11 / 333
迷子になりました
11
しおりを挟む1日目のクラウスの話①
クラウスは昨夜遅くに宿屋に戻ったため、今日は休みと決めて昼近くにゆっくり起きて下の食堂に食事をとりに行った。
ここに落ち着いて随分経つが今日はやけに慌ただしい。
聞けばいつも宿屋と食堂を上手く回しているヘレナが体調を崩して実家に帰ったと言う。
長居しては邪魔だろうと自分の使った食器を流しに持っていき、さっさと部屋に戻って二度寝をする事に決めた。
扉を叩く音で目が覚める。昨日までの疲れが随分溜まっていたみたいだ。
扉を開けると宿屋の息子のビートからマートが呼んでると言うのでそのまま出た。
「またそんな格好で!」
部屋の椅子にかけてあった俺のシャツをとりにビートが部屋に入る。
行動がヘレナにそっくりだ
それにかまわず下へ降りれば見慣れない奴と目が合った。
この辺りでは珍しい黒髪。色白の小さな造りの顔にはひときわ大きな黒い瞳があって小さな赤い唇をぽかんとあけてこちらをじっと見ている。
一瞬女かと思ったがマートの口振りに男だと確信する。だけどもだ。
「登録は成人からだ。知ってるだろう。」
どう見たって子供だ。背も低いが体だってかなり細い。そもそもこんな小綺麗なやつがなんでこんなとこにいるんだ。
それでもマートが「18だから大丈夫」と言う。
これで18?女でもかなり低いほうじゃないか?
近付いてみてもやっぱり小さくて驚く。
ギルドの登録には水晶でステータスを確認するから嘘はつけない。
「登録時に嘘はバレるぞ?」
と目の前の子供に尋ねたら大きな黒い瞳をさらに大きくしたあと、ギルドの受付がするような不快ではない作り笑いを浮かべ自己紹介をしてきた。
一瞬で大人の雰囲気をまとった目の前の子供に目が釘付けになる。
見つめ過ぎて黒い瞳が揺らぐのに気づき慌てて目を逸した。
マートはヘレナのいない分をこの子供に働いてもらうという。仕方ないので言われた通りギルドへ連れて行く為に1度部屋へ戻って上着と鞄を身に着けた。
……それにしてもあんなのギルド登録させて大丈夫なんだろうか。
どこかの貴族の令息だろうか。身なりもいいし言葉遣いも丁寧でこれまで働いた事なんてなさそうだ。
……まあギルドの水晶でわかるから駄目ならだめで俺には関係ないか。その時はマートの依頼を別の奴にやらせればいい。
そんな事を考えながら下に降りればさっきの子供………トーヤが変わらない格好で待っていた。
「僕これしか持ってません。……だめでしょうか。」
どこか変なのかと困惑してる。確かにおかしくはない、おかしくはないがなんと言うか華奢な手足がやけに庇護欲をそそりこれでギルドに行ったら悪目立ちしそうだ。
鞄の中から認識阻害のマントを出してトーヤに着せるとフードを目深に被せた。
これでよし。
ここからギルドまでは少し歩けばすぐだし一本道だ。
あっという間にギルドについてトーヤを振り返れば白い肌を蒸気させて息をあげていた。歩いている間考え事をしていたので小さなトーヤが走ってついて来てたことにここまで気づいてなかった。
単独行動が長すぎて配慮に欠けた自分を反省しつつギルドの扉を開ける。
本来ギルドを利用するのは単発の依頼を受けるいわゆる冒険者が多い。
マートの様な店の仕事は依頼書の提出だけで終わるので冒険者家業をしている奴以外は登録時にギルドに来るだけだ。
中に入るとすぐに顔馴染みの奴に声を掛けられた。俺と同じAランク冒険者のチェイスだ。
すでに仕事あがりらしく片手に酒の入ったグラスを持って俺の肩に手を掛けてくる。
こいつは冒険者としては優秀で名が売れているがそれ以上に男女かまわず手が早いので名が知られている男だ。一応最低限の常識は備えているらしいが成人相手にはあまり関係ないらしい。
大丈夫トーヤには気付いてない。
マントを被せといて良かったと何故かさっきの小さく息を吐いて呼吸を整えていたトーヤを思い浮かべた自分に少し戸惑った。
ギルドの登録時に何かわかるかと期待したけどトーヤに対しての謎は深まるばかりだった。
わかったのは年齢が申告通りだということだけだ。
家名もあるらしいが必要ないと言うし文字も読めないみたいだ。
ナイフもろくに扱えないでこんなひょろいのが18になるまでどこでどうやったら生き残れるんだ。
……どこぞの貴族にでも囲われてたとか?
とにかく登録できるならこんな所からさっさと連れて戻るだけだ。
受付嬢のソフィアを急かしてマートの仕事も受理させた。
そのソフィアに「明日ちょっと顔出しなさいよ!」と腕を引っ張られ小声で伝えて来た。
トーヤには内密のようだ。
「なんで俺が来なきゃいけないんだ」
「あんたが連れてきたんでしょ!」
と掴んだ腕をギュッと掴まれた。さすが冒険者上がり、地味に痛い。
渋々了解するとトーヤに再びフードをかぶせて宿屋へ戻る。
しばらく歩いてから行きでの事を思い出し立ち止まるど背中にポスンとトーヤがぶつかってきた。
すでに息が上がっていてやっぱり速かったかとゆっくり歩いてみる。
それでもまだ速いみたいだけど俺もこれ以上はゆっくり歩けないから仕方ないだろう。
トーヤの息が整う頃宿屋に着いた。
199
お気に入りに追加
6,403
あなたにおすすめの小説
キスから始まる主従契約
毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。
ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。
しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。
◯
それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。
(全48話・毎日12時に更新)
結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる