迷子の僕の異世界生活

クローナ

文字の大きさ
上 下
19 / 333
迷子になりました

19

しおりを挟む



『とまりぎ』で働きだして7日が過ぎだ。


セクハラ事件の次の日。俺はロウのハグチューのチューを阻止することに成功した。

「トーヤおはよう今日も可愛いね……ってあれ?なにしてんの?」

ロウの気配を察知した俺は両手でほっぺたをブロックしたのだ。どうだ!これでできないだろう。

「ハグはいいけどチューはだめです」

「チューは駄目ってなにそれ…可愛すぎるんだけど」

「だから子供扱いしないでください!僕これでも18なんですからね」

「子供扱いって……じゃあその空いてる唇にチューしていい?」

ロウが自分の唇をペロッて舐めて俺をじっと見た。あれ?俺なんか間違えた?

「だからチューは駄目ですってば!」

両手でロウを突き飛ばしてやった。よし勝ったぞ!

あれ以来口とほっぺを手でブロックしてハグだけでやり過ごす。もちろん俺もビートにはハグだけで我慢だ。

仕事もずいぶん手際よくこなせる様になってきた。マートに指示を出される前に動き、ビートに頼ってた分もやれるようになってジェリーに寂しい思いをさせる時間が減ったように思う。

食堂のモップがけやテーブル拭きをビートとジェリーに任せればマートからも様子が見えて安心だからそれ以外のシーツと俺の物を含めたビート達の洗濯もすませ裏庭に干してからシャワー室とトイレを掃除してさらに食堂兼宿屋の入り口の掃き掃除が終わるとそろそろ昼の営業の時間になる。
果実水を準備してマートの仕込みも終わり『営業中』の看板をだす。

お昼の営業もあれ以来セクハラがピタリとなくなりスマイル全開で楽しく働けていた。

店内のお客さんがいなくなりそろそろ店じまいだとマートに言われ看板を下げに表に出た時だった。

「本当に営業してるじゃないの。」

不穏な空気と共に3人連れの女性が訪れた。

3人連れの女性は中へ入ると更に厨房の中までなだれ込んだ。そして……

「なかなか迎えに来ないと思ったら若い女を連れ込んてよろしくやってるってどうゆう事だい?3人目を妊娠させといて堂々浮気だなんて随分偉くなったもんだよ!子供達まで懐柔してあたしを追い出そうってのかい!」

すごい剣幕でまくし立て、あっとゆう間にマートが取り囲まれた上壁に追い詰められている。

話から察するにスバリ!貴女は体調を崩して実家に帰っているはずのヘレナさんですね?残りの方はママ友さんですかね?そしていろいろ情報間違ってます!!

……と心の中で言ってみた。

ジェリーと同じ明るい茶色の髪に緑色の瞳の迫力美人そしてやっぱり高身長。
ハイヒール……は履いてませんね、妊婦さんだもんね。ベタ靴で180センチ超えているなんて羨ましすぎる。

成り行きを見守る俺にマートが必死に目だけで助けを求めてくるけど小さく首を横に振り救助不可のサインを出す。

「噂の女はどこだい?」

矛先が多分俺に向かいそうになった時ようやく救世主が現れた。

「きゃ~~かーちゃいるの~」

満面の笑みを浮かべたジェリーがヘレナまでまっすぐ向かいスカートに抱きついた。

ビートも子どもの顔になって走り寄る。

「どうしたんだよ帰ってきて大丈夫なの?」

ヘレナが振り返り床に膝を落としてふたりをまとめてぎゅうっと抱きしめる。

「久しぶりだねビート元気だった?ジェリーもいい子にしてたかい?」

髪を優しく撫でられて二人共嬉しそうだ。
良かったこれで大丈夫。

ヘレナがジェリーを撫でながら

「可愛い髪にしてもらったね、誰がやったんだい?ん?」

とにっこり笑って問いかけた。はい!俺がやりました!
誤解を解くチャンスかと思いきやヘレナさんの目はまったく笑ってない。

「あのねぇ、これねぇ、にーちゃがしてくれたのぉ。」

事がおさまるまで隠れるべきかと悩んでるうちにジェリーがテレテレしながらと天使の笑顔で答えた。嬉しいけれど今は喜べない。

「へぇ!どろぼう猫はニーチャと言うのかい。」

ヘレナの目が闇を纏った気がした。

「何言ってんだよかーちゃん『ニーチャ』じゃなくてトーヤだよ。店手伝ってくれてんの。」

ありがとうビート俺を守って!

「へぇ……で、そいつはどこにいるんだい?」

誤解が全然とけていない。そしてもう逃げられる気がしない。

「トーヤは僕です。」

仕方なく名乗り出ると今度は俺が取り囲まれた。

俺より10センチ以上背の高い女性に囲まれ上から下まで値踏みするように見られカツアゲされてる気分です。マートさん早く助けて?

