迷子の僕の異世界生活

クローナ

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迷子になりました

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あくる日の朝、朝食に降りてきたジルベルト達にもお礼を言う事ができた。いつもなら勝手にハグしてくるロウが怯んだ事で俺に何があったかを知ってるのが分かってつらい。

「もうハグしてくれないんですか?」

思わず口にするといつもと違う慈しむような優しい顔でそっとハグをしてくれた。

「トーヤが無事で本当に良かった。」

「僕も無事に帰れたのは皆さんのお陰です。ありがとうございました。」

初めてロウへハグを返した。
王都へ行くことを告げるとジルベルトが近くに行ったら会いに行くといってくれた。もちろん四人で。


洗濯物を干し終わったくらいにジェリーも連れて俺の買い物に行く。ついでに町の散策も出来るようにと3人分のお弁当を持たせてくれた。

「学校は急に見学はだめなんだって。ごめんな」とビートが教えてくれた。ギルドの仕組みといいこの世界は何かとセキュリティが高い。
とはいえ、学校のそばを通ってくれた。この町は小さいながらとても良く整備がされていて正方形の町の中心にギルドがあり、隣町にある領主と連携を取っていて町の治安も管理する役場のようなものらしい。
その近くに学校や病院等が配置され放射状に商業地から居住地そして 農地になって広がっていた。町の先に広がる草原に仰々しい柵はなかった。

平和な牧草地の牛を見ながらマートに持たせてせてもらったお弁当を食べて、また違うルートを戻りながらヘレナに教わった服屋さんで安く服を揃える事ができたので買える範囲でお礼を用意することも出来た。
マートには手ぬぐいを。ヘレナとジェリーにはお揃いのリボンを、ビートにはハンカチを。ジルベルト達4人には明日の朝に果物を、ソフィアには悩んで瓶入りのキャンディにした。クラウスに届けてもらおう。

買い物も終わりそろそろ帰らなくちゃいけない時間だ。ジェリーは途中のお店から俺がおぶってて今は小さな寝息をたてている。
『とまりぎ』が近付いてきてビートが不意に振り返った。

「もうウチに着くけど、ちゃんと見たい所案内できてた?」

『とまりぎ』に帰るのがお互い名残惜しい。

「いろいろ見れて楽しかったよ。でもまだ一番行きたいとこが残ってるから行きたいな。」

「丘の公園なら明日行くだろ?」

「違うよ僕の行きたいところはこっち。」

ジェリーをおぶって踵を返す俺の後ろを荷物をいっぱい持ったビートが付いてくるのを確認しながら向かった先はあの橋だ。

「ここで迷子の僕をビートが拾ってくれたね。」

見慣れない橋、知らない河、あの時の僕は目的地も帰り道も見失って途方にくれていた。

「あの時ビートが僕を見つけてくれたから、ご飯を食べさせてくれたから、『とまりぎ』で働けるように頼んでくれたから今ここにいられる。」

人が通り過ぎる中で不機嫌そうな顔をして見知らぬ俺に声を掛けついてこいと言ってくれた。

「ありがとう。ビートには何度お礼を言っても足りないよ。離れても絶対に忘れない。文字を覚えたら1番に手紙を書くよ。頑張って働いて、いつか長いお休みが取れたら必ず会いに来るね。だからビートも少しは僕を覚えていてくれる?」

まただ、ちゃんとお礼が言いたかったのにぽたぽたと涙が止まらない。クラウスに泣かされてから俺の涙腺はすっかり緩んでしまったみたいだ。
正面に立つビートは両手の荷物を下に置くと自分の袖口で俺の涙を拭う。

「前と反対だな。」

「俺も。かーちゃんが体調悪くなってばーちゃんちにいっちゃってかーちゃんも赤ちゃんも大丈夫なのか心配だった。泣き止まないジェリーまで病気なのかと不安になってたのをトーヤが慰めてくれたろ?ウチに来てくれてありがとう。店手伝ってくれてありがとう。トーヤこそ俺達を忘れんなよ。王都に行ったって迷子になったらまた拾ってやるからな。」

そう言って藍色の瞳を夕日に煌めかせながらジェリーによく似た笑顔で俺をぎゅうっとハグしてくれた。


******


王都へ立つまであと1日、今日もこの町はよく晴れてピクニック日和だ。

扉には『本日休業』の札を掛けてみんなで歩いて丘の公園に向かった。
ギルドの前を通りかかるとクラウスもちょうど出てきて一緒に歩く。
クラウスが来た事で俺の隣にいたビートがマートの隣に移動した。本当はマートの隣に行きたかったけど俺の相手をしてくれてたんだ。マートが休みなのも珍しいんだろうな。

丘につくと柔らかい草の上に大きなピクニックマットを広げ荷物を置いたら ビートとマートはボール投げをしはじめ、ヘレナとジェリーはお花を摘み始めた。

俺はクラウスと丘のてっぺんのベンチを目指して歩いた。たぶんそこが初めて大泣きして連れて行かれた所。
あの時に見えたのは星空だけだったけど明るい今は町が一望出来た。この風景の中に自分が混じってるのが不思議で仕方ない。

