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第二章 【過去編】イザベル・ランドール
掴んだ光(2)
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「ユースはどう? お父様の次か、もしかしたらお父様よりも強いの」
(気配りもできるし、聖女の護衛をしたとなれば箔が付く)
皇子として皇宮に戻った時に、少しは助けになるだろう。
(神殿内は女神様の庇護下。神聖力が満ちていると聞くし、きっと呪いの症状も鳴りを潜めるはずよ)
「ベル」
呼ばれて振り向くと、淡々としつつも透き通った眼差しと共に、端正なユリウスの顔が近くにある。
「──それは無い。絶対にありえない」
「え」
驚くイザベルを無視し、ユリウスはフローラに向けて言う。
「聖女の護衛になれば神殿に住まい、昼夜を問わず、何に代えてもフローラ様を守らねばなりません。僕にはそれは不可能だ」
そうしてイザベルの腰に手を回して彼の方へ引き寄せるのだ。
「僕が一番に優先するのは何があってもベルなので」
「っ!」
(…………深い意味は無いと分かっているけれど、いつもそういう態度だから納得できるけれど、まるで)
──告白されているかのような
真剣な声に言葉が言葉なのでイザベルは一瞬そう思ってしまい、頬が朱色に染まる。が、直ぐに首をぶんぶん振って頭から追い出した。
「…………聖女の護衛だなんて騎士なら誰もが夢見る役職よ。私が騎士だったら手放しに喜ぶわ」
食い下がりつつ未だそんなことを言うイザベルにユリウスは深いため息を吐いた。
「フローラ様には申し訳ないが、聖女の護衛騎士など興味もありません」
頑ななユリウスの態度に、イザベルは説得を諦める。こういう時の彼は自分が何を言っても頑として譲らないのだ。
(…………大切に思ってくれるのはとても嬉しいけれど、さすがにこれは普通より重い、かも? これは過保護の域を超えている気がする)
これでは自分が彼と離れる時が来たらどうなるのだろうか。こんなにベッタリでは色んな面で後々支障が出てきそうだ。
(まあ、そばにいたのが私だけだったから他に交友関係が出来れば変わるわよね)
呪いを解き、社交界に顔を出すようになれば同性の友人も作れるだろう。
自分の中で区切りをつけ、腰にある手をやんわりと外してさりげなくユリウスと距離をとった。
こほんと咳払いしてから話を進める。
「本人が嫌がるならば無理強いしないわ。ランドール公爵家からは他にも人材を出せるけど、希望はあるかしら」
「腕の立つ者なら誰でも構わないの。そもそも私が信頼のおける方を見つけていなかったのが悪いのだから。ただ、呪いの解呪のためにユリウスさんには定期的に私の元に来て欲しいかも」
「じゃあ決まりね」
イザベルは護衛となる騎士を差し出すことと引き換えに、呪いを解く手段を手に入れた。
◇◇◇
とはいえ、劇的に変わったことは何も無かった。
イザベルは本格的に社交界に出る年齢ということで社交が活発になる夏は忙しく、ユリウスだけフローラのスケジュールの合間を縫って神殿を訪れることが多々あった。
そのせいか、ユリウスがフローラの話をぽつぽつとしてくれるようになったのだが、その変化に嬉しくなるものの、どこかでもやっとする自分もいて。もやもやの正体がはっきりと形になる前に、イザベルはそれを心の奥底にしまって蓋をした。
加えて聖女となったフローラもフローラで忙しく、他の季節も秋は豊穣を、冬は飢饉への祈りで目が回るほどの多忙を極め、中々呪いの解呪まではいかない。
ただ、フローラに神聖力を分けてもらっているからかユリウスの症状は抑えられていたので、「やっぱりこれが正解なのだと」密かに安堵していた。
そうして再び季節は巡り、花の匂いや心地よい春の陽気が辺りを優しく包み込む頃、その時は突然やって来た。
呪いの心配はあれど幸福だった世界が崩壊し、処刑への道が作られていくのを、イザベルはまだ知らない。
(気配りもできるし、聖女の護衛をしたとなれば箔が付く)
皇子として皇宮に戻った時に、少しは助けになるだろう。
(神殿内は女神様の庇護下。神聖力が満ちていると聞くし、きっと呪いの症状も鳴りを潜めるはずよ)
「ベル」
呼ばれて振り向くと、淡々としつつも透き通った眼差しと共に、端正なユリウスの顔が近くにある。
「──それは無い。絶対にありえない」
「え」
驚くイザベルを無視し、ユリウスはフローラに向けて言う。
「聖女の護衛になれば神殿に住まい、昼夜を問わず、何に代えてもフローラ様を守らねばなりません。僕にはそれは不可能だ」
そうしてイザベルの腰に手を回して彼の方へ引き寄せるのだ。
「僕が一番に優先するのは何があってもベルなので」
「っ!」
(…………深い意味は無いと分かっているけれど、いつもそういう態度だから納得できるけれど、まるで)
──告白されているかのような
真剣な声に言葉が言葉なのでイザベルは一瞬そう思ってしまい、頬が朱色に染まる。が、直ぐに首をぶんぶん振って頭から追い出した。
「…………聖女の護衛だなんて騎士なら誰もが夢見る役職よ。私が騎士だったら手放しに喜ぶわ」
食い下がりつつ未だそんなことを言うイザベルにユリウスは深いため息を吐いた。
「フローラ様には申し訳ないが、聖女の護衛騎士など興味もありません」
頑ななユリウスの態度に、イザベルは説得を諦める。こういう時の彼は自分が何を言っても頑として譲らないのだ。
(…………大切に思ってくれるのはとても嬉しいけれど、さすがにこれは普通より重い、かも? これは過保護の域を超えている気がする)
これでは自分が彼と離れる時が来たらどうなるのだろうか。こんなにベッタリでは色んな面で後々支障が出てきそうだ。
(まあ、そばにいたのが私だけだったから他に交友関係が出来れば変わるわよね)
呪いを解き、社交界に顔を出すようになれば同性の友人も作れるだろう。
自分の中で区切りをつけ、腰にある手をやんわりと外してさりげなくユリウスと距離をとった。
こほんと咳払いしてから話を進める。
「本人が嫌がるならば無理強いしないわ。ランドール公爵家からは他にも人材を出せるけど、希望はあるかしら」
「腕の立つ者なら誰でも構わないの。そもそも私が信頼のおける方を見つけていなかったのが悪いのだから。ただ、呪いの解呪のためにユリウスさんには定期的に私の元に来て欲しいかも」
「じゃあ決まりね」
イザベルは護衛となる騎士を差し出すことと引き換えに、呪いを解く手段を手に入れた。
◇◇◇
とはいえ、劇的に変わったことは何も無かった。
イザベルは本格的に社交界に出る年齢ということで社交が活発になる夏は忙しく、ユリウスだけフローラのスケジュールの合間を縫って神殿を訪れることが多々あった。
そのせいか、ユリウスがフローラの話をぽつぽつとしてくれるようになったのだが、その変化に嬉しくなるものの、どこかでもやっとする自分もいて。もやもやの正体がはっきりと形になる前に、イザベルはそれを心の奥底にしまって蓋をした。
加えて聖女となったフローラもフローラで忙しく、他の季節も秋は豊穣を、冬は飢饉への祈りで目が回るほどの多忙を極め、中々呪いの解呪まではいかない。
ただ、フローラに神聖力を分けてもらっているからかユリウスの症状は抑えられていたので、「やっぱりこれが正解なのだと」密かに安堵していた。
そうして再び季節は巡り、花の匂いや心地よい春の陽気が辺りを優しく包み込む頃、その時は突然やって来た。
呪いの心配はあれど幸福だった世界が崩壊し、処刑への道が作られていくのを、イザベルはまだ知らない。
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