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傍で見ていた者達(1)
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「くっ! あれで両片思いなんて!」
ダンスが始まる前から動向を観察しているエレーナの友人達は、ハンカチを握りしめていた。
彼らの目の前では、今まさにリチャードが跪いて、エレーナに最初のダンスの申し込みをしていた。
普段自分から申し込まない王子殿下がルイス公爵家の令嬢に申し込んでいる。そのことに周りの貴族達もざわついている。
──エレーナ・ルイスが殿下の花嫁なのか? と
「見てる私達からしてみれば両思いなんだけどなぁ」
扇で顔を隠しながらアレクサンドラは不思議そうにする。
「見てよ! あのエレーナの表情! きっとまた勘違いしてるわ」
二人の動向を注視しているエリナは、眉間の皺を深くしていた。
「ええ僕には何もわからないけど……」
「「「は?」」」
お前は馬鹿か、と言わんばかりの三人の視線にギルベルトは身が竦む。
「貴方レーナと何年一緒にいるのよ」
ギルベルトは妻のエリナに扇を顎に当てられて問い詰められる。
「十二年……?」
確か自分が八歳、エレーナが五歳の時だ。伯爵家以上の子供が集まるお茶会で出会った。
「そうよ! 十二年一緒にいるのよ。それなのにレーナの変化に気がつかないわけ? 分かりにくいリチャード殿下の感情バロメーターは分かるくせに!」
妻に言われて再びエレーナを見るギルベルト。だけどさっぱり分からない。
「ほら、エレーナの瞳が冷たいわ。氷のようだわ」
エリナは指摘し、サリアとアレクサンドラはうんうんと頷く。ギルベルトは助けを求めるように、サリアの夫であるディアヌ公爵に視線を送る。しかしディアヌ公爵も分からないようで首を横に振った。
ギルベルトが分からないのも仕方ない。愛想笑いをしているエレーナの表情の変化は、家族や親しい友人達でようやく気付くくらいなのだから。
だから親しいと言ってもエリナ達のように頻繁に会う訳では無いギルベルトに、判別出来ないのは当たり前だ。それをエリナ達が分かってないだけで。
「噂が急に流れ始めたから何か起こると思ってたけど……エレーナが勘違いしてるなら意味ないじゃない! 殿下は何やってるのよ!」
完璧な振り付けで踊るエレーナとリチャード。友人たちはエレーナがリチャードと視線を合わせないようにしているのに気がついていた。
「エレーナ、噂の花嫁はエレーナのことだって思ってないわねこれ」
嘆息が漏れる。ずっと見守ってきたのだ。小さい頃からずっと。
エレーナの好きな人は分かりやすかった。小さい頃は会うと絶対リチャードのことを話していた。目を輝かせ、頬を赤らめ、幸せそうに話していた。
王宮での茶会に招待されれば、エレーナは他の子息に目もくれず、リチャードの元に駆けていく。
彼の方もエレーナに気が付くと、相手をしていた令嬢を上手くあしらって、彼女を迎えていた。
幼子がよく読む王子様と結婚してハッピーエンドになる話の主人公。
それが友人のエレーナなのだと確信するには充分だった。違う未来は見えなかったはずなのに。
エリナはギュッとハンカチを握りしめる。
なのに現実はこの有様だ。二人の思いはすれ違っている。
数日前の茶会だって、リチャードの話をすれば悲しそうにしていた。エレーナではなくて他の誰かが王子殿下と結婚するのだと思い込んでいた。
自分達が手を回してどうにかした方がいいのかと思う反面、手を出せばややこしくなるのではないかと思って何も出来なかった。
極めつけは、あの後入ってきたあからさますぎる噂。
エリナはリチャードの側近でもあるギルベルトを使って出処を調べた。
要するに夫の権力を行使したのだ。上の者の特権だ。ここで使わないで有り余っている権力を何処で使うのか? とギルベルトを急かして。
結果は、権力を使う間もなくリチャード本人が流した噂だと分かった。
それをエリナに伝えたギルベルトは、のほほんとしていて、深刻な状況を理解していなかったが。
エリナは噂がエレーナに対してどのような影響を与えるか考え、青ざめた。
ダンスが始まる前から動向を観察しているエレーナの友人達は、ハンカチを握りしめていた。
彼らの目の前では、今まさにリチャードが跪いて、エレーナに最初のダンスの申し込みをしていた。
普段自分から申し込まない王子殿下がルイス公爵家の令嬢に申し込んでいる。そのことに周りの貴族達もざわついている。
──エレーナ・ルイスが殿下の花嫁なのか? と
「見てる私達からしてみれば両思いなんだけどなぁ」
扇で顔を隠しながらアレクサンドラは不思議そうにする。
「見てよ! あのエレーナの表情! きっとまた勘違いしてるわ」
二人の動向を注視しているエリナは、眉間の皺を深くしていた。
「ええ僕には何もわからないけど……」
「「「は?」」」
お前は馬鹿か、と言わんばかりの三人の視線にギルベルトは身が竦む。
「貴方レーナと何年一緒にいるのよ」
ギルベルトは妻のエリナに扇を顎に当てられて問い詰められる。
「十二年……?」
確か自分が八歳、エレーナが五歳の時だ。伯爵家以上の子供が集まるお茶会で出会った。
「そうよ! 十二年一緒にいるのよ。それなのにレーナの変化に気がつかないわけ? 分かりにくいリチャード殿下の感情バロメーターは分かるくせに!」
妻に言われて再びエレーナを見るギルベルト。だけどさっぱり分からない。
「ほら、エレーナの瞳が冷たいわ。氷のようだわ」
エリナは指摘し、サリアとアレクサンドラはうんうんと頷く。ギルベルトは助けを求めるように、サリアの夫であるディアヌ公爵に視線を送る。しかしディアヌ公爵も分からないようで首を横に振った。
ギルベルトが分からないのも仕方ない。愛想笑いをしているエレーナの表情の変化は、家族や親しい友人達でようやく気付くくらいなのだから。
だから親しいと言ってもエリナ達のように頻繁に会う訳では無いギルベルトに、判別出来ないのは当たり前だ。それをエリナ達が分かってないだけで。
「噂が急に流れ始めたから何か起こると思ってたけど……エレーナが勘違いしてるなら意味ないじゃない! 殿下は何やってるのよ!」
完璧な振り付けで踊るエレーナとリチャード。友人たちはエレーナがリチャードと視線を合わせないようにしているのに気がついていた。
「エレーナ、噂の花嫁はエレーナのことだって思ってないわねこれ」
嘆息が漏れる。ずっと見守ってきたのだ。小さい頃からずっと。
エレーナの好きな人は分かりやすかった。小さい頃は会うと絶対リチャードのことを話していた。目を輝かせ、頬を赤らめ、幸せそうに話していた。
王宮での茶会に招待されれば、エレーナは他の子息に目もくれず、リチャードの元に駆けていく。
彼の方もエレーナに気が付くと、相手をしていた令嬢を上手くあしらって、彼女を迎えていた。
幼子がよく読む王子様と結婚してハッピーエンドになる話の主人公。
それが友人のエレーナなのだと確信するには充分だった。違う未来は見えなかったはずなのに。
エリナはギュッとハンカチを握りしめる。
なのに現実はこの有様だ。二人の思いはすれ違っている。
数日前の茶会だって、リチャードの話をすれば悲しそうにしていた。エレーナではなくて他の誰かが王子殿下と結婚するのだと思い込んでいた。
自分達が手を回してどうにかした方がいいのかと思う反面、手を出せばややこしくなるのではないかと思って何も出来なかった。
極めつけは、あの後入ってきたあからさますぎる噂。
エリナはリチャードの側近でもあるギルベルトを使って出処を調べた。
要するに夫の権力を行使したのだ。上の者の特権だ。ここで使わないで有り余っている権力を何処で使うのか? とギルベルトを急かして。
結果は、権力を使う間もなくリチャード本人が流した噂だと分かった。
それをエリナに伝えたギルベルトは、のほほんとしていて、深刻な状況を理解していなかったが。
エリナは噂がエレーナに対してどのような影響を与えるか考え、青ざめた。
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