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第三章 王立学校
新たな戦
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「はぁ……はぁ……何がごり押しでいけるだ。全然ギリギリだったじゃねぇか!」
ホフマンに勝利したものの、満身創痍の状態で雷鳴鬼に悪態をつく。実際、直前に食らったあのパンチは危なかった。
咄嗟に雷鳴鬼が魔力をそちらに回して、可能な限りダメージを抑えてくれなけば敗退は必然だっただろう。
「まぁ勝ったからいいじゃん。これもボクのおかげだね~」
「ちが……くはねぇけど……!」
『無敵』の仕組みを解いたのは雷鳴鬼だから、その点には感謝している。だが、もっとこう息を合わせるという努力をしてほしいのだ。
片腕が使えない分、いつもより動きが劣るし、合わせるこっちの身にもなってほしい。
「すごいすごい! まさかイルクス君に勝っちゃうなんて!」
のっそのっそと歩く蜥蜴に座り、アルエルは手を叩きながら大袈裟なほどに褒めてくる。蜥蜴も戦いを讃えるように、フンと鼻を鳴らして祝福してきた。
「そういえばまだ名前を聞いていなかったね」
「あ、石動健一です」
「イスルギ君……ね。もしかしたら君が来年の四天王になるかもなぁ」
「あ、ははっ……」
四天王……いやまぁ、いかにも感じで悪くはないが、ちょっと痛いかもしれない。学生ならまだ許される。しかし、俺はもう二十歳を目前に控えた準大人だ。
称号もとい二つ名を冠するのは少々恥ずかしい。
この世界基準だとそんな感性はないのかもしれないが、前の世界で十年以上育んだ常識が、受け入れることに拒否反応を示すのだ。
第一、魔法の詠唱だって正直おおっぴらに唱えるのが憚られる。漢字にすることである程度は緩和されてはいるが、自作の詠唱とか高校の時とかの友人に知られたら死ねる。
まぁそうも言っていられないのは重々承知のうえなのだが。
「どうやらもう終わったみたいだね。僕は変わらず一位。二位はユーリシアちゃんで、三位は……」
「……っ!!」
映し出されている画面を眺めると、アルエル、イコに並び俺の名前が書かれていた。
「よしっ!!」
目標の一位には遠く及ばなかったが、この順位でも十分好成績だ。
レイン、クロバに感謝だな。
ガッツポーズを決める俺に、立ち上がってきたホフマンが砂埃を払いながら歩いてきて、
「完敗ダ、イスルギケンイチ。今日よりお前も、ワタシの生涯のライバルダ!」
そう言い、右手を差し出してくる。
その手に応じる前に、後半の部分が引っかかって、
「しょ、生涯の……ライバル?」
「アア。競う合うライバルであリ、研鑽し合う仲間であリ、そして心の友ダ」
無理やり俺の手を取り、ブンブンと握手を交わす。
手が粉砕されそうなほど強い力。そこからは消えることのない闘志が伝わってくる。
「またやろウ。次は負けなイ」
「か、かんべんしてくれ……」
俺の反応を「ハハッ」と笑い、ホフマンは髪を靡かせ歩いて行った。
「心の友、だってさ」
先ほどの言葉を繰り返しながら、雷鳴鬼がすこぶるムカつく顔でこちらを覗いてくる。その額にデコピンを入れ、
「はぁ……目付けられてるどころの話じゃねぇな……」
「まぁいんじゃな~い。知り合いが増えたと思えば」
「そう……だけれども……」
もしかしたら、この交友も役に立つ時がくるかもしれない。
本来の目的を達成するために、三年生の力を借りるなんてこともあるかもだしな。
そう自分に言い聞かせ、俺も退場口へと歩きだした。
▷▶▷
「あ、せんぱぁーい!」
木人形を返し、出てきたところで水色髪の少女が駆け寄ってくる。
「おぉ、クロバ。見てたか―――ぐへっ!」
その勢いのままに俺に抱きついてきて、頭がみぞおちにクリーンヒットする。
「いってぇな! 何すんだよ!」
「ちゃんと見てたよ! 先輩が勝つとこ!」
「おおう、そうか。ま、三位に入れたのもクロバのおかげだ。そこはありがとな」
「えへへ~」
序盤にクロバと狩ったポイントがあったからこその三位だ。
たとえ表彰がなくとも、あそこに名を刻んだということが俺にとっては重要なのだ。
「それで……そろそろ離してくれ」
未だに背中に回されたままの腕に身動きが取れないでいる。クロバは少し膨らんだ胸を押しつけながら首を傾げ、
「堪能しなくていいの~?」
「するか馬鹿。いいから離れろ」
すりすりと頭を胸元にこすり付けて、その動きと共にフワッと花のような匂いが鼻に伝わる。
いかん、思わずときめきそうになってしまった。
「頑張ったご褒美だよ。こんな可愛い子に抱きつかれて、先輩幸せでしょ?」
「いや、だからっ―――」
「私の彼氏様から離れて」
「きゃっ!」
突然真横に現れたレインが俺とクロバを無理やり引き離す。
「な、なんですか!? それに、え? 彼氏様って……」
まるで凄腕マジシャンのように一瞬で現れたレインに動揺するクロバ。
しかも、レインの「彼氏様」呼ばわりが引っかかったようで、それが驚きに拍車をかけている。
一方、レインの表情は真っ黒に染まり、口から呪詛が吐き出されている。その矛先はもちろんクロバだ。
「許さない……許さない許さない許さない。私の健一君にすり寄る売女め……」
「ちょ、ちょっと先輩!? どういうことですか!?」
恨みをぶつけるレインと困惑するクロバ。
さて、レインの事をどこから説明しようか。
「えーと、これはだな……」
言い淀んでいると、後ろから聞き慣れた声が聞こえてくる。
「あ! ご主人様、お疲れ様でし……た?」
「しゃ、シャロ!?」
笑顔で向かってきた顔が一瞬にて固まる。
「せ、先輩!? あの綺麗な人って……それに、ご主人様?」
「ま、また増えた……人の彼氏に集る害虫……」
「ご主人様ぁ~? どういう事ですかぁ?」
三者三様の反応にどれから紐解いていけばいいのか頭が混乱してくる。
焦りが全身を貫き、手に汗が滲む。口の水分が一気に飛び、まるで乾燥した大地にいるみたいだ。
『あははっ。修羅場だね、健一』
動揺で胃がねじ切られる思いの中、雷鳴鬼の笑い声だけが俺の中にただただ響いていた。
ホフマンに勝利したものの、満身創痍の状態で雷鳴鬼に悪態をつく。実際、直前に食らったあのパンチは危なかった。
咄嗟に雷鳴鬼が魔力をそちらに回して、可能な限りダメージを抑えてくれなけば敗退は必然だっただろう。
「まぁ勝ったからいいじゃん。これもボクのおかげだね~」
「ちが……くはねぇけど……!」
『無敵』の仕組みを解いたのは雷鳴鬼だから、その点には感謝している。だが、もっとこう息を合わせるという努力をしてほしいのだ。
片腕が使えない分、いつもより動きが劣るし、合わせるこっちの身にもなってほしい。
「すごいすごい! まさかイルクス君に勝っちゃうなんて!」
のっそのっそと歩く蜥蜴に座り、アルエルは手を叩きながら大袈裟なほどに褒めてくる。蜥蜴も戦いを讃えるように、フンと鼻を鳴らして祝福してきた。
「そういえばまだ名前を聞いていなかったね」
「あ、石動健一です」
「イスルギ君……ね。もしかしたら君が来年の四天王になるかもなぁ」
「あ、ははっ……」
四天王……いやまぁ、いかにも感じで悪くはないが、ちょっと痛いかもしれない。学生ならまだ許される。しかし、俺はもう二十歳を目前に控えた準大人だ。
称号もとい二つ名を冠するのは少々恥ずかしい。
この世界基準だとそんな感性はないのかもしれないが、前の世界で十年以上育んだ常識が、受け入れることに拒否反応を示すのだ。
第一、魔法の詠唱だって正直おおっぴらに唱えるのが憚られる。漢字にすることである程度は緩和されてはいるが、自作の詠唱とか高校の時とかの友人に知られたら死ねる。
まぁそうも言っていられないのは重々承知のうえなのだが。
「どうやらもう終わったみたいだね。僕は変わらず一位。二位はユーリシアちゃんで、三位は……」
「……っ!!」
映し出されている画面を眺めると、アルエル、イコに並び俺の名前が書かれていた。
「よしっ!!」
目標の一位には遠く及ばなかったが、この順位でも十分好成績だ。
レイン、クロバに感謝だな。
ガッツポーズを決める俺に、立ち上がってきたホフマンが砂埃を払いながら歩いてきて、
「完敗ダ、イスルギケンイチ。今日よりお前も、ワタシの生涯のライバルダ!」
そう言い、右手を差し出してくる。
その手に応じる前に、後半の部分が引っかかって、
「しょ、生涯の……ライバル?」
「アア。競う合うライバルであリ、研鑽し合う仲間であリ、そして心の友ダ」
無理やり俺の手を取り、ブンブンと握手を交わす。
手が粉砕されそうなほど強い力。そこからは消えることのない闘志が伝わってくる。
「またやろウ。次は負けなイ」
「か、かんべんしてくれ……」
俺の反応を「ハハッ」と笑い、ホフマンは髪を靡かせ歩いて行った。
「心の友、だってさ」
先ほどの言葉を繰り返しながら、雷鳴鬼がすこぶるムカつく顔でこちらを覗いてくる。その額にデコピンを入れ、
「はぁ……目付けられてるどころの話じゃねぇな……」
「まぁいんじゃな~い。知り合いが増えたと思えば」
「そう……だけれども……」
もしかしたら、この交友も役に立つ時がくるかもしれない。
本来の目的を達成するために、三年生の力を借りるなんてこともあるかもだしな。
そう自分に言い聞かせ、俺も退場口へと歩きだした。
▷▶▷
「あ、せんぱぁーい!」
木人形を返し、出てきたところで水色髪の少女が駆け寄ってくる。
「おぉ、クロバ。見てたか―――ぐへっ!」
その勢いのままに俺に抱きついてきて、頭がみぞおちにクリーンヒットする。
「いってぇな! 何すんだよ!」
「ちゃんと見てたよ! 先輩が勝つとこ!」
「おおう、そうか。ま、三位に入れたのもクロバのおかげだ。そこはありがとな」
「えへへ~」
序盤にクロバと狩ったポイントがあったからこその三位だ。
たとえ表彰がなくとも、あそこに名を刻んだということが俺にとっては重要なのだ。
「それで……そろそろ離してくれ」
未だに背中に回されたままの腕に身動きが取れないでいる。クロバは少し膨らんだ胸を押しつけながら首を傾げ、
「堪能しなくていいの~?」
「するか馬鹿。いいから離れろ」
すりすりと頭を胸元にこすり付けて、その動きと共にフワッと花のような匂いが鼻に伝わる。
いかん、思わずときめきそうになってしまった。
「頑張ったご褒美だよ。こんな可愛い子に抱きつかれて、先輩幸せでしょ?」
「いや、だからっ―――」
「私の彼氏様から離れて」
「きゃっ!」
突然真横に現れたレインが俺とクロバを無理やり引き離す。
「な、なんですか!? それに、え? 彼氏様って……」
まるで凄腕マジシャンのように一瞬で現れたレインに動揺するクロバ。
しかも、レインの「彼氏様」呼ばわりが引っかかったようで、それが驚きに拍車をかけている。
一方、レインの表情は真っ黒に染まり、口から呪詛が吐き出されている。その矛先はもちろんクロバだ。
「許さない……許さない許さない許さない。私の健一君にすり寄る売女め……」
「ちょ、ちょっと先輩!? どういうことですか!?」
恨みをぶつけるレインと困惑するクロバ。
さて、レインの事をどこから説明しようか。
「えーと、これはだな……」
言い淀んでいると、後ろから聞き慣れた声が聞こえてくる。
「あ! ご主人様、お疲れ様でし……た?」
「しゃ、シャロ!?」
笑顔で向かってきた顔が一瞬にて固まる。
「せ、先輩!? あの綺麗な人って……それに、ご主人様?」
「ま、また増えた……人の彼氏に集る害虫……」
「ご主人様ぁ~? どういう事ですかぁ?」
三者三様の反応にどれから紐解いていけばいいのか頭が混乱してくる。
焦りが全身を貫き、手に汗が滲む。口の水分が一気に飛び、まるで乾燥した大地にいるみたいだ。
『あははっ。修羅場だね、健一』
動揺で胃がねじ切られる思いの中、雷鳴鬼の笑い声だけが俺の中にただただ響いていた。
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