迷子の僕の異世界生活

クローナ

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迷子になりました

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「ねぇクラウス、私の記憶が確かならトウヤの容態が悪化してる気がするんだけどなぜかしら?」 

ギルドに出勤する前にお見舞いに来てくれたゴージャスゆるふわ巻きが復活し、メイクもバッチリ決めたソフィアがそう言うのも仕方のない事だ。
だって泣きすぎたお陰で俺の目は真っ赤な上にぱんぱんに腫れて土偶ちゃんだし声はガラガラな挙げ句なんと熱まで出てるのだ。

「さぁ…気のせいじゃないか?」

クラウスの目が泳ぐ。ソフィアさん、やっちゃってください、そいつが犯人ですよ。

それにしても泣きすぎて熱を出すなんてなんとも情けない。

「まあ熱が出た時は便利よねアナタ。ハイ冷やして頂戴。」

ベッドサイドの椅子に座ったソフィアが俺の額のタオルをクラウスに渡す。そういえばソフィアが来る前はずっと冷たかったからクラウスが知らないうちに交換してくれてたのか。と思って見ていたらクラウスがまたすぐソフィアに戻してた。そしてそれをまた俺の額にのせた。

「わ、冷たい?何で?」

思わずはね起きて額から落ちたタオルを触ってみた。

「スマン冷やしすぎたか?」

クラウスが近付いて心配そうに聞いてきた。

「いえ、驚いただけです。何で冷たいんですか?」

「なんでって氷魔法が俺の属性だからな」

そう言って俺を寝かせて額にタオルをのせて、その上にクラウスの手が置かれるとまたタオルが冷たくなった。

「すごい!だからずっとヒンヤリしてたんだ」

そういえば熱が出て濡れタオルを額にのせてもらってから何度もクラウスが触ってた。てっきりタオルが温くなってないか確かめてるのかと思ってたけどその度に冷やしていたんだ。初めて触れる魔法に感動の余りタオルを触っていたらソフィアに笑われてしまった。

