迷子の僕の異世界生活

クローナ

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迷子になりました

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マートは俺の脇の下に手を入れるとひょいと猫みたいに持ち上げてカウンターの椅子に座らせると頭をガシガシ撫でてくれた。

そのままビートと俺が落したお皿を拾ったり騒がせたお客さん達に謝ったりしている姿を見て自分が情けなくなってきた。

仕事に戻ろうと思っても「いいから」とビートに押さえられてジェリーを連れてきて俺の膝に乗せた。
結局誰もお客さんがいなくなるまでカウンターでジェリーに癒やされながら座っているだけだった。

お昼ごはんをカウンターに並べてもらってマートとビートも座ったのでジェリーも膝から降ろしようやく口を開いた。

「迷惑かけてごめんなさい」

ご飯に手をつけない俺にマートが黙ってホットミルクを出してくれた。

「あの人を殴らせてごめんなさい。お客さんに謝らせてごめんなさい。僕がもっと……」

「トーヤ!」

受け取りもせずまくしたてるのをマートが強い声で止めた。

「嫌な思いさせて悪かった。うちに来る客の中にああいったのがいると思ってなかった俺が悪い。トーヤは謝らなくていい。」

顔を上げるとすまなそうな顔をしたマートがいた。

「ビートが言ってたけど今までもあったのか?」

ビートが言えよと小突いてくる。

「お尻を触られたり手を軽く握られたのは何度かありました。でも今日は上手くかわせてたんです。でもあの人は妙にしつこくて……」

「……こう……膝から足を……」

自分の手で記憶をたどって足を触り身震いした。ゴシゴシさすって思い出してしまった感触を上書きする。

「なんで黙ってた?」

「最初はスキンシップかと思ってたんです。だから過剰に反応してお客さんに嫌な思いさせたらいけないと思って……」

「トーヤのいた所はそれをスキンシップと言うのか?」

「ちょっと今日のは違うと思います。僕のいた所では許可なく他人に触ったら捕まって罰を受けます。」

「ここも同じだ。これからは何かされたらちゃんと言え。いいな?ああいう奴はうちの客とは認めないからどんどん追い出すから大丈夫だ。
うちには嫁と子供達がいるから元々宿泊客も問題起こしそうな奴は受け入れないようにしてるから。」

な?と今度は優しくゆっくりとあやす様に頭を撫でてくれた。

「ほらほら飯はちゃんと食べろよ。だいたいトーヤは細すぎるからいかん。」

促されスプーンを手にとりようやくスープを口に入れた。安心したのか急にお腹が空いてきて結局いつもより多く食べられた。

あんな事があったので今日は大人しく全部屋の窓拭きでもしようと思ったら「尚更行ってこい」とマートが勧めてくれた。



さて!ではでは気を取り直して今から異世界探検始めます!
ジェリーを真ん中に挟んで手をつないでスタンバイOKですよビートさん!

「トーヤどこ行きたい?」

そう聞かれても橋とギルドしか知らないから近所を散歩で充分だ。

でもどうせならもう一度ギルドに行くまでの道のりをきちんと把握したいと思ったら快諾をもらった。
だって前に行った時はクラウスの背中を見てる方が多かったからね。

ギルドは街の中心にあってそこへ向かう道には商店が沢山あった。服屋とか八百屋さんやおしゃれなオープンカフェみたいな所。

「あそこのパン屋がうちに配達に来てくれるとこだぜ。」

ビートが指をさした方をみればパンの絵の看板がかかったお店があり近付けばやっぱり美味しい香りがしてきた。
すると中から黄緑色のふわふわ頭の人が出てきて看板をかけ直している。初めて知ってる人に遭遇してうれしくなり声をかけてみた。

「こんにちはアレクさん……?あれ?」

振り向いた人はアレクによく似ているけどもっと年上の人だった。

「やあこんにちわ。俺はアレクの父親だけど君は誰だい?」

「すみません間違えてしまって。」

慌てて謝ると隣に並ぶふたりをみてパン屋さんはニコリと笑った。

「やあビートにジェリー。二人が一緒にいるならこの子がトーヤかい?」

「そうだよ。なんだおじさん知ってるのかよ。」

「だってうちのアレクがトーヤに会いたいからってあんなに嫌がってた配達を早起きして身だしなみ整えてから行くんだ。嫁さんとどんなに可愛い子なのかと噂してたんだよ。見に行きたくても配達譲ってくれないしね。」

とウィンクされた。

「こんにちは。いつも美味しいパンの配達ありがとうございます。マートさんの所でお世話になってる冬夜といいます。でもアレクさんが僕に会いたいなんて意外です。いつも配達したらすぐ帰ってしまうので。」

嫌われてるかと思い始めてたくらいだ

「確かに可愛いね。アレクが帰ってきたらトーヤと話したと自慢してやろう。しかしなんで『アレクさん』なんだ?トーヤはいったいいくつなんだい?」

「へ?」

「トーヤは18、トーヤ、アレクは15だぜ。今いないのは学校いってるからだ」

「ええ~~?」

ビートのしたり顔の暴露に驚く。まさかの年下!確かに背は高かったけど仕草は子供っぽかったかも。ついでに言えばアレクのお父さんも驚いてる。働いているのなら成人しているとは思っていてくれたようだけど3つも年上には見えないみたいだ。

「じゃあおじさん、アレクによろしくな~」

ビートがパン屋さんにひらひらと手を振りジェリーの手を引いてそれにつながる俺をひっぱったので会釈して別れた。

「くひひっ、やっぱり誤解してたな。」

ビートがニヤニヤして笑うのに「な~~」とジェリーも笑う。ずるい可愛くて怒れないじゃん!

「学校はビートも行くの?」

この世界の学習事情は文字の知識を手に入れるのに必要な事だ。

「俺も来年から行くよ。ほらあそこギルドの奥に時計のついた塔があるだろ?」

いつの間にかすぐ先にギルドが見えた。
そのだいぶ向こうの奥に白い木造の建物が垣間見えた。

「8歳になる年に行くんだ。読み書きや計算や国の歴史とかの勉強と魔法や剣術や体術なんかのスキルを覚えるために16才まで通うんだぜ。たま~~に魔法やスキルがすごいやつは王都の学校に推薦されて行くんだよ。」

「へ~それはすごいね。」

この世界の成人は16才。成人していないと働けないとか、それまで学校で学習するとかこの世界の教育が割合日本並みにきちんとしていて驚いた。
しかし15才のアレクより小さいからみんなが俺の事子供と思うのか。それなら年齢を疑われるのは諦めるべきか、いやいやもしかしたら……

「アレクって特別背が高い?」

俺の気持ちを察したのかニヤリと笑って

「ふつう」

と答えた。ささやかな俺の希望があっさり砕けた。

話しているうちにギルドの前まで来たのでここでUターンだ。

「ジェリーまだ大丈夫?」

と聞けばにっこりうなずくのでそのまま手をつないで歩いて帰った。
そのうち学校も覗いてみたいな。

再び通ったのパン屋の前でぐずりだしたジェリーを抱っこして『とまりぎ』に帰る頃には昼間の嫌な事はすっかり薄らいでいた。





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