22 / 98
彼女の今世
episode22
しおりを挟む
「それじゃあ私達はこっちだから、リティちゃんまたね」
「はい、お母様、お父様また後で」
「リティ、しないと思うけど皇后様に粗相のないようにするんだよ。それと、好きなようにしなさい」
ポンっと私の頭を撫でて両親は他の貴族の所へと行ってしまった。
私は笑顔で二人を見送り、まず最初に皇后様の元へ挨拶に伺う。
そこに居たのは当たり前だが、皇后様以外にもう一人。
「こんにちは。本日はお招きいただきありがとうございます。アリリエット公爵家長女、リーティア・アリリエットです」
無意識に震える手を隠し、挨拶の言葉と共にドレスを摘んでカーテシーをする。
「こんにちは。アリリエット公爵令嬢、来てくれてありがとう。こっちにいるのが息子のアルバートよ」
(大丈夫、今世では無関係。怯えることは無いわ)
なのに────皇后陛下からその名前が出ると前世がフラッシュバックし、緊張で鼓動が大きな音を立てる。
ドクンドクンとこれまでで一番音を立てる鼓動を沈める為、瞳を一旦閉じて深呼吸する。
───私は平穏な日々を送りたい。前世と同じ轍は踏まない。
そう思いながら、様子を窺うと殿下は私を訝しげにジーッと見詰めていた。アルバート殿下の澄んだ瞳が、こちらに向けられるのは覚悟はしてきたけどやはり怖い。
「アルバート?」
「母上失礼しました。リーティア嬢初めまして」
それもつかの間、殿下はすぐ余所行きの笑顔を見せた。
形式上だとしても、どれほど話をしたくない人だとしても、挨拶をされたら返さなければいけない。こちらも強ばる顔に無理やり笑顔を貼り付けて再び挨拶をする。
「初めましてアルバート殿下。お会いすることができて光栄でございます」
「そんなに畏まらなくて結構よ。アルバートと仲良くしてね? それと茶会、楽しんでくれると嬉しいわ」
「お気遣いありがとうございます。それでは他にも皇后陛下とアルバート殿下に挨拶に伺う方がいらっしゃいますので、御前失礼致します」
震えそうになる声を必死に隠し、アルバート殿下の返事の代わりに皇后陛下のお言葉を頂くと、私はすぐさま退いた。
これであとは目立たずにしていれば大丈夫なはずだと自分に言い聞かせ、指定された席に座りカタカタと小刻みに震えている手を宥める。
程なくして座った時には空席が目立っていたテーブルも人で埋まり、お茶会が始まった。
私は差し当たりもない話をしながら、ふと一瞬殿下の座っている席を見た。そこには令嬢達で人だかりができていた。
(……それほどまでに皆、皇后の座が欲しいのね。まあ皇后にはレリーナがなるから結局はなれないのだけど)
「リーティア様は殿下の所に行かないのですか?」
「え? あぁ別に私は大丈夫です」
集団の山を見ていた私はすぐさま視線を戻して、話しかけてきた令嬢を見る。
「何故です? ここで言うのもあれですが、上手く婚約者の座に座れれば未来の皇后ですのよ?」
後半は声を潜めて尋ねてきた令嬢の言葉に一瞬息が詰まる。
「何故って……殿下の婚約者は私には荷が重いのです。きっと適任の方がいらっしゃいますから」
「そうですか」
奇妙なモノを見たような視線を注がれる。
「少し席を立ちますね。失礼します」
居心地が悪くなった私は、少し周りを歩くことにした。別に最初の挨拶は終わらせたのだし、少しくらい周りを見て歩いても問題ないだろう。
辺りを見ると他の子も席を立ち、思い思いに歩いていたりするし。
お茶会は庭園で開かれているので、会場となっている場から少し離れた場所を散策する。
「うわぁ綺麗!」
今咲き盛りのコスモスが視界いっぱいに広がっており、思わず感嘆の声を出してしまう。
「凄い! 凄い! ん?」
令嬢としては窘められるであろう程はしゃいでしまった私はブレスレットが仄かに光っていることに気がついた。
「リティ、今日はお茶会の日でしょ? なのになんでこんな端っこで花を見てはしゃいでいるの?」
ノルン様は上から降りてきた。
「お久しぶりです。お茶会は居心地が悪くて抜けてきてしまいました。それと、ここにいて大丈夫なのですか? 誰かに見られたら……」
