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迷子になりました
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しおりを挟む「ごちそうさまでした」
満たさた。満たされすぎてお腹がパンパンで苦しい……
「腹ふくれたか?」
少し店内が落ち着いて彼が隣に腰掛けた。
「ごちそうさま、すごく美味しかったよ。ほら見て?」
膨らんだお腹をさすって見せると彼女に良く似た顔で満足げに笑う。
「助けてくれてありがとう。今更だけど名前教えてもらってもいいかな?僕の名前は『冬夜』と言います。
」
「俺はビートだ」
「改めてありがとうビート。君のおかけでお腹いっぱいになりました。」
「そうかよ」
ビートは鼻の下を人差し指でこすりながら照れ臭そうに目を逸した。
「彼女も紹介してもらえますか?」
「そいつは俺の妹のジェリーだ」
「ジェリーもありがとう」
隣に座るジェリーに向き直りお礼を言うとにへっと笑ってから俺に向けて両手を差し出した。
そっと下から握るとそのまま俺の手を支えにして椅子の上に立ち上がり俺の膝に乗ってきてすっぽりおさまる。……なにこれ可愛すぎる。
俺の育った養護施設の隣には同じく俺の育った乳児院があり、人手の足らないときはよくチビたちの面倒をみていたから子供の扱いにはわりと慣れている方だと思う。
けれどジェリーは今日出会ったばかりで両親(多分父親はさっきの料理人)すら知らない女の子だ。
俺の持ち合わせている常識では……うん、通報されちゃうね。
そんな事を考えながら恐る恐る視線を上げると料理人が口を開いた。
「すまんなにいちゃん、俺はそいつらの父親でマートって言うんだが昨日嫁が倒れちまって実家に帰っちまってなぁ。突然だったから朝からずっと構ってやれなかったんだ。」
腕の中のジェリーを見てみればもぞもぞと体の向きをかえて俺の胸に顔を埋めるようにして落ち着いたので背中をトントンと叩いてやれば寝息を立て始める。お昼寝の時間なのかな?
「僕は『冬夜』といいます。ご飯ごちそうさまでした。すごく美味しかったです。それで奥様は大事ないですか?」
自己紹介も兼ねてお礼を言った。
「なに、3人目が腹にいるんだが宿屋と食堂の仕事で少し無理しちまってな。あいつは『大丈夫』って言ったんだが俺がむりやり帰したのさ」
と照れながらこたえてくれた。
「いい旦那さんですね。ビートにも助けてもらいましたし、ジェリーも大人しく出来ておりこうさんで素敵なご家族ですね」
「これくらい大したことないさ困った時はお互い様ってな。ビートも買い出しありがとな、お前も今のうちに昼飯食え」
と、さっき俺が食べたのと同じものが同じ量で出て来た。
ビートはそれをあっとゆう間に平らげる……マジですか。
そうするうちに客は帰り店を一旦閉めるらしい。
俺はビートに促されすっかり寝入ったジェリーをこじんまりとした家族の住まう部屋のベットに寝かせた。
店に戻ってテーブルをビートと一緒に片付けて、マートと一緒に洗い物も終わらせるとほんのりと果物の味のついたお水を出してもらった
「ありがとうございます」
マートも飲み物を手に厨房から移動すると俺とビートを改めてテーブル席の方へ誘い向かい側に座った。
「さてと」と呟きながらビートと同じ紺色の瞳で俺を下から上までなであげると口を開いた
「トーヤだったか?そのナリで金もなくて腹も減らしてお前は何者だ?」
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