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迷子になりました
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しおりを挟む8日目からのクラウスの話②
日付も変わりトウヤが再び眠りに落ちた頃後処理を粗方終えたソフィアが顔を出した。
「や~ん!疲れ切った私を癒やしてもらおうと思ったのに顔くらい見せてくれたっていいじゃん!クラウスのケチ!」
「うるさい、せっかく寝たんだからダメだ。」
トウヤは息が籠もらないように少し隙間を作ってはあるがシーツをかぶってしまっていて顔は見えない。だが見えたところで叱られそうだ。
「大変だったのよ~?貴方が遠慮なく潰したからアイツ虫の息でわざわざわ回復させてから締め上げたんだから。」
ポトレの親である男爵家は早々に奴を除籍し、男爵家の名前を出さないよう結構な口止め料を差し出したらしい。
「……兄に会って王都に戻ることになった。トウヤも連れて行く。2日…いや、3日でここを立つ。」
「随分急ね?トウヤはなんて?」
「同意してる。王都の孤児院に住み込みで働いてもらう。……で、だ。そういう依頼が出ていて、道中の路銀もギルドから出るって事になってるからよろしくな。」
ソフィアが遠慮なく呆れた顔をする。
「……そんな依頼出てませんけど。嘘ついて連れ去るなんてポトレと同じじゃない。」
「だから、トウヤには出てることにしてくれって頼んでる。2日で向こうには連絡を出して事実にするから大丈夫だ。」
「ふふっ。貴方とは長い付き合いだけど必死すぎて引くわ~~トウヤも厄介な相手に好かれたものね。今まで袖にしてきた子達にみせてやりたいわ。」
「俺が一番驚いてるよ。まあどうやらトウヤの対象に男はないみたいだから俺の片恋だよ。」
「……その話、どこから突っ込めばいいのかしら。トウヤも今どき異性間恋愛なんてめずらしいわね。でもこの国で相手にするならバランス的に未成年しか無理じゃない?もしかしてもしかして私でもいいのかしら!そしたらやっぱり『受ける方』になっちゃうから駄目かしら~」
「…………おい。」
相変わらずこいつの性癖理解できねーわ。
「あらやだ私ったら。想像したら楽しくって。……あ、そうだった。トウヤの物を持ってきたんだけど……」
そういってソフィアが出したのはいつも履いてる変わった靴と二つ折りの小物入れだった。
「服は?」
「一応あるけどいろんな意味でぐちゃぐちゃだから置いてきたわ。」
「処分していい、俺が適当に買ったものだ。これは?」
イライラしながら見慣れない小物入れを手に取った。
「それもトウヤのよ。中を見ればわかるわ。カードにトウヤの顔写真のついてる物があるの。あと見たことない銅貨や銀貨に多分紙のお金。少なくともこの国と国交のある所の出身じゃなさそうよ。これじゃ人並みの常識がないのも仕方ないわ。わからない以上送ってあげることも出来ないから貴方が大事にしてあげれば?」
手のひらにカードと見慣れない硬貨を転がしながらギルドの地図の前で立つ姿や涙をこぼして星空をみていたトウヤの顔を思い出した。
「じゃあ、私はもう帰るわね。駄目になった服の代わりに私が一式見立てておいたから明日持ってくるわね。あ、サイズなら昨日の診察の時にバッチリみたから任せておいてね。」
「じゃあね」と部屋を出ていった。
ソフィアと話してようやく一区切り付いたと思った。
椅子に戻りベッドの上に肘をついてわずかに上下する小さな塊の見ているうちに俺も眠りにおちた。
俺はトウヤのベッドに上半身を預けて寝ていたわけだが、朝目が覚めると胸の所にトウヤの頭がピッタリくっついていた。愛しくて思わずこめかみに口づけてみる。……熱が出ていた。
治癒魔法ですっかり体調の戻ったところで『とまりぎ』に帰ることになった。
ソフィアが駄目にした代わりにと持ってきたものは貴族の未成年がお茶会で着るドレススーツだった。刺繍は控えめで飾釦もトウヤの瞳に合わせた黒っぽい色だったので派手さはない代わりに、トウヤの白い肌と漆黒の髪色を引きたたせとても良く似合っていた。
さすがの見立ての良さに感心するが普段着れない物を寄越した所で詫びにはならないのでは?
