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第三章 王立学校

反逆宣言

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「イスルギ……」

 その声はどこかいつもと違っていて、あの夢の信憑性が増す。

「なんでこんな何もない部屋にいんだ?」

 ひどく虚ろなその瞳に動揺しつつも、あらためて質問を投げかける。

 俺の秘密を話したという事以外、特にこれといった特徴のない部屋だ。
 わざわざ来るべきところなんかじゃない。

「……お前が、いるとおもったからだ」

「俺が?」

「ああ、そうだ……俺はこの後、この国の王を襲撃する。その手伝いを頼めないかと思ってな」

 決定的な発言。疑念が確信に変わる。

「何、言ってんだ? お前らしくねぇぞ」

「……俺らしくない……か。そうかもな」

 まるで他人事のようにそうこぼすガルド。

「だったら―――!」

「それでも……それでも、俺は……この怒りを形にする。それが俺の復讐だ」

 確かな復讐心をその眼の奥に宿し、静かに反逆の宣言をする。その発言がどうしても受け入れられず、

「そん……なのっ! ヘルドが望んでいると思うのか!?」

「分からない……だが、少なくともこれが一番分かりやすい」

「何言ってんだよ! そんなことしたら、お前が死ぬんだぞ! 護衛だっていっぱいいるし、現勇者だって来てる! 一人でどうこうできねぇだろ!」

 実際に、ガルドの襲撃が失敗するのを俺は見た。そしてその顛末も。
 たとえ俺が手助けしたとしても、殺せるか分からないのだ。

 ましてや、一人でそれを成し遂げることなんか不可能に近い。

 殺せたとして何になる?
 その後、結局は死が待っている。

 でも、ガルドは俺の説得に首を横に振り、

「死ぬならそれでいい。そうすれば王の政治に少しは疑念を向けさせることもできるだろう。俺は死の間際に、父の死に対する怒りを叫べばいいだけだ」

「そん……なのっ……!」

 あまりにも極端すぎる考えに言葉が詰まる。
 まるでガルドの見た目をした別人と話しているようだ。

 仮にガルドが死んだとして、それでどこまで王の体制が揺らぐ?
 異世界人に対する扱いも、そしてそれを行う政策も、全てはこの国のためだ。

 人権云々に異議を唱える人は、それこそほとんどいない。
 それに、ヘルドの死は事故という扱いになっている。そこを突っついたとて、単なる不運に帰結させられる未来しか見えない。

 そんなこと、ガルドなら分かっていると思うのだが、

「もし……俺の邪魔をするというのならば、俺はお前は斬らなければならない」

「……は?」

 普段のガルドでは決して言わないセリフ。しかし、その全身から発せられている殺意が言葉を裏付けている。

 明確に自身の復讐とそれ以外を区別し、断行しようとする揺るぎない姿勢を表し、再び問いかけてくる。

「もう一度聞く、イスルギケンイチ。俺と共に国へ復讐をしよう。お前も被害者のはずだ」

 ガルドは手をこちらへと差し出し、協力を求めてくる。だが、

「……そんなこと、手伝う訳がねぇ……」

 いくらなんでも、そんな誘いに乗るわけにはいかない。
 俺に……というか、異世界人に対する扱いに思うところはあっても、それを私情でどうこうするには俺は弱すぎる。

 それに、シャロやティア、リーメア……そして、フリード達と俺は生きていく。
 過去よりも、そんな明るい未来に俺は目を向けたい。

「……交渉決裂か……ならば、邪魔だけはするな。お前は俺の死に様を見届けてくれ」

 そう言い残し、ガルドは部屋を出ていこうとする。

 ガルドはもはや死ぬ気だ。死ぬことで本懐を果たそうとしている。

 だったら、俺が今やるべきことは一つだ。

「……待てよ」

「……?」

「行かせねぇ……お前を死なせねぇ……」

 このままだと、あの夢通りに世界が動いてしまう。
 身近な……死んでほしくない人が、死ぬ。

「……邪魔をすればお前であっても斬るといったはずだが?」

 こちらを振り返り、殺意の眼差しを向けてくるガルド。それでも、

「……やれるもんならやってみろ。でもな―――」

 ヘルドの為……そして何より、ガルドの為に俺は絶対、

「―――絶対、止める」



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