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第一章 生まれ変わったみたいです
赤子は大変です(1)
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「レーゼちゃん~~いないいないばあ!」
お母様はそう言って手で顔を隠し変顔をした。
精神年齢大人な私にはちっとも面白くない……と思いきや、何故だか口元が緩んできて声を上げて笑いだしてしまった。
するとお母様はそれはそれは嬉しそうに私に微笑みかける。
「可愛いわ~~本当に可愛い。どうして貴女はそんなに可愛いの?」
(可愛いを連呼しすぎではないかしら?)
お母様は暇さえあれば、毎日何十回も私に伝えてくる。
生まれてから早いもので八ヶ月。もうこの時点で前世での生きていた間にもらった可愛いの回数より多い気がする。
最初はくすぐったくてこそばゆくて。だけど段々慣れてきて今では恥ずかしくならずにさらっと受け流すことができるようになった。
お母様は私を抱き抱えるとそっとふかふかの絨毯の上に下ろした。
「今日も歩く練習しましょうね」
お母様は数歩先に移動し、両手を広げてしゃがむ。
「レーゼちゃんおいで」
赤子は大変だ。一歩手を前に出すだけで負荷がかかることを身をもって知った。
(くっ! 過去の私、どうやって歩いていたの!? 体が重いっ)
当たり前のように二足歩行で歩いていた過去が懐かしい。ハイハイでさえこれほど大変なのに、ここからさらに二足で歩くなんて。今の私には雪山を登るよりも大変だと感じる。
それでも、人間はみんな歩けるようになるのだ。私も練習を怠ってはいけない。
それに、お母様が数歩先でにこにこ微笑みながら私を待っている。お母様のためにもあそこまで辿り着かなければならないのだ。
だが一歩前に出していた手が体重に耐えきれず、かくんと折れる。バランスを崩した私はしたたかに顔面を強打した。
赤子というのは言葉を話せない代わりに涙腺が弱いもので。顔面を打った強烈な痛みにすぐ涙が瞳から溢れ出す。
「ふぇぇぇぇん」
「レーゼちゃん大丈夫? あらまあ、おでこが真っ赤だわ」
泣き出した私に慌ててお母様が駆け寄ってくる。すぐに抱き抱えられ、よしよしとあやされる。
「痛いの痛いの飛んで行け~」
額に触れてパッと離す。それを何回も何回もお母様は繰り返す。
ああ、お母様のためにも早く泣き止まないといけない。なのに感情と反対に涙は止まりそうになくて。
大きな泣き声に屋敷にいたほかの使用人達も何事かと集まってくる。
不安に駆られたのかお母様もお母様でだんだん顔を曇らせて、おろおろし始めてしまった。
「奥様これを」
「ああ! そうね、冷やさないと。可愛いお顔にたんこぶが出来たら大変だわ」
使用人が用意した氷嚢で額を冷やされるとずきずきとした痛みが引いていく。そこでようやく涙が止まった。
ほっとお母様は安堵の息を吐いた。
「転んでも平気なようにふかふかの絨毯を敷いたつもりだったけれど…………ごめんね。お母様の安全確認がきちんと出来てなかったわ」
「あうう」
しょんぼりするお母様の様子に私は申し訳なく思ってしまう。
この重っったい体が悪いのだ。世の赤ちゃん、赤子だった過去の私はどうやってハイハイしていたのだろうか。誰か教えて欲しい。切実に。
(これはできるだけ早く歩けるようにならなければ)
悲しそうなお母様を見るのは私もつらいし、何より歩けるようにならないとユースの情報を掴めない。
ここ八ヶ月彼の話が出ないかと、両親の会話に聞き耳を立てていたのだけれど、〝ユリウス〟という単語が出てこない。そもそも、皇族が話題に上がらない。
イザベルの時は毎日どこかしらで耳に入ってきていたのに。
何故、入ってこないのか。その理由を知ったのは二度目の人生を歩み始めて二ヶ月ほど経った頃のことだった。
お母様はそう言って手で顔を隠し変顔をした。
精神年齢大人な私にはちっとも面白くない……と思いきや、何故だか口元が緩んできて声を上げて笑いだしてしまった。
するとお母様はそれはそれは嬉しそうに私に微笑みかける。
「可愛いわ~~本当に可愛い。どうして貴女はそんなに可愛いの?」
(可愛いを連呼しすぎではないかしら?)
