異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?

雪詠

文字の大きさ
上 下
126 / 138
第三章 王立学校

VSガルド再び

しおりを挟む
 有無を言わさぬ攻撃が真正面から迫る。命を真っ二つに裂く刃が先程まで自分がいた空間へと振り落とされ、激震する。
 教室の地面が破壊され、建物の一部にヒビが入る。

「――――――纏雷」

 左手で右手の血脈を押さえ、因子をフル稼働させる。正真正銘の全力、もはやそうするしかガルドの攻撃を見極めることができない。

 大振りで生まれた空白を縫い、逆手に持った刀で攻める。が、引きあがった太刀の勢いのままに弾かれる。

「――――――雷槍」

 雷の槍を生み出し、ガルド目掛けて放つ。
 ガルドはただ一振り、それで全てを無に帰し、接近してきた。

 普段なら接近戦に魔法を織り交ぜて戦ってくるのだが、その予兆を感じられない。

 むやみに魔法を放ってこないガルドから察するに、事を荒立てることなく終えようとしているのだろう。もし、騒ぎを聞きつけて誰かが来たら計画以前の問題になるしな。

 とはいえ、ガルドの脅威が下がることにはならない。

「くっ! おらっ!」

 再度落ちてくる太刀を刀でずらし、胴体に蹴りを入れる。ガルドはそれを右手で防ぐのだが、そこを起点に体を跳ね上げ、顔に蹴りを一発。

 攻撃に顔が歪むが、すぐに右手で俺を掴み、壁へと吹き飛ばす。

 背中に響く衝撃に呼吸が止まり、因子をフル稼働して再生を図る。ジンジンと感じる背中の痛みをエンジン代わりに、頭を必死に回す。

 現在、俺は劣勢だ。

 本来なら、雷鳴鬼ありでトントンか、勝てるくらいだが、肝心の相棒がいない。
 それに、身体強化が因子に頼りきりの俺だと、光魔法で純粋に肉体を強化しているガルドとやり合うには分が悪いのだ。

 因子の強化は足し算、魔法の強化は掛け算みたいな感じだからな。まぁ、あくまで俺の推論だが。

「本気で……俺を殺すつもりなのか?」

「……ああ。お前が俺の道を阻む以上、そうする他ない」

 ガルドの攻撃から伝わってくる明確な殺意。そんなものに悲しむ暇はなく、第二の攻撃が始まる。

 刀と太刀が幾度となくぶつかり、弾かれ、世界に二人しかいないと錯覚させる。

 狂気に満ちた太刀を完璧に受けることは不可能で、なんとか流すだけで精一杯だ。たぶん、まともに受けたら腕が痺れて使い物にならなくなる。

 せめて、雷鳴鬼と合流してから来るべきだったと、今更ながら後悔する。

「ちっ……! ――――――雷撃」

 苦し紛れに放った俺を中心にした無差別な放電。ガルドはそれを、慣れた手つきで太刀の表面で防ぐ。

 読まれている。俺の手札を完全に見極めている。

 ガルドと授業で戦ったことは計5回
 雷鳴鬼ありで一勝、その他俺単独で四敗している。

 つまり、この戦いはあまりに無謀なのだ。

 何かを手を……ガルドがまだ知らない手を使うしかない。のだが、都合よくそんなモノがあるわけがない。強いていけば……と、脳裏に思い浮かぶものはあれど、リスクが見合っていない。

 切り札を切ろうにも、詠唱はきっと許されない。
 それに、魔力量的に大技を失敗すればそれでジ・エンドだ。

「ウォォォォォ!」

 吠えて突進をしてくるガルド。その勢いを太刀に乗せ、横に払う。
 咄嗟に上に飛び、重力に従って刀を振り下ろす。が、やはり太刀に防がれてしまう。

 恐るべき反応速度、ガルドの動きは俺の『纏雷』とほぼ同じだ。

 こうして、こちらから攻防をしかけても、あの体の半分以上はある刀を振り回して対応してくる。

「……諦めろ。そうすれば殺さずに済む」

「駄目だね。もし、計画を実行したいんなら、俺を殺してからにしろ」

「……」

 俺の返答に何を言う事もなく、鍔迫り合いの形から弾かれた。

「……仕方ない。これだけは使いたくなかったが……」

 そう言ってガルドはあらためて武器を構え直し、

「――――――地揺天威」

 詠唱をした瞬間、ガルドの体が青白いオーラに包まれる。

「……行くぞ」

 発した言葉が耳に伝わると同時に、ガルドは先程の二倍以上の速さで接近してくる。

「なっ!?」

 驚きつつも咄嗟に刀で防ぐが、後方へ弾き飛ばされる。スピードだけでなく、パワーも上がっている。
 通常の強化魔法の圧倒的上位互換。今までガルドがこの魔法を使っているのを俺は見たことが無い。

 後退する俺に追撃をいれようと突進してくるガルド。全力で逃げればギリ躱せるが、こんなんで反撃なんてできたものじゃない。

 避けて、避けて、避け続けて、どうにか命を繋いでいる。
 こんなの、一方的な狩りだ。

 心で悪態をつく俺のことなどつゆ知らず、無情にもガルドは俺を殺す最適な道を辿り、最速で到達する攻撃をしかけてくる。

 このままだといずれ捉えられる。
 何かこちらも策を講じなければ死ぬ。

 何か……何かないか?

 切り札……駄目だ、詠唱している暇も雷鳴鬼もいない。

 一人でもできなくはないが、ガルドはきっとその隙を見逃さないだろう。

 いや、待て。もしかしたら、詠唱無しでもできるのではないか?

 本来、詠唱が必要なのはイメージを固めて、魔法の発動を成功させるためだ。それに、詠唱があるとないとでは効力に差が出る。

 でも、度重なる戦いで何度に使用したから感覚は身についているはずだ。その記憶を元に再現すればあるいは……

「……迷ってる暇はねぇな……」

 全てを無くすには恐らく練度が足らない。
 あとはそう、使うなら一番使用頻度が高いものだ。

「――――――雷撃」

 再び体から雷を放出し、ガルドと一時的に距離を取る。
 そして、

「――――――龍虎雷帝」

 今、体を覆っている『纏雷』をアップグレードするイメージを付与しそう唱えると、たちまち轟雷が体を包み魔法の成功を示す。

 一か八かだったが、発動してくれて良かった。ただ、魔力が残り少ない。この十秒が勝負の時間だ。

「ここからはガチだ。歯ァ食いしばれよ」

「……!?」

 雷鳴を轟かせ、ガルドに接近。振り下ろされた太刀を直前で躱し、体を捻って後ろ蹴りを叩きこむ。
 すぐさま足で地面を蹴り、壁を使いながら何度もガルドへと切りかかる。

 これは前にクラリスが見せた跳躍だ。
 土壇場で再現したが、上手くいった。

 俺の刀には今、魔力が通っていないから切れることはない。だが、それでもダメージはしっかり入る。

 苦痛に顔が険しくなるガルドは意識を研ぎ澄まし、一点、俺が次に攻撃すると予想したところへと太刀を払う。が、

「……っ!?」

「そっちじゃねぇよ」

 そこにあったのは俺が放り投げた刀のみ。それと反対、ガルドの真後ろに俺は着地し、その背中に手をあて、

「――――――雷撃ぃっっ!!」

 ありったけの魔力を込め、この望まぬ戦いに終止符を打つのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...