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第三章 王立学校

獲物を狙う眼と未来のシナリオ

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「見てみろ、石動健一! あそこに洞窟蛙の串焼きがあるぞ! ややっ!? あれはホーンスコーピオンの干物ではないか!? 食べに行こう!」

「なんでそんな変なのばっかピックアップするんだよ!」

 俺とシャロの久しぶりのデートは、途中参戦したキルバスに今現在荒らされている。先ほどから大声で興奮しまくり、変な物を見つけては買い食いをしていて、本当に邪魔だ。

 せめて、まともな屋台で買ってほしい。

「どうしたどうした。ほら、食わせてやるぞ?」

「いらねぇよ! てか俺の口に近づけんな! おい、やめろっ!」

 買ってきた洞窟蛙とやらを俺の口に無理やり入れようとしてくる。一瞬、鼻にきた臭いがかなりキツくて、思わず吐きそうになった。

「あのー、キルバスさん? あんまりご主人様を困らせないでくださいねぇ?」

「ああ、もちろんだとも! これは別に困らせているわけではない。新たな世界を切り開く手助けなのだよ!」

「だから、それをやめてください。見て下さいよ、苦しんでいるでしょう」

「その苦しみの先に見える世界にこそ価値があるのだ。そう、これは石動健一を思っての行いだ」

「だったらやめろや!」

 依然として俺の口に串を入れようとするキルバス。手を押さえているが、段々とソレが近づいてくる。

「うっ……すげぇ臭いだ……!」

 激臭がそのモノの威力を物語っていて、食欲が一気に失せる。絶対に口を開くわけにはいかない。

「さぁさぁ!」

「だったら、てめぇが……食えっ!」

 力を一気に入れ、逆にキルバスの口に蛙の串を突っ込む。すると、たちまちキルバスの顔が青ざめていき、苦しみ始めた。

「うっ、美味いが……臭いっ! なんだコレは!?」

「食べたことなかったのかよ……」

 さっきの口ぶりから、てっきり以前に食べた経験があって俺に勧めていると思ったのだが、まさか知らないで食わせようとしてきたのか?

「み、水をくれえぇぇ」

 地面にのたうち回り、手で喉を押さえながらそう嘆く。

「水か……ちょっと待ってろ、今買って―――」

 と、苦しむキルバスのために水を買いに行こうとしたその時、

「これでいいかな?」

「え?」

 突如、キルバスの目の前に水球が浮かび、キルバスは苦しみから解き放たれようとそこに顔を突っ込む。

 ガボガボと溺れる勢いで水を飲みこんでいき、

「ぷはっ! 助かったよ。名も知らぬ男よ」

「そうか、それなら良かった」

 突然現れたこの淡い水色の髪をした男。吸血鬼に劣らぬ美形で、その細かい所作にも気品が溢れている。

 全身を見ていると、胸についている金色のバッチが目に入る。

「生徒会?」

「ああ、そうだよ。私は生徒会副会長、グラミー・ブラッドだ。よろしくね」

 生徒会副会長……いかにも優男といった感じだな。
 ということは、コイツがトウヤに勝った方か。

「俺さんはキルバス・クロムウェル。あらためて感謝を、副会長殿」

「礼には及ばないよ。ちなみに、ここら辺の屋台はハズレが多いから、もし食べ歩きをするなら向こうに行くと良い」

 グラミーは校舎側の方を指差し、そうアドバイスをしてくる。
 なるほど、通りでここら辺は人が少ないはずだ。

「……それで、そっちの君も名前を聞いていいかな?」

「あ、俺は石動健一です。それでこっちが」

「シャロと申します」

「ふぅん……」

 さっきまでの柔らかい雰囲気のまま、何か不気味な感覚がその眼を通して伝わってくる。

「イスルギ君に、シャロちゃんね……シャロちゃんは君の奴隷?」

「え、はい。一応は」

 シャロの手の甲には奴隷である証が刻まれている。きっとそれを見て聞いてきたのだろう。

「そっか……イスルギ君、シャロちゃんを一晩貸してくれないかな?」

「……は?」

 突然のことで、目の前の男が何を言ったのか分からなくなる。

「今なんて……」

「えーとね、君の奴隷の子と今晩、一発お願いできないかなーって」

 さっき感じた悪寒が間違いでなかったことに気が付く。

 まるで、シャロを人だと見なしていないような言い草、もといその気持ちの悪い視線にとてつもないほどの怒りが湧いてくる。

「だめに決まってるだろ!」

「えぇ、でも奴隷でしょ、その子。副会長である私に抱かれるって、名誉なことだと思わない?」

 純粋にそう言ってのける男に、形容し難い気持ち悪さが込み上げてくる。今にも殴り飛ばしてやりたい気持ちをグッと堪えて、声をひねり出し、

「シャロは俺の恋人だ。奴隷だとしても、あんたに渡すつもりはない」

 その不快感をどうしても拭いたくて、これ以上会話をしたくなくて、きっぱりとそう切り捨てる。

「そっかぁ、残念。ま、気が変わったらまた話しかけてよ」

「誰がっ!」

「ははは、じゃあまた今度ね。イスルギ君……それに、シャロちゃんも」

 悪びれる様子もなく、笑いながらグラミーは去っていった。

「ご主人様……」

「大丈夫だ、シャロ。お前には誰も、指一本触れさせねぇ」

「……はい! シャロの身も心もご主人様のモノです!」

 不安げなシャロを抱き寄せ、その頭を撫でる。
 今、この腕の中にある温もりを誰にも渡したくはない。渡すものか。

 久しぶりに感じた奴隷に対する差別。その気持ち悪さが胸に残ったまま、ぼんやりと散策をして、あっという間に解散した。
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