「へぇあんたがどろぼう猫の『トーヤちゃん』かい?私の留守に堂々入り込んで好きにやってるそうじゃない。子供やうちの旦那だけじゃなく客や冒険者やパン屋の息子まで誘惑してるそうじゃないか。」

「ええ~~そんなことありませんよぅ」

そもそも僕は女ではありませんしその誤解は俺的にも嫌なんですけど

「いい加減にしろよかーちゃん」

ビートが後から引っ張るが「子供は黙ってらっしゃい」と謎のふたりが阻止する。

「もうばーちゃんもおばちゃんもやめてくれよ!」

お祖母様とおば様でしたか。噂が本当なら嫁の家の一大事。黙ってられませんよね~
ちらりと見えるマートがジェリーを抱き上げ避難させてひたすら謝ってる。これは熱が冷めるまでなんともならないやつみたいだ。

覚悟を決めて聞き流す事にした。事実じゃないから大丈夫。

その時女性陣の壁の上からヒョイと手が伸びて俺の片腕を掴んて引っ張りだされ気が付いたらクラウスが俺を子供みたいに抱き上げていた。

「クラウス、その子と話があるの返してくれるかしら?」

「ダメだ。あんたは誤解してるだろ。」

「誤解なんてしてないわ。この女の噂色々聞いたんだから。」

「だからそもそも女じゃない。」

それを聞いてようやく誤解が解けたかとみんなが思ったけど。ヘレナがマートに向き直り「あんた男もいけたのね!」と叫ぶ。もうどうしたもんだかわからなくなってきた。

すると俺を抱き上げているクラウスから低くうなるような長い溜息が聞こえてきた。

「だからマートのじゃなくて俺のだから。」

ん?今なんと?

「クラウスのだなんてこの人を庇う為にそんな見え透いた嘘ついたって駄目よ。面倒くさくて恋人作らないっていつも言ってんじゃない!ホントならキスの1つでもしてみせなさいよ。」

ええ~!そんな無茶振りやめてください。

「仕方ないトウヤするぞ。」

「嫌です。」

「なに言ってんだたかがキス1つでこの訳わかんないのが終わるんだぞほら」

そう言って空いてる手で俺の頭を押さえて来た。

仕方ないって何だよそれ。だいたいキスは『たかが』ですませられるものじゃない。

慌ててクラウスの肩に両手をついて抵抗するけど力の差がありすぎる。足をジタバタしてもなんの抑止もできなくてクラウスの顔が近付いてくるのを防げず、肩に突っ張った手を外した。

…………………結果俺は、寸での所でクラウスの唇と俺の唇の間に手を滑り込ませる事ができた。

「あにふんあ。」

俺の両手で口を塞がれたクラウスが文句を言ってるけどこれは譲れない。

「こんなくだらない誤解を解くためなんかに僕のファーストキスは使えません!」

必死すぎて大声で叫んんだ声が食堂に響き渡った。

「ファーストキス……?」

つぶやくクラウスに

「なによあなた初心なのね。」

毒気を抜かれたヘレナ。

そして多分ゆでダコの俺。

何コレ。恥ずか死ぬ!




しおりを挟む
感想 228

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

スキルも魔力もないけど異世界転移しました

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
なんとかなれ!!!!!!!!! 入社四日目の新卒である菅原悠斗は通勤途中、車に轢かれそうになる。 死を覚悟したその次の瞬間、目の前には草原が広がっていた。これが俗に言う異世界転移なのだ——そう悟った悠斗は絶望を感じながらも、これから待ち受けるチートやハーレムを期待に掲げ、近くの村へと辿り着く。 そこで知らされたのは、彼には魔力はおろかスキルも全く無い──物語の主人公には程遠い存在ということだった。 「異世界転生……いや、転移って言うんですっけ。よくあるチーレムってやつにはならなかったけど、良い友だちが沢山できたからほんっと恵まれてるんですよ、俺!」 「友人のわりに全員お前に向けてる目おかしくないか?」 チートは無いけどなんやかんや人柄とかで、知り合った異世界人からいい感じに重めの友情とか愛を向けられる主人公の話が書けたらと思っています。冒険よりは、心を繋いでいく話が書きたいです。 「何って……友だちになりたいだけだが?」な受けが好きです。 6/30 一度完結しました。続きが書け次第、番外編として更新していけたらと思います。

神は眷属からの溺愛に気付かない

グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】 「聖女様が降臨されたぞ!!」  から始まる異世界生活。  夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。  ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。  彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。    そして、必死に生き残って3年。  人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。  今更ながら、人肌が恋しくなってきた。  よし!眷属を作ろう!!    この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。    神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。  ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。    のんびりとした物語です。    現在二章更新中。 現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

処理中です...