上 下
29 / 60

29 フィリアンのカクテル

しおりを挟む
俺とフィリアンはバーカウンターでカクテル作りに没頭していた。

まぁ・・・なんというか、色気もへったくれもねぇ・・・

ベースになりそうな酒を色々並べて好きなのを使えっていうスタイルだ。

ジュース関係は一通り冷蔵庫に入ってる。

俺はこの昆布茶酒をどうしてやろうか頭を悩ませてるんだが・・・

これ自体塩味だ・・・アルコールも入ってる・・・

果物系は軒並み失敗した

どうにも海藻臭さと合わないのだ・・・

脳裏に閃く一杯のお茶・・・

そうだ!梅昆布茶だ!

こいつをどうにか・・・単に梅をこの酒に合わせればいいのか?

しかし・・・それでは芸が無い・・・

梅昆布茶酒の調合に満足した後は。他との組み合わせを考える・・・

コブショットってカクテルがあったよな・・・ウォッカとお湯を使ったホットカクテル・・・

しか~し、真似だけではバーテンダーとしてどうなんだ?

そんな思いで他の酒との組み合わせを試していく・・・

び・・・微妙だ・・・元々の方が上手いじゃないか!

梅昆布茶酒は完成度が高すぎる!


そんな俺の苦悩を横目にフィリアンも色々と試している



フィリアンはライムジュースが気に入ったようだ、ホワイトラムとドライベルモットを味見してシェイカーに入れる

首をかしげながらブランデー、ドライジンで調整していく

最後にライムジュースを注いだ・・・

一口飲んだ後、グラスに注いで割合を変えて作っていく・・・

「むふふっ」

嬉しそうに笑うフィリアン

ん~でもなぁ、その割合とレシピはなぁ・・・

俺は知っていた、フィリアンの作ったカクテルを・・・



【アディオス・アミゴス】
ライム・ジュース20m
ホワイト・ラム40ml
ブランデー20ml
ドライ・ジン20ml
ドライ・ベルモット20ml

まさにこれだな・・・

聞いた事があるフレーズだと思うが、複数形になってる所がミソかな

(長期間の)友人達との別れって意味合いだ

死んだ仲間に使われるのがこれだね。


小ネタとしてはちょっとの別れはチャオが使われる

知ったかぶりで学校帰りにアディオスとか言う奴がいたが、転校でもするのか?ってツッコミを入れてあげよう



話は逸れたが、出来上がった物の味見をお願いされる。

「うん、イイネ、シェイカーの扱いも上手くなったなぁ」

満面の笑み、嬉しそうなフィリアンにグッとくる物があるが・・・

「アディオス・アミゴスってカクテルだね、美味しいよ」

「やっぱり先に作った人がいらっしゃいましたか」

ちょっと残念そうなフィリアンだが

「自力でこの味に辿り着けたんだから凄くセンスがあると思う。俺以上かもよ」

誉め言葉に涙を浮かべる

「そんな・・・ハル様を超えるなんて・・・」

実際俺のレシピは偉大なバーテンダー達が作ったもの、そのアレンジでしかない。

前知識無しで酒を組み合わせる事ができるのは凄い事だと思う。

「まったく俺の知らないカクテルを作りたかったら、こっちの世界の酒を使えば早いと思うよ」

そう、こっちの世界の酒を使ったカクテルのレシピなんて持ち合わせていない

この前火酒を使って作った奴くらいだ。

「わかりました、やってみます。」

そう言って再びカクテル作りを始めるのだった。



俺の方は・・・というと、昆布茶酒カクテルに悩み続けてる・・・

薄塩味・・・やっぱりテキーラか・・・

梅昆布茶酒にテキーラ、炭酸水を入れて飲んでみる・・・

テキーラが邪魔だ・・・

だが、味のふくらみがもう少し欲しい・・・

中々思う通りに進まない俺は

「ああぁぁぁぁぁぁ~」っと叫ぶと厨房に行く

そして、魚を捌き始める。

「ハル様?」

「いや、気にしなくていい、気分転換に飯を作るだけ」

先日釣った鯛を使っての鯛めしだ・・・

醤油・・・砂糖・・・出汁・・・酒・・・酒・・・?


