怖がったから触ると思わなかったとこうなった理由を教えてくれた。

「単なる言い訳だな。すまなかった。」

「違います。僕がクラウスさんの大事な剣を勝手に触ろうとしたからいけなかったんですよ。ほら、びっくりしたけどもうなんともないですよ。」

手足を振ってア大丈夫ピールをする。何度も詫びられるとこっちがつらい。

「『俺』がいい。」

「……は?」

「さっき『俺』って言ったろ。」

急に何言ってんだ。

「あの時だって『俺』って言ってたのに泣き止んだら『僕』になって言葉遣いも堅苦しくなって『クラウスさん』になってた。」

「それは……」

仕方無くない?俺日本人だもん、年上の人にもよく知らない人にも簡単にタメ口なんてきけないよ?

「……うん、俺の剣勝手に触って心配させたトウヤが悪いよな。悪いと思うならその他人行儀な喋り方をやめろ。」

……これは有無を言わせない感じだ。

「急には、無理です。」

「だめ」

「………………無理。」

追い詰められた俺は用意した着替えを掴みシャワールームへ逃げ込んだ。

温めのシャワーを浴びて火照った顔を覚ます。

敬語を使う事で自分の内面は隠しやすい。日本人でもあるけれどお互いに踏み込まなくて済む俺にとっての防御壁だ。

望んで伸ばした手が掴まれたことなんてなかったからクラウスみたいにされるとどこで線を引いたらいいのかわなくなる。
許されたのだと調子に乗って自分から声をかけたら『仕方ないから』とか『優しくしないといけないから』と拒絶されたからもうこりごりなんだよ。
散々学習してきたのにクラウスにすがりたい俺がいる。

「違う、間違えるな。」

さっき剣を触った時に受けた衝撃がクラウスの拒絶だと思え。クラウスは大人で、冒険者で、仕事で俺を保護する義務があってそばにいてくれるだけ。俺は子供で偶然出逢っただけの見知らぬ他人だ。

自分の立場を思い出してから熱いシャワーを浴びて冷えた体の温度を上げた。

シャワーから出て明日の話をクラウスがしてくれた。

「王都に入るのは昼過ぎになるからギルドに寄ってから少し王都を見て廻ってから宿に入るぞ。孤児院には翌日行ける手筈になってるから心配するな。」

「王都についた日は宿には僕1人ですか?」

「いや、俺も一緒だ。すぐ復帰できるか王都に行ってみないとわからないからな。」

クラウスと一緒にいられるのが俺の中で1日伸びた。

ベッドに入って昨日と同じようにクラウスの寝息を聞いてから眠った。長い夜は気持ちが後ろ向きになるから駄目だ。明日こそ馬車の中は起きていよう。





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