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5.めちゃくちゃな鳥居
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それからいよいよ、肝試しの説明があった。
一組から順番に、班ごとに出発。
懐中電灯は各班にひとつ。
キャンプファイヤー会場からさらに道なりに奥へと進むと、ゆるやかなカーブを描いてコトリ荘を一周して正面玄関まで戻れるらしい。
とちゅうに赤い鳥居の小さなホコラがあり、ふうとうが置いてあるので、各班ひとつ持って帰るのがミッションだ。
「ホコラか!」
ケンがウキウキした声をだすのに、ぼくももちろん乗っかった。
「リアルのホコラか! 『ドラゴン・オデッセイ』でしかお目にかかったことないや」
そうさ、ぼくはいま、リアル冒険者。
とある村に立ち寄り宿に泊まることにしたが、宿の主人にこう頼まれたんだ。
「最近、このあたりで夜に盗賊が出るようになった。すまないが、夜になったら宿の周りを見回ってはくれんかね」……なんてね。
困っている人を助けるのも冒険者の仕事、断る理由はない!
一班ずつ順番にスタートしていく。
次の次がぼくら八班になったところで、装備のてんけんをすることにした。
風で吹き飛ばないよう、キャップを深くかぶり直す。
パーカーのチャックを上まで引き上げて、高原の夜風でもカゼを引かないようガード。
スニーカーのくつひもを結び直して、いざというときほどけて走れなくなるのを防ぐ。
よし、カンペキだ!
「じゃあ八班さん、足元に気をつけて、いってらっしゃーい」
いちおうリーダーのぼくが石原先生から懐中電灯を受け取り、いよいよ肝試しスタートだ。
「どうせ子どもだましだろうし、こわくなんかねーよな!」
歩き出してすぐにケンが大声でいった。
「どうかしらね。キャンプファイヤーのクオリティを考えると、けっこうガチな肝試しになるってこともあり得るんじゃない?」
サツキが冷静に答えた。
ドクも小さい声で「うん」といっているし、ぼくもどちらかというとサツキの意見に賛成だ。
だって、さっきのプロなんとかって技術を使ったら、オバケでもゾンビもだし放題になるってことでしょ?
ナメてかかるわけにはいかないよ。
ぼくらの様子にケンも考えを改めたようで、無言で体をくっつけてきた。
懐中電灯を持つぼくの近くに寄りたい気持ちはわかるけど……みんな、ちょっと近すぎだよ。
まるでおしくらまんじゅうしながら歩いているみたいだ。
そんな感じだから、押されてコケそうになったり引っぱられたりして、ふつうに歩く速度じゃ進めない。
怖いならさっさと歩いて、少しでも早く肝試しを終わらせたほうがいいような気がするけれど、こればっかりはしょうがないよね。
街灯ひとつないとはいえ月明かりがあるし、一本道で迷うこともない。
道幅は、ぼくら五人が横一列になっても進めそうなくらいある。
アクシデントさえなければ、危なくはない……はず。
「ど……どんなオバケがでると思う?」
ケンの声が不自然にくぐもっていたので振り返ると、ドクの両肩にしがみつき、うつむいて周りを見ないようにしているじゃないか。
「コンニャクかな、定番は。釣り竿の先につるしたコンニャクを、顔や首すじに当てるんだ。わかっていてもビックリしちゃうよねぇ」
電車ゴッコか! とツッコミを入れそうになったけれど、ドクは気にしていないようなのでほうっておくことにする。
スタートしてからだいぶ歩いた気がするけれど、オバケらしきものはちっともでてこない。
ドクのいっていたコンニャクもない。
もしかして、ただ暗い道を進むだけの度胸試しなのかな?
サツキも同じように考えていたみたいだ。
「なーんにもでてこないわね。この肝試しの怖さって、暗さだけ?」
「ね、サツキちゃん。あれ……なにかな?」
ユリが真横を指さした。
道の両脇は低木が間を空けずにうわっている。
そのおかげでぼくらは、コースを外れることなく一本道を進んでいけるのだけれど……低木のさらに奥に、なにかが見えた。
ぼくが急に足を止めたせいで、後ろではドクとケンの玉突き事故が起きる。
でも、ドクは当然としてケンも騒がなかった。
この異様な空気を読んだのかもしれない。
低木の奥の闇に、ひときわ黒いなにかがある。
じっと目をこらすと、どうも人影のような気がしてきた。
「あれって……」
「たぶん、そうだねぇ」
ぼくの言葉をドクが引き取る。
残る三人からは、息を飲む音。
オバケ役の先生……だったらよかったんだけれど、明らかに違っていた。
そう、さっきキャンプファイヤーで現れた、闇よりなお黒い全身タイツの人にそっくりなんだ。
そこで懐中電灯を預かるぼくは考える。
この光をあの黒い影に当てて、正体を確かめるべきかどうか。
でも、いろいろ想像してしまって踏ん切りがつかない。
だってさ、懐中電灯を向けたとたん、アイツがものすごい勢いでこっちに向かってきたらどうする?
「やめてよ、カズキ」
「えっ?」
「懐中電灯、絶対アレに向けないで」
まるで頭のなかをのぞいたように、サツキが懐中電灯を持つぼくの腕を押さえた。
「もちろん、そんなことしないよ」
相手が何者かわからない以上、ヘタに刺激するのは利口じゃない。
そうさ、未知のモンスターと戦うときは、慎重すぎるほうがいいんだ。
ぼくは冒険者の心得を思い出してうなずいた。
「このまま進もう」
ぼくらは何もせず、黒い影の前を通りすぎることにした。
懐中電灯の明かりは、足元の地面に固定。
それでも、あの黒い影が気になってしまう。
もしかすると、ただの真っ黒のマネキンなんじゃないか……そんな気がしてくるほど、まったく動かないのがかえって不気味だ。
あるいは、ぼくらが通りすぎてから猛ダッシュで追いかけてくるということも考えられるよね。
想像が怖すぎたので、後ろに声をかけた。
「あのさ、ケン」
「な、なんだよ」
「あの黒い影から、絶対目を離さないで」
「ああ、まだいる。まったく動いてないな」
ぼくのいおうとしたことを察したドクも協力を申し出てくれる。
「ケン、ボクの肩につかまっていていいから、後ろ、頼んだよ」
「わかった。絶対、目を離さない」
一組から順番に、班ごとに出発。
懐中電灯は各班にひとつ。
キャンプファイヤー会場からさらに道なりに奥へと進むと、ゆるやかなカーブを描いてコトリ荘を一周して正面玄関まで戻れるらしい。
とちゅうに赤い鳥居の小さなホコラがあり、ふうとうが置いてあるので、各班ひとつ持って帰るのがミッションだ。
「ホコラか!」
ケンがウキウキした声をだすのに、ぼくももちろん乗っかった。
「リアルのホコラか! 『ドラゴン・オデッセイ』でしかお目にかかったことないや」
そうさ、ぼくはいま、リアル冒険者。
とある村に立ち寄り宿に泊まることにしたが、宿の主人にこう頼まれたんだ。
「最近、このあたりで夜に盗賊が出るようになった。すまないが、夜になったら宿の周りを見回ってはくれんかね」……なんてね。
困っている人を助けるのも冒険者の仕事、断る理由はない!
一班ずつ順番にスタートしていく。
次の次がぼくら八班になったところで、装備のてんけんをすることにした。
風で吹き飛ばないよう、キャップを深くかぶり直す。
パーカーのチャックを上まで引き上げて、高原の夜風でもカゼを引かないようガード。
スニーカーのくつひもを結び直して、いざというときほどけて走れなくなるのを防ぐ。
よし、カンペキだ!
「じゃあ八班さん、足元に気をつけて、いってらっしゃーい」
いちおうリーダーのぼくが石原先生から懐中電灯を受け取り、いよいよ肝試しスタートだ。
「どうせ子どもだましだろうし、こわくなんかねーよな!」
歩き出してすぐにケンが大声でいった。
「どうかしらね。キャンプファイヤーのクオリティを考えると、けっこうガチな肝試しになるってこともあり得るんじゃない?」
サツキが冷静に答えた。
ドクも小さい声で「うん」といっているし、ぼくもどちらかというとサツキの意見に賛成だ。
だって、さっきのプロなんとかって技術を使ったら、オバケでもゾンビもだし放題になるってことでしょ?
