【完結】染髪マン〜髪色で能力が変わる俺はヒーロー活動を始めました〜

仮面大将G

文字の大きさ
上 下
42 / 51
襲撃と救世主

第42話 あの日の返事

しおりを挟む
「そっかー、それは大変だったね……」


 家に帰った俺は、美乃里に発毛剤ゾーメのことを話していた。

 あ、もちろんあれから一度大学に戻って、ちゃんと授業を受けてから帰ってきたからね?美乃里とは他の授業が被ってなかっただけで。
 怪人も倒して授業も受けて、落ち着いて家で話してるってわけだ。


「それで、もうその和也くんのことは大丈夫なの?」


「ああ。大輔のおかげで目が覚めたんだ。和也を救えなかったことは事実だけど、過去は過去。あいつの分まで、俺が前向いて生きてかないとなって思ったよ」


「やっぱり柊吾は凄いね。あたしもその強い精神力を見習わなきゃ!」


 いや、俺の精神力は強い方じゃないと思うが……。それに、美乃里が見習う必要なんて無い。彼女は俺や銀子のように、戦うわけではないのだから。

 だがそんな美乃里を見ていると、どうにも胸が苦しくなる。
 小さく拳を握る姿。さらりと揺れる茶髪。大きく吸い込まれそうな瞳。美乃里の全てに対して、今まで知らなかった感情が湧いてくる。

 認めたくないが、俺はその感情をなんと言うかだけは知っている。

 高校までは野球と勉強で忙しく、そんな感情を持ち合わせている暇は無かった。
 大学に入ったらそういうこともあるのかもな、なんてなんとなく思っていた。

 だけど、美乃里がストレートに感情をぶつけてくれたことで、俺にもその感情が芽生え始めたんだ。

 その感情の名は、「恋」だ。


 最初は、美乃里に対して俺が恋心を抱いているなんて、思ってもみなかった。
 でも、告白されてから改めて美乃里のことをちゃんと見て、俺は美乃里に惹かれているってことに気づかされたんだ。

 ヘアマニキュアゾーメにやられ、大怪我を負った俺を本気で心配してくれた美乃里。
 俺の傍にいる為に、わざわざ俺の家まで引越して来た美乃里。
 今までしてこなかった料理を、花嫁修業だと言って始めた美乃里。
 そして、俺を好きだと泣きながら伝えてくれた美乃里。


 俺に対して真っ直ぐで一生懸命な美乃里の姿は、俺にとって恋心を抱くには十分過ぎるものだった。

 告白されてからは、美乃里の一挙一動にドキッとするようになった。あの大きな目で見つめられると、鼓動が早くなる。
 
 そしてもう一つ。俺が美乃里に恋をしていると気づいた瞬間があった。

 それは、発毛剤ゾーメに復活させられた和也がナイフを持って俺に向かってきた時。
 俺は、和也になら殺されても良いと思っていた。でもいざ死ぬと思った時、何故か美乃里の顔が脳裏にちらついたんだ。

 この時、俺は確信した。俺は美乃里のことを好きになってしまったんだと。


 俺と話しながら夕飯を作る美乃里。美乃里が俺の為に料理をしてくれるんだ。そんなことを思って幸せな気分になる。

 そして、俺は決めていた。今日この日に、美乃里の告白に対する返事をしようと。


「はーい柊吾、できたよ!」


「ありがとう美乃里。お、今日は肉じゃがか」


「うん!花嫁修業と言えば肉じゃがじゃない?初めて作ってみたけど、上手くできたよ!」


 花嫁修業と肉じゃがってそんなに強く結び付いてるもんだっけか……?
 まあそれはそれとして、美乃里が作ってくれた料理だ。ありがたくいただこう。


「じゃ、柊吾はご飯よそって貰っていい?あたしはお味噌汁持って行くから!」


「了解!」


 いつの間にか俺と美乃里の立場が逆転してるな。料理を作ったり夕飯の指示を出すのは以前は俺の役目だったし、告白するのは美乃里の方だった。
 今は美乃里が夕飯を作って指示を出し、俺が告白の返事をしようとしている。

 状況としては面白いが、俺としてはそれどころじゃない。平静を装っているものの、内心では心臓が飛び跳ねている。

 なんてったってこれから美乃里に好きだと伝えるんだからな。なるほど、美乃里はずっとこんな気持ちだったんだ。しかもアピールしまくってたのに気づかれなくて、さぞ辛かっただろうな……。なんか本当に申し訳ない。


