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番外編
私だけが知っている(4)
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────どうして私や周りが誰一人気が付かなかったのに、レーナはすぐ分かったの?
(そんなの決まってる)
目の前の婚約者は以前、エレーナのことを一目惚れだと言った。
リチャードと違って、エレーナは初めて出会った庭園でのお茶会を鮮明には記憶していない。朧気に会話をした記憶はあるが、内容までは思い出せない。
そのくらい遠い過去なのに、そこからずっと想われていたなんて、今でもまだ信じられない。
しかもエレーナに至っては、恋が芽生えても最初から自覚していた訳ではないのだ。
(そうは言っても、出会ってから私は────)
「何年、一緒に過ごしてきたと言うのですか。リー様と同じくらい形は違えど、ずっと好きで追いかけてましたもん」
〝リチャード殿下〟が出席する行事には参加しなくて良い物も参加して。
剣術大会に出ると知ったら一番見やすい席を探し、視線が合っただけで嬉しくて嬉しくて手を振って。
夜会では挨拶の際に褒めてもらえるよう身支度して。
何をするにもリチャードを気にし、目で追いかけていた。楽しかった思い出も、彼が関わっているものが多い。
それに────
(他にも素晴らしい殿方は居たはずなのに)
思い返せば見目麗しい、秀才だと謳われる人を見かけても特に心が踊る兆しはなく、それよりも彼の笑顔と優しい眼差しが自分に向くことを願っていた。
ふわふわと寝台に付けられたカーテンが風によって揺らめく。
告白してから会う度に性懲りも無く『愛しているよ』と囁く彼も彼だが、自分も自覚してなかっただけで中々の一途らしい。
(だって……ね?)
楽器が弾けるようになってまず最初にお披露目したのも、エレーナがよく話す異性も、指を刺しながら初めて縫った刺繍入りのハンカチやデビュタントのダンスだって。
(ぜんぶリーさまなのですよ)
それだけ一緒に過ごしてきたら、ちょっとの変化でも体調の良し悪しは手に取るように分かるのだ。乙女の恋心から来る観察力を舐めてもらったら困る。
リチャードの額を撫でる己の指には、自分達の関係性を証明する婚約指輪がはまっている。
最初は付け慣れなくて違和感があったが、今では付けていない方が落ち着かない。
その変化にくすぐったいような、思わずジタバタしたくなる気持ちになったのはつい先日のこと。
「大好きですよ。世界で一番」
面と向かって伝えるのはまだ恥ずかしく、一方通行でしか伝えられない。だけど今後歩む人生には余裕があるから、何度も直接伝えられるから。今回ばかりはこのような形式で一方的に告げる事を、どうか見逃して欲しい。
「──愛してます。早く良くなって、これを機にきちんとお休みくださいね」
すると額を撫でていた手首を掴まれて──
「!?」
世界が反転し、寝台の方へ引き寄せられた。息が詰まりそうになり、何が起こったのか直ぐには把握出来ない。
(あれ、私何で)
目の前は白いシャツ。布越しに体温が伝わってきて、ようやく理解する。
(リー様の胸の中だ)
見上げれば瞳を閉じた端正な顔があった。けぶるような睫毛が小刻みに揺れている。
一瞬狸寝入りでエレーナの発言を聞かれたのかと思ったが、どうもそうではないらしい。
だが次の瞬間、リチャードはうっすら瞼を開けて紺碧の澄みきった瞳がエレーナを視認する。
「……リーさま?」
呼べば、彼はくしゃりと顔を歪ませた。
それは一度も見たことがない表情だった。
「レーナ」
エレーナを抱き込み、肩の辺りに顔を埋めて、震える声色でか細く呟く。
「──死なないでレーナ」
泣きそうな──切実な願いのこもった言葉はエレーナの心臓をぎゅっと締め付けるには十分だった。
(熱で……朦朧としておられるのね)
夢の狭間で。もう終わった過去のことが目の前で起こっていると勘違いしているのだろう。
生死をさまよったことは過去に一度だけ。狩猟大会で巻き込まれたあの事件。
エレーナはミュリエルとギルベルトから少しだけその時の彼の様子を教えてもらっていた。
(ずっと私のそばを離れようとしなかったって)
食事をとるのも忘れて、夜も寝ずに、手を握ったまま目が覚めるのを待っていたと。
リチャードの表情は分からない。ただ、よりいっそうエレーナを抱きしめる腕に力がこもる。
「…………私はレーナがいないと生きていけないんだ」
(まあ)
弱音が混ざった告白に目を見開いた。
(私がいないと生きていけないですって? そんなまさか)
魘されて冗談を──とは言いきれなかった。それだけ真剣な声だったのだ。
「レーナが巻き込まれたのは私の落ち度で…………目を覚ますなら何でも差し出すから。神よ、お願いだ」
リチャードは震え、弱々しい声が──漏れる。
「貴方の御許に私の最愛を連れていかないでくれ」
自身の半身がもぎ取られるかのように。
「……行ったら駄目だ……まだ駄目だよ。もう一度、お願いだから私に……レーナの笑った顔と美しい瞳を見せて」
苦しそうに唇を震わせて。
声に滲む憔悴と切実さ。もう終わったことで、どうしようもないのに、聞こえてくる度エレーナの心はいっぱいいっぱいになってしまう。
(全く違う)
これまで自分が見てきたリチャードは、いつもちょっと余裕があって、優しくて、困っていたら助けてくれる兄のような姿だけ。
婚約者になって兄という印象は消えたが、それ以外は変わらない。
懇願も、歪んだ顔も、震えている姿も。
──エレーナの知っているリチャードではない。
だから瞳を開けて涙声で抱きしめられたあの日も、存在を確認するように、感情のままにぎゅうぎゅう抱きつく彼に驚いた。
(私が思っていたよりももっとずっと)
巻き込んでしまったという罪悪感も相まって、リチャードの心には悔恨が深く根を張っていたのだ。
それを今、エレーナは知った。
しばらく彼の腕の中で大人しくしていたが、抱きしめる力は緩まない。
(無理やり脱出することも出来るけれど)
あんな寝言を聞いてしまったら。彼が起きるまで動かない方が良い気がして。
この状態があまり良くないことだと思いつつも抱きつかれたままになる。
(どうしたら悪夢から解放してあげられるかしら)
再びリチャードを見上げる。熱に魘され険しい顔つきで、額から汗がつたい落ちる。
いてもたってもいられずポケットに入っていたハンカチで汗を拭い、そうっと彼の頬に触れる。ぴくりと頬が動き、ゆるりと瞳が開く。
その目は焦点が合っているようで合っていない。
そうして譫言を繰り返す。
「──離れていかないで。何も、伝えきれていないのに」
「安心してください、離れる気はありませんから。これからもずっとリー様の傍におります」
優しく赤子をあやすように。
「だからリー様もご覚悟くださいね。私、嫌がられても死者の世界まで意地でもついて行きますから。これからの人生をあなたに捧げますよ」
リチャードの隣がエレーナの居場所。これが変わることは無い。
ひっそりと誓えば、朦朧としたリチャードに声が届いたのか表情が和らぐ。
「それ……は良い、ね。死んでも、会えるのであれば、悲しまなくて……すむ」
それっきり寝言は止まる。
トクントクンと規則正しい心音が聞こえてくる。風通しを良くしようと開けていた窓から、ボーンボーンと鐘の音が時刻を知らせる。
(あと一時間くらいで人が来るかな)
ほとんど形骸化しているが、王宮では文官達の就業時間が決まっている。その時間を超えると残業となり、特別手当が支給される。とはいえ、文官の人数と仕事量が合っていないので、王宮に出仕する者はほとんど就業時間を超えて仕事をこなしていた。
(きっと最初に入ってくるのはミュリエル様か殿下付きの侍女かギルベルト)
ならくっついて寝ていても何とかなるだろう。一番可能性として高いのは事情を把握し、迎えに来てくれると言ったギルベルトだから尚更。
この時点でエレーナは寝台から出る案を追い払った。何か文句や説教を受けたら耳から耳へ聞き流そう。
それに、一緒に寝ているのが婚約者なのだ。別の男ではないのだ。怒られたとしても、こってり搾られはしないはず。
(最悪、リー様が求めてきたって全部彼のせいにしてしまおう──寝惚けていたとしても事実だしね)
そう考えて、リチャードに抱きつかれたままエレーナも微睡みの中へ誘われていった。
(そんなの決まってる)
目の前の婚約者は以前、エレーナのことを一目惚れだと言った。
リチャードと違って、エレーナは初めて出会った庭園でのお茶会を鮮明には記憶していない。朧気に会話をした記憶はあるが、内容までは思い出せない。
そのくらい遠い過去なのに、そこからずっと想われていたなんて、今でもまだ信じられない。
しかもエレーナに至っては、恋が芽生えても最初から自覚していた訳ではないのだ。
(そうは言っても、出会ってから私は────)
「何年、一緒に過ごしてきたと言うのですか。リー様と同じくらい形は違えど、ずっと好きで追いかけてましたもん」
〝リチャード殿下〟が出席する行事には参加しなくて良い物も参加して。
剣術大会に出ると知ったら一番見やすい席を探し、視線が合っただけで嬉しくて嬉しくて手を振って。
夜会では挨拶の際に褒めてもらえるよう身支度して。
何をするにもリチャードを気にし、目で追いかけていた。楽しかった思い出も、彼が関わっているものが多い。
それに────
(他にも素晴らしい殿方は居たはずなのに)
思い返せば見目麗しい、秀才だと謳われる人を見かけても特に心が踊る兆しはなく、それよりも彼の笑顔と優しい眼差しが自分に向くことを願っていた。
ふわふわと寝台に付けられたカーテンが風によって揺らめく。
告白してから会う度に性懲りも無く『愛しているよ』と囁く彼も彼だが、自分も自覚してなかっただけで中々の一途らしい。
(だって……ね?)
楽器が弾けるようになってまず最初にお披露目したのも、エレーナがよく話す異性も、指を刺しながら初めて縫った刺繍入りのハンカチやデビュタントのダンスだって。
(ぜんぶリーさまなのですよ)
それだけ一緒に過ごしてきたら、ちょっとの変化でも体調の良し悪しは手に取るように分かるのだ。乙女の恋心から来る観察力を舐めてもらったら困る。
リチャードの額を撫でる己の指には、自分達の関係性を証明する婚約指輪がはまっている。
最初は付け慣れなくて違和感があったが、今では付けていない方が落ち着かない。
その変化にくすぐったいような、思わずジタバタしたくなる気持ちになったのはつい先日のこと。
「大好きですよ。世界で一番」
面と向かって伝えるのはまだ恥ずかしく、一方通行でしか伝えられない。だけど今後歩む人生には余裕があるから、何度も直接伝えられるから。今回ばかりはこのような形式で一方的に告げる事を、どうか見逃して欲しい。
「──愛してます。早く良くなって、これを機にきちんとお休みくださいね」
すると額を撫でていた手首を掴まれて──
「!?」
世界が反転し、寝台の方へ引き寄せられた。息が詰まりそうになり、何が起こったのか直ぐには把握出来ない。
(あれ、私何で)
目の前は白いシャツ。布越しに体温が伝わってきて、ようやく理解する。
(リー様の胸の中だ)
見上げれば瞳を閉じた端正な顔があった。けぶるような睫毛が小刻みに揺れている。
一瞬狸寝入りでエレーナの発言を聞かれたのかと思ったが、どうもそうではないらしい。
だが次の瞬間、リチャードはうっすら瞼を開けて紺碧の澄みきった瞳がエレーナを視認する。
「……リーさま?」
呼べば、彼はくしゃりと顔を歪ませた。
それは一度も見たことがない表情だった。
「レーナ」
エレーナを抱き込み、肩の辺りに顔を埋めて、震える声色でか細く呟く。
「──死なないでレーナ」
泣きそうな──切実な願いのこもった言葉はエレーナの心臓をぎゅっと締め付けるには十分だった。
(熱で……朦朧としておられるのね)
夢の狭間で。もう終わった過去のことが目の前で起こっていると勘違いしているのだろう。
生死をさまよったことは過去に一度だけ。狩猟大会で巻き込まれたあの事件。
エレーナはミュリエルとギルベルトから少しだけその時の彼の様子を教えてもらっていた。
(ずっと私のそばを離れようとしなかったって)
食事をとるのも忘れて、夜も寝ずに、手を握ったまま目が覚めるのを待っていたと。
リチャードの表情は分からない。ただ、よりいっそうエレーナを抱きしめる腕に力がこもる。
「…………私はレーナがいないと生きていけないんだ」
(まあ)
弱音が混ざった告白に目を見開いた。
(私がいないと生きていけないですって? そんなまさか)
魘されて冗談を──とは言いきれなかった。それだけ真剣な声だったのだ。
「レーナが巻き込まれたのは私の落ち度で…………目を覚ますなら何でも差し出すから。神よ、お願いだ」
リチャードは震え、弱々しい声が──漏れる。
「貴方の御許に私の最愛を連れていかないでくれ」
自身の半身がもぎ取られるかのように。
「……行ったら駄目だ……まだ駄目だよ。もう一度、お願いだから私に……レーナの笑った顔と美しい瞳を見せて」
苦しそうに唇を震わせて。
声に滲む憔悴と切実さ。もう終わったことで、どうしようもないのに、聞こえてくる度エレーナの心はいっぱいいっぱいになってしまう。
(全く違う)
これまで自分が見てきたリチャードは、いつもちょっと余裕があって、優しくて、困っていたら助けてくれる兄のような姿だけ。
婚約者になって兄という印象は消えたが、それ以外は変わらない。
懇願も、歪んだ顔も、震えている姿も。
──エレーナの知っているリチャードではない。
だから瞳を開けて涙声で抱きしめられたあの日も、存在を確認するように、感情のままにぎゅうぎゅう抱きつく彼に驚いた。
(私が思っていたよりももっとずっと)
巻き込んでしまったという罪悪感も相まって、リチャードの心には悔恨が深く根を張っていたのだ。
それを今、エレーナは知った。
しばらく彼の腕の中で大人しくしていたが、抱きしめる力は緩まない。
(無理やり脱出することも出来るけれど)
あんな寝言を聞いてしまったら。彼が起きるまで動かない方が良い気がして。
この状態があまり良くないことだと思いつつも抱きつかれたままになる。
(どうしたら悪夢から解放してあげられるかしら)
再びリチャードを見上げる。熱に魘され険しい顔つきで、額から汗がつたい落ちる。
いてもたってもいられずポケットに入っていたハンカチで汗を拭い、そうっと彼の頬に触れる。ぴくりと頬が動き、ゆるりと瞳が開く。
その目は焦点が合っているようで合っていない。
そうして譫言を繰り返す。
「──離れていかないで。何も、伝えきれていないのに」
「安心してください、離れる気はありませんから。これからもずっとリー様の傍におります」
優しく赤子をあやすように。
「だからリー様もご覚悟くださいね。私、嫌がられても死者の世界まで意地でもついて行きますから。これからの人生をあなたに捧げますよ」
リチャードの隣がエレーナの居場所。これが変わることは無い。
ひっそりと誓えば、朦朧としたリチャードに声が届いたのか表情が和らぐ。
「それ……は良い、ね。死んでも、会えるのであれば、悲しまなくて……すむ」
それっきり寝言は止まる。
トクントクンと規則正しい心音が聞こえてくる。風通しを良くしようと開けていた窓から、ボーンボーンと鐘の音が時刻を知らせる。
(あと一時間くらいで人が来るかな)
ほとんど形骸化しているが、王宮では文官達の就業時間が決まっている。その時間を超えると残業となり、特別手当が支給される。とはいえ、文官の人数と仕事量が合っていないので、王宮に出仕する者はほとんど就業時間を超えて仕事をこなしていた。
(きっと最初に入ってくるのはミュリエル様か殿下付きの侍女かギルベルト)
ならくっついて寝ていても何とかなるだろう。一番可能性として高いのは事情を把握し、迎えに来てくれると言ったギルベルトだから尚更。
この時点でエレーナは寝台から出る案を追い払った。何か文句や説教を受けたら耳から耳へ聞き流そう。
それに、一緒に寝ているのが婚約者なのだ。別の男ではないのだ。怒られたとしても、こってり搾られはしないはず。
(最悪、リー様が求めてきたって全部彼のせいにしてしまおう──寝惚けていたとしても事実だしね)
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