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今の私は
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あれから十年がたち、幼い少女は淑女となっていた。
彼女の名前はエレーナ・ルイス。
ルイス公爵家の一人娘で、十七歳となった今でも婚約者がいない。周りの友人達は既に結婚していたり婚約者がいたりと行き遅れになりつつある。
勿論婚約の申し込みが無い訳では無く、公爵家と縁を結びたい貴族からの求婚の申し込みが山のように届いている。
それなのに彼女に婚約者がいないのは、エレーナが初恋を忘れられないからだ。
両親も可愛い一人娘に無理強いをさせたくなく、無理やり結びたい縁も無かったので、娘が本当に結婚したいと思える相手が現れるまでは。と何も言ってこなかった。
エレーナはその両親の思いに甘えて、寄せられる婚約話をのらりくらりとかわしている。
そんな彼女初恋の相手はこの国の王太子であるリチャード・スタンレー。
彼も未だに正式な婚約者がいない。二十二歳になっても女性の影がない殿下には、友好国である隣国から王女が輿入れや、もう既に意中の相手がいるが秘匿にされているなどとまことしやかに社交界では囁かれている。
最近では隣国の王女が王の名代としてこちらの式典に参加していたことから、その王女を迎え入れるのが有力視されていた。
かの王女はとても美しく聡明で、王子の隣に立っても引けを取らない凛とした姿だった────
そんな風の噂がエレーナの所まで届いているが、顔を拝見したことは残念ながら、ない。
勿論その時の式典には公爵家として参加していたが、王女は顔をヴェールで隠しその表情を伺うことは出来なかった。
では誰が噂を? と思うかもしれないがおそらく王女を世話している王宮の侍女達が出処だろう。
小さい頃は父である公爵に必死にせがんで幾度も王宮に連れて行ってもらっていた。何故そんなにせがんでいたのかと言うと、王族であるリチャードに会いたかったのだ。
本来、公爵家だとしても王族とはめったにお目にかかれない。だが、エレーナの父はこの国の君主である彼の父の側近だった。加えて母は王妃様とも仲が良く、私的なお茶会に招待されることも多々あり、そこで王子殿下と出会ったのだ。
幼いエレーナはまだ「王子」という言葉がよく理解出来なく、優しげな瞳を向けながらずっとこちらの話を聞いてくれる殿下は、今となっては烏滸がましいが兄のような存在だった。
ただただ会いたいという気持ちで押しかけのように王宮に通っていたのは、エレーナの中で他の追随を許さない一番大きな黒歴史。
何せ相手はこの国の王子、暇な時間など無いに等しい。一介の公爵令嬢であるエレーナが何度も会いに行っていい相手ではないのだ。
それなのに、エレーナが来ると嫌な顔をせずにいつも相手をしてくれていたリチャードには、感謝してもしきれない。
そんな兄のようだと思っていた王子殿下が、自分の好きな人だと自覚したのは偶然だった。
その日は前から会う約束をしていた日で、客間へと続く廊下を案内人と歩いていた時のこと。
エレーナは窓越しに見える庭園に、一人の可愛らしい少女と並んで歩いているリチャードを見てしまった。
親しげに会話をしている彼らを見るとズキズキと痛みが走り、そっと心の臓に手を添えながら恋心に自覚した。
おかげでその後、リチャードと話をしていても全て上の空の返答になり心配されてしまった。
エレーナは帰りの馬車の中で考えた。いつも彼は優しい。だからきっとこれからも本物の兄のようにあの優しい瞳をこちらに向けてくれるだろう。
でもそれはあくまで家族愛に似た感じなのだ。エレーナを異性としては見てくれていないのはよく分かっていた。
リチャードは以前、優しくて自分の意見をちゃんと聞いてくれる人が婚約者になって欲しいと言っていた。
──それではエレーナは?
