林間学校に待ち受ける異次元のワナ

Ryo

文字の大きさ
上 下
1 / 21
1.旅立ちの朝

1

しおりを挟む
 きみって、遠足の前の日にねむれなくなるタイプ?
 ほかにも、楽しみにしているテレビゲームや本の発売日前なんかは、楽しみでコーフンしてなかなか寝られなかったりするよね。
 それじゃあ、林間学校の前の日はどう?

 林間学校がない学校もあるのかな。
 どういうものかっていうと、山の中にある施設しせつに1日か2日、学年全員でおとまりするんだよ。
 行き先によって呼び方が変わって、海なら臨海学校、高原なら高原学校になる。
 林間学校のばあいは、昼間は山をハイキングして、夜はみんなでトランプしたりハンカチ落とししたり……ほかにもイロイロ!
 だから、遠足で寝られなくなるタイプならまちがいなく、さらに楽しみすぎて寝られなくなるに違いないんだ。

 ぼく、残念ながらこのタイプなんだよね……。
 だから林間学校前日は、放課後遊びの時間ギリギリまで全力でドッジボールしてからダッシュで家に帰り、さらに近所の公園を意味もなくかけまわって、とにかくいそがしくすごした。
 ふつうは学校行事前は体力を温存しておくべきなんだろうけれどさ。
 わざわざクタクタに疲れることで、すぐに寝つけるって作戦をとった。
 寝不足で林間学校に行くのはイヤだったからね。

 そんな努力のかいあって、ぼくは目ざまし時計が鳴る、ほんの二秒前にとび起きた。
 それに気づいたかのように、大あわてで鳴ろうとする目覚まし時計の頭をポンとたたく。
 フッフッフ、うんともすんとも言わせないぞ。

「やった、ぼくの勝ち!」

 窓から見える空は真っ青! 雲は真っ白! 天気は絶好調で本日は晴天なり!
 気温は……うん、暑すぎも寒すぎもしないちょうど良い具合。
 まさに行楽日和こうらくびよりってやつだね。
 
 ふとんの中でひとつ伸びをしてから、ぼくは勢いよくベッドから起き上がる。
 いつになくさわやかに目がさめた。
 あと五分……なんてズルズル思わずにスッキリ起きられたことなんて、今までに何回あったっけ?
 ある有名なゲームの主人公は旅立ちの朝、お母さんに起こしてもらっていたんだよね。
 それにくらべたら、ぼくのほうが主人公にむいているんじゃないかな、なんて。

 今日は、待ちに待った特別な日。
 だからまず、気合いを入れて装備を整えないとね!
 ゲーム好きな人ならわかると思うけど、装備っていうのは、身につけるものをいうんだ。
 いつもはTシャツにハーフパンツが定番スタイルだけれど、山の中をハイキングするにはちょっとばかり防御力が低い――つまり頼りない。
 Tシャツとハーフパンツで原っぱへの遠足に行ったら、気づかないうちに手足に切り傷ができていたっけ。
 たぶん、ギザギザした草や突き出た木の枝かなんかにひっかけたんだと思う。
 だから今朝は、ドラゴンがらのTシャツに、ちょっとやそっとの雨なら弾いてしまえるジャンパー、厚手のジーンズという、野外活動にぴったりな服に着替えた。
 このTシャツは先週お母さんと出かけたとき、今日のために買ってもらったんだ。
 今ハマっているテレビゲーム『ドラゴン・ブレイド』のグッズさ!
 家を出るときはさらに、赤いキャップと、いつものスニーカーもフル装備する。
 これなら、どんな場所を冒険ぼうけんするにも不安はないからね。
 ついでだから言われる前に顔をあらってからリビングに行くと、お母さんは目をまるくして「カズキ、はりきってるわね!」と、笑顔になった。

 ぼくは高橋一樹、小学三年生。
 特にあだ名はなくて、家族も友だちもカズキって呼んでいる。

 そう、ぼくは今までにないくらいはりきっている。
 運動会よりクリスマス会より、林間学校が楽しみでしょうがなかった。
 去年の集団登校でに当時の三年生――つまり、今の四年生だね――から林間学校の話を聞かせてもらったときから、今日という日が待ち遠しかったんだ。

 ええと……なに県だったっけ?
 とにかく、富士山のほど近くにある山中湖というところへ一泊旅行に出かける。
 そこではハイキングやキャンプファイヤー、キモ試しといった、たくさんのイベントが用意されているんだってさ。
 考えただけでもワクワクしてくるなあ!

 お母さんの作ったハムエッグを食べてライフ――つまり体力は満タン!
 ぼくは出発前に最後の確認をすることにした。

 玄関にドーンと置かれているのは、でっかいリュック。
 ふだん使うサイズとくらべて倍以上大きい。
 両サイドにも荷物が入るポケットがついていて、着がえ、おやつ、洗面具、そのほかいろいろなアイテムがつまってパンパンだ。

 「林間学校のしおり」と書かれた小冊子しょうさっしは、なんども開いて読み直したからボロボロ。
 たとえばそうだな……森にすむ生き物のページなんかはすぐに開いて読めるように、ページの端を折って目印をつけてある。
 カミキリムシやクワガタ、サワガニなど、ラッキーだったら出会えるかもしれない生き物がイラストつきでしょうかいされているんだ。
 このイラスト、もしかして先生がかいたのかな? けっこう上手なんだよね。

 危険な生き物のページは面白いよ。
 アシナガバチとか、チャドクガの幼虫なんかは「見つけても絶対にさわってはいけません!」だってさ。

 もしカミキリムシやクワガタを見つけたらどうしよう。
 せっかくつかまえても、最後の日には「自然に返しましょう」って言われる気がする。
 連れ帰るためには、持ち物リストにはないけれど、虫かごになるような小さいハコをもって行ったほうがいいかな?

 そして、そう。持ち物リスト。
 服装からリュックの中身まで、林間学校の当日までに用意しなければならないたくさんの物の名前がズラズラとならんでいる。
 「水筒すいとう(水かお茶)」なんて注意書きがあったり。
 名前の横にはチェックマークを書き入れる四角があるんだけれど、もちろん、ひとつ残らずチェックずみ。
 つまり、忘れ物はないってこと!
 さらに、四角からはみ出た横っちょに、お母さんが書き入れたチェックマークまであるんだ。
 そう、二人がかりで忘れ物のチェックをしたんだ。
 だから持ち物についてはカンペキだと思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐️して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

【総集編】童話パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。童話パロディ短編集

【総集編】アリとキリギリスパロディ集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。 1分で読める! 各話読切 アリとキリギリスのパロディ集

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

鎌倉西小学校ミステリー倶楽部

澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】 https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230 【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】 市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。 学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。 案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。 ……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。 ※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。 ※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)

ピカピカとわたし

kjji
児童書・童話
ピカピカのお話

処理中です...