ナメてかかるわけにはいかないよ。
ぼくらの様子にケンも考えを改めたようで、無言で体をくっつけてきた。
懐中電灯を持つぼくの近くに寄りたい気持ちはわかるけど……みんな、ちょっと近すぎだよ。
まるでおしくらまんじゅうしながら歩いているみたいだ。
そんな感じだから、押されてコケそうになったり引っぱられたりして、ふつうに歩く速度じゃ進めない。
怖いならさっさと歩いて、少しでも早く肝試しを終わらせたほうがいいような気がするけれど、こればっかりはしょうがないよね。
街灯ひとつないとはいえ月明かりがあるし、一本道で迷うこともない。
道幅は、ぼくら五人が横一列になっても進めそうなくらいある。
アクシデントさえなければ、危なくはない……はず。
「ど……どんなオバケがでると思う?」
ケンの声が不自然にくぐもっていたので振り返ると、ドクの両肩にしがみつき、うつむいて周りを見ないようにしているじゃないか。
「コンニャクかな、定番は。釣り竿の先につるしたコンニャクを、顔や首すじに当てるんだ。わかっていてもビックリしちゃうよねぇ」
電車ゴッコか! とツッコミを入れそうになったけれど、ドクは気にしていないようなのでほうっておくことにする。
スタートしてからだいぶ歩いた気がするけれど、オバケらしきものはちっともでてこない。
ドクのいっていたコンニャクもない。
もしかして、ただ暗い道を進むだけの度胸試しなのかな?
サツキも同じように考えていたみたいだ。
「なーんにもでてこないわね。この肝試しの怖さって、暗さだけ?」
「ね、サツキちゃん。あれ……なにかな?」
ユリが真横を指さした。
道の両脇は低木が間を空けずにうわっている。
そのおかげでぼくらは、コースを外れることなく一本道を進んでいけるのだけれど……低木のさらに奥に、なにかが見えた。
ぼくが急に足を止めたせいで、後ろではドクとケンの玉突き事故が起きる。
でも、ドクは当然としてケンも騒がなかった。
この異様な空気を読んだのかもしれない。
低木の奥の闇に、ひときわ黒いなにかがある。
じっと目をこらすと、どうも人影のような気がしてきた。
「あれって……」
「たぶん、そうだねぇ」
ぼくの言葉をドクが引き取る。
残る三人からは、息を飲む音。
オバケ役の先生……だったらよかったんだけれど、明らかに違っていた。
そう、さっきキャンプファイヤーで現れた、闇よりなお黒い全身タイツの人にそっくりなんだ。
そこで懐中電灯を預かるぼくは考える。
この光をあの黒い影に当てて、正体を確かめるべきかどうか。
でも、いろいろ想像してしまって踏ん切りがつかない。
だってさ、懐中電灯を向けたとたん、アイツがものすごい勢いでこっちに向かってきたらどうする?
「やめてよ、カズキ」
「えっ?」
「懐中電灯、絶対アレに向けないで」
まるで頭のなかをのぞいたように、サツキが懐中電灯を持つぼくの腕を押さえた。
「もちろん、そんなことしないよ」
相手が何者かわからない以上、ヘタに刺激するのは利口じゃない。
そうさ、未知のモンスターと戦うときは、慎重すぎるほうがいいんだ。
ぼくは冒険者の心得を思い出してうなずいた。
「このまま進もう」
ぼくらは何もせず、黒い影の前を通りすぎることにした。
懐中電灯の明かりは、足元の地面に固定。
それでも、あの黒い影が気になってしまう。
もしかすると、ただの真っ黒のマネキンなんじゃないか……そんな気がしてくるほど、まったく動かないのがかえって不気味だ。
あるいは、ぼくらが通りすぎてから猛ダッシュで追いかけてくるということも考えられるよね。
想像が怖すぎたので、後ろに声をかけた。
「あのさ、ケン」
「な、なんだよ」
「あの黒い影から、絶対目を離さないで」
「ああ、まだいる。まったく動いてないな」
ぼくのいおうとしたことを察したドクも協力を申し出てくれる。
「ケン、ボクの肩につかまっていていいから、後ろ、頼んだよ」
「わかった。絶対、目を離さない」
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