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第三章 王立学校
第三章蛇足④ 道を照らす者
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犬狼族の娘、ティアの朝は早い。
長年の習慣からか、朝の五時には目が覚めてしまう。すぐ傍でスヤスヤと寝息を立てる彼を起こさないようにゆっくりと体を起こし、顔を洗いに行く。
水を浴び徐々に覚醒していく意識と共に昨夜の記憶が甦ってくる。やはり、なんど繰り返してもアレには慣れそうもない。自分の全てをさらけ出して受け入れ、受け入れられるあの逢瀬。
この学生寮で共同生活をするようになり、一日おきに回ってくる自分の番が待ち遠しいのか来てほしくないのか、少々悩んでしまう。
拒絶……とかではない。単に、恥ずかしいのだ。
それに、一度求めてしまうと、欲張りになってしまう。
最初こそ、会話ができるだけ、自分の料理を食べて喜んでくれるだけで幸福感に満ちていた。それがどんどん、どんどんと変化してきてしまっている。
もちろん、「美味しい」と言ってくれるのは純粋に嬉しい。自分がこれまでの人生を費やしてきたものを、大好きな人に認められるのはこれ以上ないくらいに幸せなのだ。
でも、最近はもっと欲が出てしまっている。それこそ、この間の武闘祭の夜にシャロにした提案、あれも普通なら絶対にしないはずだ。
それほどまでに、求めて、求めて、求めて、求めて、欲しくてたまらないのだ。
たぶん、今の自分を見たら高校の時の自分は驚くだろう。
そんなことを考えながら、一つまた一つと卵を割っていく。
脳裏に浮かぶのはやっぱり彼の顔。
かつては人間も、男も嫌いだった。
下卑た視線が気持ち悪い、下心を持って近づいてくる姿が醜い。
シャロは気にも留めない態度でばっさりと切っていたが、自分はそもそもそういう目で見られること自体が嫌だったのだ。
きっと、将来の自分は料理に全てをかけ、誰とも添い遂げぬまま死ぬ。
そう思っていた。
しかし、どんな数奇な運命か、今はこうして想像と真逆の生活を送っている。
男に対する昔の考えも少しは緩和されてきた。
それもこれも、彼の影響だ。
彼になら、良い。
彼になら、なにをされたって。
そう本気で思うほどに自分の心に彼が居座っているのだ。
とはいえ、一つ心に薄暗く覆い被さっているなにかがある。
他の二人にあって、自分にはないもの。
それにただひたすら劣等感を感じてしまっているのだ。
そんなこんなで、朝食の準備が整った。ねぼすけなシャロと、未だに無防備に寝顔を晒している彼を起こしに行こう。
軽い足取りで部屋の扉を開け、ベッドへと近づく。
その穏やかな顔はさっきと変わらない。
愛しさが心を支配し、気づけば右手で頬に触れていた。
「……ん……んん?」
「―――おはよ、イスルギ」
開かれる寝ぼけ眼に挨拶をかけ、部屋に日光を取り込む。
こうして、ティアの何気ない一日が始まる。
いつか、真の意味で彼を照らせる者になることを願って。
長年の習慣からか、朝の五時には目が覚めてしまう。すぐ傍でスヤスヤと寝息を立てる彼を起こさないようにゆっくりと体を起こし、顔を洗いに行く。
水を浴び徐々に覚醒していく意識と共に昨夜の記憶が甦ってくる。やはり、なんど繰り返してもアレには慣れそうもない。自分の全てをさらけ出して受け入れ、受け入れられるあの逢瀬。
この学生寮で共同生活をするようになり、一日おきに回ってくる自分の番が待ち遠しいのか来てほしくないのか、少々悩んでしまう。
拒絶……とかではない。単に、恥ずかしいのだ。
それに、一度求めてしまうと、欲張りになってしまう。
最初こそ、会話ができるだけ、自分の料理を食べて喜んでくれるだけで幸福感に満ちていた。それがどんどん、どんどんと変化してきてしまっている。
もちろん、「美味しい」と言ってくれるのは純粋に嬉しい。自分がこれまでの人生を費やしてきたものを、大好きな人に認められるのはこれ以上ないくらいに幸せなのだ。
でも、最近はもっと欲が出てしまっている。それこそ、この間の武闘祭の夜にシャロにした提案、あれも普通なら絶対にしないはずだ。
それほどまでに、求めて、求めて、求めて、求めて、欲しくてたまらないのだ。
たぶん、今の自分を見たら高校の時の自分は驚くだろう。
そんなことを考えながら、一つまた一つと卵を割っていく。
脳裏に浮かぶのはやっぱり彼の顔。
かつては人間も、男も嫌いだった。
下卑た視線が気持ち悪い、下心を持って近づいてくる姿が醜い。
シャロは気にも留めない態度でばっさりと切っていたが、自分はそもそもそういう目で見られること自体が嫌だったのだ。
きっと、将来の自分は料理に全てをかけ、誰とも添い遂げぬまま死ぬ。
そう思っていた。
しかし、どんな数奇な運命か、今はこうして想像と真逆の生活を送っている。
男に対する昔の考えも少しは緩和されてきた。
それもこれも、彼の影響だ。
彼になら、良い。
彼になら、なにをされたって。
そう本気で思うほどに自分の心に彼が居座っているのだ。
とはいえ、一つ心に薄暗く覆い被さっているなにかがある。
他の二人にあって、自分にはないもの。
それにただひたすら劣等感を感じてしまっているのだ。
そんなこんなで、朝食の準備が整った。ねぼすけなシャロと、未だに無防備に寝顔を晒している彼を起こしに行こう。
軽い足取りで部屋の扉を開け、ベッドへと近づく。
その穏やかな顔はさっきと変わらない。
愛しさが心を支配し、気づけば右手で頬に触れていた。
「……ん……んん?」
「―――おはよ、イスルギ」
開かれる寝ぼけ眼に挨拶をかけ、部屋に日光を取り込む。
こうして、ティアの何気ない一日が始まる。
いつか、真の意味で彼を照らせる者になることを願って。
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