「いいでしょ私の見立て最高でしょ。やっぱりトウヤはどこか遠い国の皇子様じゃないかしら。」
「あれじゃ普段着れないだろ?」
「王都に行くんだから貴方の身内に合う時にでも着せればいいでしょ?ああいい目の保養になったわ。」
結局またマントを着せる事になった。王都に着いたらトウヤにこのマントの代わりになる物を探すべきだろうか。
マート達に王都行きを告げ、ビートに結構強めに殴られた。チビのくせに昨日のトウヤの倍は痛い。マートとヘレナの子だと実感する。そうだよな、お前が見つけたトウヤをかっさらって行くんだからと我慢して受け止めた。さっきだってドレススーツのトウヤにみとれてたしな。3年も顔見てきた俺がいなくなるのに『クラウスだけ帰れ』だと。
ヘレナのおかげでビートの地味痛い攻撃から開放され、部屋で王都の父に帰宅の報せを、お祖母様には孤児院でトウヤを働かせたい旨を綴った手紙を書いた。それをギルドに持っていこうと下に降りていくとトウヤがジェリーと遊んでいた。
覗いてみるとメモに何か書いていた。トウヤの持っていた写真付きのカードの模様に似ていた。
「これは文字なのか?」
まさかと思って聞けばそうだという。必要な物を買うために書き出しているとか。そういえば何もないのだった。足りないものはいくらでも買えばいいと思ったがそういうのは嫌がりそうだけどさっきギルドで手にした分ですべて手に入れるには無理がありそうだ。「お金が貯まるまで行かない」とか言われてもこまる。
試しにかばんを探るとトウヤの必要と思われるものは大体あった。雑に突っ込んでたおかげだな。
ふと、気になって名前を書かせてみた。するとスラスラとペンを滑らせる。昨日見たトウヤの写真付きのカードに似たような模様が入っていた。やはり文字なのだ。話す言葉は同じなのに使う文字が違うのは不思議だ。
家名も当たり前のように書く。
『サクラギ トウヤ』
最初に書いた方と俺が書いた方に書き加えたものが違ったのできいてみれば最初のは意味のある文字だといった。
『冬』と『夜』そして『桜』と『木』だと説明するトウヤの顔が少し曇った気がした。
いつかその理由を教えてくれるだろうか。
手紙を持って再びギルドに行き手紙の配達依頼を出した。
「特急依頼……ホントに事後承諾なのね~笑える。」
「いいだろ別に。依頼料いくらだよ。」
「まあ本来なら銀貨3枚ってとこだけど明日の朝に本部に向けて今回の報告が特急で出るからついでに混ぜてあげる。だから通常の銅貨6枚でいいわ。」
手紙は各町のギルドを中継するため通常の配達はギルドの定期便で運ばれるが特急便は馬を乗り潰して夜通し走り続けるため料金も跳ね上がる。小さな町の小さな事件でも貴族を犯罪者として裁くにはそれなりに手順が必要になる。
はじめはトウヤを貴族がらみかと懸念したけれど今の俺にとってはどこか異国から迷い込んだ強がりで泣き虫な護るべき者。
俺は二通分の白銅貨1枚と銅貨2枚をカウンターに置くと王都行きの馬車の手配のためにギルドを後にした。
その後は「入っていたことにすればいいんじゃないか」と名案を思いついてあれこれ買い足してかばんに放り込んでいった。
******
今日はマデリンで過ごす最後の日だ。
昨日の夜トウヤにノックされ出ればこの前と同じ俺のシャツを着ていた。そういえば寝間着はまた買ってなかったな……いや、サイズが合うのはあえて用意したと怪しまれるか。
「何だ?」と聞けばソフィアに渡して欲しいと紙袋を渡された。
「今日は100数えなくてもいいのか?」
反応がみたくて聞いてみれば首まで紅く染めて「間に合ってます!」と逃げられた。
これは嫌われてはいないよな?
預かったものをトウヤからだとカウンターに置いた。
「『ソフィアさんお洒落なのでいいものが思い浮かばなくて』だそうだ。」
「なにそれ可愛いい事言ってくれるのね。あら、可愛らしいキャンディね。こうゆう所本当にいじらしいわ。」
ソフィアは瓶の中から一粒取り出すと早速口に含んだ。
「おいし。あ、特急便は今朝無事に王都に立ったわよ。貴方も明日行くんでしょ淋しくなるわね。」
「本気か?」
「当たり前じゃない。トウヤがいなくなるんだもん。」
「お前もそっちかよ。」
「冗談よ、学校からの仲間じゃないの。」
3年前、冒険者になる時にマートに誘われてマデリンに来て、ギルドのカウンターに座る昔馴染のソフィアを見た時は驚いたし安心したのも覚えてる。
「王都に遊びに行ったら騎士団の若い子紹介して頂戴ね。」
「ホントいい性格してるよ。」
昼に丘の公園でマート達に昼をごちそうになってからまたギルドに戻り3年の間にかばんに放り込んだままの売れそうな素材を売っぱらった。
もう生活の保証がない冒険者には戻らないから必要ない。
夜は換金した金で顔見知りの冒険者に酒をおごって歩いた。
お祖母様が気にかけていた人の痕跡はついぞ見つけれなかったけれどその代わりにトウヤと出逢えた気がする。
安い酒に酔いながらマデリン最後の夜が過ぎていった。
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