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第三章 王立学校

VS『鉛姫』

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「———銃火砲撃」

 やんわりと訛った口調で発せられた物騒な詠唱。単語から察せられる通り、弾丸が次々にこちらへ飛んでくる。

「——————雷撃!」

 雑に防ぐにはこの魔法がもってこいだ。そして、

「——————雷槍!」

 二つの槍を生み出し片方を敵側へ、もう片方を地面に打ち込む。案の定防がれたが、目論見どおり砂埃で視界を遮ることができた。

「頼むぜ……レイン」

 ▷▶▷

『鉛姫』と遭遇前———

「レインの魔法ってどんなのだ? しっかり戦ってるとこ見たことないような……」

「私は闇と水、あとは土が使える、よ?」

「そん中で一番得意なのは?」

「ええと……闇、かな」

「闇魔法か……」

 闇魔法は妨害が秀でている。そういう意味では攻撃がメインの俺とは相性がいいかもしれないな。

「姿消したり、足音消したり……とか」

「あー……」

 なるほど、どおりで。これまで俺が彼女の尾行に気づけなかったのも、さっき急にゲルニカの後ろに出現したのもその魔法か。
 厄介、それゆえに強力だ。

「じゃあ、ひとまず大雑把に作戦を決めよう」

 ▷▶▷

 こうして決まった作戦

 作戦というには中身がなくてお粗末なのだが、変に決めすぎて動きづらくなっても仕様がない。

 いよいよ砂埃が晴れ、『鉛姫』様とのご対面だ。

「あら、もう一人はどこ行ったん?」

「あんたは俺一人で十分だ。だから別の敵を探しに行かせた」

「ふぅん……ま、ええわ。そういうことにしといたる」

 当然だが信じてはいないだろう。だが、ターゲットを俺に集中させることがメインだ。

 因子をフル稼働、そして

「——————纏雷」

 相手の方へと前進をする。向こうは動揺する様子もなく、淡々と弾丸を撃ち込んでくる。
 それを避けつつ、あたりそうなものを『雷撃』で無力化していく。

 接近して胴を真っ二つにしようと刀を振るが、ガキンッと金属がぶつかる音が鳴り、それが鉄の柱であると気づく。
 そして、地面から同様のものが生え、一直線に俺の方に突き上げてくる。

 後退、だが下がる俺の全身目掛けて再度弾丸が飛んでくる。

 この人、遠距離はもちろんだが、近距離もかなり厄介だ。あの周囲から生えてくる鉄の柱が邪魔すぎる。

 このまんまじゃ駄目だ。もっと俺に意識を集中させなければ。

『雷鳴鬼……あれを使う』

『はいはい。それで、どのくらいを希望だい?』

『ひとまず半分だ』

『おっけー、じゃあいくよ』

 雷鳴鬼に頼むと、すぐに全身に力が溢れてくる。魔力、そして身体能力の向上が肌感で分かる。

『アップグレード』……別名『魔強化』

 これは使い魔を媒介とした底上げ的な強化だ。己の欲を満たすことで使い魔に食事を与え、その代わりに相応の力を返礼してもらうことが出来る。

 デメリットをあげるならば、返礼の対象はいつもの食事を超えた量の余剰分であるということだ。しかも、時間と共にそれは消費されてしまう。なので、よっぽど満たされることをしない限り、戦闘時に発動することは難しい。

 あとは魔物系の使い魔だと、与える欲のメインが‘‘食欲‘‘となる。誰しもが大食いなわけではないため、この欲には限度があるというのもデメリットの一つだろう。

 逆に人型……雷鳴鬼のようなタイプは‘‘性欲‘‘や‘‘睡眠欲‘‘に傾いている。この二つは食欲に比べれば良いと言えるだろう。

 そんなこの『魔強化』、蓄えは昨日充分にした。それをいよいよ使う時がきたのだ。

「……よし」

 体が軽い、それに視界もやけにクリアな気がする。五感が研ぎ澄まされている。

 全身を貫く全能感に浸りながら、俺は走り出した。

「……っ!」

 先ほどとは違う俺の動きに少し表情が歪む。
 次々に飛び出てくる鉄の柱を避け、猛攻を始める。

 刹那の攻防戦、互いに一瞬でも気を抜けば明確な敗北が待っている。こちらは肉体的な速度を、あちらは魔法の速度を武器に鎬を削り合って、その反応はまさに互角。

 いや、腕がないことを考えると俺の方が不利かもしれない。だが、

「——————雷霆」

 地面向けて打ち付けた掌底、その反動で一瞬だが相手の予想を超える速度に達する。伸ばした脚は相手の胸元へ、ようやく一撃目をいれることに成功した。

「……ッ!!」

 苦痛に喘ぐ敵に隙を、距離を取らせてはいけないと、なおもその影を追いかけ勝利を一心に望む。

 跳ね上がる岩、突き抜ける鉄の柱の障害をセンチ差で躱し、懐へと飛び込んでいく。相手の左側が空いている。その空白めがけ、体を捻って切ろうとするが、

「くっ……!」

 左足元に僅かにできた土の壁、それに躓き使えない左腕を下敷きに倒れ込む。しまった、と考える暇はなく、目前に迫った弾丸をギリギリで躱した。

 きっと通常の状態だと、今ので脳天に穴が空いていた。

 再び数メートルの距離ができ、睨み合いの時間が訪れる。一番の結果としては、今ので仕留めきりたかったが、現実はそう甘くはない。

 だが、このやりとりでいくつかわかったことがある。

 まず、向こうはそれほど動けない。光魔法がないと考えられるし、おそらくだが素であまり動けないのだろう。

 しかし、驚異的なのはその魔法発動のスピードだ。無詠唱であることと重なり、いっそうその効果を高めている。俺の『雷槍』と同じかそれ以上だ。

「末恐ろしいわ。君、二年生やろ?」

「はは……まぁ、こう見えて編入試験突破したんで……」

「なるほど……そんなら納得や。でも、そろそろ三年の本気っての、見せな」

 腕を上に掲げ、その先に小規模の竜巻が発生する。手のひらサイズ……いや、段々と大きくなっていく。
 よく見ると、あの風に乗って小さな粒が飛び交っている。
 あれはきっと弾丸だ。

「まずいっ!」

 気づけば十数メートルにまで達した竜巻が轟音を立ててその猛威を周囲に知らしめる。逃げてもきっと逃げきれない。

 判断が遅れたことを悔やみながら、相手のもとへと一直線に駆け寄る。しかし、間に合わない。

 まさに敵が腕を下へ振り下ろし、俺に銃弾の雨を降らせようとして瞬間、

「——————っ!?」

 満を持してその潜伏を解いたレインが、『鉛姫』を背後から突き刺した。

「こ……れは……」

 突然の出来事に理解が追い付いていないようだ。無理もない、なにせ勝利をその手に掴む寸前のところだったからな。

「ふぅ」と冷や汗を拭い、刀を地面に突き刺す。

「勝ちの瞬間って、油断するよな」

「完全に意識の外やったわ……これは負け……や……な」

 その氷剣を起点に体が凍結していき、やがてそれは人型の氷像と成り果てた。

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