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第一章 幼少期編
第1話 『基礎体力作りは5歳から』
しおりを挟む嘗て、この大陸には四種族と呼ばれる存在「だけ」が居た。
人族。
妖精族。
獣人族。
魔族。
皆、「人型」という共通点はあるが、種族の違いは文化や考え方の違い。いがみ合う事もしばしば。
時には戦にも発展した。
それでも四種族は互いに何とか折り合いをつけ、今日まで繁栄してきたのだが・・・
50年程前に現れた新たな種、「神族」と「悪魔族」によって情勢は激変。互いに争っている場合では無くなったのである。
種族を問わず、数多くの犠牲の末にようやく訪れた仮初めの平和。
そんな事を知らない世代が大半を占める時代に・・・新たな戦の火種。
そして英雄達の誕生が近づいて居る事を・・・まだ、誰も知らない。
「ん~・・・・まだ・・・眠いよ・・・とうちゃん」
東の空がまだ白み始める前。訓練着、と呼ばれる麻製のシャツと短パン姿の少年は大欠伸しつつ、
父親に文句をぶつける
「う・・・・ん・・・・・・眠い・・・よ」
同じく訓練着姿の・・・と言っても、短パンではなくキュロットスカートの様なデザインの少女が同意する。
こちらはまだ半分以上寝ているようだが。
「何を言ってる、リク。シルヴィア。二人とももう5歳になった。今日から朝練をすると言っておいただろう?」
少々呆れた声、そして困ったような笑顔で子供達を見やる中年の男性。年齢はそこそこ行ってるが、
引き締まった体形をしており、見た目だけなら20台後半でも通せそうな若々しさだ。
「いいか?最初から全部こなせ、とは言わない。だからこそ、最初の日の今日はこの時間だ」
「意味わかんないよ、とうちゃん」
言い聞かせる様にする父親に、息子は至極真っ当な疑問をぶつける。実際、朝練の内容も聞いていないのだ。
「・・・・・・くぅ・・・・・」
横を見れば、少女の方が夢の中に舞い戻ろうとしている。肩まで伸ばした栗色の髪が右へ左へ、
危なっかしく揺れる。
慌てて少年が手を繋ぎ、「こちら」へと引き戻す。寝たまま転んだりすれば顔面強打必至である。
「んぅ・・・リっくん・・・・ありがと・・・」
ここにきて流石に少女も目を覚ましてきたようだ。漸くだな、とリクの父-ラルフは心で呟く。
「シルヴィアも大分起きたみたいだな。じゃあ、記念すべき初の朝練の内容を伝えるぞ」
何をさせられるのだろう、と二人は顔を見合わせる。正直、全く予想が付かない。何せ彼らはまだ5歳なのだ。
「何、簡単だぞ?二人とも、後ろの山、見えるな?」
「見えるけど・・・」
「うん・・・」
何を言ってるのか解らない、と少年と少女は首を傾げる。が、続くラルフの言葉で彼らの表情が凍り付いた。
「あの山の頂上に旗を立てておいた。どんな方法でも良いから夜までに取ってきてくれ」
「「・・・・ええええええええええええーーーーーーーー?!」」
二人の絶叫がハモって山彦になる。その音量に驚いた鳥達が、近くの木々から一斉に飛び立った。
叫ぶのも無理はない。ざっと見て、山の麓まで行こうにも大人が半日は掛かりそうな距離。子供の足で行ける距離ではない。
そして、山の標高がそこに乗っかってくる。頂上まで行くとなれば更に半日。つまり・・・
『大人が1日掛かりの行程を半分程度でこなせ』と言っているのだ。無謀なんてものじゃない。不可能だ。
・・・普通ならば、だが。
「きっついなー・・・今までの野山ランニングフルアタックが恋しくなるよ。な、シル?」
短く切った黒髪を右手でがしがしと掻く少年は仏頂面だ。一方、少女はどうだろうかと見れば、
「あはは・・・リっくん。わたし、無理かも知れないけど・・・頑張るから置いていかないでね?」
泣き笑いの様な表情で少年のシャツの裾を掴んでいた。
「大丈夫。なんとかなるよ、きっと」
そんな少女を少年は元気づけようと笑った。笑ったのだが、その笑顔は引き攣っていた・・・
かくしてリクとシルヴィア。朝日と共に最初の試練、裏の山弾丸登頂修練が始まった。
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