「日本酒?・・・合うんじゃね?」

鯛めしを炊飯器にセットしてバーカウンターに戻る

とりあえず日本酒と梅昆布茶酒をハーフ&ハーフで作ってみる。

「ん・・・日本酒は半分でいい・・・」

調整を繰り返す・・・

「味、バランスもいいんだが・・・何か・・・」

ふと思い立ったかのように日本酒と梅昆布酒を湯煎にかける・・・

そして新たに作り直す

「ん・・・OK、これはいい!」

フィリアンにも味見を頼む

「・・・飲みやすくて優しい味ですね、ほっこりします」

一応完成としてレシピを紙に保存する。

熱燗は盲点だったな・・・

冬場に売れそうなカクテルだ・・・冬は遠いが・・・


フィリアンの方は・・・

グラスランドの苦酒とライムジュース、アプリコットブランデーで合わせている・・・

ふむ、面白い組み合わせだ・・・

どうしてもライムジュースが使いたいらしい・・・

苦酒の風味とライムジュースは合うと思う。

苦みを緩和する甘めのアプリコットブランデーか・・・

頭の中で味をイメージする・・・

うん、美味しいかも・・・

苦酒の癖が強すぎてアプリコットブランデーとのバランス調整に苦労している。

まぁ・・・あれの取り扱いは難しいよな・・・

そう、一人呟き厨房へ向かった。


「汁物を作るか・・・」

鯛のアラやエビの頭、カニなんかで出汁をとっていく

勇者が採ってきたエビやハマグリに似た貝を具材に決め海鮮汁を作っていく。

勿論、味噌味だ。

「贅沢な味噌汁だな・・・たまにはいいか・・・」

たま~に来るお客様の相手をしながら、俺とフィリアンはカクテルの研究をする。

これこそが平穏!素晴らしい!

そう心で思う俺だった。


そうこうしてるとフィリアンが嬉しそうにカクテルグラスを持って来る

上手くできたようだ。

「できました!味見をお願いします!」

俺はグラスを受け取ると香りを嗅ぐ

ライムの清々しい香りとアプリコットの甘い匂い

アクセントにはちょうどいい薬草の香り・・・使い方はハーブに近いかな・・・

ゆっくり一口・・・舌の上で転がすように味わう・・・

ライムの酸味とアプリコットブランデーの甘味が苦酒の苦みを緩和させる。

苦味が不快ではなく心地いいレベル。

「これはいいね!うん美味しいよ!間違いなく初めて飲むカクテルだ!」

「よかったです、アプリコットブランデーと苦酒のバランスが凄く難しくて心が折れそうになりました」

嬉しそうに報告するフィリアンにほっこりする。

「名前をつけなきゃね」

俺の言葉にフィリアンは考え込む・・・

「どんな名前がいいでしょう?」

質問を返された・・・返答を疑問形で返す奴は戦場で死ぬぞ・・・

「作者の名前が付けられたカクテルも多いから【フィリアン】なんかいいんじゃない?」

初めて作ったオリジナルカクテルだしね

「え?私の名前でいいんですか?」

「初めて作った記念に自分の名前を付けたっていいだろ?」

そんなわけで、この新作カクテルは【フィリアン】に決定した。

「これは店で出してもいいね」

そういうととても誇らしげに笑うフィリアンだった。









後に様々なオリジナルカクテルを世に送り出し称賛を浴びる伝説のバーテンダーになるフィリアンだったが

その伝説の第一歩はここで作られたこのカクテルだったのだろう

ハーフエルフの長寿命で俺の死後も店を守り続け、あちこちから誘いがあったがすべて断り

最後まで俺がプレゼントしたシェイカーを離さなかった。

後のバーテンダーはフィリアンのブレンドセンスは神に等しいと評価し、

その才能を見出した俺を『バーテンダーの開祖』と語り継いだのはまた別の話・・・
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

金魚すくいは世界をすくう!~双子が廻る魂の世界~

蒼衣ユイ/広瀬由衣
ファンタジー
累(るい)の最愛の弟、結(ゆい)が脳死となった。 しかし完全に死亡する直前、空飛ぶ鯉が結を連れ去っていく。それに巻き込まれた累が辿り着いたのは、魂の世界を管理する《鯉屋》だった。 結は鯉屋の《跡取り》に担ぎ上げられ、累は鯉屋の下請け《金魚屋》に移される。 魂の世界に戸惑うも、生前よりも元気な結の姿にこの世界も悪くないと思い始める。 そんなある日、跡取りは生贄として殺されると知る。 累は最愛の弟を救い出すため、鯉屋へ立ち向かっていく。 illust 匣乃シュリ様(Twitter @hakonoshuri)

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

処理中です...