迷子の僕の異世界生活

クローナ

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迷子になりました

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ヤバい。寝坊した。

今日から穀潰しな俺は一層働かないといけないのに!

慌てて着替えをして降りていけばそれ程遅くもなくヘレナがテーブルを拭き終わるくらいだった。

「おはようございます。すみません寝坊しちゃってすぐ顔洗ってきます!」

顔を洗ってエプロンをつけ食堂に戻れば、ヘレナがおはようのハグをしてくれた。
昨日泣きすぎてまだ少し腫れている目の周りを優しく撫でてくれる。

「大丈夫?昨日あれからギルドでいろいろあったんでしょう?いたずらを仕掛けたソフィアちゃんとクラウスはおばさんがちゃんと叱って置くからね。」

とニンマリ笑った。あれ?この口ぶり、もしかしてソフィアよりも強くていらっしゃるのでしょうか。

「じゃあ後はトーヤに任せちゃうわね。朝あの子達をかまってあげられるの初めてなの。」

そう言ってへにゃりとジェリーにそっくりな笑顔で居室に戻って行った。
ヘレナは優しい。それが本当なら少し気が楽になる。

朝食の赤い箱の札を並べながら寝坊の原因のあの人にどんな顔をしたらいいのか考えていたのだけど……

「あれ?」

何度分けても4-2-2だ。1人の札がない。間違えたかと1枚ずつじっくり見直したけどここに来てから毎日見てた札がやっぱりない。

「マートさん、今日クラウスさんの札が入ってないんですけど……」

そう聞くと

「ああ、よく気が付いたな。今朝はもう出ていったぞ。確か隣町に行くとか言ってたな、夜には帰るんじゃないか?」

なんとなく青い箱をのぞいたら確かに1枚、いつものクラウスの札が入っていた。みんな朝食の後に札を入れていくからホントにもう出掛けたんだ。

「ずるい…」

昨日クラウスに抱きしめてもらって心地良い鼓動を覚えて眠る作戦が自分の心臓のうるさい音でちっとも眠れなかった。
しばらく閉めた扉の内側で座り込んでいたけれど寝ようと決意しベッドに潜り込んだらパジャマがクラウスのシャツだった事に気付いてしばらくもだえた上久しぶりにパンいちで眠る事になった。

何が1番問題かっていろいろあった1日が全部吹っ飛んだ挙げ句に、い…嫌じゃなかったとか……

俺はこんなになってんのにクラウスは平気な顔で仕事してるのかな……

「わ~~~~っ」と叫びたい気持ちを押さえテーブルをセッティングを黙々としていたらうっかりカウンターにも作ってしまい慌てて片付けた。

ジルベルト達4人分をいつもの奥の席に、それから2人席を2つ。

珈琲と紅茶をポットに作りカウンターへ。

用意が終わる頃にジルベルト達が調度降りてくる。

「わ~トーヤいるじゃん良かったぁ。ヘレナさんが帰ってきてたからもう辞めちゃったかと思ったよ~今日も可愛いトーヤに会えてうれしい。」

振り向けばロウがいつものハグ、俺はちゅうをブロックするのに自分のほっぺじゃなくロウの顔を押さえてみた。挨拶ができないからだ。

「僕も会えてうれしいですよ。おはようございます、ジルベルトさん、レオンさん、シリルさん。」

ハグされたままみんなに挨拶をする。

「おはようトーヤ。」

「おはよう、昨日はギルドで大変だったみたいだね。」

「うす。」

みんな挨拶を返してくれてうれしい、でも

「みなさん昨日の事知ってるんですか?」

そういえばヘレナも知っていた。

「昨日の帰りにギルドに寄ったらチェイスが磔になってたからなぁ。」

マジですかジルベルト。

「貼り紙付で『とまりぎ』の子にちょっかい出した罪により、って。」

そんな貼り紙まで!?

「お前もそのうち磔にされるぞロウ。」

シリルの言葉にロウが慌てて手を離す。

「でもそのチェイスに食べられそうになった可愛い子をクラウスさんが攫ってったって話しでギルドがざわついてたんだよ~俺が先に目をつけてたのに可愛いトーヤくんはもうクラウスさんに食べられちゃったのかなぁ?」