「王都ってどんな感じですか?」

「王都はここと違って城壁で囲まれていて建物も人の数もこことは比べ物にならない程多くてきっと驚くぞ。」

丘に吹く風に金の髪を揺らして遠くを見つめる空の蒼の視線の先を追ってみた。

「そっちが王都ですか?」

「ああ。」

明日から馬車に揺られて3日後に王都につくらしい。馬車なんて乗ったことがないから近いのか遠いのかさっぱりわかんないや。

ベンチに座って景色を眺めていたらジェリーが走ってきた。下からヘレナが手を振ってるから俺も振り返してその場で到着を待った。
だけどあとすこしの所で石段につまずいてころんでしまった。
ジェリーのちいさなひざこぞうが擦りむいて血が滲んでいる。

「大丈夫?」

「にーちゃいたいよぅ」

クラウスから水をもらってベソをかくジェリーのひざを洗ってからハンカチをまいた。

「これでどうかな?帰ったらお母さんにちゃんと見てもらおうね。」

それでも傷はじんわり痛いだろう。抱っこしても俺の胸に顔をこすりつけてぐずぐず泣いている。

「じゃあ痛いのが消えるおまじないだよ『いたいのいたいのお空に飛んでけ~』」

「きゃあ~いたいのとんでった~」

膝に手をかざしてから手を振り上げてひらひらさせる。ジェリーは瞳をキラキラさせて喜んでる。小さな傷だからそこから気がそれればそれ程痛くもないはずだ。ふふっ子供って単純で可愛い。すっかり機嫌を直して足をぶらぶらして遊んでる。

「お前治癒魔法が使えるのか?」

ひと通りそれを見ていたクラウスが心底驚いた顔をしていた。

「やだな、何言ってるんですか?ただの子供騙しですよ。僕が魔法使えないのクラウスさんも知ってるんでしょう?」

「まだ属性が分からないだけだろう、魔力はあるんだからそのうちなにか使える…でもその年までわからないんだから難しいのか……」

なにをおかしな事言い出すんだと思ったらそういえばここは魔法の使える世界だった。

「え?僕魔力あるんですか?」

「ないと水すら使えないぞ。知らなかったのか?」

「へぇ~。もし使えるならソフィアさんみたいなのがいいなあ。こう、バチバチッとしてる間に逃げれそうだし。」

俺にもなんかできたら格好いいなぁ。少しだけ夢を描きながらジェリーを抱っこしたまま戻ると、ボール投げに飽きた2人も合流してお弁当を食べることになった。
マート特製のサンドイッチを頬張っているとヘレナが公園にまつわるジンクスを話し始めた。

「さっきトーヤの座ってたベンチでキスをするとそのカップルは幸せになるって言われてるのよ。だから実はデートスポットなのよねこの公園。さらにお互いがファーストキスなら絶対結婚するって言われてるわ。」

3人目を身籠ってるのにまるで少女のように瞳を輝かせて語る姿がジェリーによく似ていて微笑ましい。

「ビートも知ってるの?」

「あ~、うん。」

あさってをみて頭をガシガシ掻いている。これは何か思い当たる事があるような返事だ。

「……もしかしてビートってもう彼女とかいるの?」

ジト目で聞いてみた。だって僕なんてこの年までお付き合いなんてしたことないんですけど?

「ちげーよ、この前この公園に誘われたけど忙しいって断ったら泣かれたっつーか……」

ガーン。確かにまだ7歳だけど俺から見たら小学5年生くらいだし?紺色の髪と瞳が凛々しい感じだし?それにこのお兄ちゃんオーラは確かに女の子にもてるかも。でも実際は小学1年生にぬかれてるのか!?

なんとなく敗北を感じてるとヘレナが

「あらトーヤだって王都に行けば素敵な出会いがいっぱいあるわよ!いい人連れて遊びに来なさいな。」

といたずらっぽい顔で笑った。

それから食べる時間も惜しいビートがマートを急かしサンドイッチを詰め込むとまた原っぱの方に走って行き、それに続くジェリーを追いかけてヘレナも行ってしまってクラウスは王都に向かう準備があるとギルドへ戻って行った。

俺はせっかくだから広いマットの上に寝転んだ。
目の前に広がる澄んだ空の蒼色がクラウスの瞳と同じだった。

「ファーストキスなら結婚か……」

さっきのヘレナの話を思い出してそっと唇に触れてみた。

あの夜クラウスはどうして俺にキスしたんだろう。

いろいろありすぎてあの日のキスの理由も聞けないまま俺を支配したドキドキももうどこかへ行ってしまった。

今はただ「俺の初めてのキスがあの男じゃなくて良かった」という事実だけが俺の中に残った。



『とまりぎ』に戻り、みんなで慌ただしくシーツを取り込んだり手分けしてベッドメイクして宿泊の準備をして俺を入れた5人同じテーブルで夕飯を囲ませてもらった。

「明日は早いんだろ?手伝いはいいから早目にシャワー浴びて寝ればいいぞ」

マートはそう言ってくれたけど「洗い物だけ」とやらせてもらい。それが終るとしんみりする間もなくさっさと追いやられてしまい、いつもとかわらない『とまりぎ』での最後の夜が過ぎていった。



                 
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