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第二章 アルメリアでの私の日々
明かす秘密
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今回の事件で夏休みの半分ほどが消えてしまったが、その後は充実した休暇を送らせていただいた。
学校が開始する時にはマーガレット王女とジェラルド様のわだかまりも解消し、特に変わったのはジェラルド様だった。
今回の件は双方に言葉足らずな部分もあったが、マーガレット王女を追い詰めた原因のほとんどは自分の責任だと猛反省し、今後は誤解を招くような言葉回しを辞め、陰口を叩く者を見かけたら全力で彼女のことを擁護するようにするとのこと。
そうして新学期が開始するとあまりの変わりように同級生たちが二度見するほどマーガレット王女にベッタリだった。
ただ、マーガレット王女の方は照れているのかジェラルド様のことを突き放そうとするのだが、何せ最愛の人の死を覚悟した彼のことだ。そんなことではめげない。
曰く、「遠回しに守って誤解されるくらいなら四六時中一緒に過ごす。嫌だと言われても離れない。自分がそばにいることが何よりの牽制になる」とのこと。
とはいえ、マーガレット王女もマーガレット王女で以前のような棘はなく、結局はされるがままに受け入れているのでこのふたりの今後は安泰だろう。
ああ! それと変わったことと言えば、シェリル様が自主退学したようだ。理由は知らない。だが、アレクシス殿下とギルバート殿下が揃って含みのある笑みをしていたので、多分そっち系で何かやらかしたのだと思う。
ジェラルド様に至っては話を振っても、「そんな人居たっけ?」と幼なじみであるはずなのに完全に無視を決め込んでいるので相当なことをしでかしたみたいだ。
とまあ、こんな感じで留学生活一年目はこれ以外に特筆すべきことはない。
二年目、アルメリア魔法学校では最終学年となる四年生も友人となったマーガレット王女に対する友人愛?が重いエリザベス様やヴェロニカ様と遊びに出かけたり、時には試験で助けてもらったり、学生生活を満喫させてもらった。
そうして無事卒業式を終え、アルメリアで交流を深めた友人たちへお別れの挨拶をして回り、二年間で沢山増えた思い出と荷物を眺めながら寮の部屋を整理し、残すところ帰国のみとなった。
ソルリアに帰国する直前、二泊ほどアルメリアの王宮に滞在させてもらい、アレクシス殿下やマーガレット王女はもちろんのこと、何とアルメリア国王夫妻からも勿体ないくらいのおもてなしを受けた。
国王夫妻はマーガレット王女の一件からそれはもう手厚くもてなしてくれる。私の特殊魔法については教えていないのだが、マーガレット王女を治したのは私だとだけ伝えたからだ。
中でもローズマリー王妃はマーガレット王女が目を覚ましてすぐ、私の手を握ってぽろぽろ涙を流しながら何度もありがとうと感謝の言葉を述べてくださり、その後からことある事に王宮の食事会に招待してくださった。
何度もお会いするうちに打ち解け、今や完全に第二の母のような存在だ。私がギルバート殿下の婚約者ではなかったらアレクシス殿下の婚約者に迎えたかったと恐れ多い発言も頂いたが、さすがに冗談だと思いたい。
そしてアルメリアに滞在する最後の夜。女子会と称して夜更けまでお喋りをしようと、クッションを膝においてマーガレット王女と向き合っていた。
私は前々から決めていた話題について口を開く。
「アルメリアを離れる前にマーレに明かしておきたい秘密があって、長い話になってしまうのですが聞いていただけますか」
「大歓迎よ。長くなるならマリエラ辺りにお茶でも持ってこさせようかしら」
チリンとベルを鳴らして呼び出したマリエラに温かい紅茶を淹れてくるよう告げ、マーガレット王女は私に向き直る。
「以前、ずっと味方でいてくださいとお願いしたことを覚えていますか」
「ええ、当たり前のことをなぜかしこまって言ってくるのか謎すぎた約束ね」
「謎……。あの時は言えなかったのですが結構大きな理由がありまして、実はですね私、人生二度目なんです」
さらりと告白すると目の前のマーガレット王女はしばしの間固まった。
「…………えっ!?」
「一度目の人生では濡れ衣から婚約破棄されて牢屋に入れられた後に呆気なく死にま────」
「ちょ、ちょ、ちょーっと待って!」
ちょっと詰め込みすぎたのか大慌てでマーガレット王女は私の話を遮った。
「すみません。長くなるので一旦最後まで簡潔にお伝えしようかと思ったのですが端折りすぎましたかね」
「いや、そうではないのよ。ただあまりにも現実離れした話が出てきたから」
「信じられませんか? でしたら魔法で確認していただきたく。最初からそのつもりでしたので」
「いいえ、信じるわ。視る必要もない。だってターシャが話してくれたことだもの」
マーガレット王女が居住まいを正したところでマリエラがワゴンを運んできた。その上には紅茶以外にも温かな焼き菓子が乗せられている。
「夜は長いですから小腹も空くことでしょう。どうぞお召し上がりください。マーガレット王女様の夜更かしも、今宵は目を瞑りますよ」
それではと頭を下げたマリエラはすぐに退出し、女子会もとい、ほぼほぼ私の秘密の打ち明けが続く。
「どこからお話ししましょうか……先程のように簡潔にお伝えすると、私、一度目の生では濡れ衣でとある事件の犯人とされた結果、婚約破棄を告げられて、獄中死するのです」
「…………それは、あの王太子殿下から婚約破棄を告げられるということかしら」
「そういうことです」
「うそ……でしょう?」
マーガレット王女はギルバート殿下と対面した際の印象とかけ離れた行動に絶句している。
「残念ながら記憶が正しければ事実なのです」
「どう、して…………ううんそれよりもそんな重い記憶を話すのはとてつもなく辛いでしょう」
「だから今までお伝えするか悩みました。このことはマーレ以外の誰にも話したことがなかったですし、そもそも信じてくれるかも分かりませんし」
荒唐無稽な出来事なのだ。笑って作り話だろうと受け流される可能性だってあったし、不確実な未来ゆえ、本当に同じことが起こるのか確証はない。
「夢……の線はありえないわよね」
「もちろん、私もタチの悪い夢ならばいいのにと思いました。でもそうじゃないんです」
夢にしては鮮明ではっきりと覚えていることが、そんな生易しいことでは無いのだと教えてくる。
「本当にあった出来事で、私自身が経験しているらしく、思い出した当初は私も戸惑いました」
「戸惑わない方がおかしいわ。それでそんな大切な秘密を私に打ち明けることに決めたのは何故かしら」
「味方でいてくださいと理由も明かさず約束だけを取り付けたのは不誠実だとずっと引っかかっていたのと、やっぱり誰かに知って欲しくて。共有してくれる人が欲しかったんです」
一人で抱えて過ごすには秘密が大きすぎる。かと言って家族には話せない。一度目の生で関わった相手に記憶について話すことは、十中八九今後に強く作用するだろう。そうなると良くも悪くも未来に影響を与えすぎる。
(でもマーガレット王女は二度目の生で仲良くなった大切な友人。二年間共に過ごしてこの方なら明かしても大丈夫だと確信を持てた)
そのため、このタイミングで明かすことを決めたのだ。
「全てお話ししたくて……聞いていただけますか」
「うん、全部聞くわ。スッキリするまでとことん話して。私、朝まで付き合うから」
すると彼女はぎゅうっと私を抱きしめてくれた。
「今度は私が貴女の役に立ちたいの。私の大切で初めての友人のお願いだから」
マーガレット王女は本当にたどたどしい私の説明に最後まで付き合ってくださった。話している途中、どんどん辛かった記憶が鮮明になっていって涙が溢れてしまい、ジェラルド様との拗れた関係性に重なるところがあったのかマーガレット王女もわんわん泣き出し、二人してひしと抱きしめ合いながら涙する夜半を過ごした。
やがて泣き疲れた私達はいつの間にか眠ってしまい、マリエラとルーナの揺すり起こしで目を覚ますのだった。
学校が開始する時にはマーガレット王女とジェラルド様のわだかまりも解消し、特に変わったのはジェラルド様だった。
今回の件は双方に言葉足らずな部分もあったが、マーガレット王女を追い詰めた原因のほとんどは自分の責任だと猛反省し、今後は誤解を招くような言葉回しを辞め、陰口を叩く者を見かけたら全力で彼女のことを擁護するようにするとのこと。
そうして新学期が開始するとあまりの変わりように同級生たちが二度見するほどマーガレット王女にベッタリだった。
ただ、マーガレット王女の方は照れているのかジェラルド様のことを突き放そうとするのだが、何せ最愛の人の死を覚悟した彼のことだ。そんなことではめげない。
曰く、「遠回しに守って誤解されるくらいなら四六時中一緒に過ごす。嫌だと言われても離れない。自分がそばにいることが何よりの牽制になる」とのこと。
とはいえ、マーガレット王女もマーガレット王女で以前のような棘はなく、結局はされるがままに受け入れているのでこのふたりの今後は安泰だろう。
ああ! それと変わったことと言えば、シェリル様が自主退学したようだ。理由は知らない。だが、アレクシス殿下とギルバート殿下が揃って含みのある笑みをしていたので、多分そっち系で何かやらかしたのだと思う。
ジェラルド様に至っては話を振っても、「そんな人居たっけ?」と幼なじみであるはずなのに完全に無視を決め込んでいるので相当なことをしでかしたみたいだ。
とまあ、こんな感じで留学生活一年目はこれ以外に特筆すべきことはない。
二年目、アルメリア魔法学校では最終学年となる四年生も友人となったマーガレット王女に対する友人愛?が重いエリザベス様やヴェロニカ様と遊びに出かけたり、時には試験で助けてもらったり、学生生活を満喫させてもらった。
そうして無事卒業式を終え、アルメリアで交流を深めた友人たちへお別れの挨拶をして回り、二年間で沢山増えた思い出と荷物を眺めながら寮の部屋を整理し、残すところ帰国のみとなった。
ソルリアに帰国する直前、二泊ほどアルメリアの王宮に滞在させてもらい、アレクシス殿下やマーガレット王女はもちろんのこと、何とアルメリア国王夫妻からも勿体ないくらいのおもてなしを受けた。
国王夫妻はマーガレット王女の一件からそれはもう手厚くもてなしてくれる。私の特殊魔法については教えていないのだが、マーガレット王女を治したのは私だとだけ伝えたからだ。
中でもローズマリー王妃はマーガレット王女が目を覚ましてすぐ、私の手を握ってぽろぽろ涙を流しながら何度もありがとうと感謝の言葉を述べてくださり、その後からことある事に王宮の食事会に招待してくださった。
何度もお会いするうちに打ち解け、今や完全に第二の母のような存在だ。私がギルバート殿下の婚約者ではなかったらアレクシス殿下の婚約者に迎えたかったと恐れ多い発言も頂いたが、さすがに冗談だと思いたい。
そしてアルメリアに滞在する最後の夜。女子会と称して夜更けまでお喋りをしようと、クッションを膝においてマーガレット王女と向き合っていた。
私は前々から決めていた話題について口を開く。
「アルメリアを離れる前にマーレに明かしておきたい秘密があって、長い話になってしまうのですが聞いていただけますか」
「大歓迎よ。長くなるならマリエラ辺りにお茶でも持ってこさせようかしら」
チリンとベルを鳴らして呼び出したマリエラに温かい紅茶を淹れてくるよう告げ、マーガレット王女は私に向き直る。
「以前、ずっと味方でいてくださいとお願いしたことを覚えていますか」
「ええ、当たり前のことをなぜかしこまって言ってくるのか謎すぎた約束ね」
「謎……。あの時は言えなかったのですが結構大きな理由がありまして、実はですね私、人生二度目なんです」
