30 / 333
迷子になりました
30
しおりを挟む「ねぇクラウス、私の記憶が確かならトウヤの容態が悪化してる気がするんだけどなぜかしら?」
ギルドに出勤する前にお見舞いに来てくれたゴージャスゆるふわ巻きが復活し、メイクもバッチリ決めたソフィアがそう言うのも仕方のない事だ。
だって泣きすぎたお陰で俺の目は真っ赤な上にぱんぱんに腫れて土偶ちゃんだし声はガラガラな挙げ句なんと熱まで出てるのだ。
「さぁ…気のせいじゃないか?」
クラウスの目が泳ぐ。ソフィアさん、やっちゃってください、そいつが犯人ですよ。
それにしても泣きすぎて熱を出すなんてなんとも情けない。
「まあ熱が出た時は便利よねアナタ。ハイ冷やして頂戴。」
ベッドサイドの椅子に座ったソフィアが俺の額のタオルをクラウスに渡す。そういえばソフィアが来る前はずっと冷たかったからクラウスが知らないうちに交換してくれてたのか。と思って見ていたらクラウスがまたすぐソフィアに戻してた。そしてそれをまた俺の額にのせた。
「わ、冷たい?何で?」
思わずはね起きて額から落ちたタオルを触ってみた。
「スマン冷やしすぎたか?」
クラウスが近付いて心配そうに聞いてきた。
「いえ、驚いただけです。何で冷たいんですか?」
「なんでって氷魔法が俺の属性だからな」
そう言って俺を寝かせて額にタオルをのせて、その上にクラウスの手が置かれるとまたタオルが冷たくなった。
「すごい!だからずっとヒンヤリしてたんだ」
そういえば熱が出て濡れタオルを額にのせてもらってから何度もクラウスが触ってた。てっきりタオルが温くなってないか確かめてるのかと思ってたけどその度に冷やしていたんだ。初めて触れる魔法に感動の余りタオルを触っていたらソフィアに笑われてしまった。
「ふふっトウヤは氷魔法は初めてなの?」
「…はい」
氷どころか魔法自体直接体験するのは初めてですよ。ソフィアさんのバチバチするスタンガンみたいのはなんの魔法だろう。体験はもちろん遠慮したい。
ドアをノックする音にソフィアが答えると昨日のお婆ちゃん先生が入って来た。
「おはよう、気分はどうだね?」
おでこを冷やす俺をみて「おやおや」と言いながらソフィアが譲る椅子に腰掛ける。
「おはようございます。あの…少し熱があるんですけど。沢山泣いたせいでしょうか」
お婆ちゃん先生は俺の知ってるお医者さんがするみたいに目とか舌とか心音をチェックした後額に手を当てて熱があるのを確認した。
「そうだね。沢山泣くと頭が痛くなったり稀に熱も出るけれど、今のトウヤには一番の薬になったんじゃないのかい?」
優しい瞳でそう言われ俺はこくんと頷いた。クラウスのお陰で俺の心はとてもスッキリしているのだから。
お婆ちゃん先生は「うんうん」と笑顔で相づちを打つ。
「でも沢山つらい目にあった子をこれ以上苦しい思いをさせたくないからね。」
と言って俺の顔を両手でそっと包むとなんだかほわんと体が温かく感じた。
「ほれ、どうだい?熱もさがったろ?」
「流石先生ですわ。赤く腫れてた目とか瞼がスッキリしてる。」
ソフィアが俺の顔をみて感激してる。
「王都の医者とは比べ物にならんけどわしにもこのくらいの治癒はできるんじゃよ」
すっかり軽くなった体にびっくりした。
「あーあー。スゴい喉も治ってる!」
こんな一瞬で治る薬、絶対にない!俺の常識ではあり得ないことに「スゴい」を連発してしまう。
「あら、さっきのクラウスの氷魔法がかすんじゃったわね。」
お婆ちゃん先生の治癒魔法のお陰ですっかり回復した俺は退院の許可も降りたけど……さて、俺は病院の寝間着を来ている。
服どうしたっけ?首をかしげる俺にソフィアがベッドの上に俺の少ない持ち物の、財布と鍵とスニーカーと箱をひとつ並べた。
「コレあなたの物よね?」
使えないのはわかってるがもしも突然元に戻った時の為に持っていたものはずっと身に着けていた。
「あ、ありがとうございます。どこやったんだろうって考えてたんです。」
そう言ってスニーカーと財布と鍵は手にしたものの服はない。クラウスに買ってもらった物だからなぁ
「あの、着てた服は…?」
ソフィアは「ふぅー」っと息を吐くと
「悪いけどギルドで処分させてもらったわ。理由も話す?」
聞かない方が良いというのはわかった。
宿に戻ればまだ俺の服ともらったのが一組あるけどでも靴と財布じゃ帰れない。
「な、の、で」
ソフィアがもったいぶって箱の蓋を開ける。
「ジャーン!ギルドからお詫びも兼ねてトウヤの可愛さをぐっと引き立たせる服をご用意しました!」
……………ん?