お母様は暇さえあれば、毎日何十回も私に伝えてくる。
生まれてから早いもので八ヶ月。もうこの時点で前世での生きていた間にもらった可愛いの回数より多い気がする。
最初はくすぐったくてこそばゆくて。だけど段々慣れてきて今では恥ずかしくならずにさらっと受け流すことができるようになった。
お母様は私を抱き抱えるとそっとふかふかの絨毯の上に下ろした。
「今日も歩く練習しましょうね」
お母様は数歩先に移動し、両手を広げてしゃがむ。
「レーゼちゃんおいで」
赤子は大変だ。一歩手を前に出すだけで負荷がかかることを身をもって知った。
(くっ! 過去の私、どうやって歩いていたの!? 体が重いっ)
当たり前のように二足歩行で歩いていた過去が懐かしい。ハイハイでさえこれほど大変なのに、ここからさらに二足で歩くなんて。今の私には雪山を登るよりも大変だと感じる。
それでも、人間はみんな歩けるようになるのだ。私も練習を怠ってはいけない。
それに、お母様が数歩先でにこにこ微笑みながら私を待っている。お母様のためにもあそこまで辿り着かなければならないのだ。
だが一歩前に出していた手が体重に耐えきれず、かくんと折れる。バランスを崩した私はしたたかに顔面を強打した。
赤子というのは言葉を話せない代わりに涙腺が弱いもので。顔面を打った強烈な痛みにすぐ涙が瞳から溢れ出す。
「ふぇぇぇぇん」
「レーゼちゃん大丈夫? あらまあ、おでこが真っ赤だわ」
泣き出した私に慌ててお母様が駆け寄ってくる。すぐに抱き抱えられ、よしよしとあやされる。
「痛いの痛いの飛んで行け~」
額に触れてパッと離す。それを何回も何回もお母様は繰り返す。
ああ、お母様のためにも早く泣き止まないといけない。なのに感情と反対に涙は止まりそうになくて。
大きな泣き声に屋敷にいたほかの使用人達も何事かと集まってくる。
不安に駆られたのかお母様もお母様でだんだん顔を曇らせて、おろおろし始めてしまった。
「奥様これを」
「ああ! そうね、冷やさないと。可愛いお顔にたんこぶが出来たら大変だわ」
使用人が用意した氷嚢で額を冷やされるとずきずきとした痛みが引いていく。そこでようやく涙が止まった。
ほっとお母様は安堵の息を吐いた。
「転んでも平気なようにふかふかの絨毯を敷いたつもりだったけれど…………ごめんね。お母様の安全確認がきちんと出来てなかったわ」
「あうう」
しょんぼりするお母様の様子に私は申し訳なく思ってしまう。
この重っったい体が悪いのだ。世の赤ちゃん、赤子だった過去の私はどうやってハイハイしていたのだろうか。誰か教えて欲しい。切実に。
(これはできるだけ早く歩けるようにならなければ)
悲しそうなお母様を見るのは私もつらいし、何より歩けるようにならないとユースの情報を掴めない。
ここ八ヶ月彼の話が出ないかと、両親の会話に聞き耳を立てていたのだけれど、〝ユリウス〟という単語が出てこない。そもそも、皇族が話題に上がらない。
イザベルの時は毎日どこかしらで耳に入ってきていたのに。
何故、入ってこないのか。その理由を知ったのは二度目の人生を歩み始めて二ヶ月ほど経った頃のことだった。
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