「あらそうなの? アルバートが居たら抜けて来るのもわかるわ~。あと、見られるとかは心配無用よ。リティ以外の人間に私は見えないようになっているから」
「そうですか」
殿下は別に令嬢達の山で見えていないし、見えなければ大丈夫。だが周りの令嬢の奇妙なモノを見た視線が居心地悪くて抜けてきたとは言えないので、ノルン様の勘違いはそのままにすることにした。
「それよりも聞いて! モルスがね? 仕事を増やすのよ」
「それは……何かモルス様にもお考えがあるのではないでしょうか?」
「…………」
「ノルン様?」
「いや、分かってるのよ? 分かってるの。今の時期は一年で最も多忙な時期だって! 仕事増えるのも致し方がないって!」
「分かっているのなら我慢するしかないのでは……?」
「だってモルス、死神のくせに鎌だけじゃなくて頭から角が……ヤバっ」
何かを察知したノルン様は私の後ろに隠れようとしたが時すでに遅し、あっこれ前回も……と私が思っている途中に呆気なくノルン様はモルス様に捕獲された。
「ノルン様…………また仕事を放棄してリティ様の所に……? 前回のように椅子から移動出来ないようにしないとダメですかね」
「また捕まった……」
「ノルン様の思考回路は分かりやすすぎなんですよ。逃亡する場所の見当は大方つきます」
鎌を片手に握っているモルス様は、ガックリしているノルン様の襟を掴んでいる。これではどっちが主でどっちが従者なのか分からない。
「お仕事、終わりましたらまた会いに来てください。いつでも私は歓迎しますので。ぜひモルス様も」
笑いながらモルス様とノルン様に伝え、彼らが飛び立つのを私は小さく手を振りながら見送った。
「はい、お母様、お父様また後で」
「リティ、しないと思うけど皇后様に粗相のないようにするんだよ。それと、好きなようにしなさい」
ポンっと私の頭を撫でて両親は他の貴族の所へと行ってしまった。
私は笑顔で二人を見送り、まず最初に皇后様の元へ挨拶に伺う。
そこに居たのは当たり前だが、皇后様以外にもう一人。
「こんにちは。本日はお招きいただきありがとうございます。アリリエット公爵家長女、リーティア・アリリエットです」
無意識に震える手を隠し、挨拶の言葉と共にドレスを摘んでカーテシーをする。
「こんにちは。アリリエット公爵令嬢、来てくれてありがとう。こっちにいるのが息子のアルバートよ」
(大丈夫、今世では無関係。怯えることは無いわ)
なのに────皇后陛下からその名前が出ると前世がフラッシュバックし、緊張で鼓動が大きな音を立てる。
ドクンドクンとこれまでで一番音を立てる鼓動を沈める為、瞳を一旦閉じて深呼吸する。
───私は平穏な日々を送りたい。前世と同じ轍は踏まない。
そう思いながら、様子を窺うと殿下は私を訝しげにジーッと見詰めていた。アルバート殿下の澄んだ瞳が、こちらに向けられるのは覚悟はしてきたけどやはり怖い。
「アルバート?」
「母上失礼しました。リーティア嬢初めまして」
それもつかの間、殿下はすぐ余所行きの笑顔を見せた。
形式上だとしても、どれほど話をしたくない人だとしても、挨拶をされたら返さなければいけない。こちらも強ばる顔に無理やり笑顔を貼り付けて再び挨拶をする。
「初めましてアルバート殿下。お会いすることができて光栄でございます」
「そんなに畏まらなくて結構よ。アルバートと仲良くしてね? それと茶会、楽しんでくれると嬉しいわ」
「お気遣いありがとうございます。それでは他にも皇后陛下とアルバート殿下に挨拶に伺う方がいらっしゃいますので、御前失礼致します」
震えそうになる声を必死に隠し、アルバート殿下の返事の代わりに皇后陛下のお言葉を頂くと、私はすぐさま退いた。
これであとは目立たずにしていれば大丈夫なはずだと自分に言い聞かせ、指定された席に座りカタカタと小刻みに震えている手を宥める。
程なくして座った時には空席が目立っていたテーブルも人で埋まり、お茶会が始まった。
私は差し当たりもない話をしながら、ふと一瞬殿下の座っている席を見た。そこには令嬢達で人だかりができていた。
(……それほどまでに皆、皇后の座が欲しいのね。まあ皇后にはレリーナがなるから結局はなれないのだけど)
