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7.ぼくら以外だれも知らない
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「待ってドク。そうだったとすると、このケンのいない世界にもともと存在したぼくらはどこにいるんだろう?」
「そう、ぼくらとこの世界のぼくらが同時に存在して大騒ぎになる可能性のほうが高いんだ。ま、ケンが今もいる世界に――ぼくらの元いた世界に移動したと無理やり考えられなくもないけれどね」
「うう、頭がこんがらがりそうだよ」
ゲームやマンガにでてくる、ドッペルゲンガー――「もう一人の自分」ってやつになるのかな、この世界のぼくらは。
だとすると、何かの間違いではち合わせたら死んじゃうんだろうか?
「ね……もう一つの可能性は?」
頭をかきむしるぼくをよそに、ユリが小声でドクにたずねた。
ドクは「あまり考えたくないことだけれど」と前置きしてからいった。
「三つめは、ケンはもともと存在しない人物だったという可能性。ぼくらが共通で抱いていた幻想の友だち、イマジナリーフレンドだったのかもしれない」
「なによ、それってつまり、ケンはわたしたちの空想にすぎないってわけ?」
「あくまで可能性の話だよ」
サツキは今にもドクにかみつきそうだった。
あわてて間に割り込む。
「ぼくだって、ケンの存在を疑っていないよ。ケンと遊んだ思い出がぼくらの空想だなんて思いたくない」
言葉に出すと、頭の中でゴチャゴチャしていたものがスッキリ片づいていく。
そうだ、目的を見失っちゃいけない。
ゲームだってそうじゃないか。
ボスを倒すのが目的なのに、無限にわいてくるザコを倒すのに夢中になって時間切れ……なんてことがあった。
それじゃダメだよね。
「今ぼくらが考えるべきは、どうやってケンを取り戻すか。これだけだよ」
「そんなこと……できるの?」
サツキは落ち着きを取り戻したけれど、ぼくらの前には手強い壁が立ちはだかっている。
これを突破しなければ、ケンは戻ってこない。
ドクがメガネをぐいっと押しあげながら、ぼくへと向き直る。
「できる、とは言い切れないけれど。可能性の問題として、問題発生の状態に戻って考えてみようか。ケンがいなくなる直前に、何が起こったか」
「何が起こったか……」
つい昨日のこと、わずか数時間前のことなのに、記憶はあやふやだ。
あのときぼくらは何をしていた?
「あのときは確か、三人並んで話をしていたよねぇ。ヘンなことばかりの一日だったって話」
「そうだね。あり得ないことが起きたって、ドクが次々にあげていって、そうしたら……」
「地袋のフスマが勝手に開いて、あの煙が出てきてケンを引きずり込んだ」
サツキがパンと手を打った。
「その地袋って、どこ?」
そのとき、メチャクチャいいタイミングで全体の「ごちそうさま」が行われた。
ぼくらはこのあと一度解散して荷造りすませ、駐車場に集合してバスに乗り込み帰路につくことになる。
ケンとサツキ、ユリも同時に立ち上がった。
ようやく席を立ちはじめたほかの生徒たちより先に階段を駆け上がり、右手の大部屋へ突撃。
男子部屋だけれど、このときばかりはサツキもユリもためらわなかった。
切り込み隊長のサツキが、問題の地袋のフスマを勢いよく開け放った。
スパーンという気持ちいい音を響かせて。
「煙は、どうかなぁ?」
後ろからおっかなびっくりのぞきこむドクに、サツキは親指をグッと立てて見せた。
「まだあるよ! これ、間に合うんじゃない?」
「間に合うって?」
ぼくはサツキのいっている意味がわからずたずねた。
でもユリはそれだけですべてを理解できたようで、サツキの横に行って大きくうなずいて見せた。
「サツキちゃん……行こ」
「ええ!」
ユリにうながされるようにして、サツキは地袋へ頭を突っ込んだ。
外は明るいけれど、相変わらず真っ暗な地袋の中。
そこに、あの不気味な煙があるっていうのに、ふつう入ろうとする?
でもよく考えなくても、もうそれしか方法はないような気がした。
ケンをあきらめる前に、ケンのためにできることをしたい。
サツキは『ドラゴン・オデッセイ』のチームで、ケンと並ぶもう一人の優秀な攻撃役なんだ。
いかにも怖そうなモンスターや、危なそうな罠が待ち受けているダンジョンで、ぼくらが尻込みしているときも、真っ先に突っ込んでいく度胸があった。
先頭を切るのは、本当は盾役のぼくなんだけれど、サツキの勇気にはいつも助けられていたんだ。
ゲームの中でよく見るサツキの背中が、今の現実の光景と重なる……。
そのとき、後ろのざわめきが大きくなった。
ほかの生徒たちが階段を上がってきたんだ。
「おい、見ろよ。男子部屋に女子がいるぞ。誰だ?」
まずい、五組のガキ大将に見られた。
からかわれるだけならいいけれど、ジャマされては困る。
「何やってんだよ、ヘンタイ女。出てけよ!」
ガキ大将が足音もあらあらしくタタミに上がってきた。
後ろを見れば、つぎはユキが地袋に入ろうとしている。
サツキの姿はすでにない。
どこへ行ったのか、地袋の先になにがあるのかは、今は考えないでおく。
次はドクに行ってもらわないと。
そのためには、あのガキ大将を止めないと。
「ぼくらは友だちを助けにいかないといけないんだ。ジャマしないでくれ」
「なんだぁ?」
ぼくは『ドラゴン・オデッセイ』でも盾役、モンスターの攻撃を一身に受けてチームのみんなを守る役目だ。
強敵に追われて街へ逃げこむときだって、最後の最後まで残って敵を食い止める。
だから、今も。
「みんなに迷惑はかけないよ。だから……このまま……」
振り返ると、ちょうどドクのくつしたが地袋に入っていくところだった。あとはぼくだけか。
でもどうしよう。
ゲームなら、ぼくが最後に魔物にやられてしまっても、復活地点でチームと合流できるんだけれど。
今、ここでぼくがガキ大将にとっ捕まったら、みんなに続いて地袋に入れなくなってしまう。
ど、どうすれば……。
「カズキー」
か細い声が、後ろからぼくを呼ぶ。
聞き間違うはずない、ドクの声だ。
「ドク、どうしよう。そっちに、どうやって行ったらいいか……」
「オーケー、そのまま動かないでね」
「おい、なに意味のわかんないこといってんだ。その中に隠れてなにしてやがる?」
ガキ大将がぼくにつかみかかろうとした。
ゲームの中では屈強な戦士だけれど、リアルのぼくはなんのへんてつもないモヤシっ子だ。
避けられない、そう思ったとき――。
細い指がぼくの足首をつかんだ。
そうかと思うと、そのまま後ろへと引っぱられた。
予想もできない展開に、ぼくは体のバランスをくずす。
ガキ大将をもろともタタミへ倒れた。
そしてそのまま引きずりこまれた。
例の、地袋に。
「そう、ぼくらとこの世界のぼくらが同時に存在して大騒ぎになる可能性のほうが高いんだ。ま、ケンが今もいる世界に――ぼくらの元いた世界に移動したと無理やり考えられなくもないけれどね」
「うう、頭がこんがらがりそうだよ」
ゲームやマンガにでてくる、ドッペルゲンガー――「もう一人の自分」ってやつになるのかな、この世界のぼくらは。
だとすると、何かの間違いではち合わせたら死んじゃうんだろうか?
「ね……もう一つの可能性は?」
頭をかきむしるぼくをよそに、ユリが小声でドクにたずねた。
ドクは「あまり考えたくないことだけれど」と前置きしてからいった。
「三つめは、ケンはもともと存在しない人物だったという可能性。ぼくらが共通で抱いていた幻想の友だち、イマジナリーフレンドだったのかもしれない」
「なによ、それってつまり、ケンはわたしたちの空想にすぎないってわけ?」
「あくまで可能性の話だよ」
サツキは今にもドクにかみつきそうだった。
あわてて間に割り込む。
「ぼくだって、ケンの存在を疑っていないよ。ケンと遊んだ思い出がぼくらの空想だなんて思いたくない」
言葉に出すと、頭の中でゴチャゴチャしていたものがスッキリ片づいていく。
そうだ、目的を見失っちゃいけない。
ゲームだってそうじゃないか。
ボスを倒すのが目的なのに、無限にわいてくるザコを倒すのに夢中になって時間切れ……なんてことがあった。
それじゃダメだよね。
「今ぼくらが考えるべきは、どうやってケンを取り戻すか。これだけだよ」
「そんなこと……できるの?」
サツキは落ち着きを取り戻したけれど、ぼくらの前には手強い壁が立ちはだかっている。
これを突破しなければ、ケンは戻ってこない。
ドクがメガネをぐいっと押しあげながら、ぼくへと向き直る。
「できる、とは言い切れないけれど。可能性の問題として、問題発生の状態に戻って考えてみようか。ケンがいなくなる直前に、何が起こったか」
「何が起こったか……」
つい昨日のこと、わずか数時間前のことなのに、記憶はあやふやだ。
あのときぼくらは何をしていた?
「あのときは確か、三人並んで話をしていたよねぇ。ヘンなことばかりの一日だったって話」
「そうだね。あり得ないことが起きたって、ドクが次々にあげていって、そうしたら……」
「地袋のフスマが勝手に開いて、あの煙が出てきてケンを引きずり込んだ」
サツキがパンと手を打った。
「その地袋って、どこ?」
そのとき、メチャクチャいいタイミングで全体の「ごちそうさま」が行われた。
ぼくらはこのあと一度解散して荷造りすませ、駐車場に集合してバスに乗り込み帰路につくことになる。
ケンとサツキ、ユリも同時に立ち上がった。
ようやく席を立ちはじめたほかの生徒たちより先に階段を駆け上がり、右手の大部屋へ突撃。
男子部屋だけれど、このときばかりはサツキもユリもためらわなかった。
切り込み隊長のサツキが、問題の地袋のフスマを勢いよく開け放った。
スパーンという気持ちいい音を響かせて。
「煙は、どうかなぁ?」
後ろからおっかなびっくりのぞきこむドクに、サツキは親指をグッと立てて見せた。
「まだあるよ! これ、間に合うんじゃない?」
「間に合うって?」
ぼくはサツキのいっている意味がわからずたずねた。
でもユリはそれだけですべてを理解できたようで、サツキの横に行って大きくうなずいて見せた。
「サツキちゃん……行こ」
「ええ!」
ユリにうながされるようにして、サツキは地袋へ頭を突っ込んだ。
外は明るいけれど、相変わらず真っ暗な地袋の中。
そこに、あの不気味な煙があるっていうのに、ふつう入ろうとする?
でもよく考えなくても、もうそれしか方法はないような気がした。
ケンをあきらめる前に、ケンのためにできることをしたい。
サツキは『ドラゴン・オデッセイ』のチームで、ケンと並ぶもう一人の優秀な攻撃役なんだ。
いかにも怖そうなモンスターや、危なそうな罠が待ち受けているダンジョンで、ぼくらが尻込みしているときも、真っ先に突っ込んでいく度胸があった。
先頭を切るのは、本当は盾役のぼくなんだけれど、サツキの勇気にはいつも助けられていたんだ。
ゲームの中でよく見るサツキの背中が、今の現実の光景と重なる……。
そのとき、後ろのざわめきが大きくなった。
ほかの生徒たちが階段を上がってきたんだ。
「おい、見ろよ。男子部屋に女子がいるぞ。誰だ?」
まずい、五組のガキ大将に見られた。
からかわれるだけならいいけれど、ジャマされては困る。
「何やってんだよ、ヘンタイ女。出てけよ!」
ガキ大将が足音もあらあらしくタタミに上がってきた。
後ろを見れば、つぎはユキが地袋に入ろうとしている。
サツキの姿はすでにない。
どこへ行ったのか、地袋の先になにがあるのかは、今は考えないでおく。
次はドクに行ってもらわないと。
そのためには、あのガキ大将を止めないと。
「ぼくらは友だちを助けにいかないといけないんだ。ジャマしないでくれ」
「なんだぁ?」
ぼくは『ドラゴン・オデッセイ』でも盾役、モンスターの攻撃を一身に受けてチームのみんなを守る役目だ。
強敵に追われて街へ逃げこむときだって、最後の最後まで残って敵を食い止める。
だから、今も。
「みんなに迷惑はかけないよ。だから……このまま……」
振り返ると、ちょうどドクのくつしたが地袋に入っていくところだった。あとはぼくだけか。
でもどうしよう。
ゲームなら、ぼくが最後に魔物にやられてしまっても、復活地点でチームと合流できるんだけれど。
今、ここでぼくがガキ大将にとっ捕まったら、みんなに続いて地袋に入れなくなってしまう。
ど、どうすれば……。
「カズキー」
か細い声が、後ろからぼくを呼ぶ。
聞き間違うはずない、ドクの声だ。
「ドク、どうしよう。そっちに、どうやって行ったらいいか……」
「オーケー、そのまま動かないでね」
「おい、なに意味のわかんないこといってんだ。その中に隠れてなにしてやがる?」
ガキ大将がぼくにつかみかかろうとした。
ゲームの中では屈強な戦士だけれど、リアルのぼくはなんのへんてつもないモヤシっ子だ。
避けられない、そう思ったとき――。
細い指がぼくの足首をつかんだ。
そうかと思うと、そのまま後ろへと引っぱられた。
予想もできない展開に、ぼくは体のバランスをくずす。
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