迷子の僕の異世界生活

クローナ

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迷子になりました

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7日目のクラウスとその先の話②
 


朝早くから宿で忙しく働き、夜も仕事の後はシャワーを浴びたらすぐ寝てしまう。

5日間もほとんど宿から出ずに働いていたくらいだから夜に外に出るのも今夜が初めてかも知れない。

夜空を見上げたトウヤは眉をひそめるでもなく口を歪めるでもなくただ一筋涙を零した。

「帰りたいか?」

俺の知らない誰かの所へ。

帰っても1人だからわからないと答えられれば「じゃあずっといればいい」と無責任な返事をしそうになった。

ソフィアが言ったように明日兄と会えば王都に戻る事になるだろう。
そばにいられるわけでもないくせに自分の中にじわりと湧き上がる独占欲に気持ちが追いつかない。

今まで特に必要とせず都合のいい相手と遊ぶ程度でマトモに恋愛などしてこなかったから、不安な色を瞳にのせたまま無理して笑うトウヤを抱きしめたくなるのがソレなのかよくわからないのに「腕の中が嬉しかった」みたいな事をいい微笑まれたら流石にこのまま暗がりに二人っきりは不味いと思い早々に夕飯を食べながら帰ることにした。

夕飯を屋台で食べ歩く事にしたのは店に入れば少なからず冒険者に会うからだ。また怖がらせたくないしせっかくの外歩きをフードを被せるのもかわいそうに思った。
『とまりぎ』に近付くにつれ楽しそうに笑うのにほっとした。

シャワーを先に譲りしばらく待てば扉がノックされ廊下に出たら昼間着てるよりも更に大きい前に与えた俺のシャツを着たトウヤがいた。
寝間着に使うって言ってたけど本当に着てるのか、だからこういう所が無自覚と言うか男を煽ると言うか……俺が試されているのだろうか。

挙げ句に泣いた形跡の残る顔に「今夜は眠れそうか」と聞けば「キスをしようとした詫びに100数える間抱きしめろ」とか。
ブチ切れそうな理性を息をゆっくり吐いて沈めトウヤの躰を抱きしめた。

100までの間にトウヤの長かった今日の1日の驚いた事や怖かった事や淋しい気持ちや不安な気持ちをつらつらと話してうつむいたまま躰を離そうとする。

顔を見せないのは昼間の様にまた捨て猫みたいな顔をしているのだろうか。不安で淋しくて仕方ないのにひとりでなんとか立とうとするその態度に、俺に甘えればいいと思った。

そうだなソフィアの言う通りだ。俺はトウヤが気になって仕方がないよ。泣かないように慰めて甘やかして守りたい。

俺の腕から逃げ出そうとするトウヤを掴まえて小さな赤い唇に重ねるだけのキスをした。

トウヤが俺を突き飛ばして逃げて我にかえる。

「うわ~何だこれ。恥ず…。」

部屋に入った俺は自分の青臭い感情についていけず頭を掻きむしり、のぼせた頭を冷ますため急いで冷たいシャワーを浴びに向かったのは誰にも知られたくない事だ。


*******


今朝は兄との約束の為にトウヤが起きるより早く仕込みをしているマートに行き先を告げて宿を出た。

本当はもう少し遅くても良かったがトウヤと顔を合わせづらかった。

なんせ突き飛ばされたからな。ギルドの連中と同じ認定されてたら正直へこむ。

それにしても早すぎるし腹も減る。ギルド近くのカフェで軽く食べようとのぞけば同じく出勤前に珈琲を飲むソフィアがいた。

「トウヤは大丈夫だった?」

「ああ、めちゃめちゃ泣かれたけどな。」

「そう、でも安心して?チェイスはきっちりお仕置きしておいたから冒険者の中でトウヤに手を出そうとする人間はしばらく出ないんじゃないかしら。」

ぺろりと唇を舐めてウィンクされればあれからチェイスがどんな目にあったか想像がつく。

「ところでえらく早いけどどこか行くの?」

「隣町に兄から呼び出しだ。まぁ夜には戻るさ。」

「あら、じゃあついでにトウヤの事も頼んでみたら?あの変態親父に狙われてるわよ。ヘレナが帰って来たのを聞きつけてトウヤに指名依頼出してきたからお蔵入り依頼に混ぜておいたわ。」

「そうか、───まあ考えておく。」

俺も同じ認識されてるかも知れないけどな。

馬を走らせ昼少し前に着いたのは隣町ナイデルの領主の館だ。

門番に到着を告げ案内されると我が物顔で出迎える兄がいた。

「やあクラウス、半年ぶりだな。失われた皇子の欠片は見つけられたか?」

「いいえ。」

兄のユリウスは俺と同じ金髪に紫色の目を持つ。

「そう簡単にはいかないだろうな。でももう父上との約束の3年が経つ。そろそろ騎士団に戻るようにと言付けを預かってきた。お祖母様もクラウスが冒険者になりあちこち行っているのは自分のせいだと心を痛めておられる。お祖母様の為に始めた事が逆にそう思われてはお前も不本意だろう。」

「お祖母様が……」

お祖母様が支援する孤児院にまつわる愁いを聞いた俺は少しでも祖母孝行になればと気ままな三男坊の立場を利用してこの3年人探しをしながら冒険者をしていた。だけど情報はぼんやりとしかなくそれで人探しなど土台無理な話だった。

「わかりました。なるべく早く戻るとお祖母様に伝えてください。」

「偽りはないな?お前も三男とはいえ侯爵家の人間だ、そろそろきちんとしなさい。」

「……はい。」

話さえ終われば長居は無用だ。兄の友人である館の主の昼食の誘いを丁寧に断り来た道を戻る。

王都に戻るのは決定事項だ。……トウヤは誘えばついてくるだろうか。

仕事の話は兄に勘繰られるのが嫌だったので聞かなかったがお祖母様からは人手が欲しいと以前聞いた事がある。だめでもなんとかなるだろう。


色んな事を考えながら『とまりぎ』についたのは夕食時だった。

昨夜以来顔を会わせる気まずさを考えながら中に入れば、そこにトウヤはいなかった。



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