「リーティア様は殿下の所に行かないのですか?」
「え? あぁ別に私は大丈夫です」
集団の山を見ていた私はすぐさま視線を戻して、話しかけてきた令嬢を見る。
「何故です? ここで言うのもあれですが、上手く婚約者の座に座れれば未来の皇后ですのよ?」
後半は声を潜めて尋ねてきた令嬢の言葉に一瞬息が詰まる。
「何故って……殿下の婚約者は私には荷が重いのです。きっと適任の方がいらっしゃいますから」
「そうですか」
奇妙なモノを見たような視線を注がれる。
「少し席を立ちますね。失礼します」
居心地が悪くなった私は、少し周りを歩くことにした。別に最初の挨拶は終わらせたのだし、少しくらい周りを見て歩いても問題ないだろう。
辺りを見ると他の子も席を立ち、思い思いに歩いていたりするし。
お茶会は庭園で開かれているので、会場となっている場から少し離れた場所を散策する。
「うわぁ綺麗!」
今咲き盛りのコスモスが視界いっぱいに広がっており、思わず感嘆の声を出してしまう。
「凄い! 凄い! ん?」
令嬢としては窘められるであろう程はしゃいでしまった私はブレスレットが仄かに光っていることに気がついた。
「リティ、今日はお茶会の日でしょ? なのになんでこんな端っこで花を見てはしゃいでいるの?」
ノルン様は上から降りてきた。
「お久しぶりです。お茶会は居心地が悪くて抜けてきてしまいました。それと、ここにいて大丈夫なのですか? 誰かに見られたら……」
「あらそうなの? アルバートが居たら抜けて来るのもわかるわ~。あと、見られるとかは心配無用よ。リティ以外の人間に私は見えないようになっているから」
「そうですか」
殿下は別に令嬢達の山で見えていないし、見えなければ大丈夫。だが周りの令嬢の奇妙なモノを見た視線が居心地悪くて抜けてきたとは言えないので、ノルン様の勘違いはそのままにすることにした。
「それよりも聞いて! モルスがね? 仕事を増やすのよ」
「それは……何かモルス様にもお考えがあるのではないでしょうか?」
「…………」
「ノルン様?」
「いや、分かってるのよ? 分かってるの。今の時期は一年で最も多忙な時期だって! 仕事増えるのも致し方がないって!」
「分かっているのなら我慢するしかないのでは……?」
「だってモルス、死神のくせに鎌だけじゃなくて頭から角が……ヤバっ」
何かを察知したノルン様は私の後ろに隠れようとしたが時すでに遅し、あっこれ前回も……と私が思っている途中に呆気なくノルン様はモルス様に捕獲された。
「ノルン様…………また仕事を放棄してリティ様の所に……? 前回のように椅子から移動出来ないようにしないとダメですかね」
「また捕まった……」
「ノルン様の思考回路は分かりやすすぎなんですよ。逃亡する場所の見当は大方つきます」
鎌を片手に握っているモルス様は、ガックリしているノルン様の襟を掴んでいる。これではどっちが主でどっちが従者なのか分からない。
「お仕事、終わりましたらまた会いに来てください。いつでも私は歓迎しますので。ぜひモルス様も」
笑いながらモルス様とノルン様に伝え、彼らが飛び立つのを私は小さく手を振りながら見送った。
229
あなたにおすすめの小説
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです
ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています
高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。
そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。
最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。
何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。
優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる