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番外編
私だけが知っている(3)
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「何ぼーっとしているの? 早くリー様を寝台に寝かせてあげて。ソファはあまり体に良くないわ」
「私が?」
「あなた以外に誰がいるというの?」
(わざわざほかの場所にいる騎士を連れてくるより、側近のギルベルトが運んだ方がいいわ)
「運んでもいいけど、一度殿下に聞いた方がいい」
「…………起きるかしら」
(先程よりも顔色が悪いのよね)
心做しか息も荒い。エレーナはダメ元でリチャードに話しかける。もしかしたら彼は起きて、自分で寝台に移動するかもしれない。
「リー様」
耳元で囁くと、今回はぴくりと頭が動いた。微かに瞳が開く。
「体がだるいと思いますが、ご移動できますか? ソファは寝心地が悪いですし、他の者が看病する際にやりにくいですから。動けないようならギルベルトがリー様を運びます」
「………………ぜったいに、運ばれるのだけは嫌だ」
数秒遅れてリチャードは起き上がった。頭が痛いのか、顔を顰めて寝台の方に移動する。エレーナとギルベルトは両側から支え、無事に寝台に横になった。
エレーナはシーツを手繰り寄せて腕に抱え込み、空気を含ませてから彼の上にかけてあげた。
「私、王宮医を呼んでくるわ。ギルベルトはリー様のそばに居てあげて」
パタパタと音を立てて医務室へと急ぎ、王宮医を部屋に連れてくる。その際、偶然近くにいた王妃付きの侍女にリチャードが熱を出して倒れた事を伝えて欲しいと言付ける。
「今のところ熱と頭痛以外の症状が出ていませんから過労からくるものでしょうね」
リチャードが眠った状態で診察した王宮医はそう診断した。
もっと重い病だったらと、悪い想像をしてしまったのでとりあえずは安心だ。
ゆっくり寝て体調を取り戻せば三日ほどで完全回復するだろう。
ほっと胸に手を当てて安堵しているエレーナにちらりと目をやり、王宮医は話を続ける。
「安心しているところ申し上げにくいのですが、殿下の場合慢性的な睡眠不足と疲労がたたって通常よりも高熱を出されているようです。本来ならここまで熱は上がりません。ご無理をなさっておられたようですね」
「!」
一変してエレーナはギルベルトに厳しい視線を送る。
「だから私を睨まないで。矛先は殿下に向けて」
「殿下には体調が回復してからしつこいくらい伝えるわ。今はギルベルトに言いたいの」
エレーナはギルベルトの脇腹をつねる。これはエリナから聞いた彼の弱点だった。
「悪かったって! 今度からは体調にも目を配るよ。気づかないならまだしも、気づいているのに気遣わない阿呆で最低な臣下じゃないから!」
あっさりとギルベルトは折れた。
言い争っている間に王宮医は薬の調合を終える。
「殿下、薬ですお飲みください」
王宮医がリチャードの肩を叩くと微かに瞳を開けた。
「くすり……か?」
「はい。解熱作用のある薬草を煎じ、粉末にして、再度水に溶かしたものです。これで高熱は治まるはずですよ」
どろどろとした緑の液体。見るからに美味しそうではないが、リチャードは顔色を変えずに飲み干した。
その飲みっぷりに感心しつつ、エレーナの心はざわめく。
「先生、薬の量……多すぎではありませんか?」
自分が熱を出した時の二倍の分量はあった。薬は便利だが、分量を間違えれば毒にもなりうる。こんな素人のエレーナより専門家である王宮医の方が理解していると知っていても、問わずにはいられなかった。
「エレーナ様、殿下は他の者と違って毒の耐性がおありです。毒の材料と薬の材料は時として同じ植物が使用されるので、通常と同じ量では効きにくいのですよ」
「…………慣れるのも弊害があるのですね」
「そうですね。ただ、悪い点よりも良い点の方が多いですから。特に殿下の場合は」
では、と王宮医は診察を終えて医務室に戻っていく。
「じゃあ私も残ってる書類捌いてくるから。また迎えに来るよ」
「うん」
後を追うようにギルベルトも持ち場──執務室に戻ってしまう。
ぽつんと一人部屋に取り残されたエレーナは、寝台の横に椅子を持っていき、そこに座った。
そしてそっとリチャードの額を撫でた。
(男の人なのに綺麗な肌)
ハリとツヤがあって、毎日時間をかけて手入れしているエレーナの肌よりもスベスベしていそうだ。
ようやくひと息つけたエレーナは、リチャードが倒れ込む寸前──途切れ途切れになりながら言った言葉を思い出す。
「私が?」
「あなた以外に誰がいるというの?」
(わざわざほかの場所にいる騎士を連れてくるより、側近のギルベルトが運んだ方がいいわ)
「運んでもいいけど、一度殿下に聞いた方がいい」
「…………起きるかしら」
(先程よりも顔色が悪いのよね)
心做しか息も荒い。エレーナはダメ元でリチャードに話しかける。もしかしたら彼は起きて、自分で寝台に移動するかもしれない。
「リー様」
耳元で囁くと、今回はぴくりと頭が動いた。微かに瞳が開く。
「体がだるいと思いますが、ご移動できますか? ソファは寝心地が悪いですし、他の者が看病する際にやりにくいですから。動けないようならギルベルトがリー様を運びます」
「………………ぜったいに、運ばれるのだけは嫌だ」
数秒遅れてリチャードは起き上がった。頭が痛いのか、顔を顰めて寝台の方に移動する。エレーナとギルベルトは両側から支え、無事に寝台に横になった。
エレーナはシーツを手繰り寄せて腕に抱え込み、空気を含ませてから彼の上にかけてあげた。
「私、王宮医を呼んでくるわ。ギルベルトはリー様のそばに居てあげて」
パタパタと音を立てて医務室へと急ぎ、王宮医を部屋に連れてくる。その際、偶然近くにいた王妃付きの侍女にリチャードが熱を出して倒れた事を伝えて欲しいと言付ける。
「今のところ熱と頭痛以外の症状が出ていませんから過労からくるものでしょうね」
リチャードが眠った状態で診察した王宮医はそう診断した。
もっと重い病だったらと、悪い想像をしてしまったのでとりあえずは安心だ。
ゆっくり寝て体調を取り戻せば三日ほどで完全回復するだろう。
ほっと胸に手を当てて安堵しているエレーナにちらりと目をやり、王宮医は話を続ける。
「安心しているところ申し上げにくいのですが、殿下の場合慢性的な睡眠不足と疲労がたたって通常よりも高熱を出されているようです。本来ならここまで熱は上がりません。ご無理をなさっておられたようですね」
「!」
一変してエレーナはギルベルトに厳しい視線を送る。
「だから私を睨まないで。矛先は殿下に向けて」
「殿下には体調が回復してからしつこいくらい伝えるわ。今はギルベルトに言いたいの」
エレーナはギルベルトの脇腹をつねる。これはエリナから聞いた彼の弱点だった。
「悪かったって! 今度からは体調にも目を配るよ。気づかないならまだしも、気づいているのに気遣わない阿呆で最低な臣下じゃないから!」
あっさりとギルベルトは折れた。
言い争っている間に王宮医は薬の調合を終える。
「殿下、薬ですお飲みください」
王宮医がリチャードの肩を叩くと微かに瞳を開けた。
「くすり……か?」
「はい。解熱作用のある薬草を煎じ、粉末にして、再度水に溶かしたものです。これで高熱は治まるはずですよ」
どろどろとした緑の液体。見るからに美味しそうではないが、リチャードは顔色を変えずに飲み干した。
その飲みっぷりに感心しつつ、エレーナの心はざわめく。
「先生、薬の量……多すぎではありませんか?」
自分が熱を出した時の二倍の分量はあった。薬は便利だが、分量を間違えれば毒にもなりうる。こんな素人のエレーナより専門家である王宮医の方が理解していると知っていても、問わずにはいられなかった。
「エレーナ様、殿下は他の者と違って毒の耐性がおありです。毒の材料と薬の材料は時として同じ植物が使用されるので、通常と同じ量では効きにくいのですよ」
「…………慣れるのも弊害があるのですね」
「そうですね。ただ、悪い点よりも良い点の方が多いですから。特に殿下の場合は」
では、と王宮医は診察を終えて医務室に戻っていく。
「じゃあ私も残ってる書類捌いてくるから。また迎えに来るよ」
「うん」
後を追うようにギルベルトも持ち場──執務室に戻ってしまう。
ぽつんと一人部屋に取り残されたエレーナは、寝台の横に椅子を持っていき、そこに座った。
そしてそっとリチャードの額を撫でた。
(男の人なのに綺麗な肌)
ハリとツヤがあって、毎日時間をかけて手入れしているエレーナの肌よりもスベスベしていそうだ。
ようやくひと息つけたエレーナは、リチャードが倒れ込む寸前──途切れ途切れになりながら言った言葉を思い出す。
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