「ふふっトウヤは氷魔法は初めてなの?」 

「…はい」

氷どころか魔法自体直接体験するのは初めてですよ。ソフィアさんのバチバチするスタンガンみたいのはなんの魔法だろう。体験はもちろん遠慮したい。

ドアをノックする音にソフィアが答えると昨日のお婆ちゃん先生が入って来た。

「おはよう、気分はどうだね?」

おでこを冷やす俺をみて「おやおや」と言いながらソフィアが譲る椅子に腰掛ける。

「おはようございます。あの…少し熱があるんですけど。沢山泣いたせいでしょうか」

お婆ちゃん先生は俺の知ってるお医者さんがするみたいに目とか舌とか心音をチェックした後額に手を当てて熱があるのを確認した。

「そうだね。沢山泣くと頭が痛くなったり稀に熱も出るけれど、今のトウヤには一番の薬になったんじゃないのかい?」

優しい瞳でそう言われ俺はこくんと頷いた。クラウスのお陰で俺の心はとてもスッキリしているのだから。

お婆ちゃん先生は「うんうん」と笑顔で相づちを打つ。

「でも沢山つらい目にあった子をこれ以上苦しい思いをさせたくないからね。」

と言って俺の顔を両手でそっと包むとなんだかほわんと体が温かく感じた。

「ほれ、どうだい?熱もさがったろ?」

「流石先生ですわ。赤く腫れてた目とか瞼がスッキリしてる。」

ソフィアが俺の顔をみて感激してる。

「王都の医者とは比べ物にならんけどわしにもこのくらいの治癒はできるんじゃよ」

すっかり軽くなった体にびっくりした。

「あーあー。スゴい喉も治ってる!」

こんな一瞬で治る薬、絶対にない!俺の常識ではあり得ないことに「スゴい」を連発してしまう。

「あら、さっきのクラウスの氷魔法がかすんじゃったわね。」

お婆ちゃん先生の治癒魔法のお陰ですっかり回復した俺は退院の許可も降りたけど……さて、俺は病院の寝間着を来ている。

服どうしたっけ?首をかしげる俺にソフィアがベッドの上に俺の少ない持ち物の、財布と鍵とスニーカーと箱をひとつ並べた。

「コレあなたの物よね?」

使えないのはわかってるがもしも突然元に戻った時の為に持っていたものはずっと身に着けていた。

「あ、ありがとうございます。どこやったんだろうって考えてたんです。」

そう言ってスニーカーと財布と鍵は手にしたものの服はない。クラウスに買ってもらった物だからなぁ

「あの、着てた服は…?」

ソフィアは「ふぅー」っと息を吐くと

「悪いけどギルドで処分させてもらったわ。理由も話す?」

聞かない方が良いというのはわかった。
宿に戻ればまだ俺の服ともらったのが一組あるけどでも靴と財布じゃ帰れない。

「な、の、で」

ソフィアがもったいぶって箱の蓋を開ける。

「ジャーン!ギルドからお詫びも兼ねてトウヤの可愛さをぐっと引き立たせる服をご用意しました!」

……………ん?

「あの、僕がギルドの方々に助けて頂いてご迷惑をおかけしたのだからそれはおかしいです。僕の方こそ皆さんにお詫びをしなくてはいけないのに。」

俺がマートやクラウスやジルベルト達やギルドの人達にお礼をしなくちゃ。

「違うわ、今回の件はアイツの素行に関する情報が入っていたのに防げなかったギルドに非があるわ。それにマートやクラウス達には緊急依頼として依頼料もポトレから罰金をガッポリ払わせた中からちゃんと出るからダイジョーブよ。だから受け取って。」

ソフィアがお詫びにとくれた服はジャケットの丈が長めの青みがかったグレーのスリーピースのスーツと白いシャツにリボンタイにツヤの効いた黒い革靴まで入っていた。
「女性の前ではちょっと」とソフィアに退出をお願いするとなぜかクラウスも出て行った。

「うわ、ぴったりだ」

就職試験は高校の制服だったし就職先は小さな工場の派遣社員だったから入社式もなくてスーツは成人式前に準備する予定だったからまだ持ってなかった。ネクタイじゃないのは残念だけどきちんとした服は背筋も伸びて少し大人になった気がした。

「案外、似合って、格好いい、かも?」

鏡を見ながらちょっとだけ自画自賛してみた。でもなんか着慣れないから照れくさい気もする。ソフィアがダメになった服の代わりに用意してくれたんだからこっちでは割と普通に着たりするのかな?
少し照れくさい中、外で待つ2人を顔だけだして呼び入れた。

「や~んトウヤ、すごくすごくすご~く似合ってるわ。私の見立てに間違いなかったわね。アナタも何か言いなさいよクラウス。」

「…あ、あ。いいんじゃないか?」

大絶賛のソフィアにビミョーな反応のクラウス。どちらが正解?

「だけどきちんとしすぎていて普段着るには勿体無いですよね。あ、もしかしてギルドに行く時に着るようにですか?」

閃いたとばかりにソフィアを見れば横からクラウスに小突かれた。

「懲りないなお前は。自覚したんじゃないのか。また攫われるぞ。」

「だって……じゃあこういうのいつ着るんですか?」

「大丈夫、王都ではきっと着る機会があるわ。行くんでしょう?クラウスと。」

悩む俺にソフィアがそう言ってにんまりした。きっとクラウスが話したんだ。

「はい、僕も18才になるまで孤児院の様な所で育ちましたが一緒に暮らした小さい子達のお世話が大好きでした。本当はそういう仕事に就きたかったのだけど僕のいた所では資格がなくて諦めたんです。だからクラウスさんに教えて貰ってすごく嬉しくて。」

期待に自然と顔が笑ってしまう。

「そうね、トウヤには『育児』のスキルがあるのだもの。きっと子供達のいいお母さんになれるわ。頑張ってね。」

「ハグをしても?」とわざわざ断りを入れてから俺をむぎゅうっと抱きしめてくれてそれからギルドへと去って行った。

「じゃあ俺達も行くか。」

そう告げるクラウスにまたマントを被せられた俺は『とまりぎ』へと向かった。





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