【完結】染髪マン〜髪色で能力が変わる俺はヒーロー活動を始めました〜

仮面大将G

文字の大きさ
上 下
48 / 51
襲撃と救世主

第48話 作戦会議

しおりを挟む
 車の間をすり抜け、俺はバイクを走らせる。
 電車では約20分かかる場所だが、これは電車が大回りで走っている為。バイクならそこまで時間はかからないはずだ。

 幸い道は空いていて、邪魔になるような渋滞は無い。だが、権藤がいつまで保つのか分からない。できるだけ早く辿り着かないと!

 ハンドルを握る手に自然と力が入る。俺はスピードを上げ、権藤の元へ向かって行った。


 しばらくすると、さっきの場所が見えて来る。黒いドーム状のものは更に大きくなっており、不気味な存在感を放っている。

 しかし、さっきまで見えていた白い光の筋は確認できない。おい待ってくれよ、まさかもうやられたのか!?

 いや、あのしぶとい権藤のことだ。何とかして生き残っていると信じよう。
 頼む、生きててくれよ!



 出発から15分ほどで黒いドームのところまで辿り着いた俺は、躊躇なくそのままバイクでドームに突っ込んだ。
 ドームの中は真っ暗で、バイクのライトを付けないと何も見えない。

 それにしてもバイクがあって良かった。早く着いたのもあるが、ライトが無いと何もできないところだったな。金森さん、ナイスだ!

 少し走っていると、バイクのライトが照らす先にぼんやりと白く光るものがあった。

 権藤だ!まだ戦っている!よし、まずはあいつを助け出して、ここから脱出するんだ!


 白い光の近くまで来ると、白い染髪マンの姿が見えた。きっちりとオールバックにセットされていた髪は乱れてボサボサになり、仮面が割れて権藤の目が見えてしまっている。
 その周りには6人の漆黒の王。白い染髪マンを取り囲んでいる。


 俺は一旦バイクを止め、ライトを消した。そして手探りでポケットから櫛を取り出し、一回髪を梳く。そして、小声で呟いた。


「変身、染髪マン」


 腰に出現したベルトに櫛を差し込み、俺の体は黄色く光り出す。大きなハケで何かが塗られるエフェクトが出現し、俺は染髪マンへと姿を変えた。

 その瞬間、暗闇を雷が切り裂いた。真っ暗なドームの中に、嵐のように落雷が降り注ぐ。

 6人の漆黒の王は、一斉に俺の方を向いた。


『何事だ?』


『あれは……染髪マンか?』


『我が闇の中で、まだ存在できる染髪マンがいたか』


『だが関係無い。返り討ちにするのみだ』


『我に歯向かうとどうなるか、思い知らせてやろう』


『新たな世代の染髪マンよ、覚悟しろ』


 相変わらず不気味だ。同じ声、同じ人格で6人が順番に話す。頭がおかしくなりそうだが、今はそんなことを言っている場合じゃない。


「漆黒の王!俺はお前らを倒す!」


「ダメだ、染谷柊吾……!今の君では……!」


 権藤が弱々しい声で俺を止める。相当ダメージを受けているようだ。


「ああ分かってるよ権藤。今の俺じゃ、漆黒の王は倒せない。だからこそ、俺はあんたを助ける!」


「私を……?」


「そうだ!正直あんたを助けることには内心納得いってない。でも、漆黒の王を倒すにはあんたの情報が必要だ!だから、俺はあんたを助け、必ず漆黒の王を倒しに戻って来る!」


