49 / 150
目覚めると
しおりを挟む
エレーナの意識が戻ったのは夜のことだった。
はっと目が覚めたのは自室の寝台の上。天蓋に描かれた星座が目に入った。横に頭をずらせば、ずっと横に控えていたのか、リリアンが座りながら眠っていた。
近くにある燭台の炎が揺れる。どうやら明かりはそれだけのようだ。きっともっと明るくしたらエレーナが起きてしまうからと気を使ったのだろう。
「それでも寝ているのに火をつけたままなんて危ないわ」
リリアンは几帳面な性格だ。普段ならこんなミスは犯さない。おそらく寝るつもりがなかったからつけたままだったのだろう。まあ寝ているのでなんとも言えないが。
ふっと軽く息を吹きかけて火を消す。煙はすぐにたち消えた。薄い闇に包まれた室内は今のエレーナにとって心地いい。
上半身を起こして状況把握をする。あれほど熱かった額も頬も、孕んだ熱は消えている。
意識を手放している間に着替えさせてくれたのか、服装はネグリジェに変わっていた。
「訳が分からない……ほんとに」
サイドテーブルに置かれているテディベアを抱きしめて顔を埋める。これは10歳の誕生日にリチャード殿下から頂いたものだった。その時からいつも寝台の隣に置いていて、一緒に寝ることもあった。
何度か洗っているのでくたびれてきているが、今でも大切にしている宝物の1つだ。
「心臓がもたないわよ。はちきれちゃう」
おかげで意識を手放してしまった。
でも、悪い気はしなかった。周りに見られて恥ずかしかったけど嫌だとは思わなかった。
殿下は他の人にもこんなことしてるのだろうか。頬にキスするのは親しい者に対する挨拶でもある。だから親しい人だとは思って……くれていると……。
意味もなく寝台から外を眺めると、満天の星が空を彩り、夜空を創っていた。
「んっ」
「おはようリリアン。目が覚めた?」
「お嬢様……? うわっ暗い! 何で?!」
リリアンは仰け反る。
「あなた寝ていたわ。それなのに火がついていたから消したの」
「……お嬢様が起きたのなら消す必要ないのではございませんか?」
「あっ! それもそうね」
危ないから消してしまえと思ったけど、私が起きているのなら必要なかった。
「お嬢様昼のことは──」
「何も言わないで」
言葉を制する。彼女の言わんとすることは聞かなくても分かる。どうしてなのか知らないが、自分の事のように嬉しそうだった彼女のことだ。余計なことを言ってくるに違いない。
「私の意思は変わらないわ。ヴォルデ侯爵様と婚約する」
再度告げればリリアンは口を固く閉ざした。
「では事務報告のみに。当主様がデュークさんと奥様に説教を受けられています。なので今はお会いになれません」
──まあ当たり前ね。あれで怒られないはずがないわ
お母様は笑顔で、デュークは顔に青筋を立てて、叱りつけている2人の姿が容易に想像できる。
「お嬢様には今から3つの選択肢があります。ひとつ、夕食を食べるか食べないか。ふたつ、入浴するか。みっつ、このまま寝るか」
3本の指を立てられる。置き時計を見れば、既にいつもなら寝ている時間だった。
今から入浴すれば夜中になってしまう。それは美容に悪影響だ。加えてこの時間から夕食を食べるのも……。
「寝る」
「かしこまりました。では就寝の準備のみで」
リリアンは衣装部屋に続くドアを開けた。3分程で出てきて、エレーナに椅子に座るよう促した。
霧吹きでエレーナの髪にミントの香油を溶かした水を吹きかける。そして優しく櫛で梳かす。
絡まった髪がなくなり、艶が出てきたら緩くまとめて右下で結わえる。こうすることで、寝癖がつくのを抑えているのだ。
「できました」
「ありがとう」
寝台に戻ってシーツを手繰り寄せる。枕の所に置いてあったテディベアをサイドテーブルに戻した。
「おやすみリリアン」
「おやすみなさいませお嬢様」
出て行くリリアンにひらひらと手を振り、見送ったあと、エレーナは瞳を閉じた。
はっと目が覚めたのは自室の寝台の上。天蓋に描かれた星座が目に入った。横に頭をずらせば、ずっと横に控えていたのか、リリアンが座りながら眠っていた。
近くにある燭台の炎が揺れる。どうやら明かりはそれだけのようだ。きっともっと明るくしたらエレーナが起きてしまうからと気を使ったのだろう。
「それでも寝ているのに火をつけたままなんて危ないわ」
リリアンは几帳面な性格だ。普段ならこんなミスは犯さない。おそらく寝るつもりがなかったからつけたままだったのだろう。まあ寝ているのでなんとも言えないが。
ふっと軽く息を吹きかけて火を消す。煙はすぐにたち消えた。薄い闇に包まれた室内は今のエレーナにとって心地いい。
上半身を起こして状況把握をする。あれほど熱かった額も頬も、孕んだ熱は消えている。
意識を手放している間に着替えさせてくれたのか、服装はネグリジェに変わっていた。
「訳が分からない……ほんとに」
サイドテーブルに置かれているテディベアを抱きしめて顔を埋める。これは10歳の誕生日にリチャード殿下から頂いたものだった。その時からいつも寝台の隣に置いていて、一緒に寝ることもあった。
何度か洗っているのでくたびれてきているが、今でも大切にしている宝物の1つだ。
「心臓がもたないわよ。はちきれちゃう」
おかげで意識を手放してしまった。
でも、悪い気はしなかった。周りに見られて恥ずかしかったけど嫌だとは思わなかった。
殿下は他の人にもこんなことしてるのだろうか。頬にキスするのは親しい者に対する挨拶でもある。だから親しい人だとは思って……くれていると……。
意味もなく寝台から外を眺めると、満天の星が空を彩り、夜空を創っていた。
「んっ」
「おはようリリアン。目が覚めた?」
「お嬢様……? うわっ暗い! 何で?!」
リリアンは仰け反る。
「あなた寝ていたわ。それなのに火がついていたから消したの」
「……お嬢様が起きたのなら消す必要ないのではございませんか?」
「あっ! それもそうね」
危ないから消してしまえと思ったけど、私が起きているのなら必要なかった。
「お嬢様昼のことは──」
「何も言わないで」
言葉を制する。彼女の言わんとすることは聞かなくても分かる。どうしてなのか知らないが、自分の事のように嬉しそうだった彼女のことだ。余計なことを言ってくるに違いない。
「私の意思は変わらないわ。ヴォルデ侯爵様と婚約する」
再度告げればリリアンは口を固く閉ざした。
「では事務報告のみに。当主様がデュークさんと奥様に説教を受けられています。なので今はお会いになれません」
──まあ当たり前ね。あれで怒られないはずがないわ
お母様は笑顔で、デュークは顔に青筋を立てて、叱りつけている2人の姿が容易に想像できる。
「お嬢様には今から3つの選択肢があります。ひとつ、夕食を食べるか食べないか。ふたつ、入浴するか。みっつ、このまま寝るか」
3本の指を立てられる。置き時計を見れば、既にいつもなら寝ている時間だった。
今から入浴すれば夜中になってしまう。それは美容に悪影響だ。加えてこの時間から夕食を食べるのも……。
「寝る」
「かしこまりました。では就寝の準備のみで」
リリアンは衣装部屋に続くドアを開けた。3分程で出てきて、エレーナに椅子に座るよう促した。
霧吹きでエレーナの髪にミントの香油を溶かした水を吹きかける。そして優しく櫛で梳かす。
絡まった髪がなくなり、艶が出てきたら緩くまとめて右下で結わえる。こうすることで、寝癖がつくのを抑えているのだ。
「できました」
「ありがとう」
寝台に戻ってシーツを手繰り寄せる。枕の所に置いてあったテディベアをサイドテーブルに戻した。
「おやすみリリアン」
「おやすみなさいませお嬢様」
出て行くリリアンにひらひらと手を振り、見送ったあと、エレーナは瞳を閉じた。
169
お気に入りに追加
5,987
あなたにおすすめの小説

【完結】8年越しの初恋に破れたら、なぜか意地悪な幼馴染が急に優しくなりました。
大森 樹
恋愛
「君だけを愛している」
「サム、もちろん私も愛しているわ」
伯爵令嬢のリリー・スティアートは八年前からずっと恋焦がれていた騎士サムの甘い言葉を聞いていた。そう……『私でない女性』に対して言っているのを。
告白もしていないのに振られた私は、ショックで泣いていると喧嘩ばかりしている大嫌いな幼馴染の魔法使いアイザックに見つかってしまう。
泣いていることを揶揄われると思いきや、なんだか急に優しくなって気持ち悪い。
リリーとアイザックの関係はどう変わっていくのか?そしてなにやら、リリーは誰かに狙われているようで……一体それは誰なのか?なぜ狙われなければならないのか。
どんな形であれハッピーエンド+完結保証します。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。


【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?
氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。
しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。
夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。
小説家なろうにも投稿中
望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】
男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。
少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。
けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。
少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。
それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。
その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。
そこには残酷な現実が待っていた――
*他サイトでも投稿中

【本編完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を
川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」
とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。
これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。
だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。
これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。
第22回書き出し祭り参加作品
2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます
2025.2.14 後日談を投稿しました
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる