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迷子になりました
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しおりを挟む1日目のクラウスの話②
扉を開いた途端、宿屋の中から耳を劈く音が聞こえてきた。
おもわず両手で耳を塞ぐ。
マートがトーヤを探すのでマントを着せたままなのに気がついて脱ぐように言えば丁寧に畳んで返してきた。
そして父親が手に負えない泣きじゃくる子供をあっという間に落ち着かせ、一本の紐で器用に背負うとさっさと仕事を始めてしまった。
小さくて何もできなさそうだと見た目で判断した自分を反省した。
「いいのかあれ、正装用のだろ?」
「ああ、あんまり使わないしな。」
トーヤに貸したのは騎士服の中でも正装した時に使う物だ。しばらく使う予定もないが鞄に余裕があるので大抵の物は入れっぱなしだけどあれは単に鞄から出し忘れていたやつだ。
思い浮かべながら鞄を探ったら出てきたから自分でも驚いた。
「あ~~これで仕事が再開できる」
とマートは腕まくりをして厨房の仕事を再開した。
「ギルドまでトーヤを連れてってもらって悪かったな。なにかわかったか?」
果実水を出してくれたのを受け取りながらカウンターに腰掛ける。
「なんにもだ。18歳なのは本当だったけどな」
「それはうちとしてはありがたい話だな。訳ありの線はどうだ?」
「それもさっぱり。でもなんか気になる事があるみたいでアイツに内密でソフィアに呼び出されたから明日依頼前に話して来る。」
「そうかすまんな」
「まあいいさ。」
何者か少し興味が湧いている。
「ウチの仕事が終わるくらいに次の仕事探したいだろうからちょっと気にしてやってくれるか?まあヘレナの体調次第のとこだけどトーヤには10日ぐらいだといってあるから。」
「あ~~。………ギルドにひとりで行かせるなよ?」
「わかってるさ」
マートも苦笑いだ。一人で行かせたら例外なくトラブルに巻き込まれるだろう。
二人で話しているとシーツを取りこんだトーヤ達が戻ってきてこれまた丁寧に帯を畳んで返してきた。
細い色白の小さな手からそれを受け取ると再び鞄に放り込む。
そのまま立ち上がって部屋に戻ろうとしたけれどギルドに行ってる間にシーツを剥がされたそうなので終わるまで待つ事にした。
すると思い出した様にマートが時間あるかと聞いてきた。
「次はなんだよ」
「トーヤ今身に着けてるもの以外何1つないって言うから動きやすい服をふた揃えぐらい用意してやって欲しいんだが……」
トーヤの新たな情報に目眩がした。
改めて話を聞くと昼過ぎに買い出しに出たビートが橋の所でしゃがみ込んで腹を空かしていた着の身着のままの迷子のトーヤを拾ってきたらしい。
「よくそんなの雇う気になったな。あんたの懐の深さには時々驚かされるよ」
マートはふふん、と得意気な顔をすると
「子供達が一瞬で懐いたからな。それに腹減ってるのに料理を目の前に出されて『金が無いから』と言い出すくらいだ。悪いやつじゃないさ。
ビートも『拾ってきたら最後まで面倒見ろってとーちゃんも言うだろ』だとさ。これで放り出したら男が廃るってもんよ」
「お前もな」とニヤリと笑って付け加えた。いつの間にか『拾った仲間』に入れられたらしい。
再び宿屋を出て馴染みの店に服を買いに行けば自分のサイズでないものを求める俺に恋人でも出来たのかとあれこれ詮索してきて面倒くさくなり『マート頼まれたから』だと一点張りで済ませた。
夕飯を宿で摂るのは俺一人だったから『一緒でいいか?』と言われ構わないと返事をした。
トーヤの食事のマナーは貴族程ではないが丁寧で、後片付けをする時はかなり手慣れている。加えて子供達の扱いは至極丁寧で、俺の中には『奉公先の貴族邸から逃げ出した説』が固まりつつあった。
トーヤがシャワーを浴びる時に丁度フロアに誰も居なくなる事になったのでなんとなく見張りの為に食堂に残った。
ここなら外からの出入口とシャワー室へ向かうのがわかるから念の為だ。
自分自身によくわからない言い訳をしているとすぐに黒髪をしっとり濡らしたトーヤが出てきた。温まった身体が蒸気して白い肌がほんのり色付いている。
「先にシャワー使わせて頂いてすみません。それじゃあおやすみなさい。」
と小さな頭をペコリと下げて部屋へ向かって行った。
俺が用意した服はシャツが大きくて首元が結構開いてしまっていたし袖も長くて何度か折返していた。
ズボンに至ってはウェストを「このくらい」と手で輪っかを作って見せたので良さげだがその代わり丈が短かったみたいだ。
そのうちトーヤを連れて服を買いに行こうと思った。
珍しくお節介な自分に見掛けで判断した罪滅ぼしと拾った責任だからだとまたもや言い訳をして俺も部屋へ向かった。
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