「あの、僕がギルドの方々に助けて頂いてご迷惑をおかけしたのだからそれはおかしいです。僕の方こそ皆さんにお詫びをしなくてはいけないのに。」
俺がマートやクラウスやジルベルト達やギルドの人達にお礼をしなくちゃ。
「違うわ、今回の件はアイツの素行に関する情報が入っていたのに防げなかったギルドに非があるわ。それにマートやクラウス達には緊急依頼として依頼料もポトレから罰金をガッポリ払わせた中からちゃんと出るからダイジョーブよ。だから受け取って。」
ソフィアがお詫びにとくれた服はジャケットの丈が長めの青みがかったグレーのスリーピースのスーツと白いシャツにリボンタイにツヤの効いた黒い革靴まで入っていた。
「女性の前ではちょっと」とソフィアに退出をお願いするとなぜかクラウスも出て行った。
「うわ、ぴったりだ」
就職試験は高校の制服だったし就職先は小さな工場の派遣社員だったから入社式もなくてスーツは成人式前に準備する予定だったからまだ持ってなかった。ネクタイじゃないのは残念だけどきちんとした服は背筋も伸びて少し大人になった気がした。
「案外、似合って、格好いい、かも?」
鏡を見ながらちょっとだけ自画自賛してみた。でもなんか着慣れないから照れくさい気もする。ソフィアがダメになった服の代わりに用意してくれたんだからこっちでは割と普通に着たりするのかな?
少し照れくさい中、外で待つ2人を顔だけだして呼び入れた。
「や~んトウヤ、すごくすごくすご~く似合ってるわ。私の見立てに間違いなかったわね。アナタも何か言いなさいよクラウス。」
「…あ、あ。いいんじゃないか?」
大絶賛のソフィアにビミョーな反応のクラウス。どちらが正解?
「だけどきちんとしすぎていて普段着るには勿体無いですよね。あ、もしかしてギルドに行く時に着るようにですか?」
閃いたとばかりにソフィアを見れば横からクラウスに小突かれた。
「懲りないなお前は。自覚したんじゃないのか。また攫われるぞ。」
「だって……じゃあこういうのいつ着るんですか?」
「大丈夫、王都ではきっと着る機会があるわ。行くんでしょう?クラウスと。」
悩む俺にソフィアがそう言ってにんまりした。きっとクラウスが話したんだ。
「はい、僕も18才になるまで孤児院の様な所で育ちましたが一緒に暮らした小さい子達のお世話が大好きでした。本当はそういう仕事に就きたかったのだけど僕のいた所では資格がなくて諦めたんです。だからクラウスさんに教えて貰ってすごく嬉しくて。」
期待に自然と顔が笑ってしまう。
「そうね、トウヤには『育児』のスキルがあるのだもの。きっと子供達のいいお母さんになれるわ。頑張ってね。」
「ハグをしても?」とわざわざ断りを入れてから俺をむぎゅうっと抱きしめてくれてそれからギルドへと去って行った。
「じゃあ俺達も行くか。」
そう告げるクラウスにまたマントを被せられた俺は『とまりぎ』へと向かった。
174
お気に入りに追加
6,403
あなたにおすすめの小説
キスから始まる主従契約
毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。
ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。
しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。
◯
それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。
(全48話・毎日12時に更新)
結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる