異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?

雪詠

文字の大きさ
上 下
125 / 138
第三章 王立学校

反逆宣言

しおりを挟む
「イスルギ……」

 その声はどこかいつもと違っていて、あの夢の信憑性が増す。

「なんでこんな何もない部屋にいんだ?」

 ひどく虚ろなその瞳に動揺しつつも、あらためて質問を投げかける。

 俺の秘密を話したという事以外、特にこれといった特徴のない部屋だ。
 わざわざ来るべきところなんかじゃない。

「……お前が、いるとおもったからだ」

「俺が?」

「ああ、そうだ……俺はこの後、この国の王を襲撃する。その手伝いを頼めないかと思ってな」

 決定的な発言。疑念が確信に変わる。

「何、言ってんだ? お前らしくねぇぞ」

「……俺らしくない……か。そうかもな」

 まるで他人事のようにそうこぼすガルド。

「だったら―――!」

「それでも……それでも、俺は……この怒りを形にする。それが俺の復讐だ」

 確かな復讐心をその眼の奥に宿し、静かに反逆の宣言をする。その発言がどうしても受け入れられず、

「そん……なのっ! ヘルドが望んでいると思うのか!?」

「分からない……だが、少なくともこれが一番分かりやすい」

「何言ってんだよ! そんなことしたら、お前が死ぬんだぞ! 護衛だっていっぱいいるし、現勇者だって来てる! 一人でどうこうできねぇだろ!」

 実際に、ガルドの襲撃が失敗するのを俺は見た。そしてその顛末も。
 たとえ俺が手助けしたとしても、殺せるか分からないのだ。

 ましてや、一人でそれを成し遂げることなんか不可能に近い。

 殺せたとして何になる?
 その後、結局は死が待っている。

 でも、ガルドは俺の説得に首を横に振り、

「死ぬならそれでいい。そうすれば王の政治に少しは疑念を向けさせることもできるだろう。俺は死の間際に、父の死に対する怒りを叫べばいいだけだ」

「そん……なのっ……!」

 あまりにも極端すぎる考えに言葉が詰まる。
 まるでガルドの見た目をした別人と話しているようだ。

 仮にガルドが死んだとして、それでどこまで王の体制が揺らぐ?
 異世界人に対する扱いも、そしてそれを行う政策も、全てはこの国のためだ。

 人権云々に異議を唱える人は、それこそほとんどいない。
 それに、ヘルドの死は事故という扱いになっている。そこを突っついたとて、単なる不運に帰結させられる未来しか見えない。

 そんなこと、ガルドなら分かっていると思うのだが、

「もし……俺の邪魔をするというのならば、俺はお前は斬らなければならない」

「……は?」

 普段のガルドでは決して言わないセリフ。しかし、その全身から発せられている殺意が言葉を裏付けている。

 明確に自身の復讐とそれ以外を区別し、断行しようとする揺るぎない姿勢を表し、再び問いかけてくる。

「もう一度聞く、イスルギケンイチ。俺と共に国へ復讐をしよう。お前も被害者のはずだ」

 ガルドは手をこちらへと差し出し、協力を求めてくる。だが、

「……そんなこと、手伝う訳がねぇ……」

 いくらなんでも、そんな誘いに乗るわけにはいかない。
 俺に……というか、異世界人に対する扱いに思うところはあっても、それを私情でどうこうするには俺は弱すぎる。

 それに、シャロやティア、リーメア……そして、フリード達と俺は生きていく。
 過去よりも、そんな明るい未来に俺は目を向けたい。

「……交渉決裂か……ならば、邪魔だけはするな。お前は俺の死に様を見届けてくれ」

 そう言い残し、ガルドは部屋を出ていこうとする。

 ガルドはもはや死ぬ気だ。死ぬことで本懐を果たそうとしている。

 だったら、俺が今やるべきことは一つだ。

「……待てよ」

「……?」

「行かせねぇ……お前を死なせねぇ……」

 このままだと、あの夢通りに世界が動いてしまう。
 身近な……死んでほしくない人が、死ぬ。

「……邪魔をすればお前であっても斬るといったはずだが?」

 こちらを振り返り、殺意の眼差しを向けてくるガルド。それでも、

「……やれるもんならやってみろ。でもな―――」

 ヘルドの為……そして何より、ガルドの為に俺は絶対、

「―――絶対、止める」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...