悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!

夕香里

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第二章 アルメリアでの私の日々

切り札の使いどころ

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「どうもヴィアリナ」

「あなたね……」

 その声に私が前を向くと、そこには疲れきった様子のヴィアリナ先生が立っていた。左右には戸棚があり、分厚い書物がぎっしり詰まっていて、見覚えのある部屋だ。

 どうやらギルバート殿下は理事長室に転移したらしい。

 ヴィアリナ先生は突然現れた私達に驚くことはなく、背もたれのある椅子に腰掛けたままだ。

「事故が起こったと聞きましたが」

「ええ、今ダンスホールは大惨事よ。怪我人も多い。幸い死者はまだ出てないけれど……」

「〝まだ〟というのは?」

 ギルバート殿下が指摘するとヴィアリナ先生はなんとも言えない表情をする。

「意識不明の重体生徒がいるの」

「……ああ」

 ギルバート殿下は声を落とした。私は彼に掴まりながら体が強ばっていくのを感じた。

(それって)

 あの場で一番その状態になる可能性が高い生徒に覚えがあった私は、冷や水を浴びせられたように急速に体が冷えていく。
 聞きたくない。けれど聞かなければ否定もできない。バクバクと心臓がうるさい。

「──マーガレット、王女ですか?」

「…………」

 ヴィアリナ先生は目を逸らす。沈黙はこの場合肯定だ。

「う、そですよね?」

「……嘘じゃないわ。アレクシス殿下が王宮に連れていったの。大方、王宮にいる侍医に診せるためでしょうね。学校の医務室は軽傷の生徒で溢れ返っていて、人手が足りないし」

(私が消えたから……だからマーレ様がっ)

 ──一人だけシャンデリアの下敷きに。

 そんなこと少しでも頭を働かせればわかったことなに。私は、私のことしか考えてなくて、自分が大怪我をしていないから彼女もそれほどではないだろうと。勝手に勘違いして。

 ──目の前が暗くなった。

「シア?」

 顔色を悪くし、真っ青になった私を心配そうにギルバート殿下が覗き込んだ。

「ヴィアリナ先生、私を彼女のところに連れて行ってくださいっ」

 幸いにして私には彼女を助けるすべがある。即死していないのなら、助けられる。

 私が治したことはあるのは手のかすり傷や切り傷程度だが、理論上は死んでなければ魔法は効くのだ。自分の限界は分からないけれど、出来るに決まっている。

「だけど……」

 ヴィアリナ先生は思案していた。こんなボロボロの小娘がどうやって危篤寸前の王女を助けられるのかと疑問を感じているのだろう。

「私からもお願いします。彼女は王女を助ける力がありますから」

 ギルバート殿下は私のしたい事に気づいたようで口添えしてくれた。

「殿下が仰るなら大丈夫なのでしょうけれど、王宮までは連れて行けても、そこから先──マーガレット王女殿下の元まで行けるかは約束できないわ」

「それでもいいです」

 するとヴィアリナ先生は魔法で何処かと連絡を取り始め、大きく頷いた。

「──話がついたわ。今から貴方たちを直で飛ばす」

 床に大きな陣が展開したと思ったら、次の瞬間にはまた転移していた。



◇◇◇



 アタナシアが消えたというジェラルドの発言に、アレクシスは腑に落ちる部分があった。

(彼女の指輪にかけられていた高度な魔法はこれか)

 おそらく、アタナシアの婚約者である王太子──ギルバートがかけた魔法。

 アレクシスは彼女に会った時から、指輪に何か魔法が施されているのは知っていた。ただ、どんな魔法なのかは見抜けなかった。けれど、学校生活で彼女が身につける宝飾品にはほぼ魔法がかけられていたので、彼女を守るものなのだと見当をつけていたのだ。

 だから気にはなるが、注意して見ることはしなかった。

(そうとう手馴れたお方だ)

 あれは素人では見抜けないほど巧妙に、隠すように施されていて。身に付けている彼女自身も気づいたような素振りはなかった。
 アレクシスが気づいたのは単に、魔具を普段から触っていて、その手の物に敏感だったからだ。

 他に勘づく者がいるとしたら、アレクシスと同じように普段から魔具を触っていたり、常日頃から魔法の研究していたり、特殊魔法である「鑑定」が使える人間だけだろう。

(危機を察知して転移魔法が展開するように仕掛けが施されてたのかな……?)

 となると問題は彼女がどこに飛ばされたのかだが、ギルバートの元が第一候補だと予想を立てた。

 婚約者にこんな魔法を仕込んで置くのだから、相当な過保護だ。危険があった時、目の届く場所で無事を確認したいに決まっている。
 もし、アレクシスがギルバートの立場でマーガレットが危険な目にあったら絶対にそうするから。

「アレクシス、アタナシア嬢を探しに行くか……? 王族の婚約者である彼女が行方不明なのは外交問題にも発展する。もしかしたら騒ぎに乗じての誘拐の線もなきしにもあらずだ」

 黙り込んでいたアレクシスに、ジェラルドが声をかける。

(そんな事を言っても妹のそばを離れたくないくせに)

 ちらちらとしきりに寝台の方を確認していて落ち着きがない。

「…………アタナシア嬢は多分平気だ。それよりもマーガレットの出血量が……」

 つい先程まで母であるローズマリーがマーガレットのそばにいたのだが、侍医から命の危険もあると宣告され、ショックのあまり倒れてしまった。そのため、今この部屋にいるのはアレクシスとジェラルドに予断を許さない彼女を診る侍医のみだ。

(私にはどうすることも出来ない)

 得意な魔具では人の怪我を治せない。アレクシスもまた、ジェラルドと同様に無力だった。ただただ焦燥が募るばかり。手持ち無沙汰なせいで、妹を失うかもしれないという恐怖だけが倍増していく。

(それにもし、命を取り留めたとしてもマーガレットはおそらく……)

 ──とそこで、魔法での通信が入る。アレクシスは大きく目を見開き、すぐさま了承する旨の返答をした。

 五分も経たないうちに部屋のドア付近に陣が展開された。何も聞かされていないジェラルドは驚き、アレクシスの方を見たが、アレクシスはその視線を無視した。

「このような形で殿下方の前に現れた無礼をお許しください」

 開口一番にそう言って陣の上に現れたのは、青年に抱えられ、至る所に傷があるアタナシアで。


「──私ならマーレ様を助けられます。チャンスを頂けませんか?」


 今一番欲しい言葉を彼女ははっきりと口にしたのだった。

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