10 / 21
4.異常なキャンプファイヤー
2
しおりを挟む
私服に着替えてお風呂グッズを一度部屋に置いたら、すぐに食堂に集合する。
お待ちかねの夕食の時間だ!
ここでの席順も班ごと。
ほんの一時間ほど顔を合わせていなかっただけなのに、サツキとユリとはなんだか久しぶりに合ったような気がした。
「風呂どうだった?」
サツキたちがテーブルに着くなりケンがたずねた。
「いいお湯だった」なんて答えが返ってくるのを期待したけれど、サツキの言葉は歯切れが悪い。
「うーん。悪くはないと思うけど……」
「ね……サツキちゃん。湯冷めするかと思った……」
ユリもすごくビミョーな表情をしている。
どうやら女湯も男湯と同じような感じだったらしい。
サッパリしない入浴って、何だかなぁって気分になるよね。
「ま、せっかくの夕食だし、気持ちを切り替えて楽しもう!」
「おー!」
ぼくの呼びかけにケンが答えたところで、ちょうど「いただきます」の時間になった。
みんなで手を合わせてから、長テーブルに用意された料理をじっくりと観察。
うん……これは豚のしょうが焼きだ。
厚みのある豚ロースが三枚、オレンジ色のタレに絡めて焼いてある。
つけあわせに山盛りキャベツの千切りとプチトマト。
ワカメと豆腐の味噌汁に、つけもの、白いご飯。
デザートはぶどうのゼリーか。
なかなかおいしそうだ。
「運動したからメシがうまいなー!」
マンガみたいにガツガツと音を立ててご飯をかきこんでいるのは、もうお分かりだと思うけれどケンだ。
しょうが焼きとご飯をいっしょにほおばってから、冷たい麦茶で流し込んでいる。
それ、お父さんがビールでやるやつのマネだよね?
とにかく、なかなかいい食べっぷりだ。
「お肉、一枚いる人いない?」
小声でたずねるドクに、もちろんケンが挙手でこたえた。
ぼくはそんなに食べられないし、サツキとユリはほら……スタイルを気にするから多めに食べるなんて絶対しない。
だからドクの肉がケンの皿に行くのは、最初から決まっていたようなものなんだ。
合計四枚の肉を獲得したケンだけれど、まだまだよくばるつもりらしい。
サツキとユリをターゲットにして、猫なで声をだしはじめた。
「二人もさぁ、もしお腹いっぱいになっちゃったりしたら、無理しなくていいぜ。おれ、あと肉の二、三枚はヨユーだし」
「お気づかいありがとう。でも大丈夫よ。美容の基本は栄養バランス。タンパク質もしっかりとらないと、体によくないんだから」
あわよくばさらに肉をいただこうとしたケンの作戦は失敗。
サツキにピシャリと断られて口をとがらせている。
ユキもしょうが焼きをかみしめながら、サツキに同意とばかりに何度もうなずいていた。
そうだぞ、ケン。あまりよくばっちゃダメだ。
それから話題はバスでの出来事に移り、『ドラゴン・オデッセイ』になってから、この後に行われるイベントへと変わっていった。
「次はキャンプファイヤーと肝試しか。サツキとユリは、心の準備できてる?」
「とちゅうで泣きだしても、オレは助けてやんないぜー」
ぼくは何気なく聞いたつもりだったんだけれど、ケンがニヤニヤしながら茶化し始め、雲行きがあやしくなる。
サツキ対ケンがバチバチ火花を散らし始めるか……と思ったら、そうはならなかったんだ。
「どうせオバケって、先生がやるんでしょ。べつに怖くないし」
「うん……。ビックリするかもしれないけど、怖くはない……かな」
サツキがすずしい顔で言うと、ユリまでもが怖くない宣言。
これにはさすがにドクも驚いたようだ。
だってユリなら絶対、肝試しなんかやりたくないっていいだすと思っていたから。
ぼくの「準備できてる?」という言葉も、ほとんどユリにいったようなものだったのに。
「確かに、先生がやるオバケはほぼ確実に出てくるとは思うよ。でも、世の中にはまだ科学で解き明かされていない現象があるのも事実なんだ。それがタイミング良く肝試し中に起きた場合、まるで本当にオバケがいるとしか思えないことが起きるかもしれないねぇ」
食べるのが遅いドクが、今ようやく二枚目のしょうが焼きを食べ終えていった。
わかったようなわからないような気持ちのまま、ぼくはうなずきかける。
けれどもサツキは気取って人差し指を横に振って見せた。
「そんな不確かなものよりも、あたしたちが怖いのは日差しよ。もっというと、紫外線。ハイキングのときは一応日焼け止めを塗ったけど、ちゃんと効いてくれていたかちょっと心配。でも夜のイベントなら何も怖いものはないわ!」
「うん、サツキちゃん」
うちのお母さんも、ちょっと近所のコンビニに行くだけなのに、やれ日焼け止めだー、日傘だー、って大騒ぎする。
そういえば『ドラゴン・オデッセイ』にも、昼間は絶対に現れないモンスターがいたっけ。たしか――
「ハハハ、太陽なんか怖いの? 吸血鬼じゃあるまいし」
そこからゲームの話が白熱したり、そうかと思うとドクが突然「でも紫外線って」なんて話をまぜっ返してきたり……夕食タイムはおおいに盛り上がった。
全員がしょうが焼きを食べ終えたころ、ぼくら生徒はまた先生たちに引率されて駐車場へと向かった。
正確には、駐車場のさらに奥へ。
時間にして五分ほど歩いたかな。
空き地とはちょっと違うような気がする、林の中のひらけたところには、キャンプファイヤーの土台が用意されていた。
それも、薪を六段に組み上げた本格的なものだったんだ。
ぼく含むみんなはもっとチャチなものを想像していたのか、周囲から「おおっ!」と歓声が上がっている。
ぼくらは土台を、半径五メートルほどの円を描いてとり囲んだ。
お待ちかねの夕食の時間だ!
ここでの席順も班ごと。
ほんの一時間ほど顔を合わせていなかっただけなのに、サツキとユリとはなんだか久しぶりに合ったような気がした。
「風呂どうだった?」
サツキたちがテーブルに着くなりケンがたずねた。
「いいお湯だった」なんて答えが返ってくるのを期待したけれど、サツキの言葉は歯切れが悪い。
「うーん。悪くはないと思うけど……」
「ね……サツキちゃん。湯冷めするかと思った……」
ユリもすごくビミョーな表情をしている。
どうやら女湯も男湯と同じような感じだったらしい。
サッパリしない入浴って、何だかなぁって気分になるよね。
「ま、せっかくの夕食だし、気持ちを切り替えて楽しもう!」
「おー!」
ぼくの呼びかけにケンが答えたところで、ちょうど「いただきます」の時間になった。
みんなで手を合わせてから、長テーブルに用意された料理をじっくりと観察。
うん……これは豚のしょうが焼きだ。
厚みのある豚ロースが三枚、オレンジ色のタレに絡めて焼いてある。
つけあわせに山盛りキャベツの千切りとプチトマト。
ワカメと豆腐の味噌汁に、つけもの、白いご飯。
デザートはぶどうのゼリーか。
なかなかおいしそうだ。
「運動したからメシがうまいなー!」
マンガみたいにガツガツと音を立ててご飯をかきこんでいるのは、もうお分かりだと思うけれどケンだ。
しょうが焼きとご飯をいっしょにほおばってから、冷たい麦茶で流し込んでいる。
それ、お父さんがビールでやるやつのマネだよね?
とにかく、なかなかいい食べっぷりだ。
「お肉、一枚いる人いない?」
小声でたずねるドクに、もちろんケンが挙手でこたえた。
ぼくはそんなに食べられないし、サツキとユリはほら……スタイルを気にするから多めに食べるなんて絶対しない。
だからドクの肉がケンの皿に行くのは、最初から決まっていたようなものなんだ。
合計四枚の肉を獲得したケンだけれど、まだまだよくばるつもりらしい。
サツキとユリをターゲットにして、猫なで声をだしはじめた。
「二人もさぁ、もしお腹いっぱいになっちゃったりしたら、無理しなくていいぜ。おれ、あと肉の二、三枚はヨユーだし」
「お気づかいありがとう。でも大丈夫よ。美容の基本は栄養バランス。タンパク質もしっかりとらないと、体によくないんだから」
あわよくばさらに肉をいただこうとしたケンの作戦は失敗。
サツキにピシャリと断られて口をとがらせている。
ユキもしょうが焼きをかみしめながら、サツキに同意とばかりに何度もうなずいていた。
そうだぞ、ケン。あまりよくばっちゃダメだ。
それから話題はバスでの出来事に移り、『ドラゴン・オデッセイ』になってから、この後に行われるイベントへと変わっていった。
「次はキャンプファイヤーと肝試しか。サツキとユリは、心の準備できてる?」
「とちゅうで泣きだしても、オレは助けてやんないぜー」
ぼくは何気なく聞いたつもりだったんだけれど、ケンがニヤニヤしながら茶化し始め、雲行きがあやしくなる。
サツキ対ケンがバチバチ火花を散らし始めるか……と思ったら、そうはならなかったんだ。
「どうせオバケって、先生がやるんでしょ。べつに怖くないし」
「うん……。ビックリするかもしれないけど、怖くはない……かな」
サツキがすずしい顔で言うと、ユリまでもが怖くない宣言。
これにはさすがにドクも驚いたようだ。
だってユリなら絶対、肝試しなんかやりたくないっていいだすと思っていたから。
ぼくの「準備できてる?」という言葉も、ほとんどユリにいったようなものだったのに。
「確かに、先生がやるオバケはほぼ確実に出てくるとは思うよ。でも、世の中にはまだ科学で解き明かされていない現象があるのも事実なんだ。それがタイミング良く肝試し中に起きた場合、まるで本当にオバケがいるとしか思えないことが起きるかもしれないねぇ」
食べるのが遅いドクが、今ようやく二枚目のしょうが焼きを食べ終えていった。
わかったようなわからないような気持ちのまま、ぼくはうなずきかける。
けれどもサツキは気取って人差し指を横に振って見せた。
「そんな不確かなものよりも、あたしたちが怖いのは日差しよ。もっというと、紫外線。ハイキングのときは一応日焼け止めを塗ったけど、ちゃんと効いてくれていたかちょっと心配。でも夜のイベントなら何も怖いものはないわ!」
「うん、サツキちゃん」
うちのお母さんも、ちょっと近所のコンビニに行くだけなのに、やれ日焼け止めだー、日傘だー、って大騒ぎする。
そういえば『ドラゴン・オデッセイ』にも、昼間は絶対に現れないモンスターがいたっけ。たしか――
「ハハハ、太陽なんか怖いの? 吸血鬼じゃあるまいし」
そこからゲームの話が白熱したり、そうかと思うとドクが突然「でも紫外線って」なんて話をまぜっ返してきたり……夕食タイムはおおいに盛り上がった。
全員がしょうが焼きを食べ終えたころ、ぼくら生徒はまた先生たちに引率されて駐車場へと向かった。
正確には、駐車場のさらに奥へ。
時間にして五分ほど歩いたかな。
空き地とはちょっと違うような気がする、林の中のひらけたところには、キャンプファイヤーの土台が用意されていた。
それも、薪を六段に組み上げた本格的なものだったんだ。
ぼく含むみんなはもっとチャチなものを想像していたのか、周囲から「おおっ!」と歓声が上がっている。
ぼくらは土台を、半径五メートルほどの円を描いてとり囲んだ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
【総集編】日本昔話 パロディ短編集
Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。
今まで発表した
日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。
朝ドラの総集編のような物です笑
読みやすくなっているので、
⭐️して、何度もお読み下さい。
読んだ方も、読んでない方も、
新しい発見があるはず!
是非お楽しみ下さい😄
⭐︎登録、コメント待ってます。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版

お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。
鎌倉西小学校ミステリー倶楽部
澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】
https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230
【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】
市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。
学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。
案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。
……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。
※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。
※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる