前世と今世の幸せ

夕香里

文字の大きさ
上 下
20 / 92
彼女の今世

episode20

しおりを挟む
 慌ただしくノルン様とモルス様が帰り、一日が終わった。就寝準備を終え、さあ寝ようと寝台へに向かった時だった。ひらひらと手紙が青い薔薇と共に降ってきた。

「……ノルン様?」

 手紙が上から降ってくる時点で大方誰からなのか予測はつくが、差出人を見ると「ノルン」と記載されていた。

『リティへ
 今日は貴方のところに行けて楽しかったわ! これからもどんどん貴方に会いに行くから覚悟しててね! (サボりがてら)
 それに、前世よりも顔色が良くなってて安心したわ。前世の時は、表情が抜けていて氷のようで怖かったから。
 今は私、サボってた分の書類を捌ききらないと椅子から立ち上がれないよう、モルスに魔法をかけられて死にそうです……ちょっとぐらいサボってもいいと思わない? 人って息抜きしないと無理だと思うの! まあ私人間じゃないけど!』

「ノルン様……これはモルス様に同情するわ」

 初っ端から女神モード(?)全開でクスクスと笑ってしまう。

『モルスが外に出た瞬間を狙って今リティに手紙を書いてます。こういう手紙は何年ぶりかしら……数百年ぶりかな? だからすっごいワクワクしてます。あとモルスにバレないかのスリルも感じてます。
 で、本題です。今日私たちがあげたイヤリングはブレスレットに変化させることが出来るの。七歳でイヤリングはちょっとおかしいかなって……それに重いしね。
 イヤリングに願えばブレスレットに変化するのでお試しあれ!
 あとあと! 私も貴方のことを気にかけているけど、モルスも私と同じくらい気にかけているのを知っておいてください。あの子、無愛想だから他の神様達にも勘違いされてしまうことがあるの。
 本人は気にしてないようだけど、私からしたら良い気分にはならないからね。リティは脅えたり怖がったりしてなかったから大丈夫だと思うけど!
 あっやばいモルス帰ってきた。ニコニコしながら怒ってるわ。モルスは笑いながら怒っている時が一番怖いの。また様子を見にそっちに行くね』

 まるで友人宛のような文体で書かれている。そんな手紙を読み終わると心が暖かくなる。

「ノルン様、貴女のおかげで毎日が楽しいです。全部全部ノルン様のおかげです」

 ここにはノルン様はいないので代わりに青い薔薇に向かって感謝を伝える。

 初めて私に送られてきた私的な手紙の差出人はノルン様。
 心配してくれて気にかけてくれたのもノルン様。
 私の嬉しい事の「初めて」は今のところほとんどノルン様からだ。

 そんなノルン様はこの世界の人々の想像────慈しみ、静かに人間を見守っている姿とはかけ離れている。しかし、私が知っているノルン様の方が親しみ深くて大好きだ。

「こんなに気にかけてくれている。私を見てくれる人がいる。だから今世は幸せになりたい。それがノルン様達への恩返しにもなるから。もうこの時点で十分幸せだけど」

 私は耳に付けていたイヤリングを外す。

 そして願いを込めるとイヤリングは一瞬光に包まれ、光が収束すると雫と月──この世の物とは思えないほど神秘的なブレスレットに変化していた。

 私はブレスレットをサイドテーブルにそっと置いた後、優しく撫でる。

 ブレスレットは、窓から差し込む月光を吸収してより一層その美しさを際立たせる。

 それを見て私は前世の薔薇の栞のように、今世での御守りとして肌身離さず付けることを心に決めたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

元王妃は時間をさかのぼったため、今度は愛してもらえる様に、(殿下は論外)頑張るらしい。

あはははは
恋愛
本日わたくし、ユリア アーベントロートは、処刑されるそうです。 願わくは、来世は愛されて生きてみたいですね。 王妃になるために生まれ、王妃になるための血を吐くような教育にも耐えた、ユリアの真意はなんであっただろう。 わあああぁ  人々の歓声が上がる。そして王は言った。 「皆の者、悪女 ユリア アーベントロートは、処刑された!」 誰も知らない。知っていても誰も理解しない。しようとしない。彼女、ユリアの最後の言葉を。 「わたくしはただ、愛されたかっただけなのです。愛されたいと、思うことは、罪なのですか?愛されているのを見て、うらやましいと思うことは、いけないのですか?」 彼女が求めていたのは、権力でも地位でもなかった。彼女が本当に欲しかったのは、愛だった。

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

【本編完結】婚約を解消したいんじゃないの?!

as
恋愛
伯爵令嬢アーシアは公爵子息カルゼの婚約者。 しかし学園の食堂でカルゼが「アーシアのような性格悪い女とは結婚したくない。」と言っているのを聞き、その場に乗り込んで婚約を解消したつもりだったけどーーー

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

もう尽くして耐えるのは辞めます!!

月居 結深
恋愛
 国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。  婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。  こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?  小説家になろうの方でも公開しています。 2024/08/27  なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...