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傍で見ていた者達(3)
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「ほら、ギル阻止よ! 阻止!」
「わかってるよ! 阻止しないと明日が怖い! 生きられない! 殿下に視線と執務放棄で殺される!」
バンバンとエリナは持っていた扇で、わなわな震えるギルベルトを鼓舞するように背中を叩く。
その間にもエレーナは歩みを止めない。ギルベルトと、サリアに急かされたディアヌ公爵が慌てて声をかけようとしたその時。
『レーナ』
周りのことを気にもとめず、いや、わざとだろう。愛称でリチャードがエレーナに声をかける。
──はやい! やはり気がついていた。エレーナセンサーか何かがついているのでは?!
四人は同じことを頭の中で考えた。
ビクリと震えたエレーナが怯えている。まさか先程まで踊っていたリチャードが、一瞬にしてエレーナの前に現れるなんて誰も想定していない。
そんな中、またルイス公爵家の令嬢か、と貴族達はざわめく。
何かを話している二人は突如リチャードがエレーナを抱き上げることで終わって、悲鳴が当たりを包む。
「あれは……うぅ明日から貴族達の問い詰めが……」
王宮に押しかけるであろう貴族たちが想像できてギルベルトは頭を抱えた。最初から花嫁は決まっていたのかと貴族達が追いかけてくる未来が、手に取るようにわかる。
きっとリチャードは上手く躱して、煩わしいものを全てギルベルトに押し付けて来るだろう。
「あなたファイトよファイト」
リチャードの背中から少しだけ見えるエレーナは顔が真っ赤だった。何を囁かれたのか分からないが、きっとからかわれているのだろう。
天を仰ぎ、顔を隠し、意を決して何かを耳元に囁いた後、バタバタと暴れるエレーナは柄でもない。まるで小動物だ。
あのくらいの抵抗では、リチャードにとって可愛いの範疇だろう。現に可愛いなぁと目が語っている。口元が優しく弧を描いている。
王と王妃に関しては場を乱し始めたリチャードとエレーナの攻防を、微笑ましそうに見守っていて、止める気もないらしい。
元々ミュリエルはエレーナに早くお嫁に来て欲しかった。エレーナが嫁いでくるのはミュリエルの中で確定事項で、他の者が息子と結婚するなんて言語道断。
それ故に秘密裏に王宮の中に、使われる予定がないエレーナの部屋を作ってしまったくらいだ。
だから求婚をしない、エレーナを王家に連れて来てくれないリチャードに、痺れを切らしていた。
まあ先程までは、悲しそうにしていたエレーナを見て、舞踏会が終わったら息子の顔を引っぱたいてやろうと思っていた。
でも今の状況は全く異なっていた。彼女は抱き上げられて困惑こそしているものの、拒絶しているわけでは無さそうだ。
それ故にミュリエルは、ヴィオレッタに言われたことを忘れて、この件でエレーナが王家に来てくれたら嬉しいと考え始めていた。
リドガルドに関してはリチャードが真面目に政務に取り組むならば、女性関係やその他諸々を息子に任せてしまう放任主義。
妻であるミュリエルも手放しに喜んでいるし、エレーナが嫁いで息子が幸せになれるのなら反対するわけがなかった。
今まででさえ、エレーナが王宮に訪れると知るとやるべきことをすぐに終わらせてた息子だ。逆に反対したらどんなことを息子に仕返しとして何をされるか考えただけで恐ろしい。
なら、何もしない方が自分の身のため、国のためだ。
つまりエレーナを助ける者はいなかった。そのまま連れていかれる運命だった。例え彼女の意思に反しても。
「回収されたね」
「されたわね」
エレーナが抱き抱えられてフロアを出たことにホッと一息つきながら、見守っているエリナ達は心臓に悪いと思った。
「わかってるよ! 阻止しないと明日が怖い! 生きられない! 殿下に視線と執務放棄で殺される!」
バンバンとエリナは持っていた扇で、わなわな震えるギルベルトを鼓舞するように背中を叩く。
その間にもエレーナは歩みを止めない。ギルベルトと、サリアに急かされたディアヌ公爵が慌てて声をかけようとしたその時。
『レーナ』
周りのことを気にもとめず、いや、わざとだろう。愛称でリチャードがエレーナに声をかける。
──はやい! やはり気がついていた。エレーナセンサーか何かがついているのでは?!
四人は同じことを頭の中で考えた。
ビクリと震えたエレーナが怯えている。まさか先程まで踊っていたリチャードが、一瞬にしてエレーナの前に現れるなんて誰も想定していない。
そんな中、またルイス公爵家の令嬢か、と貴族達はざわめく。
何かを話している二人は突如リチャードがエレーナを抱き上げることで終わって、悲鳴が当たりを包む。
「あれは……うぅ明日から貴族達の問い詰めが……」
王宮に押しかけるであろう貴族たちが想像できてギルベルトは頭を抱えた。最初から花嫁は決まっていたのかと貴族達が追いかけてくる未来が、手に取るようにわかる。
きっとリチャードは上手く躱して、煩わしいものを全てギルベルトに押し付けて来るだろう。
「あなたファイトよファイト」
リチャードの背中から少しだけ見えるエレーナは顔が真っ赤だった。何を囁かれたのか分からないが、きっとからかわれているのだろう。
天を仰ぎ、顔を隠し、意を決して何かを耳元に囁いた後、バタバタと暴れるエレーナは柄でもない。まるで小動物だ。
あのくらいの抵抗では、リチャードにとって可愛いの範疇だろう。現に可愛いなぁと目が語っている。口元が優しく弧を描いている。
王と王妃に関しては場を乱し始めたリチャードとエレーナの攻防を、微笑ましそうに見守っていて、止める気もないらしい。
元々ミュリエルはエレーナに早くお嫁に来て欲しかった。エレーナが嫁いでくるのはミュリエルの中で確定事項で、他の者が息子と結婚するなんて言語道断。
それ故に秘密裏に王宮の中に、使われる予定がないエレーナの部屋を作ってしまったくらいだ。
だから求婚をしない、エレーナを王家に連れて来てくれないリチャードに、痺れを切らしていた。
まあ先程までは、悲しそうにしていたエレーナを見て、舞踏会が終わったら息子の顔を引っぱたいてやろうと思っていた。
でも今の状況は全く異なっていた。彼女は抱き上げられて困惑こそしているものの、拒絶しているわけでは無さそうだ。
それ故にミュリエルは、ヴィオレッタに言われたことを忘れて、この件でエレーナが王家に来てくれたら嬉しいと考え始めていた。
リドガルドに関してはリチャードが真面目に政務に取り組むならば、女性関係やその他諸々を息子に任せてしまう放任主義。
妻であるミュリエルも手放しに喜んでいるし、エレーナが嫁いで息子が幸せになれるのなら反対するわけがなかった。
今まででさえ、エレーナが王宮に訪れると知るとやるべきことをすぐに終わらせてた息子だ。逆に反対したらどんなことを息子に仕返しとして何をされるか考えただけで恐ろしい。
なら、何もしない方が自分の身のため、国のためだ。
つまりエレーナを助ける者はいなかった。そのまま連れていかれる運命だった。例え彼女の意思に反しても。
「回収されたね」
「されたわね」
エレーナが抱き抱えられてフロアを出たことにホッと一息つきながら、見守っているエリナ達は心臓に悪いと思った。
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