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王都で就活?
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しおりを挟むキラキラした人はクラウスに座るように促したけれど「すぐ出るから」と言って断った。
「ギルドに顔出すように言ったのはどちらですか?」
聞き慣れないクラウスの敬語に目上の人だと云うのはわかった。
「ああ、私だよ。本当は言伝を頼んでおくだけだったんだけど思ったより君が来るのが早かったんだね。受付の子が気を利かせて通してくれたんだろう。私も会えるとは思ってなかったよ。」
そう答えたのはキラキラの人だった。
だけどそれを聞いたクラウスが舌打ちをした。
目上の人……だよね?
「マデリンのギルドから報告ついでに君が王都に戻ると聞いてね。それに……連れがいると言ったね。その子がそうかな?」
急に視線を向けられびっくりした。
「ふふ、驚いたかい?私に阻害魔法は効かないよ。」
クラウスにくっついて来ただけで別に隠れようとは思ってなかったけれどどうすればいいかわからずいたらクラウスの背中に隠されてしまった。
「で、なんの用ですか?」
「見せてくれないのか!ケチだな君は。」
そう言ってクスクス笑った。
「じゃあいいよ、そのままでいいから挨拶をさせてくれないか?」
そう言って今度は俺にソファーを勧めてくれたみたいでクラウスに腕を取られてキラキラさんの正面に座った。クラウスは俺の斜め後ろで立ったままだ。
「初めまして。私はここナイデルとこの先のテトリ、それとマデリンを預かっているリカルド=ブランジェだ。君はトウヤかな?」
え?領主様?
「は、はい。そうです。」
恐る恐る返事をした。俺ほんとにフード被ったままでいいの?
「そうか。そこのギルド長から報告は聞いたよ。大変だったね。怪我は大丈夫?」
俺のって…そんな大した事なかったよね?ギルドってあんな小さな事件も報告するんだ。そういえばソフィアが『依頼料が入るからお礼はいい』とか言ってた気がする。
「はい。クラウスさんを始め沢山の人に助けていただいたお陰でこれという怪我もなく済みました。ご心配頂きありがとうございます。」
「それなら良かった。あの男の戯言とはいえ私の名前を出して人を騙す人間が我が領地にいるとは思わなくてね。これも私の不徳といたすところだ。すまなかったね。慌てて男爵籍から除籍した所でそんなものは通じないとあのモノの親にはそれなりの制裁をしておくから許してくれるかい?」
領主様に頭下げられてるんですけど⁉俺どうしたらいいのクラウス!
「え、そんな許すも何も私が無知なばかりに騙されただけでかえって皆さんにご迷惑をおかけしたと思ってるくらいです。こちらこそすみませんでした。」
結局フードを被ったまま頭をさげた。怒られないよね俺!
領主様は優しい顔でニコリと笑うと「君はいいこだね。」と褒めてくれた。
「それじゃあいい子の君に私からのご褒美に素敵な宿を紹介しよう。もちろん代金は私持ちだよ。」
「そんなご褒美だなんて。それに宿ならもう取ってあるので……」
断らなくちゃとクラウスの方を見た。
「ああ、必要ない。」
「そうなのかい?せっかく部屋風呂付きの最上級の部屋を用意するのに残念だ。」
「お風呂!?」
思わず反応してしまって慌てて口を塞いだけどそれを聞いた領主様がニンマリした。
「君はお風呂が好きなのかい?でも中々入れないだろう。この街にも風呂好きの宿屋の店主がいてね、そこの宿は風呂付きの部屋がいくつかあるんだ。どうだい?王都に行ってもなかなかないんだよ?」
なんて誘い文句なんだこの人。時間と順番とお世話に追われない一人暮らしのお風呂は俺の唯一の贅沢でこの世界に来るまで毎日欠かさず入っていた。最後に入ったのはあいつに沈められた時だ。
お風呂、もの凄く入りたい。
「風呂好きなのか?」
クラウスに聞かれて素直にうなずいた。だって王都でもなかなかないって言ってるし……
「わかった、さっきのところは断って来る。」
クラウスがため息とともに了承してくれた。やった~!
「で、結局用事はそれなのか?」
「なんだバレたか。でも良かったよ、直接話が出来て。最後まで顔を見せてもらえなかったとお兄さんには報告しておくよ。」
そう言われてクラウスが二度目の舌打ちをして「行くぞ」と言って俺の手を掴んでソファーから立たせた。
「ああ、忘れ物だよ。」
と領主様が俺の手に封筒を渡して「じゃあね」と手をふってくれた。
さっきの部屋を出てからもずっとクラウスが俺の手を引っ張るのでギルドの外に出たら歩幅が間に合わずつまずいてしまった。
「あ、すまんトウヤ」
駆け寄って両脇をすくって立たせてくれる。いや、待ってくれたら自分で立てるから猫みたいに持つのやめて!俺の自尊心が傷つくから!
「あの、宿変えることになってごめんなさい。」
それでなんか怒ってるのかな?
「いや、いい。と言うか最初から宿用意してくれてたんだろうよ。」
そう言って俺の手にある封筒を指差した。
近くにベンチを見つけ座ると俺の手から封筒を受け取り折角きれいな封蝋がしてある所を雑に開いた。
中には手紙が一枚とカードが1つ。
「俺がトウヤと王都に向かうと聞いたから自分の名前を使われて被害に合ったトウヤへの詫びに宿を手配したから泊まるようにってさ。こっちは宿屋への紹介カードだ」
目を通した後手紙の内容を教えカードを見せてくれた。カードの方にも手紙と同じ封蝋が押して合った。
「クラウスさんは領主様とお知り合いなんですか?僕フード被ったままで失礼だったんじゃないですか?」
封筒をコートの内ポケットにしまいながらクラウスの顔が曇る。
「……知り合いっつーか正確には俺の一番上の兄の友人なんだ。俺も昔から知ってるけど何かと言うと俺をからかうんだよ。今回も詫びは建前で……」
「建前なんですか?」
「いや、とにかく苦手な人なんだ、それだけだ。じゃあ宿変えてから近くをぶらぶらするか。」
そう言ってようやくクラウスは俺からマントを外してくれた。
夕闇に沈み始めた街は店内に明かりが灯り賑やかな様子を知らせてくれる。
マデリンはギルドの近くは商店街って感じだったけれど、ここは高そうなブティックや宝飾品店があったりオシャレなレストランもある。でも居酒屋っぽい所や屋台もあって人通りが多かった。
ついキョロキョロしながら歩いちゃうから見失わないように注意してたら不意に後ろから首根っこをひっぱられてびっくりしたんだけど「どこ行くんだ」と言われ、クラウスじゃない黒い服の人についていっちゃっててびっくりした。
それじゃあとコートに捕まっていたら安心してよそ見をしすぎていつの間にか手を放してしまったり、前を見なくて転んだりを繰り返した結果クラウスに腕を掴まれ連行スタイルに落ち着いた。
お陰でどれだけキョロキョロしてもどこもぶつけずはぐれずに領主様の紹介してくれた宿屋にいつの間にか辿り着いていた。
「わ、スゴ……」
まるで老舗の高級旅館みたいな、『とまりぎ』みたいなアットホーム感のまるでない宿屋の店構えにびっくりした。
クラウスがカウンターで領主様にもらった紹介状をわたすと、奥から太ったおじさんが出てきてペコペコしながら部屋まで案内してくれた。
通された部屋はこれまた驚きの広さで、クラウスが案内してくれたおじさんと話してるうちに部屋を見て回った。入り口からもう一つ扉があって応接セットの並んだ部屋があり、次になぜかダイニングテーブルセットの並ぶ部屋があってその先にやっとベッドルームとその隣にお風呂とかの水回りがあった。
「お風呂もひろ~。」
銭湯の湯船くらいの大きさのお風呂で入るのが楽しみすぎる。いろいろ広すぎるのはここの人たちの体が大きいせいもあるんだろうな……
「どうかしたか?」
「いやもう凄すぎてびっくりです。俺ソファーの半分で十分寝れそう。」
「ここでソファーはないだろ。」
クラウスに笑われてしまった。さっき話をしていたのは『お部屋ディナーご用意出来ます』と言われたそうだ。
「断ったけどいいよな」
そう言われて大きく頷く。だってそのためにキョロキョロして連行されてたんだから。夕飯は屋台を食べ歩きたかったんだ。
気になるものがありすぎて悩んでいたらどれも少しずつ食べて残りをクラウスが片付けてくれる事になって自分の食べたいものとクラウスのおすすめを15種類くらい食べたらすっかりお腹が膨れてしまった。
「どこか行くか?」と聞いてくれたけど何があるのかわからない所を歩くよりもやっぱり今夜はお風呂に入りたかったのでまた連行されながら宿に戻った。
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