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3.何かがおかしい……

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「おおーっ!」

 ぼくは思わずさけんだ。
 そこには絶景が広がっていたんだ。
 コバルトブルーの空を背景に、大きな大きな山がそびえている。
 あの形を見て、日本人で見間違える人はいない。富士山だ。
 見下ろせば太陽の光を受けてまぶしく輝く山中湖が広がっている。

 ぼくだけじゃない、ドクもケンもサツキもユリも、クラスの面々もみんな、歓声を上げてから急に静かになって、まるで絵画みたいな景色に心をうばわれているんだ。

「アタシ、今ほどスマホ持っていたらいいなと思ったこと、ない」

 サツキがくやしそうな声を出した。
 ふと周囲を見ると、クラスの中にスマートフォンを隠し持ってきた何人かが、先生の目を盗んで景色を撮影しているじゃないか。
 おいおい……とは思うけれど、そうする気持ちは痛いほどわかるよ、今は。
 ぼくの班は合宿から帰ってから、体育館に貼りだされるカメラマンの写真を買うしかないんだ。

「サツキちゃん……わたし……この空こわい」

「えっ?」

 今にも消え入りそうな声でユリがいった。
 驚いてサツキは空を見上げる。
 青い、とてつもなく青い空を。

「そうかも。なんだか、作り物みたい」

「うん……普通の空じゃないよ。わたし帰りたい」

「ユリ……」

 真っ青な空に感動した気分が、まるで口をしばっていない風船みたいにみるみるしぼんでいった。
 一応、班長という役割についているから口にだしてはいわなかったけれど……ホントのところ、早く宿泊施設に帰りたくなった。
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