【完結】染髪マン〜髪色で能力が変わる俺はヒーロー活動を始めました〜

仮面大将G

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襲撃と救世主

第45話 再戦と裏切り

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「あれが……漆黒の王?」


 人影は6人分。何度数えても6つある。漆黒の王は、6人もいるのか?

 困惑する俺を余所に、権藤が影に向かって跪いた。


「お久しぶりです、我が王よ……。我々は、この時を長らくお待ちしておりました!」


『ああ……。この30年、長かったぞ』


『いつ復活できるのかと思っていたが……よくやってくれた』


『して、お前の名はなんという?』


『どうやら、我のいた時代とは怪人の構成も変わっているようだからな』


『我が作り出した怪人は、全てあの染髪マンという邪魔者にやられてしまった』


『新たな時代の幹部よ、名を聞かせてくれるか?』


 6人は全く同じ話し方で、一人ずつ話していく。正直、かなり不気味だ。同じ人格の分身が6体いるってことなのか……?


「恐れながら名乗らせていただきます。私は権藤博。ヘアマニキュアゾーメとして、このクロゾーメ軍団の幹部になりました」


『ほう、ヘアマニキュアゾーメの力がお前に渡ったのか……』


『だが幹部によってその戦闘方法は異なる』


『あの憎い染髪マンを倒せる力を、お前は持っているのか?』


 うん、この一人ずつ話す感じがめっちゃ怖いな。なんで代表して一人が話すとかしないのかね?全員が同列で、同じ力を持ってるってことか。だとしたら相当厄介だ。


「はい。私は一度、染髪マンを倒しております。奴め、しぶとく復活しておりますが、もう一度倒してご覧にいれましょう」


『ほう……一度倒しているとな』


『だがしかし、あの頃の染髪マンではないのだろう?』


『新世代の染髪マンと戦っているということか』


「その通りでございます。そしてその染髪マンですが、あちらに」


 権藤はそう言うと、俺の方を指差した。
 おいこれ、マズいんじゃないのか?ヘアマニキュアゾーメと戦う流れになってるぞ。
 仮にヘアマニキュアゾーメを倒せたとして、待っているのは6人の漆黒の王。どれだけの力を持っているのか知らないが、あの幹部連中がこぞってへいこらするような奴だ。俺一人で、勝てるかどうか……。


『面白い。では、そこの染髪マンと戦って見せよ』


「はっ!」


 漆黒の王の言葉で権藤は立ち上がり、俺の方へ向き直った。


「と、いうわけだ。今から私と戦って貰うよ。ちょうど体も万全になって、君との再戦を望んでいたところだ」


「上等だ!また叩き潰してやるよ!!」


「そう言っていられるのも今のうちだと思うがね……。チェンジ!ヘアマニキュアゾーメ!」


 権藤はカッと目を見開く。すると黒い塊が権藤を覆い、塊が弾けると共に権藤の姿は怪人へと変わっていた。


「さあ、今度こそ地獄に送ってやろう」


「望むところだ!かかって来やがれ!」


 前に戦った時と同じように、ヘアマニキュアゾーメはこちらへゆっくりと歩いて来る。
 だがそのスピードは異常なもので、一瞬で俺との距離が詰まった。

 俺はその動きを予想していた。瞬時にヘアマニキュアゾーメの後ろに回り込み、パンチを仕掛ける。

 ヘアマニキュアゾーメは体をずらして紙一重で俺のパンチを躱し、その姿勢から回し蹴りを放って来た。

 顎に直撃しそうな蹴りを、バク転で避ける。ヒリヒリとした緊張感が俺たちを包み、高速で展開される戦いは俺の焦りを煽った。


「君を吹き飛ばすには、これを使うのがいいと思うのでね、使わせて貰うよ」


 そう言うとヘアマニキュアゾーメは大きな櫛を取り出した。前回戦った時と同じ武器だ。だけど、色が違う。前は真っ黒だったが、今回は白い……?


「ふんっ!!」


 そんなことを考えていると、ヘアマニキュアゾーメは櫛を思いっ切りフルスイングして来た。咄嗟に手に持った長剣で受け止める。

 しかし奴の力は強い。前回戦った時よりもかなり強くなっている。白髪染めを塗り重ねて来たのだろうか、長剣を支える俺の両腕は、だんだんと押され始めていた。


「さて、君との戦いもここまでにしておこうかね」


「ああ、俺も今そう思ってたとこだ!俺が勝って、漆黒の王と戦ってやる!」


 俺がそう言うと、ヘアマニキュアゾーメはふん、と鼻で笑った。


「今の君が我が王に適うわけがないだろう。我が王と戦うなら、もっと強くならないとね」


「なんだと……!?やってみなきゃ分かんねえだろ!!」


「いや、分かるのだよ。今の君では、我が王どころかこの私にも勝てないということがね!」


 ヘアマニキュアゾーメの櫛を持つ両手に更に力が篭もる。俺の長剣はもう俺の肩まで迫っていて、為す術が無い。


「これで終わりにしてやろう。ヘアマニキュア!」


 なんとこの状況で、奴は俺の髪に向かってヘアマニキュアを発射して来た。櫛を長剣で受け止める格好の俺は、当然避けられない。

 俺の髪は黒く染まり、俺の体は元の姿に戻ってしまう。

 そして、更に力が篭った奴の櫛は、俺の長剣を押し切った。左肩に自分の長剣が食い込み、血が流れ出す。


「ぐっ……!!」


「覚悟するがいい染髪マン!いや、染谷柊吾!ふんっ!!」


「ぐあああああ!!!」


 ヘアマニキュアゾーメは櫛を振り抜き、長剣が俺の肩を切り裂いた。溢れ出す鮮血を見ながら、俺の意識にはぼんやりと靄がかかっていく。


「トドメといこうかね」


 奴は飛び上がり、空中で右足を俺に向けた。
 そしてそのまま急降下。キックを浴びせる気だ!


「死ぬなよ!染谷柊吾!!」


 ……は?何故あいつがそんなことを言う?

 一瞬考えるものの、その瞬間には奴の右足が俺に届いていた。
 あまりの衝撃に、痛みはまだ襲って来ない。ただ吹き飛ばされ、俺は地面に転がった。


 ダメだ……。このままじゃ、俺はただやられただけだ。美乃里とのデートに戻らないといけないのに……!

 そう思うものの、体は言うことを聞かない。全く動かない体に、自然と溢れて来る涙。どうしようもなく情けない状況だ。


「いかがでしたか、我が王よ。染髪マンはもう動けない状態です」


『うむ、よくやったぞヘアマニキュアゾーメ』


『では、最後に染髪マンの力を失わせる為の力を与えよう』


『この力は、黒く染まったものを消し去る力だ』


『お前の働きで、染髪マンは黒く染まった』


『今なら、奴の力の根源である髪ごと消し去ることが可能であろう』


『さあ、やってみるが良い』


 一番右端にいた漆黒の王が、ヘアマニキュアゾーメに歩み寄る。
 そして奴の櫛に触れたかと思うと、次の瞬間その櫛は黒いオーラを纏った。


「ありがたき幸せです、我が王よ」


 ヘアマニキュアゾーメは仰々しく櫛を両手で高く掲げると、俺の方を見た。

 そして転がっている俺に近づき、櫛を振りかぶった。


「この時を待っていた……!」


 その瞬間だった。ヘアマニキュアゾーメは振りかぶった櫛を、あろうことか漆黒の王に向かって振ったのだ。


 え……?こいつ、何してんだ?理解ができない。今しがた復活させたばかりの漆黒の王に対して、攻撃を仕掛けた……?


「逃げろ、染谷柊吾。急所は外してある。走れるはずだ!」


「は?お前、何言って……」


「いいから逃げろ!さっきも言ったが、今の君では漆黒の王には勝てない!」


 意味が分からない。何故こいつが今になって俺の味方みたいなことしてんだ……?


「聞こえなかったのか?早く逃げろ!そして、金森蘭のところへ行って、対策を打って来るんだ!私だけでは、奴ら全員は倒せない!」


 いやだから、何言ってんだよこいつ……?漆黒の王を倒す?なんでこいつが?


「いいか、選択肢は二つだけだ。今は私に任せて対策を打つか、この場で二人とも倒されるか。君は、どちらを選ぶのかね?」


 この瞬間、頭の中でピースがハマった気がした。まだ確信は持てないが、とりあえず今はヘアマニキュアゾーメに任せるしかないだろう。


「分かった。お前の言う通りにしてやる」


「賢明な判断だ」


 俺は漆黒の王とヘアマニキュアゾーメに背を向け、全速力で走り出した。


『お前、何をしている……?』


『我に背くということが、どういうことか分かっているのか?』


「ああ、十分分かっているつもりだよ」


 走りながらチラッと後ろを振り向くと、ヘアマニキュアゾーメは変身を解除し、権藤の姿に戻っていた。

 そして奴が手に持った櫛は、小さくなっていた。そう、ちょうど俺の櫛と同じぐらいに。

 そして権藤はその髪を一回櫛で梳き、聞き慣れた言葉を発した。


「変身。染髪マン」
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