そう言ってロウが口を尖らせてすねた顔をする。

「た…食べられてなんかいません!助けてもらっただけです!」

キスはされたけど……

「なにコレ、食べられてはないけどかじられた感じがする~」

「かじられてもいません!からかわないで下さい!」

精一杯否定したけれど顔が熱くてしばらく手で扇いでいた。


賑やかだった朝食の後片付けをしている時だった。

「あちゃ~こりゃ足りないかもな。」

洗い物の手を止めて振り向くと食材の確認をしていたマートの視線が夕食有りの青い箱と保管棚を往復していた。

「どうかしましたか?」

「ちょっと食材が足りなくなりそうなんだけど昼の営業が終わらないとはっきりしないんだ」

青い箱には珍しく木札が5枚入っていた。

「クラウスさんとジルベルトさん達ですか?」

「お、正解だ。読めるか?」

「いいえ。」

「じゃあ」といいながらマートが木札を並べ出した。

「この1枚の方の札がサクラで4枚の札に書いてあるのはヒノキだ。部屋の名前と同じにしてある」

「サクラ……木の名前ですか?」

こっちにもあるのか。

「うちの客室は全部木の名前がついてんだぜ。なんせ『とまりぎ』だからな。サクラの木は知ってるか?春になるとピンクの花がさいてキレイだぞ。王都にゃサクラの名所も沢山あってそりゃあ……」

「ジルベルトさんたちは2部屋なのに同じ札なんですね。」

聞きたくなくて言葉を被せた。

「あ、ああ。仲間で分ければテーブルセットしやすいからな!ちなみにジルベルト達の部屋はヒノキとクスノキなんだ。それからトーヤの部屋はカエデだ。ドアに書いてあるから後でみてみるといい。」

「ジルベルトさんたちが夜にここでご飯食べるの僕がお世話になって初めてですね。」

俺は桜が嫌いだ。ずっと好きですごく嫌いになった。



お昼の営業の後にやっぱり夕飯分の食材が足りないらしい。

「トーヤ、悪いが休憩の後にビートと買い出し行ってくれるか?」

「わ、行きたいです!」

思わぬところでお金の価値と使い方を学ぶことが出来る機会が出来てうれしい。
なるべく沢山足りないといいなぁ

マートがメモ用紙とペンを持ち出して足りない食材を書き始める。

「マートさん、僕にも紙をもらってもいいですか?」

聞いてみたら快く紙とついでに鉛筆を渡してくれた。

「じゃあまずは肉屋からな?牛肉を3キロと。その次がパン屋な、あるかわらないから夕飯に使えるのを3個たのむ、それから……」

マートは用事のあるお店を遠い順に教えてくれて戻りながら買い物が出来るようにメモに書いていく、それを順に自分でもメモを取って行った。

「トーヤ、それ何してんだ?」

マートが不思議そうに聞く。当然だ。日本語だもんね。

「僕の使える文字ですよ。お肉屋さんで牛肉3キロ、パン屋さんで夕飯用パン3つ、八百屋さんで玉ねぎ5つとトマト4つ。」

「へぇ」

「見比べたらマートさんのメモの文字が覚えられるかと思って……」

マートさんがにっと笑って頭をガシガシ撫でた。


お昼の休憩の時、いつもマートは仮眠を取る。俺は大抵食堂でビートやジェリーと遊んでいて、この2日間は散歩をしてた。
でも、今日は1人。
ヘレナはジェリーとビートを連れてママ友とランチに行っている。来年から学校に通うビートの為に動けるうちに情報交換に行ってくるって洗濯を干したら出掛けて行った。おかげでなんの遠慮もせずに忙しく働けた。

「俺もたまにはゆっくりするか」

結局食堂で紅茶をもらい、せっかくなのでメモを取り出しさっき自分で書いたのとマートの書いた文字を写してみた。

「あれ?結局どれが肉屋でどれが牛肉?」

聞きながら書いたから必要なものはあっているけど良くわからなくなってしまった。

メモとにらめっこしてるうちに厨房の裏戸が開いてジェリーとヘレナが帰ってきた。

「にーちゃたあいま!」

勢いよく走ってきて俺にしがみついてきた。可愛いからハグちゅうする。

「ただいまトーヤ。」

「おかえりなさい、あれ?ビートは?」

二人だけ?

「ビートも私のせいで全然友達と遊んでなかったから夕方までしっかり遊んでくるってさ。何かあったかい?」

「マートさんから買い出しを頼まれてて一緒に行こうかと思ってたんですけど……」

「おやそうかい?買う物は分かる?」

「あ、はい。マートさんからメモ貰いました。」

そう言ってマートが書いたメモを見せる。

「じゃあ悪いけどトーヤ1人で行けるかい?」

いつもマートやビートからは迷子になるからと言われるけど新しい道の散歩じゃなくて知ってる道でお遣いだからいいんだ!

「はい、行ってきます!」

ヘレナから買い出しのお金と買い物かごを渡して貰い、メモはちゃんと2枚持った。

俺の中でおつかい番組のテーマ曲が流れ出す。
よ~し!異世界で初めてのおつかいだ!




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