「よし!これでOKだね。じゃ食べよっか!」


「ああ。いただきます」


「いただきまーす!」


 美乃里は大きな口で肉じゃがを頬張る。そんな姿ですら、無邪気で愛らしく思えてしまう。ダメだなこれは。早く言ってしまいたいところだ。


「どうしたの柊吾?食べないの?」


「ああいや、ちょっと見惚れてて……」


「え?あ、ああ、肉じゃがの出来にってことね?そうでしょー、今回は自信作だから!」


 まさか美乃里に見惚れていたとは言えず、勘違いして貰ったまま食事が進んだ。

 そして一通り食べ終わり、俺たちは食器を下げにキッチンへ。


「明日お休みだから、洗い物は明日で良いよねー?」


「そうだな。でも明日になって後悔するんだろうな」


「あはは、かもねー。ま、仕方ないね!その分今日早く寝て、明日元気一杯で洗い物しよ?」


 そう言って美乃里は伸びをし、俺に背を向けて歩き出した。
 ただ歩き出しただけだ。そんなことは分かっているのに、俺は彼女の背中が遠ざかって行くのを見て、寂しさを覚えた。

 思わず駆け寄り、美乃里を後ろから抱きしめる。ああ、何やってんだろ俺。ちゃんと面と向かって話をするつもりだったのに。


「え!?と、柊吾!?」


「ごめん美乃里。我慢できなかった」


「え……それってどういう……?」


 困惑する美乃里を一旦離し、俺は美乃里の正面に回った。
 鼓動がどんどん高鳴って行くのが分かる。美乃里に告白された時と同じ、地面が無く落ちて行くかのような感覚を覚える。


「柊吾……?」


「美乃里、今から俺は、美乃里の告白に返事をする。よく聞いてくれ」


「えっ……!」


 大きく目を見開く美乃里。俺は深呼吸をして、美乃里の目を真っ直ぐ見つめた。


「俺は……いや、俺も、美乃里のことが好きだ。だから、俺と付き合って欲しい」


 突然のシチュエーションだったから簡単な言葉になってしまったが、どうせ俺の言葉なんてよく考えてから言っても大差無いだろう。
 俺の良いところは、正直なところだ。大輔には散々馬鹿にされて来たが、それでも俺は自分の長所だと思っている。

 真っ直ぐに自分の気持ちを伝えること。それが、俺にできることだ。

 俺の言葉を聞いた美乃里は、数秒フリーズしていた。そしてフリーズから解けた後、彼女の目から二筋の涙が零れた。


「ごめん柊吾……信じられないから、もう一回言って貰える?」


「ああ、何回だって言ってやるよ。俺は、美乃里のことが好きだ」


「柊吾!!」


 俺の言葉を最後まで聞かずして、美乃里は俺の胸に飛び込んで来た。
 俺も迷わずその体を抱き締める。


「本当に?これ現実のこと?」


「ああ、現実だよ。それで美乃里、返事は……」


「OKに決まってるじゃん!そもそも、あたしの方から告白したんだからね?」


「ああ。分かってる。あの時、勇気を出してくれてありがとう。真剣に美乃里のことを考えるきっかけになったし、おかげで美乃里への気持ちに気づけた」


「ありがとうはあたしのセリフ!ちゃんと考えてくれただけでも嬉しいのに、まさか柊吾からも告白してくれるなんて思って無かった!本当に嬉しいよ!!」


 美乃里の声は、本当に嬉しそうだった。もちろん俺の胸にも、幸せな気持ちが満ち溢れている。

 これで、正式に俺と美乃里は付き合うことになった。人生で初めての彼女だ。大事にしないとな。

 それに、美乃里が俺の彼女になったことで、クロゾーメ軍団に狙われるリスクもある。死ぬ気で守らないと。


「柊吾があたしの彼氏……。やばい、どうしよう!」


「落ち着け落ち着け。でもあれだな、クロゾーメ軍団のことを考えたら、この戦いが終わったら付き合ってくれ、とかの方が良かったのかな?」


「柊吾、それ死亡フラグだから!絶対今言って良かったと思うよ!」


 え、そうなの!?じゃあ本当に良かったわ。俺自分で死亡フラグ立てて戦いに挑むところだったのか。それはごめんだ。


 こうして、大学の同期と同棲という状況は解消され、俺たちカップルの同棲が始まったのだった。


「もう少し……もう少しで、あのお方が復活される……!待ってろよ染髪マン!お前の楽しいヒーローライフももうすぐ終わりだぜ!!」


 大きな脅威が迫っているとも知らず、俺はただ、幸せな気持ちに浸り続けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...