いつもリチャードと会うと自分の話ばかりで、わがままを言って彼を困らせたこともある。もうこの時点で彼の希望通りの人物では無い。
「わたし、無理では???」
彼女は初恋に気づいた時点で失恋を確信したのだった。
彼女の名前はエレーナ・ルイス。
ルイス公爵家の一人娘で、十七歳となった今でも婚約者がいない。周りの友人達は既に結婚していたり婚約者がいたりと行き遅れになりつつある。
勿論婚約の申し込みが無い訳では無く、公爵家と縁を結びたい貴族からの求婚の申し込みが山のように届いている。
それなのに彼女に婚約者がいないのは、エレーナが初恋を忘れられないからだ。
両親も可愛い一人娘に無理強いをさせたくなく、無理やり結びたい縁も無かったので、娘が本当に結婚したいと思える相手が現れるまでは。と何も言ってこなかった。
エレーナはその両親の思いに甘えて、寄せられる婚約話をのらりくらりとかわしている。
そんな彼女初恋の相手はこの国の王太子であるリチャード・スタンレー。
彼も未だに正式な婚約者がいない。二十二歳になっても女性の影がない殿下には、友好国である隣国から王女が輿入れや、もう既に意中の相手がいるが秘匿にされているなどとまことしやかに社交界では囁かれている。
最近では隣国の王女が王の名代としてこちらの式典に参加していたことから、その王女を迎え入れるのが有力視されていた。
かの王女はとても美しく聡明で、王子の隣に立っても引けを取らない凛とした姿だった────
そんな風の噂がエレーナの所まで届いているが、顔を拝見したことは残念ながら、ない。
勿論その時の式典には公爵家として参加していたが、王女は顔をヴェールで隠しその表情を伺うことは出来なかった。
では誰が噂を? と思うかもしれないがおそらく王女を世話している王宮の侍女達が出処だろう。
小さい頃は父である公爵に必死にせがんで幾度も王宮に連れて行ってもらっていた。何故そんなにせがんでいたのかと言うと、王族であるリチャードに会いたかったのだ。
本来、公爵家だとしても王族とはめったにお目にかかれない。だが、エレーナの父はこの国の君主である彼の父の側近だった。加えて母は王妃様とも仲が良く、私的なお茶会に招待されることも多々あり、そこで王子殿下と出会ったのだ。
幼いエレーナはまだ「王子」という言葉がよく理解出来なく、優しげな瞳を向けながらずっとこちらの話を聞いてくれる殿下は、今となっては烏滸がましいが兄のような存在だった。
ただただ会いたいという気持ちで押しかけのように王宮に通っていたのは、エレーナの中で他の追随を許さない一番大きな黒歴史。
何せ相手はこの国の王子、暇な時間など無いに等しい。一介の公爵令嬢であるエレーナが何度も会いに行っていい相手ではないのだ。
それなのに、エレーナが来ると嫌な顔をせずにいつも相手をしてくれていたリチャードには、感謝してもしきれない。
そんな兄のようだと思っていた王子殿下が、自分の好きな人だと自覚したのは偶然だった。
その日は前から会う約束をしていた日で、客間へと続く廊下を案内人と歩いていた時のこと。
エレーナは窓越しに見える庭園に、一人の可愛らしい少女と並んで歩いているリチャードを見てしまった。
親しげに会話をしている彼らを見るとズキズキと痛みが走り、そっと心の臓に手を添えながら恋心に自覚した。
おかげでその後、リチャードと話をしていても全て上の空の返答になり心配されてしまった。
エレーナは帰りの馬車の中で考えた。いつも彼は優しい。だからきっとこれからも本物の兄のようにあの優しい瞳をこちらに向けてくれるだろう。
でもそれはあくまで家族愛に似た感じなのだ。エレーナを異性としては見てくれていないのはよく分かっていた。
リチャードは以前、優しくて自分の意見をちゃんと聞いてくれる人が婚約者になって欲しいと言っていた。
──それではエレーナは?
いつもリチャードと会うと自分の話ばかりで、わがままを言って彼を困らせたこともある。もうこの時点で彼の希望通りの人物では無い。
「わたし、無理では???」
彼女は初恋に気づいた時点で失恋を確信したのだった。
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