63 / 88
第二章 アルメリアでの私の日々
どう転んでも間に合わない(1)
しおりを挟む
「殿下、少々お時間ありますか」
「何さ」
「……緊急事態でして」
「私に頼むことではない気がするが、仕方ないな。ちょっと行ってくる」
そう言ってアレクシス殿下は運営の生徒と共に会場を後にした。最近知ったことなのだが、殿下は生徒会役員らしい。たまに見かけないなとは思っていたのだが、生徒会の仕事をしていたみたいだ。
このダンスパーティーも生徒会が関わっているから、運営関連で呼ばれたのだろう。
ずっと壁の花になっているのもつまらないので、マーガレット王女の手を引いて何曲か踊った。
疲れて踊りの輪から抜けるとヴェロニカ様やエリザベス様もやって来て、雑談を楽しむ。流石にマーガレット王女が居るので、エリザベス様はシェリル様達の話題を出さなかった。
代わりにマーガレット王女の視界にシェリル様が入らないよう、さりげなく立ち位置を変えて遮っていた。
それがあまりにも分かりやすすぎて私が笑いそうになるのを堪えていると、マーガレット王女がバッサリ「貴女、その気遣い嬉しいけれど、不要だわ」と言い切ってしまった。
『ち、違いますわっ! けっしてシェリル様がマーガレット様の視界に入らないようにだなんて! そんなことしようと思ってませんわ!』
と否定しているようで、洗いざらい吐いているところがエリザベス様らしい。マーガレット王女も堪らず笑い出していた。
二人が軽食を取りに行った後、事件は起こる。ふらりとよろけたマーガレット王女が顔面蒼白になっていたのだ。
(どうして……?)
ついさっきまで元気そうだったのに。
くずおれる彼女を支えようとしたが間に合わない。マーガレット王女は床に座り込み、私も遅れてしゃがむ。
「……大丈夫ですか?」
「ごめんなさい。ああ……また……なの。私が……──弱いから」
青ざめた彼女は見るからに体調が良くなかった。目眩がするのか額を押えている。
「魔力が足りないのですか?」
小声で問えば弱々しく彼女は頷く。
「──アレクシス殿下を呼んできます」
「だめっ」
踵を返そうとした私の腕を強く掴んだ。
「……今度、お兄様に見られたら……誤魔化せない」
冷や汗をかきながら、それでも手の力は緩めない。
「…………ですが」
(──魔力欠乏だけじゃないの?)
今の発言は、前回倒れた原因をも否定するようなものだ。しかし明らかに魔力が足りていない。ホウキから落下した時と症状が同じなのだ。
それに、アレクシス殿下は勘づいている。次、マーガレット王女が倒れたら伝えるなと懇願されても呼びに来てと事前に言われていたのだ。
兄は妹の行動なんてお見通しらしい。
けれどもこのような状態のマーガレット王女を一人にはできない。ヴェロニカ様辺りが戻ってきてくれると嬉しいのだが。
「ほんの少し待って。すぐ良くなるから」
そう言ってブレスレットとして加工された宝石に似た石を、震える手でパキンと割った。割れ目から黒色の魔力が溢れ、すーっとマーガレット王女に吸い込まれていく。
「これでちょっと回復する……の」
魔力を取り込んだマーガレット王女の顔に幾分か血色が戻る。立ち上がり、スカートに付着したホコリを払った。
「こうなることを予想していたのですか」
魔力を保存しておける石は魔月石。しかも他の人には分かりにくいブレスレットとして身につけていた。
念の為という説明では納得がいない。今日は魔法を使う機会も無いはずだ。つまり枯渇し、欠乏する状態になるはずもない。
「それは……」
口ごもる彼女に私は正面から向き合った。
「──マーガレット王女は何をお隠しになられているのですか」
瞳が揺らぐ。ふいっと視線を逸らし、自身の二の腕を掴んだ。握る力が強すぎて陶器のように白い肌は赤くなる。
「……ぜんぶ、終わったはずだから。話すわターシャに」
けぶるような長い睫毛が閉じ、意を決して開かれる。
「約束したしね。ここは人の目があるから明日でもい……──」
「ひゃっ」
突如、大きな衝撃音と振動がマーガレット王女の言葉を遮った。
「何さ」
「……緊急事態でして」
「私に頼むことではない気がするが、仕方ないな。ちょっと行ってくる」
そう言ってアレクシス殿下は運営の生徒と共に会場を後にした。最近知ったことなのだが、殿下は生徒会役員らしい。たまに見かけないなとは思っていたのだが、生徒会の仕事をしていたみたいだ。
このダンスパーティーも生徒会が関わっているから、運営関連で呼ばれたのだろう。
ずっと壁の花になっているのもつまらないので、マーガレット王女の手を引いて何曲か踊った。
疲れて踊りの輪から抜けるとヴェロニカ様やエリザベス様もやって来て、雑談を楽しむ。流石にマーガレット王女が居るので、エリザベス様はシェリル様達の話題を出さなかった。
代わりにマーガレット王女の視界にシェリル様が入らないよう、さりげなく立ち位置を変えて遮っていた。
それがあまりにも分かりやすすぎて私が笑いそうになるのを堪えていると、マーガレット王女がバッサリ「貴女、その気遣い嬉しいけれど、不要だわ」と言い切ってしまった。
『ち、違いますわっ! けっしてシェリル様がマーガレット様の視界に入らないようにだなんて! そんなことしようと思ってませんわ!』
と否定しているようで、洗いざらい吐いているところがエリザベス様らしい。マーガレット王女も堪らず笑い出していた。
二人が軽食を取りに行った後、事件は起こる。ふらりとよろけたマーガレット王女が顔面蒼白になっていたのだ。
(どうして……?)
ついさっきまで元気そうだったのに。
くずおれる彼女を支えようとしたが間に合わない。マーガレット王女は床に座り込み、私も遅れてしゃがむ。
「……大丈夫ですか?」
「ごめんなさい。ああ……また……なの。私が……──弱いから」
青ざめた彼女は見るからに体調が良くなかった。目眩がするのか額を押えている。
「魔力が足りないのですか?」
小声で問えば弱々しく彼女は頷く。
「──アレクシス殿下を呼んできます」
「だめっ」
踵を返そうとした私の腕を強く掴んだ。
「……今度、お兄様に見られたら……誤魔化せない」
冷や汗をかきながら、それでも手の力は緩めない。
「…………ですが」
(──魔力欠乏だけじゃないの?)
今の発言は、前回倒れた原因をも否定するようなものだ。しかし明らかに魔力が足りていない。ホウキから落下した時と症状が同じなのだ。
それに、アレクシス殿下は勘づいている。次、マーガレット王女が倒れたら伝えるなと懇願されても呼びに来てと事前に言われていたのだ。
兄は妹の行動なんてお見通しらしい。
けれどもこのような状態のマーガレット王女を一人にはできない。ヴェロニカ様辺りが戻ってきてくれると嬉しいのだが。
「ほんの少し待って。すぐ良くなるから」
そう言ってブレスレットとして加工された宝石に似た石を、震える手でパキンと割った。割れ目から黒色の魔力が溢れ、すーっとマーガレット王女に吸い込まれていく。
「これでちょっと回復する……の」
魔力を取り込んだマーガレット王女の顔に幾分か血色が戻る。立ち上がり、スカートに付着したホコリを払った。
「こうなることを予想していたのですか」
魔力を保存しておける石は魔月石。しかも他の人には分かりにくいブレスレットとして身につけていた。
念の為という説明では納得がいない。今日は魔法を使う機会も無いはずだ。つまり枯渇し、欠乏する状態になるはずもない。
「それは……」
口ごもる彼女に私は正面から向き合った。
「──マーガレット王女は何をお隠しになられているのですか」
瞳が揺らぐ。ふいっと視線を逸らし、自身の二の腕を掴んだ。握る力が強すぎて陶器のように白い肌は赤くなる。
「……ぜんぶ、終わったはずだから。話すわターシャに」
けぶるような長い睫毛が閉じ、意を決して開かれる。
「約束したしね。ここは人の目があるから明日でもい……──」
「ひゃっ」
突如、大きな衝撃音と振動がマーガレット王女の言葉を遮った。
30
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。
【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる