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第三章 不穏な侍女生活
垣間見える(2)
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「レーゼはいつもの友人のところに行くのかな」
会場に入るとヴィスお兄様は私がどうするのか尋ねてきた。
「そうですね。エステルは旦那さんと一緒に来るだろうから…………アレクを探したいのですけど」
学生時代の友人の元に行ってもいいのだが、夜会の時はいつもエステルとアレク、そして私の三人で固まっていることが多かったのでとりあえず彼と合流したい。
特徴的な赤髪の男性を探すが見当たらない。まだ来てないのだろうか? だとしたらひとりぼっちで暇になってしまう。
「彼ならレーゼの後ろにいるよ」
「え? わっ!」
クスクスと笑っているヴィスお兄様は、私の後ろに目を向けていた。くるりと振り返ると目と鼻の先にアレクの顔があって心臓が跳ねる。
「もーびっくりするじゃない!」
胸元に手を置いて深く息を吐きながら抗議の声をあげると、アレクはへらりと笑う。
「間抜けな顔だなぁ」
「悪かったわね!」
ふんっとそっぽを向いた。まったく、アレクは私のことを驚かせるのが趣味か何かなのだろうか。エステルに言わせれば、くだらないおどかしをいつもしてくる。
ぷんぷん形だけ怒っていると、二人もそれを理解していて私のことを置いて話し始める。
「ではアレクセイ殿、妹のことをよろしく頼むよ」
「はい。しっかりと見張っておきますので」
「ありがとう。君のおかげで邪魔な虫も寄り付かないし助かっているよ」
(邪魔な虫って?)
アレクがいると私の大っ嫌いな蛾とかが飛んでこないのだろうか? ここは室内なので、庭園に出ない限り遭遇することはないと思うけれど……。
「気にしないでください。ベルの面倒は俺の仕事のようなものなので」
ぽんぽんとアレクの手が肩に置かれたので振り払うが、諦めずに再度置かれたので今度は上からぺしんと叩いた。
私達の攻防にヴィスお兄様はまた笑って立ち去って行った。
「ベル、いいか今日は大人しくしているんだぞ」
お兄様が立ち去って開口一番、アレクから何故か諭される。
「大人しくっていつも大人しく参加しているわ」
結婚願望もない私にとって、社交界は貴族の世界から爪弾きにされないよう最低限のお付き合いを保つ場である。目立つ必要性もなく、端の方でひっそりお開きの時間になるのを待っているのがおなじみの光景だ。
なのに信じられないものでも見たかのような目である。
「なによ。その目は」
物言いたげな胡乱な視線にむっと唇を尖らせると、彼は呆れ果てていた。
「お前、卒業パーティーでべろんべろんに酔ったこと覚えてないのか? その場で寝落ちしそうなベルを抱き抱えて馬車に乗せ、家まで送り届けたんだぞ?」
「…………その節は大変お世話になりました」
卒業祝いのために先生方が振舞ってくれたお酒。私は初めて飲んだのだけれど、私の体はお酒に極端に弱いらしく、一口目で酔ってしまったのだった。
しかも酔うと眠ってしまうみたいで、あまり記憶は無いのだがそばにいたアレクが伯爵邸まで送り届けてくれたらしい。
(イザベルの時も飲めない体質だったから今世こそは! と思ったんだけどなぁ)
以来、私は家族から飲酒禁止令が発布されている。例外として家の中且つ家族がいる場でなら許可が下りるが、そこまでして飲みたいとは思わないので今後自分の意思で飲むことはないだろう。
「給仕された飲料水も一度中身を確認してから飲むんだぞ。見知らぬ貴族から渡されたグラスには絶対に口をつけるなよ」
「分かってるってば」
はいはいと右から左に受け流す。
(私の周りってみんな過保護ね)
家族はもちろん、エステルもアレクも。
──とそこで舞踏会の開始の鐘が鳴った。
今年社交界デビューするデビュタント達がホール中欧に集まり、直線に並ぶ。その中に学校のクラブ活動で一緒だった後輩の姿を見つけ、緊張で固まっている彼らに微笑ましさを覚える。
「初々しいなぁ。私にもあんな時期あったんだよね」
「そうか? デビュタントのくせに、妙に貫禄あったじゃないか」
「うるさい」
ぎゅっとアレクの脇腹をつねった。
(デビュタントのファーストダンス、ユースと踊りたいって駄々こねたんだっけ。結局お父様がお相手になったけれど)
呪いのことや色々なしがらみの関係で、どうしても私と同じ時期にデビューすることが叶わず、彼が皇子として皇宮で暮らすようになるまで、ユースは社交界に顔を出さなかった。
(皇子として認知されてからは、フローラが婚約者として隣にいたし)
なので公の場で彼と踊ったことは無かった。
(踊りたかったなぁ)
無意識に玉座へ視線を動かす。座るべき人がいない玉座は寂しそうだ。
デビュタント達のファーストダンスを眺めながら物思いにふけっていたら、最後の旋律を奏でて音楽がピタリと終わる。
あっという間にデビュタント達のファーストダンスが終了したようで、中央に集まっていた子達がダンスパートナーに挨拶して人の山の中にそれぞれ戻って行った。
会場に入るとヴィスお兄様は私がどうするのか尋ねてきた。
「そうですね。エステルは旦那さんと一緒に来るだろうから…………アレクを探したいのですけど」
学生時代の友人の元に行ってもいいのだが、夜会の時はいつもエステルとアレク、そして私の三人で固まっていることが多かったのでとりあえず彼と合流したい。
特徴的な赤髪の男性を探すが見当たらない。まだ来てないのだろうか? だとしたらひとりぼっちで暇になってしまう。
「彼ならレーゼの後ろにいるよ」
「え? わっ!」
クスクスと笑っているヴィスお兄様は、私の後ろに目を向けていた。くるりと振り返ると目と鼻の先にアレクの顔があって心臓が跳ねる。
「もーびっくりするじゃない!」
胸元に手を置いて深く息を吐きながら抗議の声をあげると、アレクはへらりと笑う。
「間抜けな顔だなぁ」
「悪かったわね!」
ふんっとそっぽを向いた。まったく、アレクは私のことを驚かせるのが趣味か何かなのだろうか。エステルに言わせれば、くだらないおどかしをいつもしてくる。
ぷんぷん形だけ怒っていると、二人もそれを理解していて私のことを置いて話し始める。
「ではアレクセイ殿、妹のことをよろしく頼むよ」
「はい。しっかりと見張っておきますので」
「ありがとう。君のおかげで邪魔な虫も寄り付かないし助かっているよ」
(邪魔な虫って?)
アレクがいると私の大っ嫌いな蛾とかが飛んでこないのだろうか? ここは室内なので、庭園に出ない限り遭遇することはないと思うけれど……。
「気にしないでください。ベルの面倒は俺の仕事のようなものなので」
ぽんぽんとアレクの手が肩に置かれたので振り払うが、諦めずに再度置かれたので今度は上からぺしんと叩いた。
私達の攻防にヴィスお兄様はまた笑って立ち去って行った。
「ベル、いいか今日は大人しくしているんだぞ」
お兄様が立ち去って開口一番、アレクから何故か諭される。
「大人しくっていつも大人しく参加しているわ」
結婚願望もない私にとって、社交界は貴族の世界から爪弾きにされないよう最低限のお付き合いを保つ場である。目立つ必要性もなく、端の方でひっそりお開きの時間になるのを待っているのがおなじみの光景だ。
なのに信じられないものでも見たかのような目である。
「なによ。その目は」
物言いたげな胡乱な視線にむっと唇を尖らせると、彼は呆れ果てていた。
「お前、卒業パーティーでべろんべろんに酔ったこと覚えてないのか? その場で寝落ちしそうなベルを抱き抱えて馬車に乗せ、家まで送り届けたんだぞ?」
「…………その節は大変お世話になりました」
卒業祝いのために先生方が振舞ってくれたお酒。私は初めて飲んだのだけれど、私の体はお酒に極端に弱いらしく、一口目で酔ってしまったのだった。
しかも酔うと眠ってしまうみたいで、あまり記憶は無いのだがそばにいたアレクが伯爵邸まで送り届けてくれたらしい。
(イザベルの時も飲めない体質だったから今世こそは! と思ったんだけどなぁ)
以来、私は家族から飲酒禁止令が発布されている。例外として家の中且つ家族がいる場でなら許可が下りるが、そこまでして飲みたいとは思わないので今後自分の意思で飲むことはないだろう。
「給仕された飲料水も一度中身を確認してから飲むんだぞ。見知らぬ貴族から渡されたグラスには絶対に口をつけるなよ」
「分かってるってば」
はいはいと右から左に受け流す。
(私の周りってみんな過保護ね)
家族はもちろん、エステルもアレクも。
──とそこで舞踏会の開始の鐘が鳴った。
今年社交界デビューするデビュタント達がホール中欧に集まり、直線に並ぶ。その中に学校のクラブ活動で一緒だった後輩の姿を見つけ、緊張で固まっている彼らに微笑ましさを覚える。
「初々しいなぁ。私にもあんな時期あったんだよね」
「そうか? デビュタントのくせに、妙に貫禄あったじゃないか」
「うるさい」
ぎゅっとアレクの脇腹をつねった。
(デビュタントのファーストダンス、ユースと踊りたいって駄々こねたんだっけ。結局お父様がお相手になったけれど)
呪いのことや色々なしがらみの関係で、どうしても私と同じ時期にデビューすることが叶わず、彼が皇子として皇宮で暮らすようになるまで、ユースは社交界に顔を出さなかった。
(皇子として認知されてからは、フローラが婚約者として隣にいたし)
なので公の場で彼と踊ったことは無かった。
(踊りたかったなぁ)
無意識に玉座へ視線を動かす。座るべき人がいない玉座は寂しそうだ。
デビュタント達のファーストダンスを眺めながら物思いにふけっていたら、最後の旋律を奏でて音楽がピタリと終わる。
あっという間にデビュタント達のファーストダンスが終了したようで、中央に集まっていた子達がダンスパートナーに挨拶して人の山の中にそれぞれ戻って行った。
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