王子殿下の慕う人

夕香里

文字の大きさ
上 下
27 / 150

傍で見ていた者達(3)

しおりを挟む
「ほら、ギル阻止よ! 阻止!」

「わかってるよ! 阻止しないと明日が怖い! 生きられない! 殿下に視線と執務放棄で殺される!」

バンバンとエリナは持っていた扇で、わなわな震えるギルベルトを鼓舞するように背中を叩く。

その間にもエレーナは歩みを止めない。ギルベルトと、サリアに急かされたディアヌ公爵が慌てて声をかけようとしたその時。

『レーナ』

周りのことを気にもとめず、いや、わざとだろう。愛称でリチャードがエレーナに声をかける。

──はやい! やはり気がついていた。エレーナセンサーか何かがついているのでは?!

四人は同じことを頭の中で考えた。

ビクリと震えたエレーナが怯えている。まさか先程まで踊っていたリチャードが、一瞬にしてエレーナの前に現れるなんて誰も想定していない。

そんな中、またルイス公爵家の令嬢か、と貴族達はざわめく。

何かを話している二人は突如リチャードがエレーナを抱き上げることで終わって、悲鳴が当たりを包む。

「あれは……うぅ明日から貴族達の問い詰めが……」

王宮に押しかけるであろう貴族たちが想像できてギルベルトは頭を抱えた。最初から花嫁は決まっていたのかと貴族達が追いかけてくる未来が、手に取るようにわかる。

きっとリチャードは上手く躱して、煩わしいものを全てギルベルトに押し付けて来るだろう。

「あなたファイトよファイト」

リチャードの背中から少しだけ見えるエレーナは顔が真っ赤だった。何を囁かれたのか分からないが、きっとからかわれているのだろう。

天を仰ぎ、顔を隠し、意を決して何かを耳元に囁いた後、バタバタと暴れるエレーナは柄でもない。まるで小動物だ。

あのくらいの抵抗では、リチャードにとって可愛いの範疇だろう。現に可愛いなぁと目が語っている。口元が優しく弧を描いている。

王と王妃に関しては場を乱し始めたリチャードとエレーナの攻防を、微笑ましそうに見守っていて、止める気もないらしい。

元々ミュリエルはエレーナに早くお嫁に来て欲しかった。エレーナが嫁いでくるのはミュリエルの中で確定事項で、他の者が息子と結婚するなんて言語道断。
それ故に秘密裏に王宮の中に、使われる予定がないエレーナの部屋を作ってしまったくらいだ。

だから求婚をしない、エレーナを王家に連れて来てくれないリチャードに、痺れを切らしていた。

まあ先程までは、悲しそうにしていたエレーナを見て、舞踏会が終わったら息子の顔を引っぱたいてやろうと思っていた。

でも今の状況は全く異なっていた。彼女は抱き上げられて困惑こそしているものの、拒絶しているわけでは無さそうだ。

それ故にミュリエルは、ヴィオレッタに言われたことを忘れて、この件でエレーナが王家に来てくれたら嬉しいと考え始めていた。

リドガルドに関してはリチャードが真面目に政務に取り組むならば、女性関係やその他諸々を息子に任せてしまう放任主義。
妻であるミュリエルも手放しに喜んでいるし、エレーナが嫁いで息子が幸せになれるのなら反対するわけがなかった。

今まででさえ、エレーナが王宮に訪れると知るとやるべきことをすぐに終わらせてた息子だ。逆に反対したらどんなことを息子に仕返しとして何をされるか考えただけで恐ろしい。
なら、何もしない方が自分の身のため、国のためだ。

つまりエレーナを助ける者はいなかった。そのまま連れていかれる運命だった。例え彼女の意思に反しても。

「回収されたね」

「されたわね」

エレーナが抱き抱えられてフロアを出たことにホッと一息つきながら、見守っているエリナ達は心臓に悪いと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

最初から勘違いだった~愛人管理か離縁のはずが、なぜか公爵に溺愛されまして~

猪本夜
恋愛
前世で兄のストーカーに殺されてしまったアリス。 現世でも兄のいいように扱われ、兄の指示で愛人がいるという公爵に嫁ぐことに。 現世で死にかけたことで、前世の記憶を思い出したアリスは、 嫁ぎ先の公爵家で、美味しいものを食し、モフモフを愛で、 足技を磨きながら、意外と幸せな日々を楽しむ。 愛人のいる公爵とは、いずれは愛人管理、もしくは離縁が待っている。 できれば離縁は免れたいために、公爵とは友達夫婦を目指していたのだが、 ある日から愛人がいるはずの公爵がなぜか甘くなっていき――。 この公爵の溺愛は止まりません。 最初から勘違いばかりだった、こじれた夫婦が、本当の夫婦になるまで。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

【完結】8年越しの初恋に破れたら、なぜか意地悪な幼馴染が急に優しくなりました。

大森 樹
恋愛
「君だけを愛している」 「サム、もちろん私も愛しているわ」  伯爵令嬢のリリー・スティアートは八年前からずっと恋焦がれていた騎士サムの甘い言葉を聞いていた。そう……『私でない女性』に対して言っているのを。  告白もしていないのに振られた私は、ショックで泣いていると喧嘩ばかりしている大嫌いな幼馴染の魔法使いアイザックに見つかってしまう。  泣いていることを揶揄われると思いきや、なんだか急に優しくなって気持ち悪い。  リリーとアイザックの関係はどう変わっていくのか?そしてなにやら、リリーは誰かに狙われているようで……一体それは誰なのか?なぜ狙われなければならないのか。 どんな形であれハッピーエンド+完結保証します。

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

処理中です...