前世と今世の幸せ

夕香里

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彼女の今世

番外編 リーティアの欲しいもの(4)

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「たぶん! でもね、あそこに行く前に寄りたいところがあるの」

 道の端の方を歩きながら、セシルはキョロキョロと両隣にあるショーウィンドウを見る。ここは街の中心部付近。クリスマスツリーがある場所は広場になっていて、そこから四方に伸びる大通りには沢山のお店が軒を連ねている。

 時間はたっぷりあるし、セシルの行きたいところに行けばいい。私は黙って着いて行った。後ろにはつかづ離れずの位置でアナベルとエマがいる。

「あった」

 セシルがお店の扉を開ける。カランコロンと取り付けられていたベルが軽やかな音を鳴らす。

「いらっしゃいませ。何をお探しでしょうか」

 店員に声を掛けられる。

「…………わたし、お人形用のお洋服が欲しいの。可愛いやつはあるかしら」

「こちらにありますよ。ご案内します」

 小さな客人に店員は一旦腰を低くして目線を合わせた。

「おねえさまは好きなの見てて? ちょっと行ってくるから」

「えっセシル……?」

 小走りに店員に着いていく妹を見届けることしかできなかった。アナベルと2人、入口のところで呆然と立ったままだ。

(別にいいのだけれど……唐突すぎて……置いてかれても……)

 入口にいるのは邪魔なので仕方なく棚の方に移動する。どうやらここは子供用の玩具や洋服等を置いてある店らしい。目の前の棚には赤子用の積み木やおしゃぶりが。次の棚には今の時期にピッタリの毛糸の帽子が。

 そんな中、目に止まったのはテディベア。自分の身長よりも大きい。クリスマスということで、おめかしされているのか蝶ネクタイをつけている。

 そっとテディベアの手をつつく。柔らかい素材で作られていて指先がすっぽりと沈む。ふにふにと触るだけでは飽き足らず、ぬいぐるみの手を両手で包む。手触りもとてもいい。

(かわいい。家にあったらギュッてしただろうなぁ)

「お嬢様、そのテディベアを気に入ったのですか?」

「っ!」

 隣にアナベルがいたのをすっかり忘れていた。驚きで肩が上下する。パッとぬいぐるみから手を離した。

「うっううん。違うわ」

 咄嗟に嘘をついてしまった。彼女の言うとおり、多分私はこのテディベアを気に入ったのだろう。現にアナベルがいるのを忘れて、テディベアに魅入っていた……。

(私らしくないわ。いつもはこんなに関心が向かないし……可愛いとは思うけれど見蕩れることはなかったのに)

 朝、お父様と話していたからだろうか。もし、今からでも言えるのならばクリスマスプレゼントにこれがいいかなと思ってしまった。
 そう思っても、私はやっぱり両親にねだる行為ができそうにない。だからこれがプレゼントになることもありえない。

 ちょっと寂しく、悲しいような──残念な感情がうまれた。

「おねえさま……?」

 アナベルの後ろからセシルが顔を出す。

「せっセシル、用事は終わったの? 人形の洋服は買えた?」

「いいのなかったからやめたわ」

 ふるふると首を横に振る。

「……なら、なんでそんな嬉しそうなの?」

「ひみつー! 後はお姉様をクリスマスツリーまで連れていけば任務完了なの!」

 まるで今にも鼻歌を歌い始めそうだ。頬が上気している。

 手を取られ、引っ張られる。そのままお店を後にする。

「とうちゃくー! どう?」

 クリスマスツリーに近づくにつれて人が多くなった。アナベル達とはぐれぬように気をつけながら、最前列までやってきた。

「──とっても綺麗ね。見に来たのは初めてだけど、今まで知らなかったのが勿体ないくらい」

 日が傾き始め、夕暮れが訪れ始めていた。オレンジ色に染まりつつある空とクリスマスツリーはとても合っている。夜になれば電飾や周りの明かりが灯るからもっと幻想的になるのだろう。
 
「リーティアお嬢様、セシルお嬢様、そろそろ屋敷に戻りませんと」

 付けていた懐中時計を開いて、アナベルが言ったので私達は公爵邸に戻ったのだった。



◇◇◇



「お帰りなさいませお嬢様方」

 出迎えてくれた執事に外套を渡して、冷たくなった手に息をかけた。じんわりと手が温かくなる。

「リーティアお嬢様、先に戻っていてください。温かい紅茶を用意します」

「ありがとう。じゃあ先に部屋に戻るわ。セシル、また夕餉で会いましょう」

「うんまたあとで!」

 階段を昇って、私は自室へと続く廊下を進んだ反面、残ったセシル達は────

「ねえ、ちゃんと店舗のメモした?」

 セシルはアナベルに尋ねた。

「バッチリです。うまくいってよかった。旦那様もこんな回りくどいことをしなくても……」

 安堵の息を吐いたのはアナベルだった。その手にはメモが握られている。

『──お嬢様はテディベアを欲しそうにしてました。これならきっと喜んで貰えると思います』と

「むりよ。おねえさま誰にも言わないもの」

 というか顔に出たのも珍しかった。セシルは全部見ていた。店員と一緒に奥に行ったと見せかけて、戸棚の影に隠れていた。

「でもよかったあ。私の任務完了ね! あとはお父様に渡すだけ」

 遠慮しているのかプレゼントをねだらないリーティアが本当に欲しいものは何なのか。
 それが知りたかった両親は妹のセシルとうんうん唸って、一つの案に辿り着いた。

──尋ねても教えてくれないならば、彼女が興味を持ったものを見つけて買えばいいと。

 あのお店に行くまでは不安だったが、リーティアはひとつのテディベアに関心を寄せたようだった。ずっと見てたのだから間違いない。あれこそ彼女の欲しいものだ。

 様子を伺っていたアナベルはすぐさま忘れないように紙に書いた。それが今手元にあるメモだ。

 きっとこれなら彼女は喜んでくれる。
 
 セシルとアナベルは早く公爵が帰ってこないかと心待ちにしていたのだった。
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