さらりと告白すると目の前のマーガレット王女はしばしの間固まった。
「…………えっ!?」
「一度目の人生では濡れ衣から婚約破棄されて牢屋に入れられた後に呆気なく死にま────」
「ちょ、ちょ、ちょーっと待って!」
ちょっと詰め込みすぎたのか大慌てでマーガレット王女は私の話を遮った。
「すみません。長くなるので一旦最後まで簡潔にお伝えしようかと思ったのですが端折りすぎましたかね」
「いや、そうではないのよ。ただあまりにも現実離れした話が出てきたから」
「信じられませんか? でしたら魔法で確認していただきたく。最初からそのつもりでしたので」
「いいえ、信じるわ。視る必要もない。だってターシャが話してくれたことだもの」
マーガレット王女が居住まいを正したところでマリエラがワゴンを運んできた。その上には紅茶以外にも温かな焼き菓子が乗せられている。
「夜は長いですから小腹も空くことでしょう。どうぞお召し上がりください。マーガレット王女様の夜更かしも、今宵は目を瞑りますよ」
それではと頭を下げたマリエラはすぐに退出し、女子会もとい、ほぼほぼ私の秘密の打ち明けが続く。
「どこからお話ししましょうか……先程のように簡潔にお伝えすると、私、一度目の生では濡れ衣でとある事件の犯人とされた結果、婚約破棄を告げられて、獄中死するのです」
「…………それは、あの王太子殿下から婚約破棄を告げられるということかしら」
「そういうことです」
「うそ……でしょう?」
マーガレット王女はギルバート殿下と対面した際の印象とかけ離れた行動に絶句している。
「残念ながら記憶が正しければ事実なのです」
「どう、して…………ううんそれよりもそんな重い記憶を話すのはとてつもなく辛いでしょう」
「だから今までお伝えするか悩みました。このことはマーレ以外の誰にも話したことがなかったですし、そもそも信じてくれるかも分かりませんし」
荒唐無稽な出来事なのだ。笑って作り話だろうと受け流される可能性だってあったし、不確実な未来ゆえ、本当に同じことが起こるのか確証はない。
「夢……の線はありえないわよね」
「もちろん、私もタチの悪い夢ならばいいのにと思いました。でもそうじゃないんです」
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「戸惑わない方がおかしいわ。それでそんな大切な秘密を私に打ち明けることに決めたのは何故かしら」
「味方でいてくださいと理由も明かさず約束だけを取り付けたのは不誠実だとずっと引っかかっていたのと、やっぱり誰かに知って欲しくて。共有してくれる人が欲しかったんです」
一人で抱えて過ごすには秘密が大きすぎる。かと言って家族には話せない。一度目の生で関わった相手に記憶について話すことは、十中八九今後に強く作用するだろう。そうなると良くも悪くも未来に影響を与えすぎる。
(でもマーガレット王女は二度目の生で仲良くなった大切な友人。二年間共に過ごしてこの方なら明かしても大丈夫だと確信を持てた)
そのため、このタイミングで明かすことを決めたのだ。
「全てお話ししたくて……聞いていただけますか」
「うん、全部聞くわ。スッキリするまでとことん話して。私、朝まで付き合うから」
すると彼女はぎゅうっと私を抱きしめてくれた。
「今度は私が貴女の役に立ちたいの。私の大切で初めての友人のお願いだから」
マーガレット王女は本当にたどたどしい私の説明に最後まで付き合ってくださった。話している途中、どんどん辛かった記憶が鮮明になっていって涙が溢れてしまい、ジェラルド様との拗れた関係性に重なるところがあったのかマーガレット王女もわんわん泣き出し、二人してひしと抱きしめ合いながら涙する夜半を過ごした。
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