 俺がそう言い放つと、割れた仮面から除く権藤の目に、弱々しい笑みが浮かんだ気がした。


「なるほど、合理的な考えだ。なら私も君に協力しよう。それで、この場を脱出できる策はあるのかね?」


「あるぜ!一か八かだけどな。俺と相乗りする勇気、あるか?」


 俺がそう言うと、権藤はふんっと鼻で笑ってから再び口を開いた。


「ちょうど私も限界を迎えていたところだ。君に賭けてみようじゃないか」


「決まりだな。じゃあ行くぜ!」


 いつもならここで敵に向かって走り出すところだが、今回は違う。俺はその場に立ち止まったままだ。

 そのまま俺が右手を上に向けると、俺の髪が強く光り、6人の漆黒の王を目がけて雷が落ちて来る。

 辺りが一瞬照らされ、漆黒の王の影がくっきりと見える。だがその顔には表情も何も無く、輪郭の中にただ黒い空間が広がっているだけだ。気味悪いな。さっさとずらかるか。


「ぐっ……!」


 だがそんな時俺の体に衝撃が走り、地面に片膝を着いてしまう。

 くそ、これがマニパニの力……!体に力が入らない。このまま力を使い続けると、自分という存在が消えてしまいそうな感覚だ。

 なんとか顔を上げて漆黒の王を見ると、落雷のダメージなのか、少し体の黒が薄くなっている気がする。


『人間風情が……小癪な!』


『雷を操る力、これほどとはな』


『くっ……今は分が悪いか』


『だが、その光も所詮我が闇に飲まれる運命』


『我らが一つになれば、お前など敵ではない』


『覚えておくがいい。我に適う者などいないと』


 そう言うと漆黒の王は両手を上げ、暗闇を濃くしようとした。


「権藤!何かされる前にずらかるぞ!」


「了解した!」


 俺と権藤はバイクの元へ戻り、バイクに跨って変身を解除する。積んであった予備のヘルメットを権藤に渡し、俺はバイクのエンジンをかける。
 俺たちの後ろから、濃い暗闇が迫って来る。ドームの出口も小さくなってきて、闇が閉ざされようとしているようだ。
 俺はバイクのスピードを上げ、出口へと向かった。
 そのまま暗闇の中を突っ切り、ドームを飛び出した。



 なんとか家まで辿り着いた俺たちは、ドアを開けると玄関に倒れ込んだ。


「柊吾!?大丈夫なの!?」


「ああ、俺は大丈夫だ……多分な」


「待って、権藤教授の方がダメージが酷い!応急処置しないと!」


 美乃里と銀子が飛び出して来て、俺たちは中に運ばれ、横になった瞬間意識を失った。



「はっ!ここは……?」


 しばらくして、権藤が目を覚ます。俺は既に意識を取り戻していて、ダイニングの椅子に座っていた。


「よう権藤。目が覚めたか?」


「染谷柊吾……。まずは礼を言っておこう。助かったよ。ありがとう」
 

「お、おう……」


 なんか権藤がこんなに素直だときもちわるいな。いや、この感じが素なのか?だとしたら慣れないとな。


「柊吾、できたよ!あ、教授も起きてる!」


「権藤教授、久しぶりですね。私のこと覚えてます?」


 美乃里と銀子が食事を持って入って来る。まずはこのボロボロの体に、食べ物を入れないとなと思って頼んでおいたんだ。


「君は……藤本銀子か。染髪マン側に寝返ったと聞いたが、本当だったのだな」


 そうか、権藤は銀子がヒーローになった時まだ復活してなかったんだな。これがヒーローとしては初対面ということだ。


「権藤、とりあえず食えよ。そんな状態じゃ何もできないだろ?色々聞きたいこともあるしな」


「助かる。お言葉に甘えさせて貰おう」


 素直なんだよなあ。本当に気持ちが悪い。底の見えない不気味さがこいつの印象だったのに、こんなんじゃなんか拍子抜けだな。

 まあいいや。権藤を助け出したのは、漆黒の王についての話を聞く為。気持ち悪いのはとりあえず置いとこう。


「早速だけど本題に入ろう。漆黒の王について教えてくれるか?」


「急な奴だな君は……。だがその情報共有は必要なことだ。話そう」


 そう言うと権藤は漆黒の王について話し始めた。

 漆黒の王は、黒を司る存在。「黒」という色を自在に操ることができるんだそうだ。

 完全な黒は、一切の色の存在を許さない。漆黒の王が本気を出すと、ただ黒という一色だけが存在する世界になる。つまり、完全な闇に包まれるんだ。

 完全な闇の中では色が存在できない為、染髪マンの力を発揮できない。

 だから権藤は、なるべく白に近い金髪を維持していた。金森さんが言っていたように、自ら発光することができれば、染髪マンの力を使えるからだ。

 だが当時のブリーチ技術では、金髪の維持は難しかったらしい。権藤の髪はダメージを受け、ところどころちぎれてしまっていた。

 だから権藤は精一杯の力を使い、漆黒の王を封印したんだそうだ。


「なるほどな……。なら蛍光色に染める選択肢は間違ってなかったってことか」


「その判断は良かったと思うがね。ただ、その力も長くは使えないのだろう?」


 そう、この力は今の俺には扱い切れない。金森さんが言うには、染髪マンマニックパニックの力を訓練無しで使い過ぎると、俺自身が光になって消えてしまうということだった。

 でも、訓練してる時間なんて無い。最大限の力を発揮して、短時間で漆黒の王を倒しきらなければならない。

 すると銀子が突然立ち上がった。


「柊吾くん、ちょっと待っててね。私も蛍光色に染めて来るから!」


「お、おい銀子待て!そんなことしたらお前まで……」


「何言ってるの!柊吾くんと権藤教授だけで戦うより、私も戦えた方が決着は早いに決まってるでしょ!それに、私消えるつもりなんて無いから!今までサポート役ばかりで、柊吾くんに助けられて来たけど、今度は私が助ける番!絶対勝つよ!」


 そう言うと銀子は家を飛び出して行った。頼もしいことだ。そうだな、俺たちは絶対に勝たなきゃいけないんだ。


「染谷柊吾、作戦を立てよう。金森蘭もいた方がいいだろう。今から藤本銀子を追いかけて、美容室に行くんだ」


「ああ、そうだな。美乃里も危ないから着いてきてくれ!」


「わ、分かった!何かあったら絶対守ってよ?」


 不安そうな美乃里を連れて、俺たちは美容室へと再び足を運んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...